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骨斧式・コラボ達と、幕間達の放置場所

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交節・紅と桜、蠍と斧

 
前書き
コラボ第五弾。

今回は迷い猫さんのSAO二次からオリジナルキャラクター、無邪気に斧を振るう少女『アマリ』が参戦。

対戦相手は未だ名前判明せず! 謎の女性プレイヤー。

……自分で言うのもなんですが、コラボに置いて彼女は以外と人気ですね。思考回路、色々狂ってるのに。
でもガトウはガトウで面倒くさいキャラだしなぁ……


 それではどうぞ。 

 
 
 『ソードアート・オンライン』


 発売前はVRGゲーム初のMMOであり、必ず金字塔を打ち立てると言われた期待作だった(・・・)
 だが発売後は……一万人もの人間を電子の牢獄へ閉じ込め、理不尽なデスゲームと化した。


 魔法の様にメニューからアイテムを取り出せたり、《ソードスキル》で剣術の素養のない物でも軽快に剣が扱えたり、人間も漏れなくポリゴン的で不自然な質感であったりと、やはりゲームという概念を打ち破れてはいない。

 だがその一方で、本物の命が掛っているという異常事態、GMにより強制的に戻された嫌に現実的な容姿、何処かリアルな状況。
 これらが、通常のゲームに付いて回る《遊び》を根こそぎ否定していた。


 一応システムの観点からだけ語れば、PKそのものはペナルティがあるだけ。
 だが―――デスゲームであるこの《ソードアート・オンライン》では、本物の命を奪いまた背負わせる、良心及び精神的なペナルティを否応なく乗せてくるのは、言うまでも無い。



 そして殆どの人間が、何かしら異常をきたさない限り、いくら仮想とはいえど現実が掛っているならば……好んで手を血に染めたくは無かろう。
 元より、それを思いつく人間など、常識で考えれば居よう筈も無い。





 だからこそ―――――





「はー……」
「ウフフ……」


 今この場で確かな『殺気』を湛え、デュエル申請もせず『直に』斬り合い、顔に笑みを浮かべる一人の少女と、無表情で斬りかかる少女は……酷く歪だった。
 
 ギャラリーなど存在しない、命を掛けた異色の“PvP”。


 一呼吸置き―――再び始まる。


「っはぁ!!」


 当たりの空気を丸ごと震わせんばかりに、轟くは爆音。


「おぉ、怖い怖いっ♡」


 それは二度三度と断続的に鳴り響き、


「―――っはぁ!」
「フフフ♫」


 辺りの砂を分別も無く、尽く捲り上げていく。


 斧を持つ少女も、スコーピオンを構える少女も、一見すれば互角の戦いを繰り広げているように見える―――が、頭上に表示されたHPは立った2割弱、されど2割弱、斧持ちの少女の方が減っている。
 対する武器を揺らしながら、ステップを踏む少女は……まさかのHPバー“数mm”程度。
 相手に比べれば、幾分か鼻歌まで行いながら遊ぶ余裕があり、明らかに格上なのが見て取れた。



 傍から見れば凄惨な、一切合財善心をも付け入る隙のない、ただの『殺し合い』。
 にも拘らず、斧の少女は何の感傷も無く得物を振りかざす。
 スコーピオンの少女は顔に笑みを浮かべている。

 どちらが上なのか、いうまでも無いこの状況。

 なのに……そんな格上相手にもかかわらず―――桃色髪の少女は、正面から突っ込んでいくのみだった。
















 ――――それは遡る事、約数分前。



 明らかに人の手で作られた、薄暗い遺跡の中を一人の少女が歩き回っていた。


 膝まで伸びる髪は桃色で、有り得ない色にもかかわらず、染色された様な不自然さが無い。
 身長も低く、150㎝中半代あればいい方だろう。
 更にパステルカラーの中に配色された白の目立つ、如何にも女の子然とした服は遺跡探索にはまず向かないと見える。

