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ソードアート・オンライン -旋律の奏者-

作者:迷い猫
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アインクラッド編
74層攻略戦
  久方振りの共闘を 02

 最強ギルド、血盟騎士団の副団長を任せられているアスナは、一度だけフォラスとデュエルしたことがある。
 現在はどうしようもなく拗れてしまっている2人だが、SAOが始まってからとある事件が起こるまでは良好な関係を築いていた。 デュエルを行った時は既に関係が拗れていたとは言え、剣を向けることに躊躇いがあったのも事実。
 フォラスのメインアームは、長大なリーチを誇る薙刀。 そのリーチの長さは確かに脅威ではあるが、裏を返せば懐に潜ってしまえば手も足も出ない一長一短の武器。 細剣使いであるアスナの速さを持ってすれば懐に飛び込むことは容易ではないが可能で、その間合いに持ち込めればアスナの勝利は揺るがないはずだった。
 そう。 そのはずだったのだ。

 しかし、蓋を開けてみれば、勝者はフォラス。
 懐に潜れなかったわけではない。 むしろ、細剣にとって必殺の間合いに何度も持ち込んだ。

 (違う……持ち込んでもらった、が正解ね)

 あの時のデュエルを思い返して、アスナは内心でごちる。

 剣を向けることに躊躇いがあったのは確かだったが、そんな思考はデュエルの途中から完全に消え、本気でフォラスを斬ろうと剣を振るった。
 だが、当たらない。
 キリトをして視認困難とまで言わしめた『閃光』の細剣は悉くが躱され、弾かれ、流された。

 フォラスの敏捷値がかなり高いのはアスナとて知っている。 しかし、そのアスナもまた、レベルアップボーナスの多くをAGIに費やしているスピード型。 加えて、どれだけ軽いとは言え、アスナの細剣に比べれば重いだろう薙刀を使っているフォラスとそこまでの開きがあるとは思えない。
 にも関わらず、フォラスはアスナの視界から完全に消えて見せたのだ。 それも一度ではなく何度も。
 どう言う理屈で起きた現象かは分からないが、このデュエルを観戦すれば分かるかもしれない。 故にアスナは可否を問うように振り返ったフォラスに頷いたのだ。

 芝居がかった口上と共に構えるクラディール。 対するフォラスは構えないどころか丸腰のまま、薙刀を取り出すそぶりもなく佇んでいた。 アスナからだとフォラスの顔は見えないが、いつもの穏やかな微笑を浮かべているのだろうと推察して、アスナは尚もフォラスから目を離さない。
 次第にフォラスの華奢な後ろ姿がゆらりゆらりと揺れ始める。

 (あれは……)

 アスナにとっては既知の、そして屈辱的な敗北を想起させる動作。
 あの時のデュエルでも、フォラスはあの動作をしていた。 それだけではなく、アスナに圏外で敵意を向けた時も、アスナが知る限りの対人戦の際、フォラスは決まってあの動作をしていたのだ。

 (つまり……)

 あれはフォラスにとっての対人戦に於けるフォラスの構え。 あるいは何かしらのルーティーンなのだろうと当たりをつけたアスナは、これから起こる全てを見逃さないように目を凝らす。
 やがてカウントダウンは終わりに近づき……

 DUEL‼︎と宙空に文字が瞬いた瞬間……

 フォラスが視界から掻き消えた。

 「え……」

 驚愕の声を漏らしたアスナだったが、何も驚いたのはアスナだけではない。
 フォラスの正面で両手剣を構え、デュエルの開始と同時にソードスキルを発動しようとしていたクラディールの顔にありありと驚愕の色が浮かぶ。 しかし、発動しようとしていたソードスキルはシステムが律儀にプレモーションを認識し、使用者の驚愕など構うことなくオレンジ色のライトエフェクトを両手剣に灯した。

 だが、それが発動することはなかった。

 ドンッと言う鈍い打撃音が辺りに響き、クラディールがその場から横に吹き飛ぶ。
 そして、その瞬間に、あたかもずっとそこにいたかの風情でフォラスの姿が現れた。

 宙に浮き、仄かに赤いライトエフェクトの残滓を煌めかせたフォラス。
 小柄なフォラスがクラディールの側頭部を攻撃するために跳び上がったのだろう。 使われたのは体術スキルの基本技、『閃打』。 同じく体術スキルを習得しているアスナも良く知っているそれは、拳を打ち出すだけの単発技で、威力は武器を用いたソードスキルに比べれば相当に低い。 ガントレットを装備した左腕での攻撃なので素手よりは威力があるものの、大したダメージにはなっていない。 だが、それでもソードスキルなので、デュエルを終わらせるには十分な一撃だ。

 フォラスが着地すると同時に勝者を告げる表示とファンファーレが周囲の喧騒を塗り潰した。

 「なにが……」

 起こったの? そう続けたかった言葉が続かない。

 アスナはフォラスから目を離さなかった。 加えて、デュエルで任された時よりも強くなっていると自負している。 それは、レベルやステータスに限らず、アスナ自身の戦闘技術も。
 だと言うのに見えなかった。
 移動も、跳躍も、攻撃も、何もかもが見えなかった。
 アスナが、そして1人の例外を除いて、ここにいる全員、フォラスの姿を完全に見失っていた。

 「ねえ、キリト君」
 「見えなかった……」
 「え……」
 「何も見えなかった……。 アスナのレイピアでも剣の軌跡が見えるのに、あいつのは何も見えなかった。 閃打のライトエフェクトも、あいつ自身も……」

 ソードスキルのライトエフェクトすらも見落とすなんてありえない。 隠蔽スキルを発動していようと、キリトクラスの索敵スキルがあればさすがにソードスキルを使った時点で看破できただろう。 それすらも出来なかったと言うことは、あれは隠蔽スキルによるものではなく、もっと他のスキルによるものか、あるいは……

 「システム外スキル……」

 揺れる声の呟きが、自分のものなのか隣に立つキリトのものだったのかすら分からない状況で、アスナはフォラスのつまらなそうな声を聞いた。

 「あなたの負けだ」 
 

 
後書き
久し振りの(ここでは初めてのですが)三人称視点はやっぱり難しいです。
と言うわけで、どうも、迷い猫です。

この話しは当初の予定では入れないはずだったものですが、前話を一瞬で終わらせ、戦闘に関する描写が一切ないままでの決着だったのね、ついつい入れてしまいました。
フォラスくんの戦闘に於ける特異性を表現するには、フォラスくん以外の視点でないとどうにもいまいちなのですが、かと言って対戦相手のクラディールさんの視点は個人的にやりたくないし、アマリの視点だとネタが割れている分、その驚愕の度合いが表現できないので、アスナさん中心の三人称視点になりました。 原作に倣った形です。
今後も視点が変わる話しの予定がありますので、そこはご容赦ください。

話しは変わりますが、お気に入り登録、並びに感想を書いて頂いた方に心よりのお礼を申し上げます。
嬉しくてテンションが上がって、最近は更新のペースが格段に上がっております。
ここまで読んでくださった全ての方に精一杯の感謝を。

ではでは、迷い猫でしたー 
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