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DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~

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Chapter2「父を探して 山科悠子の依頼」
  Extra1:“怪人デジ面相”

 
前書き
 
最新話投稿です。

今回と次回は、本編とは直接関係ない話が続きます。
ただ題材にしている依頼をこなさないと、本編に進めないシステムになっているので、これに沿って小説も進めていきます。題名も“Story”から“Extra(番外)”にします。

“Extra”の内容は、ゲームシナリオ本編には直接関係がないため、読み飛ばしてもかまいません。
では、どうぞ!
  

 
 





「―――ったく…とりあえずボスを倒すのは、エラーが直ってからにすること。わかったか?」

「うん、わかった。そうするよ」


 そう言って振り返り、その場を去ろうとする、白くプニプニしているようなデジモン―――ポヨモン。
 この子は、携帯端末(デジヴァイス)のとあるゲームアプリに侵入し、その中のでゲームをプレイし続けていたデジモンだ。

 その所為で他の人がプレイしようとすると、ボスのところで強制終了(シャットダウン)してしまっていた。おかげでそのゲームの制作者が上司に怒られ、クビにされそうなんだそうだ。その問題を解決して欲しいと、電脳探偵(サイバースルゥース)に依頼をしてきたのだ。

 しかし俺達の必死の説得によって、この子もとりあえずこの場を去ってくれるようなので、これで解決するだろう。
 そう思っていると、突然ポヨモンが振り返ってきた。何かあったのだろうか。


「あ、そうだ。その社員さんに伝えてほしいな―――『素敵なゲームをありがとう』って」

「…ッ! うん、わかった。ちゃんと伝えるよ」

「えへへ……じゃあね!」


 ポヨモンの願いを、俺が笑顔で了承すると、ポヨモンも笑顔を見せて去っていった。


「…よし、じゃあ戻るか」

「「「うん(おう)」」」


 俺が一息入れると、足元にいる相棒達に声をかける。
 そして三人をデジヴァイスの中へ入れ、依頼人の携帯端末から現実世界へ戻ってきた。


「―――遅い!! いつまで待たせる気だ!」

「す、すいません…」

「分かってるのか!? これが会社なら、君はクビだぞ! クビ!」

「は、はぁ……」


 まぁ確かにそうだろうけどさ……


「まったく、困っている僕を置いてどこかに消えるなんて、君は冷たいな! ………ん?」


 一方的に怒られていたが、何かに気づいた依頼人。
 手に持っていた携帯端末の画面―――起動したままで、進行していなかったゲームが動き始めたのだ。


「正常に、動いてる! ボスが倒せた流れで、ゲームが進んでいるぞ!」

「ほんとだ、よかったですね」

「あぁ、ありがとう! 君が直してくれたのかは、よく分からないけど…とにかくありがとう!」


 先程と打って変わって、何度も頭を下げて感謝の言葉を述べてきた。
 そしてその依頼人は、俺と握手をした後「お礼は事務所に送っておくから!」と言い残し、足早に帰っていった。


「クビにならずに済めばいいなぁ、あの人」

『クビ? タクミ、クビって?』


 俺の言った言葉が気になったのか、テリアモンがデジヴァイス越しに話しかけてくる。こういうとこも、やっぱり可愛い。でもテリアモンだから仕方ない。これは当たり前。
 とりあえずはテリアモンに説明しながら、俺は探偵事務所に戻り始めた。













 探偵事務所に住み込みをするようになり、前回の山科悠子―――もとい、“神代悠子”の依頼から数日が経った今日。
 この日は新宿にて、先程の依頼人からの依頼を請け負っていた。んで、先程の通り無事解決。依頼完了の報告の為、事務所に戻っているところだ。

 と、そのとき。
 唐突に、デジヴァイスに通信が入る。誰からだろうと思いつつ、デジヴァイスの通話機能を使い、通信に出る。


『―――…うむ、ギリギリ合格といったところか』

「暮海さん」

『探偵事務所の助手たる者、いついかなる情報が入るかわからない。通信には、なるべくすぐに応えられるようにしておいてくれ。…とはいえ、キミは刑事ではないからな。アレの時やコレの時は、無理しなくていいが』

