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ひねくれ騎士(ナイト)の|生存報告《ライブレポート》

作者:einhart800
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二車奏真Ⅱ

ひねくれ騎士の生存報告
2


人の第一印象は見かけによるものが多い。実際に受験で不良のような学生と真面目そうな学生だったら真面目そうな学生の方が好印象なのも事実だ。だが、重要なのは中身だという人もいるのも事実だ。人は見かけによらない、不良のような学生でも他人に迷惑をかけず、いざという時には人助けをしてくれる。逆も然りだ、いくら真面目そうな生徒でも裏では悪事をしているかもしれない。どんなに頑張っていても英雄とは儚いものなのかもしれない。それでもあの人に選んでもらったのだから。







第二実技場では剣撃がなっている。教師たちによる模擬戦が行われているからだ。実技室は模擬戦場を結界で覆われこちらに被害が出ないようにつくられている。そして決着がつく。男性教師と女性教師による戦闘であり、結果は女性教師が勝利した。
「以上が模擬戦です。3日後にみなさんが参加するのはタッグ戦になります。ですから、この場でペアを組んでください。」
担任の笠木がいうと少し騒がしくなる。自分もパートナーを見つけなければならないが、周りは自分が組む相手を決めていたようであぶれるような形になってしまった。同じ編入生の浅桜を探してみたが浅桜は浅桜で組む人は見つけていたようだ。肩を落としていると後ろから肩を掴まれる。
振り返ると不機嫌そうな鬼塚がいた。
「二車......組むやついるか?」
表情が表情なだけに今にも泣きそうになるそれほどの迫力だ。
「い、いないけど」
すると穏やかな表情になり。
「良かった。なら、俺と組もう。なぜだか知らんがこういうのだとどうしても余るのだ。」
「そ、そうなのか」
理由はいくつかあるだろうが誰とも組めないとは、まあ俺も組めなかった事実には変わりはないが。


「それではみなさんの対戦相手を通知します。」
一斉に携帯が鳴る。自分のを確認すると通知のメールが届いていた。
俺たちの初戦は宇喜多 直人と森山 実コンビのようだ。
「こいつらの事知ってるか鬼塚?」
「ああ、このクラスの委員長と副委員長だ」
鬼塚と話す。
「実力は?できれば、俺はあまり戦いたくないんだ」
「そうか、それは残念だな。事実上このクラスのトップが宇喜多だ。武器は刀だが頭が回るやつでこういうチーム戦ではもっとも効果を発揮する。刀の腕も中々だったぞ。」
「そうなのか。もう一人は?」
「森山は弓を使う弓兵で時間がかかればかかるほど奴はいたぶるように獲物を射る。基本的に無口な奴だが実力は相当だ。」
鬼塚が知る対戦相手の情報を聞く。
剣士と弓兵でオーソドックスだがバランスの取れたチームのようだ。それにしても初戦からそんな実力者って俺の運はとことんついていないようだ。
「えー、対戦相手も決まったことですし、みなさん各々準備を頑張ってくださいね。それではこのまま自由訓練とします。」
笠木が告げるとそれぞれ
模擬戦場に散らばる自分達も始めようとする。
「でなにすればいい?」
「そうだな、とりあえず、一本やるか?」
そう言うと鬼塚は金棒を出現させる。
「え......それどうやって」
動揺を隠せず少しビビる。
「ああ、これが俺の霊装の八星だ。」
「霊装?」
「そりゃ、ってお前霊装どうした?素手なのか?」
「いや、俺、その霊装とかいうの持ってねーんだ。」
呆れたように鬼塚は頭を抱える。
「てっきりもってるのかと思ってたじゃねーか。」
「悪いな」
「いいや、気にするな。説明すると霊装ってのは自分の魔力と魂を燃料とする武器だ。入学時に工房で作らされるのだがお前は作ってないのか?」
「俺の入学が決まったのは二週間前だがそう言った通知は届かなかったぞ。」
「霊装がないんじゃ模擬戦はできねーしな」
そんな話をしていると声をかけられた。
「やあ、君が噂の騎士君だね。僕は宇喜多、こっちが森山知ってると思うけど君たちの対戦相手だよ。」
フレンドリーに話しかけてくる。隣にいる森山は軽くお辞儀をするだけでケータイをいじっている。
「よろしく、二車だ」
「よろしくね。それから話が聞こえたんだけど君、霊装がないって言ってたよね。」
「ああそうだ。こりゃ鬼塚には悪いが棄権させてもらうしかないかな。」
「まあ、そうだな。」
鬼塚もうなづく。
「そうなんだ。なら作って正解かな。これ使ってくれないかな。」
そう言うと一本の剣を渡してくる。
「どうしてだ?」
「君が僕たちを救ってくれた。クラスのみんなから感謝の印だよ。学園にある工房に依頼したんだ。今日の朝にできたからね。折を見て渡そうと思ってたんだ。」
笑顔を向けてくれる。これを始めに周りからも感謝の言葉が投げかけられる。少し嬉しくなった。ようやくクラスに受け入れられたことを実感できた。
「そんなもん、いつ作ったんだ。俺は知らんぞ」
鬼塚が少し怒りを見せて言うと
「ああ悪いな鬼塚くん連絡はしたはずなんだが。」
すまなそうに言うどうやらいい奴らしい。
「フン」
「まあ、ありがたく使わせてもらうよ。」
「よかった。かといって試合は手を抜かないからね」
握手を要求するように手を出してくる。
「こちとら初心者なんだぜ。手を抜いてくれよ。」
その手を握り言った。
「考えておくよ、でも、生徒会長でも勝てなかった人に勝ったから必要ないと思うけどね。じゃあ、訓練に戻るから」
そして宇喜多と森山は去っていった。
「奴らには気をつけろよ。」
「なんでだ、いい奴らじゃん。」
「ああ、そうだな。」
そして俺は鬼塚と模擬戦をして戦い方の基本を教えてもらった。


