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IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~

作者:GASHI
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第27話 「黒雨降る所以」

 
前書き
お久しぶりです。留学中のくせに日本語の方が使う機会の多いGASHIです。予想以上に期間が空いてしまい申し訳ありません。春休みがないもので勉強量がヤバいんです・・・。では、どうぞ。 

 
「ねえ、あれって・・・。」
「嘘、ドイツの第三世代じゃない?」
「まだ本国でのトライアル段階だって聞いたけど・・・。」

俺とシャルルが懇切丁寧に一夏を指導していると、周りの生徒がざわつき始めた。ドイツ、その単語だけで何が起こっているのかは嫌でも理解できてしまう。

「織斑 一夏。」
「・・・何だよ?」

ピットに立っていたのは言うまでもなくラウラ・ボーデヴィッヒだった。右肩に大型の砲台を装備した漆黒のISを身に纏い、冷たい侮蔑の視線をこちらに浴びせていた。あれほどの侮蔑は滅多にお目にかかれまい。尤も、束さんが赤の他人を見る時に比べたら児戯にも満たない軽いものだが。

「貴様も専用機持ちらしいな。ちょうど良い。私と戦え。」
「断る。理由がない。」

随分とまあ上から目線な申し込み方だこと。先程からごつい大型砲をこちらに向けて凄んでいるのだが、一夏はしっかりとボーデヴィッヒに視線を合わせながら冷静に応対している。ここら辺は流石に千冬さんを姉に持つだけある。凄みや脅しが効かないのは確かな強みだ。

「貴様にはなくとも私にはある。」
「・・・また今度な。」

ボーデヴィッヒの返答に対して、一夏の表情が少し変化する。どことなく後悔しているかのような表情。・・・なるほど。一夏の奴、あの憎悪の理由に心当たりがあるんだな。どんな面白い理由なのか、後で聞いてみるとしよう。

「そうか。ならば・・・、戦わざるを得ないようにしてやる!」

言うや否や、ボーデヴィッヒの大型実弾砲が火を噴いた。前触れのない突然の攻撃に面食らった一夏は対応できなかったが、すかさずシャルルが一瞬でシールドを展開して弾丸を弾き飛ばした。

「・・・こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は随分と沸点が低いんだね。ビールだけでなく頭もホットなのかな?」
「貴様・・・。」

シャルルは六一口径アサルトカノン『ガルム』を構えながら言う。状況判断能力の高さは勿論、挑発のセンスにも割と感心した。なかなか上手いことを言うじゃないか。対して、ボーデヴィッヒは挑発に一瞬怒りの表情を見せるが、すぐに標的をシャルルに変えて元の余裕のある表情に戻る。

「フランスの第二世代ごときで私の前に立ちふさがるとはな。」
「未だに量産化の目処も立ってないドイツの第三世代よりは動けるだろうからね。」

良い煽り合いだなー。こういう喧嘩の売買は大好物だ。見てるだけで興奮するよな。良いぞ、もっとやれ!・・・と野次を飛ばしてみたいくらいだが、生憎そんな状況じゃない。やれやれ、仕方ない。

「そこまでだ、ボーデヴィッヒ。今は訓練中なんだ。邪魔をするな。」

シャルルとボーデヴィッヒの間に割り込む。ボーデヴィッヒは相変わらず冷徹な視線をこちらに移しながら標的を俺に変更する。あっちこっちに狙いを振り撒いて忙しい奴だな。ってかあの視線、自分に向けられてると思うと割とムカつくな。

「ふん、貴様らのような雑魚風情がいくら訓練したところで高が知れているだろう。」
「自分の訓練サボって他人様の訓練に茶々いれるようなどこぞのチビ不良軍人程度ならいつでも追い越せるだろうさ。」
「・・・何だと?」

今度こそキレたようでボーデヴィッヒが射撃体勢に入る。やらかした。だってさ、さっきの煽り合い、超楽しそうだったんだぜ?つい参加したくもなるだろ。とはいえ、自分で制止しておいて火に油を注ぐんじゃ世話がない。こうなった以上、もう一度制止するのもまた俺の役目だ。