「あ、はい(アレの時やコレの時って…?)……え~っと、それでご用件は?」


 通信相手は、事務所の実質的な所長―――暮海さん。
 彼女の言葉に少し疑問を抱いたが、それはさておき。改めて要件を尋ねると、暮海さんは『あぁ』と言って。


『キミに手を貸してほしい案件があるんだ。内容はホワイトボードに書いておいた、タイミングを見計らって確認しておいてくれ』

「はい、分かりました」


 どうやら何か新しい依頼が来たようだ。しかも暮海さんの口から告げられるということは、重要な案件なのかもしれない。
 しかし、別に依頼内容を言ってくれてもいいのではないか、と思うが。


『残念だが、一応これがルールなのでね』

「……ほんと、なんでそんな簡単に心の内を読めるんですか?」

『ふふ、キミもその内できるようになるさ』


 それはそれで、怖い気がする……























 早速事務所に戻り、ホワイトボードを確認すると、確かに新しい依頼書が止められていた。
 それを手に取り、内容を読んでみると……


「“怪人デジ面相”…ですか?」

「あぁ。そう名乗る人物から、警察に対して犯行予告があったらしいんだ」

「予告…また古風なことをする人もいるんですね」


 怪盗○ッドとかル○ン三世じゃないんだから、盗むんだったら勝手に盗めばいいのに。


「その予告は…親愛なる“新宿マタギ刑事”との宛名で『警察の機密データを盗む』というものだ」

「機密データを…」

「これは警察への挑戦であり、当然ながら電脳犯罪捜査課の―――又吉刑事の担当事案だ。
 この種の劇場型の事件は、否が応でも警察の威信というものがかかってしまう。まんまとデータが盗まれて、犯人を取り逃がしでもしたら…又吉刑事の責任問題になってしまうだろう。
 もしもそうなると、我々にとっても痛手だ」



 あぁなるほど、それで又吉刑事と協力してこの事件を解決に―――


「いや、残念ながら今回は違う」

「え…?」

「キミにはあくまで…“陰ながら”又吉刑事をサポートしてあげてほしいのだ」

「陰ながら、ですか? 別に隠れてやる必要なんて」


 俺の質問に、暮海さんは笑みを浮かべ頷き、そして話し始めた。

 どうやら暮海さんは、事前に協力する話を持ち掛けたらしいのだが……「これは俺と警察の威信がかかった事件だ」と又吉刑事に断られたらしい。
 しかし又吉刑事と親しい彼女には、むざむざ見逃すわけにいかない。だからこその“陰ながら”、なのだそうだ。

 確かに、暮海さんと又吉刑事はかなり親しい間柄のようだし、警察への協力も探偵としても本望だ。
 しかし、先程までで少しわからないところがある。


「すいません、暮海さん。“怪盗デジ面相”っていうのは、江戸川乱歩の“怪盗二十面相”のオマージュだと思うんですが…“新宿マタギ刑事”って…?」

「いや、私も聞いたことがないフレーズだ。おそらくニックネームのようなものだろうが……刑事は“デカ”、“マタギ”というのは熊を狩るハンターのことだが……」


 しかしまぁ、これはさほど重要なことではないだろう。暮海さんはそう言い切った。


「まずはその“怪人デジ面相”を見つけるところだが…」

「機密データを盗む、って言うぐらいですから…相当なハッカーなんでしょうね。なら一番情報を掴めそうなのは“クーロン”、ですかね?」

「ふふ、その通り。キミも探偵らしくなってきたじゃないか。こちらは犯行予告のデータを追ってみる、頼んだぞ。」


 まぁ初めて十日ぐらいしか経ってないですけどね。
 さてと…とりあえずは行動開始、といきますか。
























 “怪人デジ面相”、それをキーワードにクーロンで聞き込みを始めた。
 はやりというべきか、ハッカー達の情報網は広い。数人に聞くだけで、その全員が“怪人デジ面相”が警察に犯行予告を出したことを知っていた。

