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Sword Art Online-The:World

作者:嘘口真言
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#01 英雄達

 
前書き


時系列はアニメ第一話冒頭シーンより数時間ほど前から。
原作を読んでいないアニメ勢の主が駆け抜けるで御座るよ……
なお、独自の設定が初っ端から盛り沢山なので、ご勘弁という方はどうぞ撤退ください。 

 






----2022年、場所は東京都・渋谷区。
オープンカフェの席に、一人の青年が座っている。
まるで脱色したかのような白髪と、外見的な年齢とは不釣り合いな猫背。服装もレギンスで固められており、少し関わるのを遠慮したい気迫のような物を放っていた。青年は自身の前に置かれたコーヒーを一口飲むと、徐にポケットから携帯を取り出す。特に何の連絡も入ってはいないが、とりあえず時間を確認するとまだ朝の八時。社会人は出社の時間、学生は登校の時間。
だが何も青年は、用事も無くこんな洒落たカフェでコーヒーを飲んでいる訳でもない。彼は人を待っているのだ。

デート? 
いいや違う。青年には思い人がいたが、その人は違う人と結ばれて今は幸せ、青年は思いのたけを告げているので後悔はない。寧ろ、その幸福を祝福している。今も昔も、彼は独り身だ。
友人と?
こんな早朝から待ち合わせするような友人、彼には実のところいない。その昔、少し込み入った事情で一時期ゲームの廃人と化していた彼に、リアルでの付き合いを持つ人間は非常に少ないのだ。決していないわけではない。
仕事?
彼は一応就職はしているが、会社の業務内容が一般のそれとはまったく異なっている。有事に際してのみ動く、特殊部隊のソレに近い。方面で言えば、サイバーテロ関連と言っておこう。そして正解は、仕事だ。

「おはよう。お待たせ、亮君」

「遅いっスよ、海斗さん」

無骨な、P○MAのオレンジのジャージを着た少年――に見違えるほど若々しい青年。
青みがかった短髪と、一般男性よりも少し低い目の身長。海斗と呼ばれた青年は、亮と呼んだ青年の向かいに腰を下ろし、肩から提げたカバンから一冊の資料と二本のケースを取り出した。
資料の表紙の上部には『VRMMO内情調査報告』と書かれている。中央には『文部科学省』『警視庁』『レクト』『アーガス』の名が、下方に『.hackers』の名が並んでいる。これが今回の、彼らの“仕事”なのだ。

「今回の仕事、これなんですか」

「そう。予想通りだとは思うけど、これ。『ソード・アート・オンライン』」

「人類初のVRMMOを、なんで仕事でやらなくちゃならねぇんだよ……普通にプライベートでやりたかったぜ」

「まぁまぁ、それは僕もだよ。個人的にはすごく遊びたいんだけど、仕事だからね」

彼らが就職しているのは、民間サイバーテロ・ネットワーク犯罪対策室『.hackers』という企業だ。
都内に小さな一棟のビルを持ち、その中に約五十人程の社員が務めている。すでに多数の実績を持ち、今は倒産し見る影もないが、かつての大企業『CC-サイバーコネクト-』のバックアップもあり、現在は様々な業務を一手に担う小さな一流企業でもある。
その中で彼らは『実働部隊』に当たる存在であり、そういったサイトに直接的に潜入し内部調査を行うのが彼らの仕事だ。かつてCC社が引き起こした『The:World事件』の際にも、彼らは一ユーザーでありながらその事件の解決に乗り出し、見事事件を解決した功績と実力がある。
現代においては電子ドラッグなどが横行し、ゲームを用いての犯罪行為なども少なくない。そんなご時世にVRMMOなどと来てしまえば、彼らに仕事が来ないわけがないのだ。そして今回の調査対象は、今テーブルに置かれている二本のゲームソフト。タイトル名『ソード・アート・オンライン』。人類初のVRMMORPGにして、人類初のフルダイブシステムツール『ナーヴギア』を用いたゲームの第一作目である。
数時間後には、開店前の深夜から並んだ一般人がこぞってゲームを手にし、大喜びしている頃だろう。そんな中で、仕事という名目でもそれを横から搔っ攫うような方法で入手した事に、二人は少しばかり後ろめたさを感じていた。

