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食事の秘密

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9部分:第九章


第九章

 そしてそれからもだった。彼は西ベルリンの様々な店を食べ歩いた。そうしている間に健康になり心も機嫌よくなっていた。美味いものを食べてだった。
 東ベルリンに戻ってそれを上官であるメルカッツに報告する。すると彼も驚いて言うのだった。
「何と、美味いもののせいか」
「はい、そうです」
 その通りだと報告するシュナイダーだった。
「そのせいで、です」
「美味いものか。西側はそんなに美味いものに溢れているのか」
「驚くまでに」
「しかもドイツ料理だけではないのだな」
「はい」
「他の国の料理もか」
「バナナやガムも驚く程安いです」
 このことも話すのだった。
「ですから」
「バナナやガムのことは聞いていたが」
「安いです。そして新鮮で美味いです」
「そうしたものをいつも食べているからか」
「はい、西側は活気に満ちています」
 これがシュナイダーの出した結論だった。
「それによってです」
「そうなのか。それでか」
「はい、それに対して我々の食事は」
 翻ってだ。シュナイダーは彼等の祖国の国の食事について話すのだった。
「あまりにもです」
「そうなのか。そこまでだな」
「どうやらこれでは」
「これでは?」
「いえ、何もありません」
 西側に敗れるという言葉は言わなかった。言えばどうなってしまうのか、東ドイツでは考えるまでもなかった。何しろこの国は共産主義国家の中で最優等生とされていてソ連が最も信頼するパートナーにさえなっている国だからだ。それだけに言論統制やそういったものは完璧だったのだ。ナチス時代からのその技術は徹底したものだった。
 それで言うのを止めてだ。報告を終えたのだった。しかしそれから暫くしてだった。共産圏は崩壊し東ドイツは西ドイツに吸収される形でドイツが統一されたのだった。
 悪名高きベルリンの壁がなくなりブランデンブルグ門が開かれだ。東西のベルリンも一つになった。メルカッツとシュナイダーはその能力を買われ統一されたドイツ軍に入隊した。そしてベルリンで諜報機関のスタッフとして勤務していた。
 今はメルカッツもシュナイダーと共に旧西ベルリンの様々なレストランを食べ歩いている。そうして美味いものを楽しんでいた。
 しかしなのだった。二人は。
 見事なまでに肥満していた。あの逞しく引き締まった姿は何処にもなかった。成人病になっていてもおかしくはないまでに太った姿でだ。今日はイタリア料理店でスパゲティを食べている。
 トマトと茄子、それに唐辛子とガーリックのソースで赤くなったパスタはアルデンテで実に美味い。何よりもオリーブを多量に使っていて絶品である。それを食べながらだった。
 メルカッツが言うのだった。
「いや、イタリアはだ」
「お好きですか」
「大好きだ。とりわけこれだ」
「パスタですね」
「何だ、この美味さは」
 メルカッツはこうまで言う。
「どの店のパスタもだ。絶品ではないか」
「そういえば大佐は」
「うむ」
 階級があがっていた。彼は大佐になりシュナイダーは少佐になっていたのだ。流石に将官になるのは難しくメルカッツは大佐で足踏み状態になっている。だが将官になれる日も近いとも言われていた。
「ここのところ三日に一回はですね」
「パスタを食べているな」
「お好きですね」
「西側のパスタは神の食べ物だ」
 絶賛そのものだった。
「それにワインもだ」
「ええ、それにドイツ料理も」
「ビールもだしな」
 メルカッツはビールについても話した。
 
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