 肝が据わってるなどと聞くが、その“怪人デジ面相”が誰なのか、何処にいるのかなどの有力な情報は得られなかった。
 ……と、思いきや。


「あぁ、もちろん知ってるぜ! “怪人デジ面相”…オレらの中じゃ今わりとホットな話題だし、てかさっきもケーサツの人から似たような質問されたし」

「警察の人?(クーロンまで聞き込み調査を…?)」

「まぁ何も答えなかったけどな。だってケーサツってハッカーの敵じゃん? センザイ的に」

「はぁ…」

「犯人もやっぱ、ケーサツに恨みでもあるんかね。あんなハンコーセーメー的なものとか出しちゃってさ。…そういう奴(ハッカー)なら心当たりあるけど、案外そいつが犯人だったりしてな」


 どうやらそれらしい人物に心当たりがある、と。
 改めてその心当たりを聞いてみると、そいつは新宿をウロウロしているそうだ。


「根暗な感じで怪しいオーラむんむんでさ、あれじゃケーサツじゃなくてもショクシツしたくなるぜ」

「根暗で怪しい、と…」


 それらしいキーワードをメモし、質問に答えてくれた少年に感謝した。
 暮海さんにもこの事を報告。暮海さんも犯行予告のデータを追ったところ、新宿に行きついたそうだ。

 さてと、じゃあ新宿に行って聞き込みを……


「…おや? お前さんはキョウちゃんとこの」

「ッ…!!」


 その時突然背後から、聞き覚えのある渋い声が聞こえてきた。
 え~っと…さっきの少年は警察から聞き込みを受けていて、この事件は電脳犯罪捜査課が担当していて…そして“キョウちゃん”なんて言う知り合いは……


「ま、又吉刑事…」

「ん? なんだ、その引き攣った顔は…何やってたんだ、こんなところで?」

「お、俺は依頼調査ですよ、ハハハ……」

「………」


 い、いやだな~。そんな顔で覗き込まないでくださいよ~。


「そ、そういう又吉刑事は何を?」

「俺か? 俺は“怪人デジ面相”ってやつを追ってんだ。それでこうしてEDENくんだりで聞き込みってわけさ」


 やっぱり、そうですよね~…


「じゃ、じゃあ俺はこれで失礼しますね」

「おう、そっちも頑張れよ」


 あんまり長話もいけない(話題がないだけ)ので、俺はそそくさとその場を離れようとする。又吉刑事も手を振って見送ってくれるようだ。


「―――もしもキョウちゃんに焚き付けられて、何かしようとしているなら…余計なお世話だぞ?」

「ッ!!」


 と思ったら、又吉刑事の言葉に思わず足を止め勢いよく振り返った。嘘、だろ…この短いやり取りでもバレるのかよ…
 驚いた俺の様子を見て、少しだけニヤリと笑うと帽子をかぶり、


「…これは警察の威信がかかった、俺のヤマだからな」


 そう言い残し、そのままEDENの先へと向かおうとした。あぁなんかもう…!


「又吉刑事! 警察を“憎む”ハッカーが、新宿にいるそうですよ!」


 背中を向けて去ろうとしている又吉刑事に向かって、先程得た情報を叫んだ。
 おそらく聞こえた又吉刑事は、こちらに振り返りもせず片手を上げてそのまま先へ進んでいった。


