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生徒会長

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1部分:第一章


第一章

                   生徒会長
 紅麗学園高等部生徒会長未月丘沙代子は才色兼備の才媛として知られている。ストレートのロングヘアに細面の白く秀麗な顔立ち、切れ長で睫毛も長い二重の瞳は知的かつしっかりとした光を放ち制服の着こなしも見事だ。今日も彼女はリムジンの車から出て来て学校の校門に向かっていた。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
「ええ。帰りだけれど」
「はい」
「今日は遅くなるわ」
 中年のダンディな執事によって開けられた車の扉から出て前に進みながらその執事に述べていた。スカートはこの学園の制服であり膝から結構上だ。白いハイソックスにまるで彫刻の様な美しい脚が覆われているのが見える。その脚も制服から見える手も実に白く繊細である。
「だから。迎えは」
「どうされますか?」
「お兄様が来て下さるとのことよ」
 こう執事に告げるのだった。
「だから爺やも運転手さんも休んで。御願いね」
「有り難き御言葉」
 爺やと言われた執事はまずはそれを聞いて頭を垂れるのだった。
「それでは御言葉に甘えまして」
「皆にはいつもお世話になっているから」
 やはり前を向いたままの言葉だ。後ろを見ないが後ろにいる執事達に対して気配りをしているのがわかる。黒髪はストレートだが上でその一部を少し束ねて白いリボンを付けているのが可愛い。
「休める時は休んで欲しいのよ」
「左様ですか」
「そうよ。だから」
 声が優しいものになる。
「今日はそれで御願いね」
「はい。それでは」
 こうして執事達を下がらせ学校に入る。学校に入ると早速下級生達が挨拶をしてきた。
「お早うございます、未月丘さん」
「お早うございます」
「はい、お早うございます」
 沙代子は彼女達に微笑みを向けて挨拶を返す。その穏やかな笑みがこれまた実に気品があり麗しいものであった。
「皆さん今日もお元気そうですね」
「はい、会長も」
「お元気そうで何よりです」
「今日もいい朝ですね」
 気品と穏やかさだけではなかった。そこには優雅さも優しさもあった。何処までも美しい笑みであった。その笑みに下級生達も心を溶かされていたのだ。
「一日のはじまりを皆で喜びましょう」
「ええ。皆で」
「御願いします」
 こうしていつも彼女の一日がはじまる。学園の象徴でありまさに女帝と言われる存在であった。学園は女子校であり外の世界は知らない。そうして意味でまさに温室の花だった。
 だがその温室の花も世に出る時がある。放課後迎えの車を待っている時だった。不意に彼女に声をかける者がいたのであった。
「あの」
「あの?」
 その声を聞きまずは辺りを見回した。待っている時間であっても彼女の周りにはいつも人がいる。彼女を慕う下級生や友人達である。常に何人もの女子校生に囲まれているのだ。
「誰か仰いましたか」
「いえ、私は」
「私もです」
 周りにいる女の子達は少し戸惑いながら沙代子に言葉を返した。見れば今の声の色を出した娘は誰一人としていないのであった。
「どなたでもないのですか」
「はい、そうです」
「では誰が」
「あの」
 誰の声でもないとわかりその白く細い首を捻ったところでまた声がした。
「また」
「誰ですの?」
「どなたが」
「ここです」
 沙代子だけでなく周りの女の子達も周囲を見回しているとここでまた声が聞こえてきた。
「未月丘沙代子さんですよね」
「はい、そうですけれど」
 今度は声が聞こえた方がはっきりとわかった。それでその声の方に顔を向けたのだった。その声がした方にいたのは。
「貴方は?」
「あの・・・・・・ですね」
 そこにいたのは小柄な男の子だった。おずおずとした様子で戸惑った顔で上目遣いで沙代子を見ていた。髪は中央で分け丸眼鏡をかけている。顔立ちは中々整っているが格好いいとかそういうものではなかった。簡単に言うと可愛いといった感じの外見だった。その彼の言葉であった。
「僕、一文字直弥といいます」
「一文字さん?」
「八条中学の三年です」
 中学生であるというのだ。それを聞けば外見もまだ幼くおずおずとした態度なのもわかった。高校生、しかも三年生を前にしてはこれも当然であった。
「訳あってここに来ました」
「この紅麗学園にですね」
「はい、そうなんです」
 やはり上目遣いに沙代子を見つつ言う。ここで沙代子は彼に対して言うのであった。
「一つ貴方に申し上げたいことがあります」
「僕にですか?」
「そうです。まずは」
 一呼吸置いてから述べてきた。
「背筋を伸ばしなさい」
「はい?」
「まずは姿勢です」
 言葉の感じは穏やかであったがその調子はしっかりとしたものだった。
「殿方たるもの。常に姿勢よくです」
「あっ、姿勢ですか」
「堂々とされなさい」
 毅然として告げる。見ればそれを言う沙代子の背筋はしっかりと伸びている。そのせいでただでさえ女の子の間では目立って長身の彼女がさらに高く見えていた。
「まずはそれからです。いいですね」
「あっ、はい」
「殿方はまず堂々とされることです」
 姿勢を正してきた直也に対してまた告げる。
「そして」
「そして?」
「上目遣いではなく」
 次に指摘してきたのはそこであった。
「毅然として見なさい。正面から」
「わかりました」
「全てはそれからです。さて」
 この二つのことを伝えてからあらためて直弥を見た。見れば彼は小柄ではなかった。確かに大きくはないがそれでも沙代子とそれ程変わらない背丈であった。目の位置もまたそうだった。
「お話があるそうですね」
「はい」
 あらためて沙代子の言葉に頷く。
「それをお話に来たのですが」
「そうでしたね。それで」
 沙代子もまた直也の言葉を聞く。正面から受けていた。
「私に。何の御用ですか」
「これを」
 彼はここであるものを懐から出して来た。それは。
 
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