 まあ……尤もこの世界はゲーム。

 どんな格好でで歩こうとも、擦り傷や虫刺され程度ならば起き得ないし、汚れもエフェクトとしてすぐに消えてしまう。
 故に、どんな格好だろうと防御力を確保してさえいれば、何の問題も無い。


 しかしそんな現状探索する土地と食い違えど、そんなフワフワぽや~っとした彼女なのに…………それらに釣り合わぬ円盤状の紫刃を持ったどデカイ『両手斧』が、思わず目を引いてしまうだろう。


「はぁ~……」


 彼女の名前はアマリ。
 このデスゲーム《ソードアート・オンライン》の中で、舞台である浮遊城・アインクラッドを攻略しつつ上層へと直進める、トップランナーの一人。
 加えてまんま『攻略組』と呼ばれるプレイヤー達の中でも1、2を争うパワーファイターで、容姿の可憐さと攻撃方の豪快さから『惨殺天使』と物騒な二つ名でも呼ばれる人物だ。


 ……しかし、彼女が真に厄介なのはその攻撃性ではなく、本人の性格的思考にある。

 普段フォラスという名の少年プレイヤーと組んで居る時は、彼の擁護や執り成しのお陰でそこまで露見する事はない――――だが、一人となった時に彼女へ近寄る者はめったに居ない。

 なぜなら彼女の脳内に置いて、殺人に対する禁忌や忌避は全くと言って良い程『存在しせず』、そのうえに彼女の世界は、フォラス・姉・フォラスの友人―――“だけ”で構成されている。

 それ以外の人間はアマリにとって、動き回る『物』でしかない。

 もし彼女が殺人を躊躇ったとしたら、それはフォラスに嫌われたくないから、フォラスを悲しませたくないから……そういう理由が『一番』にあがり、裏を返せば殺人自体は別段疎んじていない事に他ならない。

 彼女を返上な人間が見れば、頭のネジが“悪い方向へ”数本ぶっ飛んでいるとしか思えない。
 アマリはそう思わざるを得ない程に壊れ、人としては消して踏み入れてはいけない域まで達するぐらい、ただ狂っているのだ。
 攻撃など以ての外、触れるだけの行いでも殺傷へつながる―――それほどまでに。


「うぅ、フォラス君とはぐれちゃったです。何処に居るですかー」


 そんな狂人ぶりなど今は何処へやら、ちょっぴり泣きそうな顔で、アマリはトボトボと彷徨っている。


 他者にとって運が悪いのか、それともアマリとフォラスの運が悪いのか、どうも相方と逸れてしまった様子。
 恐らく個のダンジョンに仕掛けられているトラップの一つ、分断の罠にかかったのだろう。

 全ての行動がフォラスに帰順する彼女なのだし、やはりとでも言うべきか、好きこのんで別行動を取った訳ではないらしい。


「息抜きにぶっ殺しに来たのに、酷い目にあってるですよ……」


 さらり、聞き流してはいけない単語を混ぜながら、アマリはフォラスの捜索を続ける。



 しかし古代遺跡というだけあって、分断トラップ以外にも多種多様な罠が仕掛けられており、そこまで自由に身動き出来る訳でもなく、アマリの抱くストレスは発散場所も見つけられず次第に溜まっていく。

 それでも、10秒で最大HPの5%を回復してくれる【戦闘時回復】スキルや、軽金属装備に各種両手武器に用意された、Modと呼ばれる追加パッシブスキルに多く見られる【最大HP増加】もあって、ダメージ系のトラップは難なく抜けられる。
 問題は麻痺毒や一定時間の通路封鎖など、行動そのものを阻害してくる罠。
 徹底して “真正面から突っ込む” ことしか考えていない彼女は、それらバッドステータスへの対策などしている筈も無く、初心者もかくやと制限されまくるのだ。