『タクミ~、なんであの人に教えたの~?』

「ん~? いや、だってねぇ…」


 警察に情報提供するのは悪い事じゃないし、教えないのも後味悪いし、ねぇ…
 ただ…あの人がカッコよく見えたから、というのも理由の一つだけど…

 とにかく、だ。
 新宿にいるらしい、警察を“憎む”ハッカーを探しにいくとしますか。
























『新宿に着いたようだな』


 新宿に着いて、すぐに暮海さんから通話がかかってきた。


「暮海さん、あの通話の後で又吉刑事に会って…その、直接新宿の情報を伝えました…」

『そうか…その情報で又吉刑事が独自で事件を解決してくれれば、もちろんそれに越したことはないが…』

「とりあえず、このまま新宿で調査を続けます」

『わかった、頼むぞ』


 了解、と言って通信を切り、情報収集を始めた。
 しかしやはりハッカーという職業(?)がらか、警察を憎むハッカーというのは多くいるらしく、心当たりが多すぎると言われたりした。

 しかしどうしたものか、このままじゃ犯人特定が難しくなる。そう思っていた矢先、


「君、ケーサツを憎むハッカーについて聞いてるのかい?」

「…? あ、はい」


 その背後から、声を掛けられた。少し驚きつつも振り返ると、声の主は警官の服装に身を包んだ男性だった。
 何か知っているのか、そう思い情報を求めたが……


「…ハッカーではないみたいだけど、やたら警察を憎んでいるヤツは見たなぁ…デュフフ」

「でゅ、デュフフ…?」

「駅前広場のアクセスポイントのあたりで、警察への恨みをブツブツつぶやいていたよ…」


 ちょっと言動に不信な点が見受けられるが、とにかく欲しかった情報だ。これを頼りに探してみよう。


「けど、警察を憎むなんて信じられないな…」

「え…?」

「だって警察は“あんなにも”素晴らしいじゃないか、それなのに…デュフフ。いつか必ず、僕だって…デュフ、デュフフフフ……」


 え、え~っと? 何これ、え、その“デュフフ”って……
 その警官の格好をした男性は「デュフ、デュフフ…」と呟きながら、帽子を深くかぶり去っていく。

 ……情報提供はありがたかったけど、なんか変な感じがしたなぁ…
 とりあえず、彼の言う通り、EDENへのアクセスポイントへと向かった。





 そして、向かったそこには……確かに、なにか黒いものを感じる人が、アクセスポイントの側をウロウロしていた。
 先程の男性が言っていた人物は、あの人だろうか。とにかく話を聞いてみよう。


「あ、あの~、すいません。少しお時間よろしいですか?」

「あァ、なんだァ?」

「少しだけ、お尋ねしたいことがあるのですが」


 そう尋ねかけた瞬間、男性の表情が大きく変化した。


「だだだだ誰だ! キミはだレだ!? 偉そうに、聞き込みか? まさかケーサツなのか?」

「い、いえ、俺は…!」

「国家権力をカサに着て! 横暴だ、虐待だ! ジンケンシンガイだ! ―――うおおぉおおおーーーーーーん!!」


 彼の言葉を否定しようとしたが、それを聞く前に彼は大声をあげ、アクセスポイントからEDENへ逃げ込んでいった。
 逃がす訳にもいかない、こちらもすぐに彼を追う為EDENへログイン―――コネクトジャンプで彼のログを追う。

 EDENへ入り、クーロンの地に足を付けると、追いかけていた彼がそこにいた。
 そしてその隣には、長く伸びた蔦と大きく開かれた口を持つ、黄色の体をした食虫植物型デジモン―――ベジーモンがいた。


「ケーサツなんて、キライだ、キライだ、キライだあぁ! ショクムシツモン? 自転車のトーロクバンゴーカクニン? そんなことしてるヒマないんですけど! 早く帰ってアニメ見たいんですけどぉーー!!
 ボクってそんなにアヤシイですか、そんなにフシンですかぁあーー!?」

「ケーサツはテキ! ケーサツはテキ! オマエ…ケーサツのテサキ? イヌ、ケーサツのイヌゥゥーー!!」


 逃げた彼と、その側にいるベジーモン。彼らがそんな事を叫ぶと、いきなりベジーモンがその自慢の蔦を振り回し、攻撃して来た。
 咄嗟に後ろへ転がり、勢いよく振り下ろされた蔦を回避する。

 先日のようにデジモンに精神を乗っ取られているのだろうか? なら前回同様、ベジーモンを離せば…!