「ワイズマ……火野君は『仕事だからと言って遊び過ぎるなよ。提示報告は欠かすな』だって。ホントはすっごくやりたかったんだろうね。彼もゲーマーだし」

「八咫……火野は単に嫌味で言ってるんじゃないっスか? アイツ、結構陰気だし」

先ほどから間違えられまくられている男は、火野拓海という青年だ。
『.hackers』の代表取締役でもあり、各部門の統括を務めている。かつて彼らがプレイしていたゲームにおいては『ワイズマン』『八咫』『直毘』『楢』など、複数のアカウントを有しており、同時に運営であったCC社において、契約上のシステム管理者でもあった彼は、そういった有事に際し外部に調査機関を置く事を推奨した。
いわば二重スパイ。しかし当のCC社が倒産後はそのバックアップも無く、止む無く“彼の個人的資産で”会社を運営し、成長させていった。そういった経緯で生まれたのが、この『.hackers』なのだ。

「まぁまぁ、それでも僕らの上司なんだから多少は、ね?」

「……ともかく、早く行こう。サービス開始は13時、会社の方でも準備進んでんだから急がねぇと。他には誰が参加するんスか? 香住(クーン)とか、佐伯(パイ)とか」

「もう、普通に本名で呼んであげなよ。僕らはもう『The:World』を卒業してるんだから」

卒業――とはいえ、彼らがあの世界で過ごした時間はあまりにも長く、短く、そして濃密だった。
幾度もの出会いと別れを繰り返し、そしてその別れを繋ぎ、再会を紡いできた。
一度は破滅を阻止し、一度は世界を再誕させ、二度の破滅を阻止した。現実世界・電脳世界での彼らは、本物の英雄。そしてそれを知るのは、ほんのごく一握りの人間だけ。しかし、別に名誉が欲しくて行動したわけじゃあない。
ただ、『自分達の世界』『皆の居場所』『大切な人』を救い、守りたかった。それだけが、彼らの理由なのだ。
そんな彼らに共感し、何人ものプレイヤーが彼らに手を貸した。時に共に最前線に太立ち、敵を討った。時に現実に向き合い、事実と戦った。どれもありきたりだが、そうして最後に、彼らは笑顔で勝ち、去ったのだった。
海斗はその先達。そして、亮はその後輩に当たる。両者を知る火野の計らいで対面する事となり、大学卒業後の当時の二人を、就職先として自身の会社を提供したのも火野だ。彼らにはそういった方面が向いているのだと、それとなく察していたんだろう。事実、それは功を奏し、『.hackers』の業績の二割は、彼ら二人によるところが多い。

「……まぁそうなんスけど、どうもそっちで呼ぶ方がしっくり来るっていうか。本人らも、仲間内で呼ぶならそれでいいっていうから、ユーザー(そっち)で呼んでるんスよ。」俺もそう呼ばれてるし」

「なんていうか、みんな若いね。僕も、か」

談笑を経て、二人は席を立った。勘定を済ませ、徒歩で向かうは自分達の秘密基地。
さて、今回は何カ月の労働になる事やら。前回の大手MMORPGのバグ調査や試験テストでは、二ヶ月ぶっ通しで調査をしていた。ユーザー側として調査するには、色々と大変な面が多い。そして、多数の可能性を虱潰しに模索していくことも重要。それが、『ゲーム部門』の担当である、二人の業務なのだ。





      ×      ×







「よぉ。ずいぶんな大御所出勤じゃないか、二人とも」

『.hackers』本社二階、『ゲーム部門』対策室。内装は、一般的な株式会社の一室とさして変わりはない。
長方形の部屋、左方に並べられた業務机とは別に、右の壁際に十数台のPCが並列している。違う点はそのデスクトップ画面に、何十ものMMOゲームのアイコンが表示されている事だ。なにせ担当がゲーム部門なので、扱う者のほとんどがゲーム関連なのは得てして仕方のない事ではある。
そんなPC側の一席に、茶髪の男性が椅子を逆向きに座っている。見るからに尻軽そうなこの男は、この『ゲーム部門』の一員であり、デスクワーク・実働・営業を兼ねるマルチマン。
名を香住(かすみ)智成(ともなり)という。香住は何とも軽薄な笑顔でヒラヒラを手を振る。

