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アギトが蹴るアナザー

作者:穂波菜穂
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宮殿を蹴る

 高らかにエスデスが「フェイクマウンテンに行くぞ!」と待機部屋にいるイェーガーズメンバーに告げている際、作戦参謀の役目を持つランはまだ集まっていないメンバーである、セリュー・ボルス・スタイリッシュの3人を連れ、初任務へ赴くべく為、廊下を歩いてた時のこと。


 西門辺りで何かが大きく崩れるような音を耳にする。4人共この異常事態に身を構え、何事かと急いで向かう。伊達に帝具を使い人を殺してきたわけではないのだ。
「ナイトレイドの敵襲でしょうか!」
 セリューはランに騒動の推測をぶつけてみる。悪を殲滅する事が一辺倒な彼女は真っ先にそれを思いついたゆえである。
「可能性がないわけではないですが……そうだとすれば、随分思い切ったことをしたものです」
 現在まで確認されているナイトレイドの犯行は数あれど、いずれも宮殿の外であり、その名の通り夜間行われる。今のような真っ昼間、しかもエスデス将軍を始め、自分達イェーガーズの全メンバーがいるタイミングで襲撃をかけるのはあまりにも不自然だ。自ら死にに来るようなものだ。だから、ランは口では言っているものの連中はないだろうと思案する。

「じゃあ、ただの建築上のミスとかぁ?」
 スタイリッシュは賊ではないとすればただの事故ではないのかと意見を述べる。勿論、損得勘定を常とする彼にすればどっちでもいいので結構無責任に発言している。
「賊だとしても宮殿内で戦闘になった場合、私の帝具って使用してもいいんでしょうか?」
 ボルスの帝具は一度火がついた対象を完全に燃やし尽くすまで、持続する火炎放射器なのだ。扱い慣れている彼に限って敵ではなく、宮殿自体に当ててしまうことはまずないとは思う。しかし、万が一そうなった場合取り返しの付かない状況に陥る可能性も否定出来ないので、慎重に物事を進めるランはひとまずルビガンテを禁止する。

 そんな事を話しているうちに現場に着いた。コウタロウ達はまだ来ていない。当たり前といえば当り前だが、あの部屋はここから割と離れている為、自分達の方が早いのは当然と言える。
 辺りは騒然としていた。門そのものは無事であったのだが、その少し隣の壁が吹き飛んでいた。人が数人入るとかそういう程度ではない。高さ十数メートルはあった壁が、上から下まで木っ端微塵に破壊されているのである。高さもさることながら、幅も民家1軒くらいはすっぽり収まってしまいそうな程にはある。しかもあの石造りの壁は厚さ2メートルもあったはずなのだ。
 破壊された時の轟音自体は一度しかしなかった。つまり一撃でここまで壊したのだ。どんな兵器を使ったのか?もしかすると新手の帝具が悪戯に使われたのだろうか?
 いや、ここで模索していても仕方がない。ランは吹き飛ばされた瓦礫の下敷きになっている兵士達を救助する他の3人に指示を出す。

 4人がいざ行動を開始しようとしたまさにその時、未だ立ち込める砂埃の中から、人影が揺らめく。やはり賊か。セリューはコロを巨大化し、ランはスティグマを展開させる。スタイリッシュは本人の戦闘能力が皆無なため、人命救助に専念する。帝具を使用できないボルスもスタイリッシュの行動を円滑に行わせるべく、壁役として彼の正面に立ちまわる。そしてようやくその姿を見た時、多少の差こそあれ、全員驚かざる得なかった。
 何故なら。
 先日のセリューと交戦したナイトレイドの一人、【黄金の戦士】がそこにいたからだ。

「お前はこの前の――コロ、捕食!!!!」
 セリューは数日前に自分の存在理由とも言えるである正義執行を邪魔した憎き悪として食い散らかすべくコロを差し向けた。許可が出たコロは巨大化し、人一人を軽く飲み込み、肉塊にするであろう大口を開けて突進する。
(まさか、セリューさんの言う通り本当にナイトレイドだったとは……!)
 ランはまさかそんなはずはないと予想を立てていた為、少し面を喰らう。

 4人と相対する【戦士】は最低限の動きだけで横に回避し、コロの頬に左手で裏拳を放った。カウンターをもろに受けたコロは門に叩きつけられてしまう。セリューは舌打ちしつつ、早く裁きたい気持ちを抑え、冷静に相手の力を分析する。
 いくらまともにしてやられたと言っても、巨大化したコロは見た目相応の重量がある。生半可な筋力では殴り飛ばせないはずだ。
 ――さっきのが自分だったらやばかったな。
 と、セリューは思う。コロは生物型の帝具である。ゆえに核を破壊されない限り、いくらでも体を再生し、傷を直す事が可能だ。
 だが、自分の体はスタイリッシュの人体改造手術を受けているとはいえ、コロほどダメージを無視して戦うことはできない。それに無理をして勝てても、その怪我の分治療の為、前線を離れることになってしまう。自分の手で正義の鉄槌を下すことが生きがいとなっている彼女にとってはそれは避けたい状態であった。