訓練が終わり実技室の前を歩く、昨日は保健室に泊めてもらったが、回復したので寮へ移っても問題ないらしい。指示された番号の部屋を目指す。
寮といえばルームメイトがいるのが当然だ。昨夜は寮に行っていないからルームメイトがどういう人なのか教えてもらっていない。反りの合わない人なら一緒の空間にいるだけできつい。どうせ住むなら自分の部屋くらいは出来る限り最良の空間にしたいものだ。
寮に着く階段を登って行くと何人かの生徒がすれ違う。そんな中一人の女子生徒が自分を見た途端一目散に逃げていったが特に気にはしなかった。
部屋に着く、鍵は開いてるようで開けて入る。
「あ、おかえりー」
中には浅桜 祢子がいた。
常識的に考えようなぜこの部屋に浅桜がいるのか、俺は入る部屋を間違えたのか。
「今日からよろしくね。二車」
どうやら部屋を間違えたわけではないらしい。また、今の俺の反応をみて浅桜は悟ったような顔をして。
「もしかしてこれも説明されてないようね。」
「まさしくその通りだ。説明してくれ。」
一度頭をうな垂れてから浅桜は言う。
「この学校は色々なところから異能者とか多種族が集まってくるでしょ。名家の出身だと自分たちの血をより良いものにしたいって考えるわけ。だから、ここでは色々な異能者と交流してお相手を見つけるっていう目的もあるんだ。」
「なるほど、だから男女の相部屋も普通と。」
「あたしだって最初は驚いたんだよ。でも、他に部屋がないし編入生同士相部屋の方が都合がいいんだって。」
深いため息をつく。だが考えてみればよかったのかもしれない。今日話してみてわかったが俺と浅桜は問題なく本音で言い合っているはずだ。浅桜も絶対嫌だと言ってるわけではないし。一応この件については納得したことにする。
「じゃあ、二車............早速愛の結晶でも作る?」
悪戯っぽい顔で言ってくる。
「断る」
そう言って俺は浴室に向かった。




数日間の特訓で少しはまともに剣を振れるようになった。これで模擬戦は大丈夫だろう。ここまで協力してくれた鬼塚に感謝だ。だが、相手はクラス1位の実力者だ負けてしまってもおかしくない。とりあえず、自分の限界を見せつけさっさと他校に転校させてもらえるよう頑張ろう。
第二実技場は前の試合の熱気を残していた。ここに立っているだけで吐きそうだ。しかし、鬼塚に気を使わせるような真似はさせてはならない。速攻で終わらせるために不安要素をできる限りなくす。
相手もそれぞれ日本刀と弓を構えている。宇喜多からは先ほどいい試合をしようと言われた。刀という霊装から正々堂々戦うタイプなのだろう。そんな相手に奇襲のような真似をするのは気がひけるが鬼塚の成績のためだ。やらなければならない。この数日間自分にできる剣術基礎をしっかり学んできた。これでダメでもすぐに倒れるわけにはいかない。今回俺たちが立てた作戦はまず、俺が宇喜多と戦い時間を稼ぐ。その間に鬼塚が森山と距離を詰め倒す。そして二人で宇喜多を倒す。単純だが最良の策だと思う。
『5』
カウントダウンが始まる。余計なことは考えず目の前にいる相手と全力で戦う。
『4』
意思を固め、足に力を込める。
『3』
この間の襲撃者との戦いを思い出し、少しの不安が生まれる。
『2』
深く息を吸う。
『1』
ゆっくりと吐き出す。
『0』
ブザーが鳴るよりも早く俺は宇喜多に斬りかかった。しかし、予想していたかのように俺の初撃を刀で防ぐ。
「やっぱり君が来たね。大丈夫、僕も最初から君とやる気だったんだ。」
そう言い斬り払う。相手はクラス1位だこうくることくらい容易に予想できたろう。だが、方針は変えない、鬼塚の実力を信じて宇喜多に向き直った。