「良いだろう。織斑 一夏は後回しにしてやる。貴様が先だ!」

直後、ボーデヴィッヒの大型レールカノンが火を噴く。怒りに任せた攻撃というのはえてして単純なものだ。更にボーデヴィッヒはこちらを侮っている。だからこそ・・・。

「吠えるな、子兎。」

「弾丸を拳で弾き飛ばす」なんて芸当を目の当たりにしたら思考が止まるに決まってる。シャルルは戦闘中だったから気を張っていたが、今のボーデヴィッヒでは二の矢が継げない。ボーデヴィッヒが正気を取り戻すより一瞬早く、俺のビット『白羽』が彼女を取り囲んでいた。

「バカな。いつの間に・・・。」
「周りが見えていないな、不良軍人。頭冷やしてから出直してこい。訓練も忘れずにな。」
「・・・ふん。」

ボーデヴィッヒは少しの間この状況を打破する術を模索していたが、諦めたのかISを収納してこちらを睨みつけている。あれだけコテンパンにされて悪態がつけるのだから呆れたものだ。まだ自分の方が強いと思っているらしい。まあ、そのくらい頭が堅い方が潰し甲斐があって楽しいけどさ。

「・・・織斑一夏。」
「・・・何だよ?」
「私はお前を認めない。絶対に・・・。」

そう言い残して、ボーデヴィッヒは去っていった。まったく、また随分と迷惑な邪魔が入ったものだ。正直気になることはあるが、今はそれを考える時間ではない。

「よし、訓練続けるぞ、一夏。ボサッとしてんな。」
「え?あ、おう・・・。」

返答した一夏の表情がいつもと違うことに、俺は気づいていた。





午後の訓練を終え、放課後の訓練も共にした俺と一夏は夕暮れを眺めながら寮までの帰路に着いていた。

「しっかしやっぱり零って凄いよな。」
「藪から棒に何だ?訓練は軽くしないぞ。」

脈絡もなく褒められるのは気恥ずかしいものだ。というか、褒められるようなことしたっけ?いつものように恙無く訓練を終わらせたと思うんだが・・・。

「いや、午後の訓練でさ。ビットの展開とか速すぎて見えなかったし。」
「あー、あれか。あれはちゃんとタネがあるのさ。」
「タネ?」

一夏は気づいてなかったのか。ボーデヴィッヒを除いた代表候補生勢はちゃんと見えてたみたいだし、まだまだ修行が足りんな、小僧。この優しい優しいお師匠様が教えてやろうではないか。

「まず、俺がビットを展開したのはお前が思ってるよりずっと前だよ。具体的に言うならシャルルとボーデヴィッヒが睨み合ってたあたり。」
「え、そうなのか?全然気づかなかったけど・・・。」

シャルルが素晴らしい状況判断能力を見せつけたあの場面だが、そこから俺の仕込みは始まっていた。

「シャルルがシールドを使って弾丸を防いだ時、結構派手な音が鳴ったろ?シャルルの洗練された動きも相まってボーデヴィッヒはもちろん、あの場にいた全員がシャルルに視線を集中させてたんだ。俺はそれを利用した。」

シールドに衝突して炸裂しなかったってことは弾丸は徹甲弾。その確認と共にシャルルの行動によって一時的な視線誘導を強制されたボーデヴィッヒの隙をついて、俺はビットを地面ギリギリの高度に展開して這わせるように移動させた。目的地は・・・。

「ピットの裏側の空間。ボーデヴィッヒの足下だ。」

ボーデヴィッヒからすれば完全に死角になるそのポジション。もちろん、ハイパーセンサーで警戒していれば移動中に捉えられていてもおかしくないが、シャルルの挑発と態度に業を煮やしていたボーデヴィッヒにはその余裕がなかった。

「後はタイミングを図るだけ。待つのも面倒だから自分で動いたけどな。」

本当は真っ当な説教をしながら様子を見て、暴れそうだと判断したら動く予定だったんだけどな。馬鹿なことに自分が先に暴れちまったから予定を変更してシャルルと同じように派手な演出をして視線を集めることに努めることにした。

「想定外の行動でボーデヴィッヒの視線を釘付けにし、そのタイミングで『白羽』をボーデヴィッヒの背後に移動、拡散させて囲む。タネを明かしちまえばその程度のことだ。」

マジシャンなら誰でも知ってる基礎の基礎。タネを仕掛ける最中は別の場所に視線を誘導すること。それがたまたま上手くいきすぎた結果がこれだ。こんな穴だらけのトリック、ちょっと意識すれば即座に看破できるし、俺も看破されるのを想定して動こうと思ってたから今回は拍子抜けだ。

(ホント、あれにはがっかりだわ・・・。)