「モンスターも居ないし、さっきから壊せないものばっかり……何だかムカムカしてくるです―――――って、あ」


 焦りよりも苛立ちが感情の大部分を占めたからか、またもアマリは足元にあったスイッチを、いっそ清々しい程中心を捉えて踏んでしまっていた。

 重苦しく響く機動音に、彼女はがっくり肩を落としせめて次の行動までを早くすべく、背にある大斧【ディオ・モルティーギ】を手に取った。
 尋常ではない怪力により、構える時に限っては扱いも其処まで鈍重ではなく、恰も単なる斧かの様に見えてくる。


 そして発動したトラップは―――――大音量のアラーム。


「あ!」


 それ自体はすぐに鳴り止んだものの、このトラップの詳細を知っているアマリは、対処が楽になるからかとても嬉しそうにしていた。

 発動時は煩く喚くアラームトラップだが、何も聴覚を狂わせる類のトラップではない。
 ならばその内容は何かというと…………音によりモンスターを呼び寄せてしまう、という1、2を争う危険な代物。
 鳴り続けるタイプは縁円呼び込む危険性をはらむ事もあって、間違っても喜べるような類では断じてない。


「フルルルゥ……」
[オオオォォォォン―――!]
『ギ、キキキキィッ!』


 数秒と経たず包帯を巻いたり金の装飾を施したコボルドや、石質で出来た中型のロボット、何に属するかも分からない虫が遺跡の彼方此方から湧き出、コレでもかとアマリへ殺到してきた。

 パーティーを組んで居るならいざ知らず、十など軽く超えるモンスターの群を、アマリ一人でどう切り抜けると言うのか。


「あはー」


 前後左右問わず八方から迫る敵に対し……アマリはただ斧を最上段に掲げ、嬉しそうに笑うのみ。

 更に何を血迷ったか、浅葱色をしたソードスキルのライトエフェクトを武器に灯す。
 隙だらけにも程がある愚かな所業を、しかし彼女ギリギリまで引き寄せてから躊躇い無く実行し、


「あっはぁ!!」


 躊躇い無く、振り下ろす。


「[『!!!????』]」


 真正面の二匹を同時に叩き潰した瞬間、着弾点から爆発音が巻き起こったかと思うと―――爆炎が膨れ上がる様な勢いで、遺跡すら震わせんばかりの迫力と轟音を持って余りにも巨大かつ凶暴な“衝撃波”が飛び散った。

 大斧が、彼女自身が、宛ら爆弾と化したが如く、周囲のモンスターを時に粉砕し、時に吹き飛ばし、モンスターを塵よろしく散らかしていく。

 恐るべきは破壊力か……包囲網を一撃で、たったの一撃で崩してしまった。


「あっはぁーっ!」


 笑いながら、否『嗤い』ながら敵陣へ突っ込み、またHPの残るモンスターへ斧を振り回し、一刀のもとに胴と脚を無き別れさせていく。

 また縦真っ二つに断ち切って、血液とも見まがう赤きダメージエフェクトを撒き散らし、猛進しながら蹴散らしていく。

 一匹に首を千切り飛ばした勢いでそのまま背後の敵を横二つに切り分け、最上段からの一撃で中型ロボを《ソードスキル》で殆ど大破させれば……またも着弾点から空気を揺るがせ、轟き渡り爆裂する衝撃波。
 ポリゴンとなる前の欠損部位がゴミもかくやと吹き飛んでいき、耐えられなかったモンスターは爆風の中にて無残にも塵芥と消える。

 たった一人の、僅か一人ばかりの“少女”による、殺す側殺される側の逆転した『爆殺の殺戮ショー』は、本人のテンションも攻撃の苛烈さも一向に衰えず……アマリは、目の前の敵を本能赴くままに殺していった。


「グルゥゥゥアアアァァァアアッ!!」
「――――――!」

 怒りを含んだ咆哮を響かせ、一匹残ったコボルドが突っ込む。
 声にならない叫びをもって、嗤い続けるアマリは答える。

 口角を限界まで引き上げ、瞳にたっぷりと狂気を内包し、声にならぬ笑い声を吐き出す彼女。
 そこへ―――フンワリとした笑みと間違い敬語を緩い雰囲気で口に出す、癒し系とも言えるをも影を探す事など、もはや砂漠で砂粒代のダイヤを探すよりも不可能と言えた。

