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変わるきっかけ

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9部分:第九章


第九章

「何か。私も」
「じゃあいいよね」
 また先生に問う。
「それで」
「え、ええ」
 心の中にまだ抵抗はあるがそれに答えた。
「わかったわ。それじゃあ」
「それで御願いするよ」
 憲次はまたにこりと笑って先生に告げた。
「僕だけじゃなくて皆に優しくね」
「ええ」
 先生は完全に憲次の言葉に誘われている感じだった。ただなおはそれを聞いて健三に声をかけるのだった。どうにも困惑した顔で。
「なあ」
「何だよ」
「どうにも困ったことになったな」
「困ったことって?」
「だからあれだよ」
 ここで彼はまた健三に言う。
「このまま先生の弱みを握ろうと思っていたんだけれどよ」
「それができなくなったっていうんだな」
「じゃあ御前できるか?」
 彼は健三に問い返した。
「今の先生に対してな」
「それはな。やっぱりな」
 健三も困った顔になっていた。先生は彼氏と一緒に階段を昇っていっていた。そのままデレデレしていてかつ優しい調子はそのままであった。
「できないよな」
「そうだろ?何かやる気がなくなったよ」
 忠直は困った顔になっていた。
「今の先生に対してはな」
「そうだよな。じゃあどうする?」
「家に帰ろうぜ」
 忠直は静かにこう言ってきた。
「拍子抜けしたしな」
「そうか、わかった」
 健三は忠直のその言葉を受けた。
「じゃあ帰るとするか。しかしな」
「しかし?」
「新井先生もあれだな」
 ここで話は今日子先生に向かった。
「意外と可愛いんだな」
「そうだな」
 何故か素直にその言葉に頷くことができた。
「意外とな。何ていうかな」
「それ見ていたらどうでもよくなったよ」
 実は今まで今日子先生の厳しさに対する反発もあったのだ。ところがそれが消えてしまった。それで忠直もやる気を失っているのである。
「どうとでもなるしな」
「あそこまで揉めたのにか」
 これには無意識のうちに言葉が出た。
「いいじゃないか。俺も引く時は引くんだよ」
「そうだったのか」
「今はその時だ」
 彼ははっきりと告げた。
「そういうことだ。だから今は帰る」
「後悔はしないんだな?」
「俺の辞書にはな」
 後悔という言葉を聞くと急に真顔になった。
「後悔とか不可能って言葉はないんだよ」
「そうなのか」
「ああ、消している」
 大真面目に言ってきた。
「墨でな」
「そこまでするか。まあいい」
 ここまで話して話を打ち切ってきた。
「帰るんだったら帰るぞ」
「ああ」
 こうして二人はマンションから離れた。そうして家に帰る。次の日学校に言ってみると異変が起こっていた。しかも極めつけの異変がである。
「皆さん」
「皆さん!?」
 朝のホームルームで今日子先生がにこやかに笑っている。何とコンタクトに変えてメイクも穏やかな感じだ。しかも服もいつものタイトミニとベストにネクタイではなくしっとりとした淡いピンクの丈の長いワンピースである。髪もストレートの下ろしている。
「あれ誰だ!?」
「誰だってよ」
 クラスの面々は教壇に立っているその女の人を見てヒソヒソとは梨をする。
「新井先生じゃねえか」
「嘘だろ!?」
 すぐにそれを否定する声が出て来た。
「人が違うじゃねえか」
「違うっていうかな」
 今日子先生を見ながら話をする。
「別人にしか見えねえよ」
「っていうかさ」
 女の子の間でも言葉が出る。
「女の人ってお化粧で変わるけれど」
「あれは幾ら何でも」
「眼鏡でもないしね」
 とにかく目の前の今日子先生に唖然とするばかりであった。しかもその雰囲気まで全然違っていた。別人にしか思えないものがあった。
「体育祭の後ですが」
「それか」
 忠直はその言葉を聞いて眉を顰めさせた。緊張により。
「どうなるんだ?」
「どうなってもいいんだろ?」
 それに健三が突っ込みを入れる。
「昨日言ったよな」
「男に二言はない」
 忠直は腕を組みはっきりと言い切った。
「だからだ。覚悟は決めている」
「そうか。ならいいがな」
「何処でも騒いでやる」
 本音はこれであった。
「それだけだ」
「そうだな。さて」
 健三は忠直の話を聞いてからまた今日子先生に顔を戻した。
「どうなるかな」
「屋上で打ち上げパーティーをすることになりました」
「おっ!?」
「マジ!?」
 皆その言葉を聞いて一斉に驚きの言葉をあげた。とりわけ忠直と健三はそうであった。二人共驚きを隠せないようであった。
「皆で楽しくやりましょう」
「どういう風の吹き回しかな」
 健三はそれを聞いて忠直に言葉をかけてきた。
「これってな」
「さてな」
 忠直は話が少しわかっているようであった。
「彼氏の言葉だったらいいな」
「そうだな。何か俺達が勝手に騒いだだけか?」
 健三はふとこう思った。しかしそれでも悪い気はしないのであった。
「まあいいか」
「ああ」
 そして忠直もそれに頷くのであった。
「いいものが見られたしな」
「そうだな。きっかけをな」
 二人は笑い合っていた。そうして言葉を交えさせる。
「見られたっていうのはな」
「そういうことだな」
「では皆さん」
 今日子先生は二人の視線に気付くことなく話を続けていた。確かにそれはこれまでの先生ではない。
 しかしそれが本当の先生であるというのは二人は知っていた。そんな先生を見て楽しそうに笑う二人であった。


変わるきっかけ   完



                 2007・12・23
 
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