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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-

作者:迷い猫
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アインクラッド編
平穏な日々
  紅色との日 01

 聖騎士、ヒースクリフ。
 KoB団長にしてSAO最強の男。 ヒースクリフのHPバーが半分を下回ったところを見た者は皆無らしく、そのとんでもない防御力はフロアボスの攻撃すら跳ね返す。
 彼が最強の名を欲しいままにしたのは50層攻略戦の折。 2度目のクォーター・ポイントで出現したボスは仏像のような多腕型で、恐ろしいまでの猛攻と今までに見たことがない異形とに怯んだプレイヤーたちが勝手に結晶で脱出してしまい、戦線が崩壊した状況を収拾してみせたのだ。
 もっとも、その頃の僕は攻略組を追放されていたので伝聞でしか知らないわけだけど、それでも何かと縁があるのか興味を持たれているのか、色々なタイミングで話すことが多い。

 そして、今日。
 74層攻略が完了し、75層が開通した次の日。 新聞に書かれた大袈裟な記事に苦笑いした10分後。
 僕の目の前に聖騎士が立っていた。

 目頭を押さえる。 見る。 目を擦る。 見る。
 そんなローテーションを3回繰り返してから、僕はこれが幻覚ではないらしいことを悟った。 まあ、初めから分かっていることではあったけど。

 「残念ながら幻覚ではない。 それは君も理解しているだろう?」
 「……人に会ったらまずは挨拶って教わらなかったのかな?」
 「ああ、これはすまない。 おはよう、フォラス君」
 「……おはよう」

 僕の安い皮肉はまるで相手にされなかった。

 朝、いつものように目を覚ました僕は、寝ているアマリを起こすことなく家のリビングにいた。
 昨日のボス戦で疲れているだろうアマリを休ませたいと言う甘さがあったことは否定できないけど、それ以上にこれからのことを考慮しての行動だ。

 これから攻略が難航することは容易に想像できる。 跳ね上がった難易度に対応するためには今以上のレベルが必要になるだろう。
 アインクラッドでは、エリア毎のモンスター出現量が細かく設定されている。 ネトゲ用語で言えば『リソース』とも言うその出現量は、仮にエリア内のモンスターを全滅させると一定時間モンスターが現れない、あるいは現れにくくなることを指している。
 MMORPGはリソースの奪い合い。 システムが供給する限りある経験値やアイテムをより多く獲得した者が強くなる。 と言うのはキリトの弁だったけど、それに関して言えば僕も激しく同意だ。

 昼は他のプレイヤーがわんさかいるので、その様は正に奪い合い。 狩っているモンスターを横取りするような露骨な簒奪はもちろん認められていないけど、やっぱりレベリングの効率が落ちることは否めない。
 ひたすら効率を重視するなら最前線でキャンプ狩りをするのがベストだ。 とは言え、さすがの僕も、そしてアマリもそこまでの無茶をするつもりはないし、そんなことをしようものなら1時間以上『お話』をするだろう人が目に浮かぶので却下。 代替案として、夜をメインに狩りをすることを昨日の内に決めておいた。
 夜に街を出て、昼に戻り、また夜に出る。 そのサイクルでいた方が何かと面倒も減るので一石二鳥だろう。

 そんな方針を決めた翌日。 こちらの思惑を察しているのかいないのか微妙な男が家を訪ねてきたのだ。 歓迎できなくても仕方がないだろう。

 「で、何の用かな? 僕たちに干渉しないって言うKoBのルールを決めたのはあなただったはずだけど?」
 「いや、今の私はKoB団長としてではなく、君の友人としてきたのだ」
 「ものは言いようだね。 まったく……」

 はあ、と、これ見よがしにため息を吐くけど、当の本人はどこ吹く風。 心情の察しにくい微笑と金属質の瞳は一分たりとも揺らがない。

 「とりあえず立ち話もなんだから入れば? 何か用があるんでしょ?」
 「ふむ、それではお邪魔しよう」

 遠慮するでもなく聖騎士様は頷いた。









 このいけ好かない聖騎士様との付き合いは、意外なことに結構長い。
 ヒースクリフに初めて会ったのは攻略がまだ10層にも到達していない頃だから、かれこれ2年近い付き合いになる。 もっとも、そんなに頻繁に顔を合わせていたわけではないので、決して親しい間柄とは言えないだろう。
 それでもこの男は僕に並々ならぬ興味を抱いているようで、ふとした拍子に僕の前に現れる。 まさに今日のように。
 会うたびにギルドへの勧誘(出会った当初はパーティーの誘いだった)をされるので、僕としてはあまり好きになれない。 と言うか、どうやら僕のリアルを詳しく知っているらしいので、やっぱり好きになれない。 別に嫌いではないけど。