 空気ですらも、愉悦と狂乱から歪んで見える。
 第三者がこの光景を目にしたならば、並の者で“無かろう”とも震えが止まらないだろう。
 もしかすると、『人』として認識出来ないかもしれない。

 それほどまでに……今の彼女は、壊れていた。


「あっはぁ!!」


 喉笛を切り裂いた筈なのに、勢いから肩肉までもごっそりと抉り取られ、己の武器の破片と共にコボルドは散って行った。


 ……散って行ったのに、アマリ(ソレ)から放たれる強烈な『恐怖』は未だ、頑なに霧散しようとはしない。
 寧ろ段々と濃度を増して行き、行き場を探して暴れているようにも感じられた。

 アマリ(ソレ)の餌食となるのは、果たしてモンスターなのか、それとも同士である筈の“人間”なのか。


 と―――

「あは……」

 ユラーリユラリと揺すられる身体が唐突に硬直し、全ての身動きが停止する。


「あっはぁ!」


 途端、グリン! とあらぬ方向へ首も身体も曲げられる。
 アバターでなければ、人間には不可能な角度と動きでその方向を見つめ、膝を曲げてから間髪置かず轟音と共に飛ぶ。

 その視線の先に居るのは……なんと有ろう事か、背の低い一人のプレイヤー。
 遺跡の壁を感慨深そうに見つめ、仮想世界にある仮初の設定に思いを馳せているようにも見える。

 そのプレイヤーは何もしてない、何か罪を犯している訳でもない。
 元より、アマリの記憶の中に、そのプレイヤーの影の重なる者は存在しない。

 いや、そもそもそんな事は、アマリには元から関係が無いのだ。
 彼女の『絶対的』基準はフォラスの感情、フォラスの思考、フォラスの存在。
 故に、有象無象(その他大勢)がどうなろうと心も痛まない、禁則を犯したとも思わない。

 ―――行く末も繋がりも、知った事ですらないのだから。



「…………? ……おや?」



 後残り二メートルの位置で、今更声からして女性と思わしきプレイヤーも、アマリに気が付き振り向く……だが遅い。

 彼女の背にある複合武器“スコーピオン”を構える余裕も、静から動へ切り替える暇も、何が襲いかかってきているのか思考する時間も、根こそぎ奪い去る烈度で―――


「あっはぁっ!!!」


 アマリの無慈悲な斧が、いっそ豪快なまで横薙ぎにされた。

 一合の元に両断され、知覚が強制的に引き上げられた影響からか、アマリの目にスローモーションで、乗っかっていた“上”の落ちる様が映り込む。

 そのまま……音も無くずり落ちていった。








「……?」


 ―――――筈なのに、ポリゴンに変わる間もなく、赤い影となって掻き消えた。

 意味の分からない光景に、アマリも立ち止まってコテン、と小首を傾げる。
 ならば回避したのか、と周りをそれとなく素早い動きで見渡すが、先の女性プレイヤーは夢幻の如く、影も形も存在していない。


「うーん……興奮し(よろこび)過ぎたですかねー?」


 今まで体験した事のない現象のお陰か、それとも粗方モンスターを踏み潰してそこそこスッキリしたからか、空気こそ未だ淀んではいるものの、アマリの笑みも動作も戦闘前の物に戻っている。

 おっかしいなー? と言わんばかりの動作で少しの間悩むも今はフォラスとの合流を優先すべきと考えたか、元気よく一歩踏み出して歩き出した。


「フフフ……挨拶無しから迷いなく切断とは……いやはや、如何にも物騒な方ですねぇ」
「はえ?」


 その歩みはまたも、謎の声で止められる。

 振り返り―――ざまに斧で一閃しながら後ろを向けば、そこには誰も居ない。

 いや、厳密には居る……足元で屈みながら笑っている少女が。


 血もかくやの真っ赤な髪を触覚の様なツインアップに纏めており、ローブを纏っているので体型などは知れないが、顔には[Ω]状のタトゥーが彫られている。
 彼女もまたアマリに負けず劣らずの美少女であるのに、その刺青が何処か勿体ない。


