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拳と弓

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3部分:第三章


第三章

「何で御前みたいな似非御嬢様と一緒に掃除をしなくちゃならないんだ!」
「こっちこそ貴方みたいな武骨者と!冗談ではありませんわ!」
 二人は言い争いをはじめた。すぐに大次郎と悠里が間に入る。
「だから今は掃除しないと」
「こんなところで喧嘩してどうするのよ」
「止めるな大次郎!」
「悠里さんもですわ」
 二人はよりによって止めに入った二人に対しても食ってかかる。まるで猛獣である。
「この女、今日こそは」
「決着をつけてあげますわ」
「だからそれは駄目だって」
「仲良くできないまでもお互い無視すればいいじゃない」
 暴れようとする直樹と麗をそれぞれ後ろから羽交い絞めにして言う。他の部員達も慌てて止めにやって来た。さながら松の廊下である。
「まあまあここは」
 会長もやって来て二人の間に入ってきた。
「落ち着いて。そして穏やかに」
「ちっ、わかったよ」
「会長が言われるのでしたら」
 二人は矛を収めた。しかしそれはこの場限りだった。
「決闘だ!」
 直樹が叫ぶ。
「明日の放課後!場所は空手部の道場!」
「何っ!?」
「弓に拳で!?」
 皆今の直樹の言葉には流石に言葉を失った。
「ちょっとあんた正気!?」
 女子空手部の部長である悠里もこれには流石に驚いた。
「そんなことしたらあんたも」
「俺は正気だ!」
 しかし彼はこう言う。
「だからだ!やってやる!」
「ええ、わかりましたわ!」
 悪いことに麗もそれを受けて立つ。もっともこれはいつものことだが。
「何があっても知りませんわよ」
「ふん、それはこっちの台詞だ」
 不敵な顔でそう返す。直樹もいつもと同じだった。実に悪いことに。
「覚悟しておけよ」
「そちらこそ」
 そう言い合うと掃除は忘れてしまいぷいっと顔を向け合って別れる。後には唖然とする大次郎、悠里とオロオロする会長、部員達が残った。事態は見事に最悪の結果となってしまったのであった。
「ど、どうしましょう」
 会長はそのオロオロとした様子で二人に問う。しかし二人も言葉もない。
「どうするって言われましても」
「これはちょっと」
 二人もどうしていいかわからない。呆然としたままである。
「どうしましょう、本当に」
 悠里は困り果て、悄然とした顔で言う。
「こんなことになるなんて」
「明日の放課後って」
 大次郎も何と言っていいかわからない。完全に打つ手なしになっていた。
「どうしようもないっていうか」
「けれどあれです」
 会長は急に厳しい声で述べてきた。
「何とかしないと大変なことになってしまいますよ」
「それはわかっています」
「けれど」
「けれどもどうしたもなく」
 会長はお通夜のような二人にさらに言う。
「動かないと話になりません。いいですか!?」
 いつもとは違う様子でまた二人に言うのだった。他の部員達はそんな会長が普段と違って見えると共に何か妙な雰囲気も感じていたのだった。
「ここは明日の放課後身体を張って止めましょう」
 彼は言ってきた。
「いいですね、何としてあの二人を」
「は、はい」
 大次郎は消沈しながらも彼の言葉に頷く。
「わかりました。それじゃあ」
「貴女も」
 そして今度はすかさずといったタイミングで悠里に声をかけた。
「宜しいですね、それで」
「わ、わかりました」
 悠里も大次郎と同じ表情で会長の言葉に頷く。話は何時の間にか決まってしまった。 
 明日の放課後だ。二人は早速打ち合わせに入った。
「とにかく明日ですね」
「そうね、何とかしないと」
 掃除は同じ三年生達が仕切ることになった。二人は翌日のことに向けて必死に動きだした。会長はそんな二人を見て密かにメールを打つ。まるで誰かに連絡をするように。
 二人は掃除が終わっても話し合いを続けた。話が終わった時にはもう真っ暗になってしまっていた。生徒会室で話は続けられていたがそれが終わった時に丁度いいタイミングで会長が部屋に戻ってきた。
「話はまとまりましたか?」
「はい」
「何とか」
 二人は疲れきった顔で会長に答えてきた。
「とにかく二人を羽交い絞めにしても何でもして」
「止めます」
「力技ですね」
 会長はそれを聞いて少し考える顔になって言ってきた。
「そうすると」
「何かそれしかないんですよ。あの二人あれで結構鋭いし」
「苦肉の策です」
 二人は苦りきった顔で言うのだった。話し合ってもそれしか出ないといった感じであった。
「そうですか。ならそれで行きましょう」
「えっ、いいんですか!?それで」
「はい」
 会長は二人の言葉に従う。これは二人にとって意外といったものではなかった。想像すらしてはいないことだった。
「仕方ありません。それでは」
「いいんですよね、それで」
 悠里が怪訝な顔で会長に問う。
「上手くいくかどうかもわからないのに」8
「むしろ失敗する方が」
「はい。責任は私が持ちますから」
 会長は真剣な顔で二人に答えてきた。その言葉に迷いは見られなかった。
「それで御願いします」
「わかりました」
 二人は意を決した顔でそれに頷いてきた。
「ではそれで」
 こうして力づくで直樹と麗を止めることになった。二人は会長に促されてそれぞれの家に帰る。会長は二人を見送った後で自分も家に帰りながらまた携帯を入れていた。
「ええ、ではそういうことで」
 誰かに電話をかけていた。
「御願いしますね。それでは」
 すぐに電話を切ってまた別の誰かに声をかける。しかしそこでまた誰かに連絡をかける。それは誰にも気付かれていないがはっきりとしていた。
 
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