 そう考えながら転がって前を向き、デジヴァイスを起動。デジファームからデジヴァイスを経由し、俺の相棒達がクーロンに具現化(リアライズ)する。


「おっしゃー! やってやるぜー!」

「あんまりはしゃぎ過ぎないでよ、ブイモン」

「ふふ~ん、やるよ~!」


 それぞれが思い思いの言葉を言い、電脳世界の地に立つ―――青のブイモン、緑のワームモン、白のテリアモン。
 目の前にいる、こちらに敵意を示す敵(ベジーモン)を見定めると、三体は警戒を強める。


「よし、それじゃあ―――いくぞ!」

「「「うん(おう)!」」」


 掛け声に反応してか、ベジーモンが再び両の鞭を振るい襲い掛かってきた。
 すぐさま散開し、鞭の攻撃を避ける。テリアモンとブイモンがそれぞれベジーモンの左右に、ワームモンは俺と一緒に後ろへ飛んだ。

 下がったワームモンは、ネット状の糸を複数吐き出す。彼の必殺技“ネバネバネット”を、ベジーモンの動きを限定させる罠(トラップ)を設置したのだ。
 一歩引いた俺達を狙おうと前進していたベジーモンは、思わず足を止めて罠を回避する。


「ぽッ!」

「ッ―――ギャアアアッ!? アチ、アチッ!」


 動きが止まった、その時。テリアモンの炎が襲い掛かる。ベジーモンはそもそも植物型デジモン、当然火は大の苦手だ。頭部に燃え移った火を消そうと移動しまくっている。


「―――うるさい!」

「あぶ…ッ!」


 そこへ打ち込まれる拳―――世間体的には、“拳骨”と呼ばれるものが落とされた。
 放ったのはブイモン。短調な動きをするベジーモンに合わせ、強烈な拳骨(ブンブンパンチ)を振り下ろしたのだ。
 成熟期とはいえ、実力的には強めの成長期と同等なベジーモンにとって、苦手な火炎攻撃の後の一撃を耐えきることができず。目を回して気を失ってしまった。





 結構な暴言を吐いたにしては、呆気なく倒されたベジーモン。手ごたえなく沈んだ彼を見下ろし、ブイモンは両肩を落とした。


「はぁ…最近歯ごたえねーなー。あの赤いの(グラウモン)以来、全然戦い足りねぇ」

「まぁそう言わずに…戦わないで済むならそっちの方がいいし、手荒なのはやっぱり嫌だよ」


 見るからに落胆していたブイモンを、落ち着かせるようにワームモンが言い寄る。
 対し俺とテリアモンは、ベジーモンの支配から解放された筈の男に近づく。どうやら気を失っているようだが。


「あの、大丈夫ですか?」

「…ぬわっ!? あ、あれ…僕はいったい何を…?」

「あなた、デジモンに憑りつかれていたみたいなんです」

「デジモンに? そっか、だからここ最近の記憶が…」


 体を少しゆすってみると、簡単に目を覚ました。どうやら記憶が曖昧なようだ。
 曖昧なのは仕方ないのだが、これだけは聞かないと。


「すいません、“怪人デジ面相”ってご存知ですか? 警察の機密データを盗むと、犯行予告を出した人物なんですが…」

「か、“怪人デジ面相”? どういうことですかそれは? 第一僕はハッカーでもないし、警察を恨んでたのは…そりゃ事実ですけど…」

「そうなんですか?」

「だって、僕が他の人よりもちょっとだけ怪しげなオーラを持って生まれて来たからって、僕ばっかり目のカタキにしなくてもいいのに!」


 あぁ、ありますよね。見た目だけで判断してしまうこと。さっき言ってた職務質問だったり、自転車の登録番号確認だったり。
 あくまで確認とかだけど、それをする判断をするのは警察官自身だから、どうしてもそう言った雰囲気の人達に声をかけるのは、仕方ないとは思うけど。