「おやおや、本当に物騒極まりない♫」


 言いながら恐怖など一辺も無い、余りに無垢な笑みを少女は浮かべていた。


 そこでアマリが斧を振り下ろさなかったのは……単純に見失っていたからだ。
 単純な視界からだけではない。
 先に居ないと称したのは、アマリにとっての[視界]から―――存在すらも目に入っていないからだ。

 だからこそ、先程の声すら気の所為だと思い込み、再びアマリは歩き出す。


「あ、ちょっと待って頂けませんか?」


 道にでも迷ったのか、赤色の少女はアマリへ向けて、肩でも叩いて呼びとめる気か手を伸ばした。
 ……手を伸ばしてしまった。

 少女の方からすれば挨拶代わりでしかないだろう。
 だが、アマリからしてみれば―――攻撃。

 瞬間、噴き上がるは、今までのが児戯とすら思える “狂気” 。
 先の振り返りざまを容易に超える、驚異的な破壊力と速度で徐に蹴りが繰り出され、重くそして鋭く空間を穿った。


 完全に、相手の虚を突いた一撃であり、余りに……余りに“理不尽”な剛撃だった。


「お前、今何しようとしたですか?」


 ゆっくり動かす時間も惜しいと、アマリはすぐさま視線の行く先を変える。






 ……しかし現実もまた理不尽であった。
 見た目通りに、思う通りに動いてはくれなかった。


「―――はにゅ?」


 底冷えする様な声から一転、ひょうきんな声色で返してしまった理由は単純。
 振り向き固定された視線の先に、またもその少女の姿が“無かった”からだ。


「見失いましたか? ほら、コッチですよ」
「……!」


 声がする方向を向けど、やはり声の主の姿はかけらも見られない。


「仕方ありませんねぇ……ほらっ」


 すると不意に、コンコンコン……と何処か馬鹿にされた調子で頭が叩かれ、アマリも思わず振り向いてみれば―――


「……!」
「ちゃお♡」


 驚くなかれ……その少女はあろう事か【ディオ・モルティーギ】の上に、余裕綽々と『腰かけて』いるではないか。
 すぐさま強引に振り落とそうとするが、斧を振り切る前に紅い少女は飛び上がり、軽やかな所作で地面に着地する。

 斧を上段に構えたアマリは今までとは一線を画す相手だからか、それとも単なる気まぐれか、攻撃ではなく言葉を口にした。


「お前、今私に触ったです?」
「えぇ♫」
「お前、そこまで死にたいですか?」
「死にたいか、ですか。う~~~ん……さぁ?」


 怒りも無く、憎しみも存在せず、興味も浮かんではいない……純粋な狂気一色に染まるアマリの視線を受けても、少女は笑顔も変えず微動だにしない。
 寧ろそれどころか心地良い、そよ風に等しいとばかりの態度。

 痛快だとばかりに、愚かしいと肩をすくめ、両掌を上に向けおどけてみせていた。

 何故だろうか……彼女は奇妙なまでに、楽しげで嬉しげにすら見える。
 それは空間を燻らせる狂気が生み出した、一種の錯覚なのだろうか……。


「死にたいならぶっ殺してあげるですよ。《でぃーちゃん》なら苦しむ間無しで一撃で逝けるですから、怖いも痛いも無縁ですので大丈夫です」
「へぇ、一撃とは恐ろしい。まぁ、当てられればの話ですがねぇ♪」


