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フラメンコドレス

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第三章

「そうだろ、そのロマニー女の涙と言われてるんだよ」
「涙な」
「迫害されたロマニーの女のな」
「ロマニーはな」
 観光客はそのロマニーのことを言った。
「確かに酷い迫害受けてたからな」
「その迫害の涙がな」
「水玉か」
「そうも言われてるんだよ」
「それはまた重いな」
 観光客はその話を聞いてだ、深刻な顔になった。
「本当に」
「そうだろ、まあ一番言われてるのは黒子だよ」
「それか」
「あんたもここに来た理由はあれだな」
「祭りにな」
 それにと言うのだった。
「美味い酒に料理に」
「女の子もだな」
「楽しみに来たんだよ」
「それは何よりだ、その日は息子も遊びに出ていて」
 それにと言うのだ。
「俺も女房と一緒に祭りに出るからな」
「そうか、あんたもか」
「だからあんたもここで遊びたいならな」
「いい娘を見付けてだな」
「楽しめばいいさ」
「勿論そのつもりで来たんだよ」
 観光客も笑って言う。
「じゃあ女の子へのプレゼントに何か買っていくか」
「ドレスをかい?」
 アントニオは笑って客に尋ねた。
「それを買うのかい?」
「いや、アクセサリーにしておくさ」
 こうアントニオに返すのだった。
「今はな」
「アクセサリーか」
「リボンとかをな」
 そうしたものをというのだ。
「買うからな」
「そうか、じゃあ何か買っていってくれよ」
「そうさせてもらうな、祭りは楽しむか」
「悪い女には気をつけろよ」
「やっぱりここにもいるか」
「悪い女は何処でもいるさ」
 アントニオは笑って観光客に言った。
「それこそな」
「世の中はそうしたものだってか」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「そうした奴には気をつけろよ」
「わかった、じゃあ悪女には気をつけて」
「楽しんでいくな」
「それじゃあな」
 こう話してだ、そしてだった。 
 観光客は店のアクセサリーを幾つか買ってから店を後にした。その客が帰ると彼と入れ替わりにだった。
 イザベラが帰って来てだ、こう言って来た。
「お客さん来てたの」
「ああ、それでドレスの話とかしてたんだよ」
 そのフラメンコドレスの、というのだ。
「ちょっとな」
「それでドレスは売れたの?」
「アクセサリーが売れたよ」
 そちらがというのだ。
「結構な」
「それはよかったわね」
「ああ、ついでに御前のことも話したさ」
「私の?」
「背中の黒子のことをな」
 妻に顔を向けて笑って言った。 
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