「おはよう、香住くん」

「おはよーさん。んでぇ、俺の大・親友の亮君は超・親友の俺に挨拶もないのかなぁ~?」

「……ょぅ」

「え? なに? 聞こえないんだけどー?」

「ぉ、おはよーさん!」

「ぷっ……ははっ、相変わらず照れ屋だなぁお前は。もう少し対人の免疫つけた方がいいんじゃね? 俺みたいに」

「お前は単に女好きなだけだろーが……ったく。別に人が苦手な訳じゃねーよ。その、何話したらいいか分からねーだけだっつーの」

………それを人見知りっていうんじゃないのかなぁ。
海斗はそんな事を苦笑いを浮かべつつ思い、二人は自身の机に荷物を置いた。彼らのテーブルは向かい合わせとなっており、鞄を置いてすぐに二人は反対側の壁際にある自身のPCを起動する。とりわけ、二人のデスクトップにはゲームアイコンの数が他の台に比べ一回りほど多い。
その脇に置かれたプリンターと、昨日の報告書の数。どう見ても、一般的なサラリーマンが処理する書類よりも枚数が多い。しかも内容は一般人が見ても『お、おう』と応答する事しかできないレベルの、かなり訳の分からない内容と化している。それを課長の机らしきところにまとめて置き、鞄から例のソフトを取り出した。

「お、これが噂の『ソード・アート・オンライン』か。へぇ、結構作り込みよさそうじゃん」

「でもやっぱりゲームだから、いくつかのバグは存在するよ。しかもフルダイブ、VRMMORPGともなれば、最悪の場合は人間の脳に直接的な影響が出てしまう恐れがある。今回の仕事は、今までで一番大変な仕事だと思うよ」

「もしもの場合の、管理者権限とかは用意してんのか?」

「一応は。ユーザー登録して、セレモニーが終了すればログアウト、その後にキーコードを入力すると一応の管理者権限が行使できる。とにかく、ゲームやって基本的な事を覚えてからにしてくれ、って事なんだろうね」

「まどろっこしい事しやがるなぁ。初っ端から権限付与しときゃいいのによぉ」

「そういう訳にもいかねーだろ? お前らは名目上『一般プレイヤー』なんだ、最初から管理者ってバラしたら他のプレイヤーとのコミュニケーションが総崩れになるだろ。俺達の時だってそうだったじゃないか」

「それは陰に、私の事を批判しているようにも聞こえるが?」

不意だった。部屋のドアから見て左の一番奥、窓を背におかれた室長の席に人が座っていた。
そこにはいつの間にか、短髪の青年が腰をおろして腕を組み、こちらを凝視している。筋肉質で、しかし線の細い身体。地道な努力によって鍛えられたその身体は、彼の着るスーツを内側から圧迫するほどに逞しい。
位置的には香住たちのいる背後になるのだが、音もたてず気付かれず入る必要性があったのかは、疑問ではある。
そう、この威圧感漂う男こそがこの『.hackers』の代表取締役にして、この『ゲーム部門』に所属するメンバーとは大体顔見知りの男。名を火野拓海という。火野は懐から一冊の手帳と万年筆を取り出し、

「香住、上司への不適切発言あり。減給」

「は、いや、ちょっと待って、ちょっと待ってくださいよ火野社長!? 流石にそりゃねぇだろ!?」

「冗談に決まってるじゃない。貴方ってホントに馬鹿ね……いい加減学習しなさいな」

今度は背後、今回はちゃんとドアの方から人が入って来た。
すらりと伸びた深長に豊満な双峰、シニョンに結い上げた長い黒髪のクールビューティー。女性はそのまま部屋の中央を歩き、室長席に座る火野の左脇に控える形で全員を見渡した。

「これはこれは佐伯令子お姉さま、おはようございます」

「ホント、女ってみるとすぐに態度変えるんだから……海斗君も亮も、こんな風になったらダメよ?」

「こんな風って何だよ! 俺は全ての女性をこよなく愛する“紳士”だぞ、それの何が悪い! ちなみに、現在俺の中の美人カーストナンバーワンは令子さん、アンタ以外にありえない! 容姿、スタイル、性格、職業、全てが揃った完璧超人ッ! これを置いて他の女性はあり得ないッ!」

「あっそ。それじゃ仕事に入るわね」

…………いや、真面目にそろそろ学習しようぜ。
亮の呟きは、何度も香住に届いているであろう筈だが、本人が学習しなければ意味が無いのだ。
香住を手早くあしらった佐伯は、持ち込んだ鞄から一冊の資料を取り出した。それは海斗達が事前に配られた資料と同じものであり、彼女はそれを徐に開くと解説を始めた。
かくいう間に香住は部屋のカーテンを閉め切り、なんとも慣れた動きでディスプレイの用意を済ませた。もう身体が覚えているのだろうか、それとも佐伯の意思を読んで自発的に動いたか。どちらかは誰にもわからないままである。

「今回の依頼は、『ソード・アート・オンライン』の内部調査。内容を攻略しなければ解明できないバグや異常があると予想される為、二人には基本的には一般プレイヤーとして調査・進行を務めてもらう事になるわ。
その後、各異常値に対する脳髄への影響や外的要素の調査、そしてウイルスなども、今回の調査の依頼に含まれているわ。『The:World』のように“AIDA”や“モルガナ因子”のような、独自に成長する事で生まれるバグの誕生も考慮されるから、そういった場合には、」