 とことん人をくった様な態度の少女へ、アマリは迷う事無く突貫。
 大迫力の紫紺の刃が唸り、相手を脳天から断ち切らんと迫る。

 圧迫感すら無視できるのか、スイッ……と軽く身を捩じって少女はごく普通に回避して見せた。


 されど、その紙一重が落とし穴。
 アマリの斧から三度(みたび)衝撃波が発生し、あたり一面に濛々と小規模の砂嵐を発生させた。


「危ない危ない♫」


 ……が、赤い光が瞬いたかと思えば、少女は依然として近距離に立っていた。
 かなりの至近距離で受けたにもかかわらず、ダメージは皆無で吹き飛びすらしていない。


 コレには流石のアマリも驚き、


「―――――ッ!!」


 しかし空白は一瞬だった。

 声にならない雄叫びを上げ、自らの剛腕を活かし恐るべき速度で横薙ぎに振るう。
 現実ではありえない重量の物が、同じくあり得ない速度で移動するからか、空気が破裂した様なサウンドが響いた。

 それも、少女は驚く事無く『斧を足場に』軽く跳んで回避……と同時にアマリへ向かい、宙をかっ飛んでくる。


「しいっ!!」
「むぐっ……!?」


 推進力を活かした飛び蹴りが命中し、アマリは大きく仰け反った。
 それでも武器の重さゆえに吹き飛ぶ事は無く、その場で次を構えられる…………


「はいっと!」


 息つく暇も無く弾丸の如き空中レフトソバット―――から一回転して右脚の踵落とし。


「っ!」


 漸く構え、柄だけでも当てると振り抜けば……なんと、柄をつかんで『鉄棒』よろしく扱い、更に逆さまの体勢で空へ飛んでから、薙刀もかくやのオーバーヘッドを繰り出す。

 間、髪置かずに左の爪先でアマリの顔面を蹴りぬき、首元へ強烈な右フロントキックを御見舞い。
 最後にその反動を使って後方へ飛び、阻害もされず軽々斧の範囲外へ着地する。


 タイミングよくリズムの乗って、ピック状になった柄尻で地面を叩くという、余計な動作までするオマケ付きだった。


「フフフ……♫」


 アマリのHP最大値はかなり高い筈なのだが、今の蹴りでHPは二割弱も減っている。
 即ち目の前の赤い少女の筋力値、及び空中での制動力が、人並はずれている証拠に他ならないだろう。

 それでも開いた感激は一呼吸……すぐさま、“殺し合い” は再開された。


「っはぁ!!」


 笑い声か叫び声か最早判別の付かない声を張り上げて、アマリは無謀にも正面から突貫していく。

 壁に、床に、所構わず叩きつけられる大斧から、引っ切り無しに衝撃波が幾度も爆ぜ飛ぶ。


「っはぁ♡」


 少女はというと別段ペースを崩す事無く、甘ったるい声でアマリの発声を真似しながら、ウサギよろしくピョンピョン飛び跳ねては撹乱し、避け切れない分の衝撃波を『赤い何か』で次々防御しきった。


