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憎しみは消え

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第五章

「フランスを裏切った奴等を裁いてやったな」
「その俺達を尊敬しないでな」
「英雄様をな」
「しかもそのフランスもな」
 この国もというのだ、彼等の祖国も。
「戦争に勝ったのにな」
「どういうことなんだ」
「全然よくならないぞ」
「ドイツから何でも取れ」
「俺達は戦争に勝ったんだぞ」
「それで何も貰えないって何なんだ」
「ドイツから搾り取れ」
 フランスを占領してだ、結果として勝った彼等にというのだ。
「何でそれをしないんだよ」
「ドイツに勝ったんだぞ」
「それでどうして何もしない」
「これはおかしいだろ」
「奪えるだけ奪え」
「そして俺達のものにしろ」
 安酒を飲みつつ言うのだった、しかしだった。
 ものがない日々は続きだ、彼等は娼婦達から冷たい目で見られ続けていた。それでニコルはたまらずだった。
 泥酔しきってふらついた足を引き摺ってだ、ある夜馴染みだった娼婦に問うた。今は冷たい目で自分も仲間達も見ている彼女に。
「何で俺達をそんな目で見る」
「聞きたい?」
 その目でだ、娼婦は言葉を返した。
「その訳を」
「そうだ、俺達はフランスの為に働いたんだぞ」
 これが彼の言う理由だった。
「そして最初は戦っていたんだ」
「そうね、あんたマジノ線にいたわね」
「フランスの為に戦ってだ」
 そして、というのだ。
「フランスの為に働いたんだぞ」
「そうね、けれどね」
「けれど。何だ」
「あんた達が髪の毛を刈って服取って身体にハーケンクロイツ書いた娘達は友達だったのよ」
「友達?」
「そう、私達のね」
 そうだったというのだ。
「あの娘達もよ」
「友達か、しかしな」
「ナチスの豚に抱かれたっていうのね」
「そんな奴だろ、そんな奴を裁いて何が悪いんだ」
 その赤ら顔でだ、ニコルは娼婦に言った。
「引き回しにして何が悪いんだ」
「そうね、けれどね」
「友達をか」
「皆いい娘だったのよ」
「しかしナチスの豚だったな」
「そうね、けれどあの娘達も娼婦よ」
 このことをだ、ニコルに言うのだった。
「娼婦ならお金を出した相手にね」
「抱かれるのが仕事か」
「そうよ、だからね」 
 それで、というのだ。
「あの娘達は抱かれたのよ」
「じゃあ何で御前は抱かれなかったんだ」
「私は声がかからなかったのよ」 
 それだけだったというのだ、彼女は。
「どうもドイツ人好みじゃない顔らしくてね」
「それでか」
「そうよ、他の娘達もそうよ」
 こうニコルに言うのだった。
「ナチスに抱かれなかった娘はね」
「しかし自分から抱かれに行った奴もいたな」
 ニコルが彼が見たことを話した。
「そうだよな」
「それはその通りよ」
「じゃあやっぱりな」
「皆が皆そうじゃなかったのよ」
 ナチスに抱かれた者はというのだ。
「相思相愛だった人もいて」
「豚を好きになる方がおかしいだろ」
「それはそうだけれどね、けれどあんた達は私達の友達に酷いことをしたわ」
 彼女達が言うのはこのことだった、情のことだった。
「そのことは忘れないわ」
「だからだっていうのか」
「私達はあんた達を許さないわ」
 決して、という口調での言葉だった。 
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