「管理者として、それらを駆除しろって事だろ」

「そう言うこと。一応セレモニー後には、貴方達のアカウントに管理者権限を付与する事にはなってるから、迷惑プレイヤーやRMTプレイヤー、チートなども貴方達の駆除の対象に当て嵌まるわ。そこのところ、ちゃんとしてね」

「佐伯さん」

「何かしら?」

「…………あまり考えたくはないんだけど、未帰還者のような事件も発生し得なくはない、んですよね?」

全員が推して黙る。否、黙らざるを得ない。
此処にいてその言葉を知らぬ者はいない。それこそが、彼ら『.hackers』が生まれた由縁なのだから。
『未帰還者』――過去における『The:World』において発生した、プレイヤーがゲーム内でキルされる事で“現実でも”意識不明になる不可解な事件。一時は、新聞の一面を飾った一大事件でもある。
その真実を知るのはこの場にいる者と、当時の事件の根幹にかかわった数十名、そしてその全てを把握するCC社のみだった。細かい話は出来ないが、最終的にそれらの事件は海斗と亮の二人によって解決された、とだけ言っておく。
そして今回はフルダイブのシステムを採用したVRMMORPG。
ならば、意識を丸ごとゲームの中に停滞させるこのシステムは、未帰還者のような被害を生み出さない事はない、とは言い切れない。むしろ、彼らが真っ先に考慮したのはサイバーテロやウイルスではなく、そちらなのだ。

「ありえなくはない、わね。なにせ意識が全てゲームの中へ持っていかれるんですもの、簡単に言うなら軽度の未帰還者状態のソレに近いわ。故に、私達が選ばれたんでしょうね。――違いますか、室長?」

「否定はできない。当時のCC社の機密が、何らかの方法で漏洩していた可能性も無くはない。だがそうだとしても、私は“未帰還者”という言葉を聞いてそれを放置するなど、とても出来んのだ。少なくとも、君達もそうだろう?」

無言の応答。全員が頷くとともに、その総意は確認できた。
そして思った。自分たちは、思う以上に“あの世界で”繋がっていたんだと。あの頃から数年経った今でも、あの頃の出来事は自分達を繋げてくれているんだと。
そしてその出来事が今もなお、この世界を蝕んでいるというのなら――――

「我々は今再び、かつての『.hackers』として、かつての碑文使いとして、世界を救いたいと思う」

「……世界、ってのは大袈裟だけど」

「まぁ、今も昔もやる事は変わらない、って事よね」

「俺達は、俺達に出来る事をやるだけだろ。何かを失っても取り戻すんだ、あの時のように、全てを」

「僕は、そんな大仰な事は言えないけど……でも、救いたいって気持ちはある。僕らには、それが出来ると思う」

香住がディスプレイの電源を切ると、部屋は暗闇に包まれた。
同時に佐伯が部屋の光を遮るカーテンを払い除けると、暗闇の部屋に莫大な光が降り注ぐ。誰もが眩しさに目を細め、ふと時計を見れば時刻は午前十時半。さて、という佐伯の言葉で空気が一転したと思うと、彼女は鞄から新たな資料を取り出した。まるで広辞苑のような分厚い書類、それを海斗と亮、二人の席にドンッ!と置いた。

「「…………なに?」」

「今回の件での、管理者として確認してほしい事項、その一覧。P,25からP,60までは必須だから、暗記しといてね。プレイヤー勧告の時も、その文面通りのセリフ呼んでもらうから。あ、あとP,250の項目は法的処置の事だから全部暗記とは言わないけど、必要最低限には覚えといてね」

「(よかったぁ~、俺今回外れといて。あんなの今から覚えるとか発狂モノすぎんだろ……流石は令子さん)」







      ×      ×







「二人とも、準備はいいかしら?」

ナーヴギアを装着した二人は、対策室備えつけの仮眠室で横になっていた。
その部屋の中にも三台のPCがあり、そのうちの二台を使用して二人は今回の仕事を始めるつもりだ。ソフトのセットOK、体調管理良し、いつでもいける。

「んじゃ頑張って来いよ、御二人さん」

「定時報告は欠かさんようにな」

三人に見守られる中、二人はフルダイブ始動キーを発声する。
そうして、海斗にとって第二の、亮にとって第三の、新世界での日常が始まった。




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後書き



……もう何も言うな。
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