「……あっはぁぁっ!!」


 獣としか形容が出来ない叫び声を推力と変え、連続攻撃系統の両手斧のソードスキルが、数瞬の溜めから驚異的なまでの力を持って発火。

 狭範囲に凝縮された衝撃波が波涛となって荒れ狂い、少女を呑み込まんと襲いかかっていく。


 真正面に捉える少女は、クルクルとスコーピオンを手の内で回して遊び……脈絡なく強く握ればスコーピオンの刀身が、『エボニーとクリムゾン』の二色二重螺旋に染まる。


「はぁあああっ!」


 満面の笑みから声高に挙げられる一声を皮切りとし、真っ赤な光線と化して少女は衝撃波の中央に突撃。

 果たして―――――拍子抜けするぐらい易々と、紙細工よろしくぶち抜いた。


「! ……ぁぁぁあああああ!?」


 その貫撃はアマリに着弾し、僅かばかりの硬直時間のあと、紅蓮なる謎の“追撃”を巻き起こす。

 視界が洗濯機にぶち込まれたかのように回転し、アマリは頭から地面に激突した。

 予想を軽く超える衝撃に思わず【ディオ・モルティーギ】から手を離してしまい、宙を舞う結果を生み出してしまった様だ。


「……! でぃーちゃんが……」
「はい、駄目ですよ?」
「あ」


 当然か、自分のもう一人の相棒たる武器に手を伸ばしたアマリの視界を遮る、一人の赤い少女の姿。

 思いのほかプロポーションが良く、それは常日頃から己の体型にコンプレックスを持っているアマリに取って、忌むべき対象であった。

 が……この状況で、そういった私怨目的まで頭を回す余裕などない。


「はいや!」
「あっ……」


 顔面目掛けて突き出された槍部分を何とか避けるも、続くフレーム部分での殴打で横に転がり、


「っと♡」
「う、ぐっ……!」


 振り下ろされる斧刃を躱せば槍刃での刺突が襲い来る。

 スコーピオンに気を取られれば腕での殴打や脚刀が命中し、身体全体を見ていてはフェイントを混ぜられ対応がとても間に合わない。


「むうぅ……」


 此処まで来てもアマリの取る行動は……自分の真骨頂たる『突撃』ただ一択のみだった。
 此処まで来て尚……彼女からは狂気が失せる事がなかった。

 度重なるスコーピオンの斬撃を持ち前のスキルによる強引な耐久性で持ちこたえ……耐えて生まれた瞬間的な間隙を見逃さない。


「あっはぁ!」
「おや……」


 体術スキル基本技【閃打】による、赤の光芒を引く正拳突き。
 胸部を捉えるその軌道は、速度も相まって今更避けられる打撃などではない。


「おっとと♡」


 ない、筈だった。

 少女はまたも驚くべき事に……スコーピオンの柄部分を打ち当てながら空中で前転し、確り握ったその構えから、柄尻のピックをアマリの脳天へ突き刺したのだ。

 油断していないからこそ出来ただろうとはいえ、離れ業にも程がある。


「フフフ……!」


 次の膝蹴りは両腕で防ぐ事が出来たが、紅色の少女は動じることなく、続いて滑らかに無駄なく構えへ移行する。
 それは、意趣返しなのかアマリの下した選択(スキル)と同じ【閃打】。

 自分のモノを余裕で超える速度にもかかわらず、アマリは何とか首を傾けて回避して見せた。


「でぃーちゃん、今行くです」


 そして生まれる、ポストモーションによる一瞬の硬直。
 それはたかが一瞬―――されど一瞬。

 短い時間をフルに活かし、攻略組トップに君臨する筋力値を発揮して低空跳躍し、見事【ディオ・モルティーギ】の元へ辿り着いて見せた。


 しかし赤い少女は焦燥することなく……寧ろ酷いまでに落ち着いた動作で、ゆっくりと“歩いて”距離を詰めてくる始末だ。


「うー……あっはぁっ!!」


 滑空するような勢いは使わず、今度は地に足を付けてダッシュし、アマリは少女へ詰め寄っていく。

 重くともお互いに迫っている為に、数秒で武器の持つ有効射程まで肉薄する。
 そうして横に思い切り振りかぶって、轟音を立て振り切った。




 瞬間……空気が、僅かながらに狂った。


「あっはぁぁっ!!」
「……お?」


 何という怪我の功名―――――そこで足を滑らせ、横からの一撃は“縦からの”一撃へと変化した。

 同時に……流れが、漂う空気の色が、僅かに変質する。

 そして迷いなく力を込め続けるアマリの影響で、より斧は加速の一途をたどっていた。
 予想外から繰り出される、肉ばかりか骨をも立つ重量たる一撃だ。



「あがあっ……!!」
「っはぁ!!」


 読みが外れて空中へ飛んでしまったた少女は、次の回避行動を取れず『赤い光』と共に地に撃ちつけられ、バウンドして後方へ飛んでいく。

 戸惑いなど全く見られない所作で、アマリは一回転の後追撃すべくと突撃する。


 ……だがやはり侮れず、少女は防御していた事に加え、一瞬で“攻”から“防”へ切り替えていたか、二回目のバウンドでバク宙しすぐさま正面を見据える。
 HPは二割近くも減っていない。