二車が勢いよく飛び出し、宇喜多と打ち合った。こちらも作戦通り早急に森山を倒さなければな。幸いにも俺の攻撃が一つでも当たれば森山を倒すことは可能だろう。そのための作戦、二車の勢いに乗るように移動し、八星を振り下ろす。だが、手ごたえがない。
「はずれ」
の声と共に矢が飛んでくる。八星で叩き落とし防ぐ。
「やっぱり鬼さんは強いな。じゃあ、鬼さんとは隠れんぼで遊ぶことにしよう。」
そう言うと森山の姿が見えなくなる。
そして右足に激痛が走る。
「やられる前に終わらせるつもりだったが。仕方ないか。なるべく早く終わらせる。」
八星を構え直して辺りを警戒する。
「行くよ」
同時に矢が飛んできた。



打ち合いを始めてから少し経ってきた。宇喜多が距離をとる。
「流石、入学式の騎士だね。」
「お褒めの言葉ありがとよ。」
遅い、予想はしていたがこうも時間がかかるとは俺は全力で攻めているがそれを全て防がれている。それに宇喜多がまだ攻めに出ていない。
この隙に呼吸を整える。
「そういえばその剣の使い心地はどう?」
「あー、重いけどこれが普通の剣の重さだろ。なんとか使えるぜ。」
再び構える。
「それは良かった。じゃあ、そろそろ魔法を加えて戦おうか。」
そういうと今度は宇喜多の方から斬りかかってくる。鬼塚に教わったもう一つを試す時だ。身体中の神経を目に集めるように集中する。そして開く。宇喜多の動きが遅く感じる。それを目で追い剣で防ぐ。
「なるほど、見切りもできるようになったんだ。なら、」
防がれたことに喜ぶようにもう一撃を振るってくる。今度も同じように防ぐが衝撃を吸収することはできなかった。そして後ろに下げられる。
「やっぱり、まだ、魔力を込めた一撃には耐えられないみたいだね。それじゃあ、全力でいくよ。」
宇喜多の剣が輝く。おそらく魔力を纏わせたのだ。魔力を帯びた剣の威力がどれほどのものか自分は身をもって経験している。だからこそ、魔力には魔力で対抗しなければならない。再び剣に集中する。
「お、君もやるんだね。いいだろう、さあ来い。」
ここ数日は剣と見切りの特訓に力を入れていた。魔力を剣に纏わせるのは久しぶりである。持っている剣に集中し魔力を込める。魔力を込めると急に体の力が抜ける。剣に魔力が集まるのを感じるが同時に全身の力が吸われていることに気づいた。
「な、なんで、今まで普通に、使えてたのに。」
宇喜多が笑い出す。
「いやー、まさか、この噂も本当とは恐れ入ったよ。」
「どういうことだ。」
「君ってさぁ、魔力がないんだろ?」
「さあな」
宇喜多の態度が変わり警戒する。この態度を俺は知っている。忘れられないあいつらと同じ態度だ。
剣をさし膝をつく。
「その剣はなあ、持ち主の魔力を根こそぎ奪い取る魔剣なんだよ。魔力を送らなきゃただの剣だ。だから、お前が全力を出すまで発動しなかったんだ。」
愉快そうに宇喜多は笑う。
「なんでこんなことすんだよ。歓迎してくれんじゃなかったのかよ。」
剣から手を離しいう。魔力を奪われたせいで立つことができず膝をついている。
「誰がお前など歓迎するか。なあ、みんな」
宇喜多に続きこの試合を見ている生徒の大半が同意する。
「お前のようなぽっと出の素人が生徒会に選ばれるなど間違っている。だから、俺はこの試合でそれを証明する。どんな手を使ってもな。」
宇喜多の言うことはもっともだ。やはり、自分は生徒会に選ばれるべきではない。これほど多くの生徒が反対をしている。ここは、潔く負けを認めようそうすれば、俺は普通に生きられる。こんな学校で平凡を過ごせるのだ。
一瞬だけ真白の言葉がよぎる。
「君への手向けとして僕の能力で倒してあげるよ。大丈夫、多少痛いが死ぬなんてことはない。」
そういうと宇喜多の周りに黒い靄のようなものが集まる。どうしてだろう、真白のことが思い出すと少しでも抗いたくなった。残りの力を有効に使うため、宇喜多に注意を向ける。幸いにも相手は刀、正面からの一撃が奴の切り札だろう。ならその一撃が振り下ろされるタイミングでかわせばいい。そう考えていると背中に激痛が走った。
「ぐ、」
後ろを振り向くと誰もいない。
今度右足に走る。斬られたような痛みだ。
「ふふふ、困惑している君に答えを教えてあげるよ。僕の能力は影を操る。影を使って君を斬っているんだ。答えも言ったことだしそろそろ眠っておくれ」
そういうと宇喜多を包む靄が一層強くなる。同時に俺の影が檻を形どる。
「影牢の棘」
同時に影が刃となり全身を切り裂いた。
魔力を失い、全身にダメージを受けた俺は立っていることができず倒れる。意識が朦朧とする。
「まだ眠らないでくれよ。次が最後の棘だからな。」
それを聞き視線を少しあげる。影が集まり漆黒の針のような形になる。
「眠れ、偽りの騎士(ナイトオブライアー)」
漆黒の針が放たれる。
グサ
そして貫いた。






