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変わるきっかけ

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3部分:第三章


第三章

「今はな。それよりだ」
「何だよ」
「先生って何処に住んでいたっけ」
 不意に健三にこう尋ねてきた。
「この街だったよな、確か」
「ああ、そうだよ」
 健三は忠直のその問いに対して答えた。
「駅前のマンションだったな。商店街の方の」
「そうか、あの辺りか」
 そこなら土地勘がある。二人にとっては小さい頃からの遊び場だ。忠直はそれを聞いて今度は考える目になったのであった。
「あの辺りだったら何処にどんな店があって誰がいるかまでわかってるしな」
「それと先生がどう関係あるんだよ」
「それで先生は独身だったよな」
「それは間違いないな」
 健三は今度の情報に関しては絶対の自信があった。
「先生の左手見てみろ」
「左手か?」
「薬指な。指輪ないだろ」
 そこを指摘するのだった。
「ということはだ。つまりは」
「結婚していないってことか」
「元々指輪をしない人もいるけれどな。それに」
「それに?」
 健三の言葉をさらに聞く。
「ずっと名前変わっていないだろ。これで決まりさ」
「そうか」
「夫婦別姓とかそんなのでもないしな、あの先生は」
「そうだな。そういうの嫌いらしいし」
 意外なことに今日子は女とはどうあるべきか結構五月蝿いことで知られているのだ。わかり易く言えば昔の女性気質を愛しているのである。
「じゃあ確実に独身か」
「口説くなよ」
 冗談めかしてこう忠告する。
「間違ってもな」
「俺は年下趣味なんだよ」
 忠直はしれっとした様子で健三のその冗談めいた忠告をかわす。
「だから先生には興味なしさ」
「誰でもいいってわけじゃないのか」
「馬鹿、御前と違うよ」
 とにかく手当たり次第にアイドルなら女優なら誰でもいいとかいつも言っている健三に対して少し嫌味を入れて言葉を返した。
「好き好きってのがあるんだよ」
「そうなのか、御前のだな」
「そうさ。けれどあの辺りだったらな」
 忠直は考える顔になった。どうやら本当に何かを仕掛けるつもりのようだ。
「やってみるか。夕方あそこでな」
「何かするんだな」
「何かするから声をかけるんだよ」
 笑って健三に答える。
「そうだろ?これでわかったよな」
「ああ。それじゃあ夕方までには復活しておくさ」
「頼むぜ」
 こう健三に声をかける。
「絶対にこの夕方で屋上でのパーティーを勝ち取るからな」
「勝ち取るのか」
 また思わず忠直に突っ込みを入れた。
「そういうものだったのか」
「何でも勝ち取るものさ」
 彼は胸を張って言うのだった。
「勝利も栄光もな」
「この場合は勝利だけじゃないのか?」
「体育祭の後だから勝利なんだよ」
 それでも忠直は言うのだった。
「女の子の短パンを見ながらな」
「生憎ジャージだぞ」
 これにはすぐに健三から突込みが入った。
「よく見ろ、それは夏だけだろうが」
「そうか、面白くないな」
「最近寒いからな」
 これがジャージの理由であった。
「それでだ。あと」
「あと?」
「御前みたいなのがいるからだよ」
 ジロリと忠直を見ての言葉であった。
 
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