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地震加藤

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第三章

「だからこの度もじゃ」
「虎之助を閉門に追い込んでか」
「怒りを招いておるのじゃ」
「確かに虎之助は朝鮮での戦で人の言うことは聞かぬし」
「勝手に動いて困っておる」
 実際にこのことは問題だとだ、二人もわかっているのだ。
 しかし大谷はだ、あえてこう言った。
「しかしそこで全てありのまま書くとじゃ」
「ああなるな」
「そこはある程度書かないでよかった」
「虎之助の殿下への文と合わせてな」
「それでよかったのじゃが」
「治部は人にも合わせぬ」
「虎之助の人柄がわかっていてもな」
 それでもなのだ、石田はあくまで自分が正しいと思ったことを秀吉に報告してだ。その結果だというのである。
「ああはせぬ」
「そうじゃな、御主なら」
「全く、佐吉もああして最近敵を作り過ぎておる」
「しかもそれで自分は正しいと思っているからな」
「尚始末が悪い」
 石田についてだ、二人は困るばかりだった。
 そしてだ、増田は難しい顔のまま大谷にこうも言った。
「とにかく虎之助の閉門はじゃ」
「何とか殿下に解いてもらいたいがじゃな」
「殿下もお怒りでじゃ」
 そしてだった。
「虎之助も虎之助で怒ったままでな」
「佐吉と仲直りせぬな」
「どうしてもな」
 だから彼も打つ手がなかった、それでそのまま加藤の閉門は続き。
 そのまま日が流れた、加藤は相変わらず閉門のまま石田に対する怒りを募らせていた。それでこの時もだった。
 己の家臣達と共に石田に対する怒りを話していた。
「あの時もじゃった」
「はい、治部めは」
「いつもでしたな」
「殿や福島様のことを殿下に讒言して」
「自分だけいい目を見ていましたな」
「全く以てずるい奴です」
「ずる賢い奴です」
「そうじゃ、あ奴は知恵が回るだけじゃ」 
 石田はそれだけの男だというのだ。
「要領ばかりよくてな」
「殿下に上手く取り入り」
「そしてですな」
「殿も他の方も蹴落とし」
「身を立てていますな」
「己は戦の場に立たずにじゃ」
 実際は石田もかなり戦場に出ているがこのことも忘れる位にだ、加藤の石田に対する怒りは強いものだった。
「それでじゃ」
「殿下に取り入ってばかりで」
「戦場の後ろで仕事ばかりして」
「そうしてですな」
「殿に讒言もしていますな」
「うむ、何時か思い知らせてやる」
 またこう言うのだった。
「見ておれよ」
「ですな・・・・・・むっ!?」
 家臣達も主の言葉に頷こうとした、だが。
 ここでだ、不意にだった。
 屋敷中が揺れた、しかも只の揺れ方ではない。屋敷全体がまるで荒波の中の船の様に揺れに揺れた。
「な、何じゃ!?」
「地震か!?」
「これは凄いぞ」
「この様な揺れはないぞ」
「皆の者、屋敷を出よ」
 すぐにだ、加藤は家臣達に言った。
「この屋敷もこの揺れではもたぬ」
「そ、そうですな」
「それではです」
「ここは屋敷を出て」
「難を逃れましょうぞ」
「庭に出るのじゃ」
 家臣達にだ、加藤はまた告げた。 
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