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平常心

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3部分:第三章


第三章

「それじゃあ」
「やるのね」
「はい、やります」
 未来帆は強い言葉になっていた。
「やってみせます」
「頑張りなさい。恋ってのはね」
「恋は?」
「告白してからよ」
 未来帆の背を心の手で押していた。
「わかったわね」
「はい、わかりました」
 こうしてだった。未来帆はその日早速理髪店の前に来た。意を決した顔でだ。
「よしっ」
 理髪店の中に入った。赤い床の洒落た店だ。鏡に様々なものが映っている。店の客に理髪師に椅子に鋏にだ。そうしたものが映っていた。
 だが未来帆はそれを見ていなかった。そしてである。
 あの店員を見つけた。そのうえでだ。
 彼の前に来てだ。こう言ったのだ。
「あの」
「僕ですか?」
「はい、貴方です」
 背は二十センチ程違う。その相手に対して言うのである。
「貴方にお話があります」
「一体何を」
「あのですね」
 心臓が割れそうになる。緊張のあまりだ。しかしここで先生のあの言葉を思い出してだ。何とか我を保って言うのであった。
「お名前は」
「僕の名前ですか」
「はい、何ていいますか?」
 彼を見上げてだ。その名前を問うのである。
「お名前は」
「松本といいます」
 まずは名字からだった。
「松本健斗といいます」
「松本健斗さんですね」
「はい」
 その彼健斗は未来帆の言葉にこくりと頷いた。
「そうですけれど」
「私はですね」
 未来帆もだ。ここで名乗った。
「私は安達未来帆といいます」
「安達さんですか」
「はい」
 名乗りからであった。まずはだ。
「そうです。それで」
「それで?」
「よかったら今度のお休みに」
 言葉が詰まりそうになる。しかしだった。
 何とか言葉を出してだ。言った。勇気を振り絞り。
「一緒に。八条遊園地に行きませんか」
「遊園地ですか」
「チケットはもうあります」
 言いながら二枚出してきた。二枚である。
「よかったら」
「僕とですか」
「駄目ですか?」
 必死の顔で震えながらもだった。それでも言うのだった。
 その顔を見てだ。健斗は応えた。その言葉は。
「僕でよかったら」
「いいんですか?」
「はい、僕でよかったら」
 こう話すのである。
「御願いします」
「私と一緒に」
「ずっと見てましたよね」
 何とだ。こんなことを言ってきたのだ。
 
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