おかしい、確かに針は放たれた。そして俺を貫いたはずだ。しかし、激痛が走らない。
目を開ける。目の前には自分の盾となり針に貫かれた鬼塚 護が立っていた。
「鬼塚、なんで!」
思わず涙が浮かぶ。
「俺たちは友達だろう。苦しい時は助け合うものだ。」
そういうと鬼塚は宇喜多へと向きなおる。
「君も物好きだね。そんなの庇ったってとくはないだろう。まあ、嫌われもの同士傷でも舐め合えばいいさ。」
宇喜多繰り出す影が自分たちを切り裂こうとくる。鬼塚はそれらを見切りすべて八星中で受けいなす。影に貫かれた痛みは残っているはずだが、それを感じさせぬかのように一つ一つ防いでいるのだ。
「やっとおにっぽいのが見れた。じゃあ、ここからもっと踊れるよね。」
どこかで傍観していたであろう森山から矢が放たれる。これには対応が遅れ頬をかすめる。
「遅いぞ森山、何してた」
宇喜多が怒りをぶつける。
「ごめんごめん、決め技入ってたから楽できると思ったんだ。」
森山の矢が加わり、少しずつではあるが鬼塚の傷が増えていく。
「鬼塚、もういい、それ以上ボロボロになる必要はない。俺たちの負けなんだ。」
鬼塚が自分のために頑張っている姿が辛くて俺は声を上げる。できる限りの努力はした。はじめから勝てると思ってはいない。それでも鬼塚のためにと戦ってこの有様なのだ。どれだけ俺は迷惑をかけるのだろう。どうして鬼塚は頑張るのだろう。
「そんな弱音を吐くな!!!俺は今、友人を侮辱されたそんな奴を許せるか!!!」
咆哮のような言葉だった。
「俺が侮辱されるのはいい、俺が嫌われているのも事実だ。だが、お前は会長に選ばれた。玉依書記にもだ。そして俺の大切な友だ。そいつに簡単に諦めてほしくはない。だから、お前の名誉を守る。」
八星を大きくなぎはらい周りにあった影や矢を一掃すると宇喜多に向けて一気に突っ込んだ。
だが宇喜多に届く前に倒れる。
「やっぱ君は鬼だね。宇喜多の棘をまともに受けた上で矢の毒が回んないどころかあんな動きをするなんて。」
鬼塚の前に立ち森山がいう。鬼塚もうつ伏せに倒れた状態から八星を振り上げるがかわされる。
「まだそんな動きができるんだ。すごいすごい。」
空を切った八星は鬼塚の手を離れ俺の眼の前に落ちてくる。
「これで決まったな。全く予想以上に手間をかけさせられたな。」
宇喜多が勝利を確信し、影を引っ込めた。
鬼塚が戦ってくれたおかげで立つぐらいの力は戻っている。八星を手に取る。よし、まだ戦える。八星から伝わる力が俺を立たせた。
「なんだよ。まだやるのか。あのまま倒れてりゃ見逃してやったのによ。」
そんな言葉は気にしない。八星を知るために集中する。魔力は全て無くなっているはずだ。しかし、不思議と前に赤城の剣を使ったときと同じ感覚だ。そして八星から思いと記憶が流れてくる。
宇喜多が影を操り、森山が矢を放ってくる。俺はそれを先ほどの鬼塚のように防いだ。
「所有(ポゼッション)」
矢を見切り、影をいなし距離を詰める。二人の注意が俺に向いている、だから、鬼塚が狙われることはない。
そして宇喜多の前へと立つ。
「今更そんなことしても無駄だぞ。」
そして刀で切り掛かってくる。影を使い、敵を不利な状態にする割には磨きあげられた太刀筋を感じた。俺はそれをかわしてカウンターの容量で八星を振るう。
「がはっ!!」
鈍い音とともに宇喜多が壁まで吹っ飛ばされた。衝撃により土煙が舞う。
「よし、次はお前」
俺が宇喜多に近づく直前、森山はすぐさま距離をとっていた。
「やっぱり、逃げといてよかった。」
そして矢を構える。
「もっと早くしなきゃ。ダメだよね。」
自分も八星を森山へ向ける。
先ほどの剣とは違い八星から伝わる鬼塚の思い、霊装の魔力その全てが今の自分を奮い立たせている。負けるわけにはいかない。
「・・・・よくも、よくも、よくも」
ふとそんな声が聞こえた。聞こえた方に向き直る。
「あーあ、じゃあ俺はサボるわ」
森山は気配を消し始めた。
直後に宇喜多が斬りかかってきた。より疾く、そして影の刃を織り交ぜながら。太刀筋を見切るもそれを上回る速度で斬撃してくる。一度は制した敵に再び押され始めた。
しかし、宇喜多は攻勢に転じたようで一切の守備をする気がないように感じた。だから、俺は八星に集中し始める。多少のダメージは覚悟の上で八星に秘められた力を探す。
そして一瞬だけ、攻撃が緩んだ。一泊の間ではあるがそれが隙であることが本能でわかった。集中していた残りの魔力を全て八星につぎ込み解き放つ。
『泣いた朱鬼(ヴァィンテ・ルーテンオーガ』
八星に朱いオーラがまとわれ、空間を震わせる一撃が放たれる。
宇喜多はそれをまともに受けるが、手応えが全く感じられなかった。
グサリ
何かが俺の腹部を貫いたようだ。腹部を確認する。黒い影の棘が深々と俺を貫いていた。
それをきっかけに何本もの棘が俺を貫く。
激痛により意識が遠のく、どうやらここまでのようだ。鬼塚の方を向き謝る。そのまま意識がなくなった。