 ランはこの状況で次の対策を考える。ある程度はセリューと同じように、【戦士】の攻撃に注意を払うのだが、それ以上に気になることがあった。先程からボルスが瓦礫を持ち上げ、スタイリッシュが治療を施す。という一連の動作を行っているのだが、それに見向きもしない。
 自身も時折、マスティマの羽で牽制を行ない、負けじと突進を繰り返すコロを援護している。だが【戦士】は自分から攻勢に回ってはおらず、あくまでラン達の攻撃に対する迎撃のみを行っているのだ。

 だがある時【戦士】は何かに気付いたような素振りをし、ラン達がいない別の方向に目線を向ける。興奮状態のセリューを除く3人が、警戒しつつそれを追う。
――なるほど。そういうことか。
 納得がいった。視線の先には我らが隊長エスデスを先頭に残りのイェーガーズメンバーが到着していたのだから。
「聞いていた通り金色で目立つな……グランシャリオと似たタイプか? だったら――!」
 ウェイブは【戦士】が自分の帝具と同じように全身に鎧を装備する型だと考え、即座にグランシャリオを身にまとう。エスデスの指示があり次第すぐに参戦できるようにだ。クロメも八房を構える。ただ彼女はたかが一人であるし、エスデス将軍もいる。だから自分がわざわざ戦わなくてもさっさと終わるだろうと少しだけ気を抜いていた。

「よくも騒ぎを起こしてくれたな。貴様のせいでフェイクマウンテンでの私とコウタロウの愛のラブラブデートが遅れるではないか。覚悟しておけよ?」
 ふつふつと怒りを煮えたぎらせるエスデス。普段なら今の言葉の中に混じったフレーズに心の中でツッコミを入れる
コウタロウだが、そんな余裕はなかった。
(なんでアナザーアギトがいるんだ!?)
 その名は本来彼が変身する【金色の戦士】の姿とは大幅に違い、両肩の肩甲骨の辺りから出ているマフラー状の羽が生え、非常に生物的かつ有機的であり、ダーティな仮面ライダーなのだ。
 それはいい。

 問題は2つある。
 ひとつはそのライダーが何故この世界にいるのかということだ。まあ、真相はコウタロウと同じ転生者なのだが、現在混乱中の彼がその事実に気づくのはしばし後のことである。これは気付いてしまえば、そう大したことでもない。ただもう一人の転生者の動きによっては元々の原作通りいかない可能性が大きい。これは少なからず厄介ではあると思う。
 もうひとつは原作〈仮面ライダーアギト〉にて、主人公の津上翔一のアギトと瓜二つに見える事だ。実際イェーガーズの面々は見間違えている。このまま眼前にいるアナザーアギトがこれ以外にも騒動を起こせば、それはそのままコウタロウの変身するアギトの罪になるのだ。
 正直たまったモノではない。知らず知らずのうちに大罪人になっていたなんて笑えない。それに宮殿を襲撃した事実は明日には帝都中に広がってしまうだろう。そうなるとアジトにいる仲間のナイトレイドに色々問い詰められることは必然。帰ったらただちに真実を話さなければ、大好きなレオーネを初め、勘違いされたままなのは絶対に御免こうむる。

 そんな風にコウタロウがこれからやらなければならない事に必死で頭を巡らせていると、横にいるエスデスが口を開いた。
「しかし貴様も運が悪い。ナイトレイドなんぞに属していなければ、我らイェーガーズの一員として功績をたてられたろうに。だが安心しろ。貴様の帝具は元通り帝国繁栄の為に活用されるのだからな」
 「帝具だと……?」
 暗にお前はもうすぐ死ぬという意味合いが込められているのだが、向けられた彼は一切その事に気にする素振りも見せず、むしろエスデスの言葉にアナザーアギトが『まるで癪に触ったかのような』声色で返す。

「コロッ!! 食い殺せ!!」
 今のやりとりをセリューは全く気にせず、先程のエスデスの台詞を死刑宣告と受け取ったようで、コロを突撃させる。
 だが。
――キュゥウウッ!?
 突然コロが地べたに這いつくばる。凄まじい速度で殴り倒されたのだ。明らかにさっきまでの対応とは違う。鬱陶しいハエを追い払うかのような仕草をしていたのに、今のはどうだ。まるで躾のなってない馬鹿犬に制裁を加えるかのような勢いで叩き伏せたのだ。
 そしてアナザーアギトが声高叫ぶ。
「この【アギト】の力を帝具如きと一緒にするなッ!!」  
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