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地震加藤

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第六章

「よくぞご無事で」
「何とかな、しかしな」
 秀吉は頭を垂れて平伏している加藤に言った。
「わしの命じたことは覚えておるな」
「閉門しておりました」
「そうじゃbな、そなたはわしの命を破った」
 このことを言うのだった。
「そのことはわかっておるな」
「はい」
「しかしそれでも来たのじゃな」
「左様です」
「わしの身を案じて」
 秀吉はあえて自分から言った。
「そうじゃな」
「そうです」
「わかった、ではじゃ」
 秀吉は一呼吸置いてだ、加藤に言った。
「顔を上げよ、そして」
「そして?」
「御主の閉門を解きこの度のことを許す」
「なっ、殿下」
 ここでだ、加藤は。
 顔を上げよと言われていたが思わず顔を上げてだ、思わず声をあげた。
「それがしを許して頂けますか」
「この様なものを見せてもらって許さずにいられるか」
 見れば秀吉の顔は微笑んでいた、優しい父親の様な顔であった。
「御主はわしを助ける為に一目散で来たのであろう」
「それは」
「屋敷の中での服でしかもあちこちが乱れておるわ」
 このことからの言葉だった。
「着のみ着ままで来た、その想いに免じてそうする」
「左様ですか」
「また励め」
 己の務めにというのだ。
「戦にも政にもな」
「さすれば」
 加藤は深々と頭を垂れて秀吉に約束した、秀吉はその加藤の左肩に己の右手を当てて微笑んでいた。
 そこでだ、遠くからだった。
「殿下、殿下はどちらに!」
「ほう、次に来たのは佐吉か」
 秀吉はその声の方を見てまた笑った。
「あ奴もよく来てくれた」
「くっ、あ奴何をしに来たのじゃ」
「そう言うでない、佐吉もわしを心配して来てくれたのじゃ」
 秀吉は顔を顰めさせた加藤に優しい笑顔のまま言った。
「ならばな」
「あ奴もですか」
「通せ」
 石田もというのだ。
「そうせよ」
「わかり申した、殿下のご命令じゃ」
 加藤は周りにいた己の家臣達に告げた、立ってから。
「あの背の小さいこそこそと言う者を通せ」
「畏まりました」
 こうしてだった、石田も通された。だが加藤は石田の顔を決して見ようとしなかった。
 その話を聞いてだ、増田は大谷に言った。
「殿下のお怒りが解けたこと、何よりも虎之助の行いはよかったが」
「それでもな」
「治部への怒りはそのままじゃな」
「うむ、佐吉も自分から歩み寄る者ではない」
 それが必要な時でもとだ、大谷は増田に答えた。
「だからな」
「あ奴の閉門は解けたが」
「あの二人のいがみ合いは続くな」
 そのことはというのだ、二人は決して安心してはいなかった。
 だが加藤は閉門が解け再び出兵し秀吉は彼を笑顔で見送った。少なくとも二人のことは無事に解決していた。
 加藤清正がどういった者かは歴史書にある、この逸話は実はなかったともいう。しかし彼の秀吉を思う気持ちの強さ、そして彼の人となりを示す面白い逸話である。こうした話が実際と思われるところに彼の魅力があると言えるであろうか。


地震加藤   完


                    2015・6・20 
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