屈辱だ。俺はこれまで生徒会を目標にありとあらゆる努力をしてきた。そのために卑怯と言われる手もなんでもしてきた。目的遂行のためなら効率の良い手段を取るのは当然のことだ。
その努力を嘲笑うかのように奴は生徒会に選ばれた。なんの努力もしてない、一度だけ事件解決に貢献した程度でだ。だから、これは俺たちが正義例え相手に不利な条件を与えようとも生徒会に選ばれる実力ならなんなくはねのけるはずである。
「時間をかけさせやがって。これで俺たちの勝ちだ。」
倒れた二車 奏真を一瞥し、森山の方へ向かう。足が少しふらつく。二車の一撃が当たる直前、俺は影の中へ逃げそれをかわした。だが、奴の一撃は空間事態を激震させる攻撃だった。当然影の中にも影響が出てくる。最初の時点であらかた魔力を奪ったというのに奴はそんな一撃をしてきた。
「くそが」
少なからずこいつには才能があることを理解し、自分の弱さを痛感した。
もう一度二車を見る。変わらずに倒れたままだ。ふと様子がおかしいことに気づいた。奴の体から黒いもやのようなものが出ているのだ。森山も違和感に気づき警戒を強めている。自分も奴に注意を向ける。

何かが横切った。

恐る恐る横切ったものを目で追う。それは二車 奏真がもっていたであろう鬼塚の霊装八星だった。横切った八星は森山を捉え戦闘不能にしている。
今度は何かが近づくのを感じとっさに影で防御を取る。攻撃は防いだが衝撃が殺せず。少し飛ばされる。正面を見るととどめを刺したはずの二車 奏真が立っていた。しかし、今までとは明らかに違う。体の全身を黒い靄で覆われ、力なく立っている。だが、こちらへ明確な殺意が向けられているのを感じた。少なからず自分は事件や学内戦争の経験から今奴が向けている殺意は人間のそれではない。例えるなら獲物を前にした獣の殺意に似ている。
唐突に二車は天を仰ぎ、獣のように咆哮をあげた。


「A――urrrrrrッ!!」



 
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