 「さて、早速で悪いが本題に入らせてもらおう」

 僕が淹れたコーヒーに口をつけてから、団長さんはそう切り出した。
 SAO最強ギルドの団長ともなれば忙しいのだろう。 ギルドに所属していない僕にはなんとも言えないところではあるけど、早々に話しが進むのは僕としてもありがたいので、コクリと頷いて先を促す。

 「まずは74層ボス攻略おめでとう。 軍のプレイヤーを守りながら、たった10人で討伐してしまうとは驚いたよ。 しかし、喜んでばかりもいられないようだ」
 「だね。 ボス戦の難易度が急激に上昇してたし、ボス部屋の結晶無効化空間化は相当厄介だよ。 次からはあれがデフォルトになるのかな?」
 「問われても明確な答えを出せないが、おそらくはそうなるだろう。 それを見越した上で今後の対策を立てる必要がある」
 「……用件は察したけど一応聞いておくよ。 具体的な対策はあるの?」
 「血盟騎士団に入ってはくれないか?」
 「やだ」

 何度となく繰り返された勧誘を僕は断った。 それはもう、考える間もない即答で。
 些か子供染みた拒絶の仕方ではあったけど、勧誘した本人が気にした素振りを見せないので僕も気にしない。

 「僕はね、ヒースクリフ。 昔から人間って言うのが嫌いなんだよ。 それはあなたも知ってるでしょ?」
 「《ドクター》の人間嫌いは有名な話しだ。 無論、知っているさ」
 「そう呼ばれるのもずいぶん久し振りだね……。 懐かしいけど嬉しくはないよ、本当に」
 「ふむ。 そう言う事情だと言うのなら仕方がない。 今日の勧誘は諦めるとしよう」

 サラリと『今日の』と言える辺りがこの人の凄まじいメンタリティーだろう。
 人の話しを聞かない。 自分の意思を押し通す。 他のものに目もくれず、ただ一心不乱に目標へと一直線。
 アスナさんとも共通しているまっすぐさは、僕がまだ《ドクター》なんて呼ばれていた頃にはなかった価値観だ。

 苦笑いを浮かべながらため息を吐いた僕に、ヒースクリフは「ところで」と続けた。

 「アマリ君は嫌いではないのか? 彼女も人間のはずだが」
 「うん? まあ、恋は盲目って言う解釈でいいよ。 アマリは僕の例外」
 「例外か。 それは便利な言葉だ」
 「僕に言わせれば卑怯な言葉なんだけどね。 と、そんな真面目な話しはどうでもよくって……。 それにほら、アマリは頼りになるからね」
 「ふむ。 確かに彼女のアタッカーとしての能力は攻略組の中でも特筆するものがある。 特にあの火力は素晴らしいの一言だ」
 「それは同感。 アマリはどんな敵でも圧砕する最強の矛だ。 たとえ敵がどれほど強固だろうと関係ない。 その一撃はこの世界の全てを終わらせる」

 ほう、と興味深そうに眉を持ち上げるヒースクリフ。

 「これは惚気話として聞き流してくれていいけど、この世界を終わらせるのはヒースクリフ、あなたじゃない。 キリトでもアスナさんでもないし、それに僕でもない。 もちろん、他の誰かなんて言う可能性は皆無だね。 この世界を終わらせるのはアマリだ」
 「……楽しみにしておこう」

 一瞬の緊張が僕とヒースクリフとの間に流れる。 けど、そんな空気もすぐに消え、僕はいつも通りニコリと笑い、ヒースクリフは感情の窺えない微笑を浮かべた。

 ああ、今日も平和だ。 
 

 
後書き
久し振りの更新だぜー
と言うわけで、どうも迷い猫です。

て言うか短い! 今までで一番短い話しでありながら、今までで一番きな臭い話しでもあります。
ええもう、なんて言うかラスボスの正体を知っている(さすがに知らない人はいないはず……いませんよね?)みなさんからしてみれば『あーはいはい』みたいな感じだとは思いますが、今後の展開を見据えると絶対に外せない話しだったので、半ば無理矢理に捻じ込みました。

て言うかって言うならこれこそ『て言うか』ですが、ヒースクリフさんのキャラクターがうまく再現できません。 『基本断定口調』『常に上から目線』『語尾は「〜だ」』『疑問系は「〜かな?」』と言うのが私目線のヒースクリフさんだったので、そんな感じで頑張りました。 できてる自信はありません←おい

とにかく、ちょっとした山場は越えたので、次の更新はもっと早くできるかと思います。 多分……

ではでは、迷い猫でしたー 
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