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憎しみは消え

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第一章

                 憎しみは消え
 ニコル=ブルバーニュは始終憎しみを抱いていた。
 自分の国フランスを占領したドイツ軍を見てだ、いつもその感情を抱いていた。
 それでだ、彼等がいない場所で常にこう言っていた。
「あいつ等を何時かな」
「ああ、このフランスから追い出そうな」
「絶対にな」
「そして祖国を取り戻すんだ」
「フランスをな」
「何がビジー政権だ」
 ニコルは闇で手に入れた安酒を飲みつつだ、今現在一応フランスの政権になっているその傀儡政権についても言及した。
「あんなのフランスなものか」
「ただのドイツの飼い犬だな」
「その程度の連中だな」
「首都だってパリじゃないしな」
「この街じゃないんだからな」
 長い間フランスの首都であったがビジー政権は違っていた、そのパリがあるフランス北部は全てドイツに占領されていて南半分しか領土としていないのだ。
「完全に傀儡だよな」
「ナチスに媚びへつらってる」
「このパリにもそういう奴いるけれどな」
「ナチスにおべっかばかり言う」
「そうした連中だな」
「本当にな」
「俺はナチスは許さねえ」 
 憎しみに満ちた声でだ、ニコルは言った。
 そのうえでだ、仲間達にこうも言ったのだった。
「そしてあいつ等におべっか使う連中もな」
「そうだな、あいつ等もな」
「国を取り戻した時に覚えていろよ」
「目にもの見せてやる」
「思い知らせてやる」
「その時を楽しみにしていろ」
「精々な」
 こう言うのだった、仲間達も。彼等は憎しみを以てナチスとその協力者達を見ていた。そのうえで時を待っていた。
 だがその時は中々来ないでだ、それでだった。
 ナチスはパリを我が者顔で歩き続けおべっかを使う者達が周りにいた。ニコルはドイツ軍の兵士達に群がる娼婦達を見て密かに言った。
「あの女共もな」
「ああ、ナチスの仲間だ」
「その手下だな」
「豚共に抱かれて喜んでる」
「豚だ」
「ああ、豚だ」
 それに他ならないとだ、ニコルも言った。
「豚共に本当に思い知らせてやる」
「何かドイツも危なくなってきたらしいしな」
「アフリカで負けたらしいぜ」
「ソ連との戦いもまずくなってきたそうだしな」
「じゃあそろそろな」
 彼等は希望、だがそこに多分に憎悪を含ませたそれで言うのだった。
「このパリもな」
「あいつ等を追い出せるな」
「よし、じゃあな」
「あの連中もな」
「一人残らず捕まえてな」
「そのうえでな」
「思い知らせてやろうぜ」
「何があってもな」
 こう話すのだった、その娼婦達も見つつ。
 パリがフランスの手に戻るのを待っていた、彼等は戦うことはしなかったがそれでもだった。ドイツ軍と彼等に協力する者達を憎しみに満ちた目で見ていた。
 その彼等に遂に希望が来た、連合軍がノルマンディーに上陸して。
 ドイツ軍は敗れパリを含めた北フランスから撤退していった、パリを防衛していた者達は降伏してだった。
 パリは解放された、レジスタンス達も蜂起していたがニコル達はそれには加わらなかった。だが彼等は。
 パリが解放され連合軍が入ってから動いた、彼等は降伏したドイツ軍が収容所に送られていくのを見てだった。
 それでだ、まずは彼等に罵声を浴びせたのだった。
「地獄に落ちろ!」
「そのまま出て行け!」
「戦犯として裁かれろ!」
「二度とフランスに来るな!」
「汚い足でパリに入るな!」 
 こう口々に言う、だが。  
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