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浪速のど根性

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11部分:第十一章


第十一章

「御前にな」
「そうか。実力で完全に負けたか」
「まっ、御前も強かったけれどな」
「お世辞はいらないんだがな」
「ホンマや。見てみい」
 自分の右頬を指し示してみせる。
「この腫れ具合。他にも色々喰らったしな」
「それは俺もだが」
「あと一発やったな」
 原に対して言う。
「それで俺は下手せんでも負けやったわ」
「あと一発でか」
「そや。勝ちは勝ちやけれどな」
 それは確かなことだった。
「それでもや。一発やったな」
「ふん」
「正面からぶつかった結果やから満足しているけれどな」
「正面からか」
「大阪男はな、いざって時はいつも正面からや」
 これまでで最も誇らしげな言葉であった。
「それで勝つんや。文句あらへんやろ」
「まあそれはな」
 これについては原も認める。
「しかしな。今度は違うぞ」
「今度は?」
「そうだ。今度は俺が御前を倒す」
「やるんやったらやってみい」
 不敵に原に言葉を返す。
「また大阪パワー見せたるわい」 
 これが最後の言葉だった。彼は確かに勝ったのである。そしてトロフィーを手に家に帰る。周りには約束通り部員達がついてきていた。
「ほないくで」
「ああ。お好み焼きやな」
「パーティーや」
 やはり言うのはそれであった。
「モダン焼きもあるやろ」
「焼きそばもあるよな」
「食い物は何でもあるわ」
 少し誇大な守の言葉だった。
「あるもんだけな」
「アホ、あるもんだけあるのは当たり前やろが」
「ないもんがあったらそれで妙なことやろが」
「まあそやけれどな」
 守もそれは頷く。
「たこ焼きもいか焼きもあるけれどな」
「たこにいかか」
「それもか」
「どちらも大阪にいて食わへんのは邪道やぞ」
 守はこうまで言うのだった。
「特にたこ焼きはな」
「ああ、それやそれ」
「あのもんじゃ男たこ焼きは言わんかったな」
「そういえばそやな」
 言われてはじめて気付くことだった。
「それはな。なかったよな」
「ああ、それはな」
「何でや」
 皆それが不思議であった。
「何でそれを言わんかったんや」
「けったいなやっちゃな」
「まあそれはええんちゃうか?」
 これで話は終わるのだった。
「東京の奴にたこ焼きのよさはわからんわ」
「そやな」
「何せ鱧も食わん奴等や」
 関係ない話まで出て東京の人間を叩くのもいつものことだった。
「それやとそれもな」
「当然か」
「まあそやな」
「それでや。行くで」
「御前の店にやな」
「ああ。用意やけれどな」
 ここでトロフィーを左手に持って右手で携帯をかけるのだった。
「おい」
『ああ、守かい』
「話聞いたか?」
 まずはこう切り出した。電話に出たのは母親だった。
「俺日本一になったで」
『何や、そんなことかいな』
「そんなこと!?」
『狙うんは世界一やろが』
 実にとんでもない母親の返事だった。
『日本一位で何威張ってるんや』
「あのな、お袋」
 母親のそのあまりもの言葉に守も唖然としていた。
「俺は日本一になってんぞ、チャンプになってんぞ」
『そやから日本一やろ』
「そや」
 これはどうしようもない事実である。
「だから言うてるんやろが」
『だからそれがどないしてん』
「どないしたって」
「何かな、こいつのお袋さんってな」
「そやな」
 傍から聞いていた部員達も言う。
「凄いな」
「大物どころやないで」
「普通日本一になったらな」
「しかも自分の息子がや」
 口々に言っていく。
「そうなったら普通はな」
「大騒ぎやろに」
「世界一になってから来いか」
「凄いわ」
 部員達も驚くばかりだった。彼の母親の態度に。
 
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