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地震加藤

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第一章

                 地震加藤
 加藤清正は怒り狂ってだ、馴染みの大名である増田長盛に言っていた。
「太閤殿下にきつくお叱りを受けてじゃ」
「そしてというのじゃな」
「そうじゃ、閉門となったわ」
 こう怒鳴る様にしてだ、伏見城の隅で話していた。
「これから殿下がいいと仰るまでな」
「閉門か」
「そうじゃ、それもこれもじゃ」
「治部のせいというのじゃな」
 増田はここで石田三成の名を出した。豊臣秀吉の懐刀であり彼を影に日向に支えている者だ。
「あの者の」
「そうじゃ、あ奴が殿下に言いつけたからじゃ」
「治部が讒言したというか」
「あ奴以外に考えられぬ」
「待て、確かに治部は言うことに遠慮がない」
 増田は眉を曇らせて加藤に言葉を返した。
「殿下にもきついことを言う、しかし曲がったことはせぬ」
「だからか」
「あの者は誰のこともそのまま言う」
「わしのこともか」
「朝鮮での戦のことじゃな」
 増田は事情を知っていたので加藤にこう問うた。
「御主の朝鮮での戦ぶりを治部が讒言したというのじゃな」
「その通りじゃ、わしの戦についてあることないこと書いてな」
「だからそれはありのまま書いただけじゃ」
「わしの戦をか」
「御主も自身の戦ぶりは殿下に文でお送りしたな」
「うむ」
 その通りだとだ、加藤は増田に頷いて答えた。
「そうしておった、暇を見付けて常に書いて送らせてもらった」
「その御主の文と治部の文の内容が違っていたのじゃ」
「それで殿下はか」
「御主を呼び出して叱ったのじゃ」
「ではやはりあ奴が嘘を書いていたのではないか」
「だから違う、それは御主の勘違いじゃ」
 増田は怒る加藤を宥めて言った。
「それはな」
「では何なのじゃ」
「あえて言うが御主の思い込みと治部の目が違ったのじゃ」
「あ奴は底意地が悪い、それで捻じ曲げて見ていたのじゃ」
「だから違う、むしろ治部は真っ直ぐ過ぎる」 
 増田は自分が見た石田を話した。
「ずけずけと言い書き過ぎる、言葉にも文にも遠慮がない」
「だからわしのこともか」
「ありのまま書いたのじゃ」
「それでというのか」
「御主は殿下に呼び出されお叱りを受けたのじゃ」
「この様な屈辱ははじめてじゃ」
 増田の話を聞かず怒る加藤だった。
「佐吉め覚えてれ」
「だから前も言ったな、御主がわしに殿下にとりなしを頼んだな」
「うむ、あの時か」
「わしは言ったな、治部と話をして仲直りをせよと」
「そんなこと出来るか」
 また怒って言った加藤だった。
「あの様な底意地の悪い奴とは断じてじゃ」
「仲直り出来ぬか」
「顔も見たくないわ」
 こう言う始末だった。
「二度とな」
「そう言うがな、わしとしてもな」
「わしがあ奴と仲直りをせねばか」
「最近御主だけでなかろう」
 ここでこうもだ、増田は加藤に言った。
「御主を筆頭とした七人、七将は皆治部と仲が悪い」
「全てあ奴が悪い」
「そうではない、だから治部は口が悪いだけで別に御主達を嫌っておらぬし」
 それにというのだ。 
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