「とにかく、僕は“怪人デジ面相”なんて知りません!」

「そうですか、すいません。お手数をおかけしました」


 そう言って頭を下げると、彼はその場から去っていった。何やらアニメの名前を呟いていたが、これは素だろうな。
 さて…おそらくあの人は白だ。デジモンに操られていたとはいえ、そのデジモンがこんなことをする理由がない。ベジーモンはあくまで、あの人の心に惹かれて憑りついただけだろうし。

 そう思っていたとき、デジヴァイスに通信が入った。このタイミングからして、おそらく暮海さんだ。


『―――容疑者は捕まえたか? 捕まえたら又吉刑事に見つからないように連行して…』

「暮海さん、残念ながら俺が見つけた人は“怪人デジ面相”ではなかったようです」

『何? そうか…それは気の毒なことをしたな…。では、改めて調査してみよう。一度事務所(こちら)に戻ってきたまえ』

「了解です、では」


 そう言って通信を切り、EDENを出る。一から調査のしなおし、また聞き込みから始まるのか。まぁ一人の男性を救ったと考えれば、悪くはないか。


「お前さん、今度はここら辺で調査かい? ハハハ」


 しかしEDENを出た矢先、またも知った声に呼びかけられる。
 振り返ると、そこにはやはり又吉刑事と……何故かもう一人、先程聞き込み調査の際に、デジモンに憑りつかれていた男性の情報をくれた、あの「デュフフ」と呟いていた警察官がいた。


「あの、又吉刑事…その人は?」

「ん? こいつか? こいつが例の“怪人デジ面相”だよ、たった今逮捕したところだよ」

「え……えええぇぇぇぇぇ!?」


 え、さっき俺も会ったこの人が!? だって警官の格好を…えぇ!?


「こいつ、警察官の格好をしているだけのシロートさんなんだよ。気づかなかっただろ?」

「さすがは又吉刑事です…“新宿マタギ刑事”の異名を持つ程のことはある…デュフフ」


 ニヤリと笑い親指で後ろの男性を指す又吉刑事。対し男性は帽子を押さえる仕草で目元を隠しながら笑い、そう言った。
 “新宿マタギ刑事”…又吉刑事の異名だったんだ。暮海さんも言ってなかったから、彼女も知らないのだろうか。


「俺はハナから、この事件の犯人は警察に恨みがあるヤツじゃないと思ってた。“新宿マタギ刑事”―――あれは俺のニックネームだ、何十年も昔のな」

「何十年…」

「そんな昔のことを知ってるのは、それこそ昔俺にお世話になったヤツか…よっぽどの警察好き―――いや、“マニア”しかありえねぇ。
 新宿(ここ)で聞き込みをして、こいつに出会った時、ピンときたんだ」

「それで調べてみたら、案の定…」

「そう、本物の警察官じゃない―――どころか、電脳捜査課志望で警察試験を受けて、何度も不採用になってるハッカーときたもんだ。
 問い詰めたら、あっさり白状したよ」

「僕のことをこんなに簡単に見つけ出すなんて…やっぱり日本の警察は優秀だ…デュフ、デュフフフフ……
 しかもそんな警察(ひとたち)と、これから毎晩一緒に過ごせると思うと、それはそれで……デュフフフフフ…」