せっかく楽しくなると思って期待してたのに、あんなに幼稚な策にも気づけないポンコツとは・・・。期待外れもいい加減にしてほしいものだ。一体何のためにあの時・・・。

「なぜこんな場所で教師など!」
「何度も言わせるな。私には私の役目がある。それだけだ。」
「・・・ん?」
「何だ?」

寮までの小路を少し逸れたあたり、小川の畔で聞き覚えのある声がする。一夏と共にバレないように覗いてみると、千冬さんとボーデヴィッヒが何やら話している。

「お願いです、教官。我がドイツでもう一度ご指導を!こんな極東の地では貴女の能力は半分も活かされません!」
「ほう・・・?」

珍しくボーデヴィッヒが感情を露にしている。しかも怒りや憎しみではない、必死の形相で千冬さんを説得している様子だ。対する千冬さんはいつも通り。いや、寧ろ普段より冷淡にすら見える。ありゃ完全に相手にされてないな。

「だいたい、この学園の生徒など教官が教えるに足る人間ではありません!危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしている!」

千冬さんに相応しいかどうかは別として、発言の内容自体は俺も概ね賛成だな。ボーデヴィッヒのような軍人や俺のような例外を除けば、人々のISに対する考え方は確かに生温いものだ。ISは兵器ではなくファッション、IS戦闘は戦いではなくスポーツ。モンド・グロッソの評価にすら操縦者や操縦技能に対する美しさが加味される始末だ。とはいえ、それは一般人とそれ以外の住む世界や価値観の差違の問題だ。一般人を軽蔑する理由にはなるまい。

「そのような者たちに教官が時間を割かれるなど・・・」
「そこまでにしておけよ、小娘。」

千冬さんがボーデヴィッヒの説得を遮った。流石にスルーでは済まされないレベルだと判断したようだ。まあ妥当な判断だろう。偏見に満ちすぎて聞くに堪えん。

「少し見ない間に偉くなったな。15歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る。」
「わ、私は・・・。」

何の感情も示さない平坦な声で、的確に言葉を選んで相手を一刀両断。おお、怖い。白兵戦でも舌戦でも格が違うわ、ありゃ。俺なんかつい楽しくって言葉だけじゃ収まらない状況作っちまうからなぁ。

「寮に戻れ。私は忙しい。」
「・・・くっ・・・!」

ボーデヴィッヒの必死の説得はあえなく失敗に終わった。彼女は何も言えずにその場を走り去っていく。あれだけ教官教官言ってるくせに礼もせずに去るとか失礼な奴だな。

「・・・そこの男子2人。盗み聞きか。異常性癖は感心しないな。」

やっぱりバレてたか。まあ俺は気配消すの慣れてるけど隣に隠密行動ド素人がいるからなぁ。ってか、教師が言うに事欠いて異常性癖ってどうなんだよ。注意するにももっと何かあるでしょうに。

「くだらん事をしている暇があるなら訓練でもしろ。このままでは月末のトーナメントで初戦敗退だぞ。」
「馬鹿なこと言わんでください。俺とシャルルが教えてるのにそんな結果許すわけないでしょ。」

天下の束さんの弟子と一国の代表候補生が親身になって教えているのだ。これほど恵まれた環境でISを学べる奴など一夏くらいのものだ。優勝してくれなきゃ困る。

「なあ千冬姉・・・。」
「・・・何だ?」

隣の一夏が珍しくシリアスな感じになっている。千冬さんもそれを察したようで「学校では織斑先生だ」という常套句を言わずに真剣な様子。教師としてではなく姉として聞くべきだと判断したようだ。

「あのラウラって子が俺を憎んでるのって、やっぱり第二回モンド・グロッソの・・・。」
「終わったことだ。お前が気にすることではない。ではな。」

どこか苦しそうな表情を浮かべる一夏の発言を遮って一蹴する千冬さん。そのまま颯爽とその場を去っていった。第二回モンド・グロッソ。そういえば千冬さんが不戦敗したっていう話くらいは聞いたことあるが詳しいことは知らないな。

「なあ一・・・。」

一夏に事情を問い質そうと考えた俺だったが、いつになく真剣な表情を浮かべているのに気づいて思わず言葉に詰まってしまった。・・・まあ良いや。一夏よりも簡潔かつ気軽に説明してくれるであろう人に心当たりがあるから・・・。 
 

 
後書き
次はもうちょっと早く投稿できるようにします。フラグじゃないよ、いや本当に・・・。 
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