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冬虫夏花

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4部分:第四章


第四章

「何をするの?食べるの?」
「ああ、海で何をするか」
「それなのね」
「そうよ、それよ」
 まさにそれであった。彼女が言うことはだ。
「折角海に来たのに。何を言ってるのよ」
「忘れてたのよ、あんたを見て」
「そうよ、あんたをね」
 あらためて見るとだった。やはり顔も胸も立派なものだ。モデルやアイドルとしても充分以上に通用するような、そんな外見であった。
「忘れてたのよ」
「ついね」
「それでどうするのよ」
 真紀の問う言葉は変わらなかった。
「泳ぐの?それともビーチバレー?」
「そうね。視線が気になるし」
「周りのが」
 見ればビーチにいる皆が真紀を見ていた。注目しているのは彼女達だけではなかった。誰もが彼女を興味深い目で見ているのだった。
「海に入りましょう」
「少しは隠せるしね」
 こう言ってであった。泳ぐことにした。とにかく夏にそのスタイルを見せる彼女だった。
 そんな真紀だが冬は堅固になるのは変わらない。やはり冬になると完全装備になってまさにロシア人そのものの格好になるのであった。
「またそうなるのね」
「冬だと」
「寒いから」
 マフラーに覆われた口から言う。
「だから。ちょっとね」
「寒いのはわかるけれど行き過ぎよ」
「夏の元気何処行ったのよ」
「登校でもその装備なんて」
 やはりコートにマフラーにミトンにストッキングにスパッツである。帽子や耳当ても健在だ。
「あのね、シベリアじゃないんだから」
「そこまでしなくてもいいじゃない」
「ここまでするわ」
 ところが彼女の言い分ではこうなる。
「あんた達こんな寒いのに平気なの?」
「まあ平気じゃないけれど」
「あんた程じゃないわよ」
 呆れた目で彼女を見ながらの言葉である。真紀はその格好で自分の席に座る。しかしコートもミトンも脱がない。脱いだのは帽子と耳当てだけでマフラーもそのままである。長い髪が帽子からばさりと落ちる。
 皆その彼女に。さらに言った。
「コート位脱ぎなさい」
「ミトンもね」
「寒いから嫌よ」
 ところが真紀はこう返す。自分の席にうずくまるようにして座ってだ。
「そんなの脱げないわよ」
「どうせ制服の下セーターでしょ?」
「しかもカイロ一杯貼ってるんでしょ」
「それでも寒いのよ」
 うずくまったまま答える。
「今は」
「こりゃ駄目だ」
「ヒーターつける?だったら」
「もうつけたわ」
 言われる前にであった。
「それは。教室に入ってすぐに」
「あらあら、もうなの」
「早いわね」
「寒いから」
 またこのことを言うのだった。
「着けないとやっていけないじゃない」
「だから今日はそんなに寒くないわよ」
「ねえ」
 クラスメイト達はそうなのだった。
 
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