 う、うわぁ…こいつマニア、っていうかオタク―――いや、それすら通り越して、もはや“変態”だな。表情がものすごくうれしそうだ。逮捕されて嬉しいって……


「こいつにとっちゃ逮捕自体がご褒美みたいでアレだが…まぁ仕方ないだろう」

「た、確かに…」

「…あぁ、そうだ。お前さんには礼を言っておかなきゃな」


 逮捕がご褒美、という言葉に苦笑を浮かべていると、又吉刑事がそう言ってきた。何のことかわからず首を捻ると、又吉刑事は笑みを浮かべた。


「そもそもこいつを逮捕できたのは、お前さんがくれたヒントのおかげだったからな。俺の面目もこれで保てた…恩に着る」

「い、いえそんなの……又吉刑事なら、ヒントなしでも自力で探し出せたと思いますよ」


 これは本心だ。時間はかかっただろうが、それでも見つけ出すんじゃないだろうか、又吉刑事なら。


「それはありがたい言葉だ。キョウちゃんにもよろしく伝えてくれ、『ご心配をおかけしました』ってな」

「ッ、やっぱり…」

「じゃあ、頼んだぞ」


 そう言って又吉刑事は“怪人デジ面相”を連れて、道沿いに停めてあるパトカーへと向かって行った。


 これにて“怪人デジ面相”は逮捕され、警察の機密データの漏洩は未然に防がれたのであった。
























 ―――暮海探偵事務所


「そうか、犯人は逮捕されたか。これで警察の威信も保たれ、又吉刑事の立場は安泰。万々歳の結果だな」

「しかしまぁ、依頼の“陰ながら”というのは、叶いませんでしたけど」

「そうだな…我々は、又吉刑事を侮っていたと反省しなくてはいけないようだ。我々ではあの犯人に行き着くのは難しかっただろう。
 さすがは叩き上げの刑事…その“カン”と“嗅覚”に、最大限の賛辞を贈ろうじゃないか」

「しかし、結局のところ“新宿マタギ刑事”って、どういう意味なんですかね? 又吉刑事の昔の渾名だったみたいですけど」

「ふむ―――“マタギ”は熊を狩るハンターのことだ。現場に残った足跡や臭いから執拗に熊を追い詰め、必ず仕留めてしまうという…」

「……なるほど、納得です」

「フフ…“名は体を表す”とは、まさにこの事だな」





  
 

 
後書き
 
やっぱり可愛い、これは当たり前
 テリアモンだから仕方ない、異論は聞かん。

怪人二十面相
 江戸川乱歩が書いた『怪人二十面相』で初登場した架空の大怪盗。その昔子供達を恐怖と熱狂にいざなった怪人で、同じく江戸川乱歩の小説に登場する私立探偵“明智小五郎”と“少年探偵団”のライバル。
 ―――ちなみに暮海さん曰く、『見方によっては警察や探偵が好きな人物だった、今で言う“ツンデレ”の走りだったかもしれない』だそうです。

怪盗○ッド
 青山剛昌氏が描く『名探偵コ○ン』に登場する、変幻自在・神出鬼没の怪盗。いかなる厳重な警備も堅牢な金庫も魔法のように突破し、悠然と夜空に翼を広げて消え失せる姿から、「月下の奇術師」「平成のアルセーヌ・ルパン」と呼ばれている。

ル○ン三世
 モンキー・パンチ氏が描いた『ルパン三世』の主人公。「アルセーヌ・ルパン」の孫であり、卓越した技量を持った大泥棒。その様はまさに盗みの大天才と言っても過言ではない。
 ―――ちなみに、モンキー・パンチ氏の原作とアニメとは描写が異なる。原作ではル○ンは義賊的ではなく、設定上は怪盗ではなく殺し屋である。

カッコよく見えた:まさしく漢の背中。

デュフフ:皆さん、気を付けましょう。リアルで言うと、ただの気持ち悪い人です。

短い、呆気ない戦闘:すいません、妥協しました。

警察マニア:否、ただの変態である。

名は体を表す:名前はその物や人の性質や実体をよく表すものだ、ということわざ。





いかがだったでしょうか?
今回は先に説明した通り、ゲーム進行に欠かせない『追跡!怪人デジ面相』というクエストを題材にしました。あと最初のポヨモンは、『ゲームとエラーと僕のクビ』というクエストの登場デジモンです。

こちらの小説では今年初となりました。改めまして、今年もよろしくお願いします。
次回も今回同様、クエストを題材にしたものとなります。

では誤字脱字等のご指摘、小説のご感想などお待ちしております。
それではまた次回、お楽しみに~ノシ
  
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