 だが反撃の糸口はつかめた。
 アマリは己の内に湧いてきた高揚感を詰め込み、狂気と共にソードスキルを発動させるべく斧を振り上げた。

 己の方へよって来た運を、逃す者など居はしない。

 紅い少女の姿を確りと、目の前に納めて、決して目を逸らそうとはせずに。
 猛獣の如き歩みは止まらない。








「キシィ♫」


 否……歩みは、唐突に止まった。

 目の前の少女が浮かべている『狂気』の笑みによって。


「……え」


 暴走列車よろしく猛進していたアマリの脚が、自然と止まってしまう。


「フフフフフフ……これはこれは、油断が過ぎましたねぇ……♡ キシシッ……♫」


 笑っている筈なのに、笑っていない。
 そんな矛盾をはらんだ笑みは、次々様相を変えていく。


「あぁ……こんな所で可能性に出会えるとは、私はなんと幸運なのでしょう……!」


 アイドルコンサートに出向いた、熱烈なファンの如く声高らかに、叫ぶ。


「先から感じてはいましたがこれほどとはっ………♡ どれだけ……どれだけ、どれだけ、どれだけぇ……♡ 心地よいものをっ、味わえるのでしょうかあ……ぁっ♡」


 或いは、至高の美味を口にした美食家の如く、蕩ける。


「キ、シ―――――キシシッ! キシシシシシシシシシィ♫」


 最後に浮かべられたのは、いっぱいに見開かれ血走った目と、閉じたまま最高まで引き上げられる口角の齎す…………余りに濁った『狂気』だった。



「ア、マ、リさあああぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁん! 私は貴女の事を知っていましたっ♡ しかし予想の外は行かぬだろうと放っておいたのですっ! しかしながら……しかしながらしかしながらしかししかししかしぃっ♫ 見つめて置くべきでした、保持しておくべきでした、貴女はこれ程までにも美しいイイイイイィィッ!!」


 赤く、紅く、緋く、朱い―――真っ赤な狂気がとめどなく彼女の身体からにじみ出ていき、この空間一体を覆っていく。

 その狂気はあろう事か、『骨の身体を持った悪魔』の形すら取っていると錯覚するぐらい、いっそう濃く吹き出ている。

 
「ひ……!?」


 尋常ではない執着と、尋常ではない狂嗤にさらされたアマリは―――思わず、一歩下がってしまった。

 コレが彼女にとって初めての、退却のあかしだと知れば、どれほどの恐怖を叩きつけられているか分かるだろうか。


「アアァァァァマリさああああぁぁぁぁぁん!!! 愛死合いましょうううぅぅぅっ!!」


 もう動けない、もう考えられない、もうなにも出来ない。

 アマリはただ立ち尽くし、ただ見つめ続ける。


 その深紅なる狂気の刃を目の前にし―――――



「ラアアアッ!!!」
「おっ!?」
「ふ、ぇ……?」


 何時飛び出て来たのか、真正面から、包帯を巻いた腕が受け止めた。


 鉄色の髪と暗銀のメッシュを持つその浅黒い肌の青年は、目の前の狂気を受けても平然と立っている。

 更に……同時に彼からも噴き出す『刃物だらけの悪魔』をかたどった怒気が、諸共に打ち消していく。


「貴方と出会えるとはっ……キシィ、キシシシシシシシシィ!」
「黙れ、耳障りだ……!」


 紅色と鉄色の濃度がより高くなり、ぶつかり合う所までを目撃し…………アマリの意識は其処で途絶える。






 その後アマリの目が覚めたのは、自分のホ-ムのベッドの上で、フォラスやキリト達といった、彼女の仲間が心配そうに見つめる中で―――だったという。



 
 

 
後書き
という訳で、謎の女性プレイヤーの勝ちとなりました。

……なんか収拾付かなくなってきたし、フォラスを乱入させてもえらい事になりそうだったので……これ位ならば本編的には大丈夫なので、急遽ウチのガトウを乱入させました。

 が……大丈夫でしたかね?

では、また次回。 
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