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忍具を扱う少女

作者:不遇救済
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第1話

 
前書き
 初めまして、不遇救済と申します。
原作では必要以上に出番を削られ、忍具という誰でもつかえるものを個性とする。そしてネジやリーの活躍の中、特に何もない彼女はまさしくNARUTOにおけるヤムチャ、不遇キャラ。
 どうか彼女が活躍する物語をお楽しみいただければ幸いです。

 

 

 忍と呼ばれる集団が世を支配する世界の中、火、水、風、雷の五つの国は大きな力を持ち、五大国と呼ばれている。そしてその中でも最強の力を持っていると呼ばれているのは火の国に存在する木の葉の里。組織のトップである火の国の影、火影がまとめる木の葉の里は、一番レベルの低い下忍でさえ他里に比べると高い実力を持つ。

 そして木の葉の里で忍を育てるアカデミーと呼ばれる忍者育成学校の教室でため息を吐く少女が一人。
 茶髪の紙をお団子にまとめ、地味なチャイナ服に身を包む少女はアカデミーの授業が終わった後も立ち上がることもせずに肩肘をついて憂鬱な表情をしていた。

「テンテン、こんなところでどうしたのよ?」

 そんな彼女、テンテンに声をかけたのは女性として羨まずにはいられない色気と、幻術の才能を携えたアカデミーの女性クラス担当教師、夕日紅であった。
 アカデミーは基本的に男女混合クラスだが、忍になろうとする女性はその数が少ない。そのため、学年を問わず、女性だけを集めたクラスが存在するのだ。紅はその女性クラスを担当する忍であり、多くの生徒から慕われている。テンテンも他の生徒と同じように相談ごとに乗ってもらった覚えがある。

「なになに? どうしたのよ。もしかしてついにあなたも恋?」

 ニヤニヤと顔を寄せる紅につい嫌な顔を浮かべてしまう。紅に相談する女子生徒の多くが恋愛相談であり、いままで真面目な相談しかしてこなかったテンテンにも好きな人ができたと思ったのだろう。

「ち、違いますよぉ!」
「あら残念、あなたもあのうちはくんに恋をしたのかと思ったのだけど」
「そういうのはわたし、いいんで。それに、あんな一人でいるのがかっこいいと思っている子なんてかっこいいとか思わないですよ」
「あらあら、ませちゃって。じゃあなんであんなに辛気臭そうな顔をしてこんな時間まで教室に残っていたの?」

 紅に言われて外を見たテンテンは、思いのほか教室に残っていたことに気づいた。授業が終わったばかりの頃はまだ明るかった空が、夕日によって赤く染まっていた。彼女が教室に来たのもカギを閉めるために見回りに来たからのようだ。

「気が付いていなかったのね。相談ならいつでも乗ってあげるから、とりあえずいまは帰りなさい。暗くなるといろいろ危ないしね」
「……はい、わかりました」

 テンテンが自分の悩みを口に出そうかを悩んでいることを察したのか、紅は帰ることを促す。悩むだけでは何にもならないが、一人で悩む時間も確かに必要なのだ。相談するのはそれからでいい。
 テンテンはその言葉に素直に頷き、ずっと下を向いていた顔を少しだけ上げて家へ帰っていくのだった。






「ただいまー」
「お帰り。きょうは遅かったナ」

 家へ帰ってきたテンテンを出迎えたのは父親であるテンインである。
 嘗て初代火影が木の葉隠れの里を創立する時、現在では名家と呼ばれる一族以外にも、他の大陸からやってきた異国の一族を迎え入れた。テンテンの家はこの異国の一族にあたる。そのため名前の構成が木の葉隠れの里の他の者と異なる。

「夕飯はどうすル?」
「いい。きょうは疲れたからもう寝るわね」
「わかった。ちゃんと休めヨ」

 幼い頃、木の葉隠れの里ではなく彼らの家における本国に育ったテンインの少し訛っている。彼の言葉に返事もせずにテンテンは自室へ戻った。

「はぁ……」

 授業が終わってからこうしてベッドに倒れこむいまのいままで、ずっと自分の悩みを消化できずにいたテンテンは、こうして落ち着ける自室で横になってもまだ、どうすべきかわからずにいた。
 彼女の悩みは他の者からすれば些細な悩みなのかもしれない。特に、お年頃の女子にとっては悩む価値もない程度のものだ。しかし、忍になる者はその多くが壁に当たる。彼女はその悩みを抱えるのが少しだけ早すぎただけのことだ。

「わたし、どうしたらいいんだろう?」

 彼女の悩み、それは今後どうすればいいのか、ということだ。彼女はこれから忍としてどうなりたいのかという大きな壁に当たっていた。明確な答えがないからこそ彼女の悩みは進まない。
 才能さえあればその力を磨けばいずれ高みへとたどり着くことができる。憧れる存在がいれば、よりその存在に近づけるように努力をすればいい。その内に自分のなりたい姿もみつかるだろう。
 しかし、彼女には自分の才能も憧れる存在もいなかった。アカデミーでの成績も、平均は超えるが上位にはなれず、忍術は基本ができても応用が拙い。親が忍なら憧れる存在にもなるのだが、母親は家に居らず、父親のテンインはただの武器屋を営むおっさんだ。いい親だとは思うが、忍として憧れる存在ではない。忍として一番身近な存在であるアカデミーの教員はどうか。何度か話をしたことがあるイルカは先生として好ましく思っていても、違う。ミズキは論外。紅は――

「……はぁ」

 自分の胸を確かめて、違う意味でため息を吐く。
 慌てて忍の姿であると思い直し、再び紅の姿を思い浮かべ、諦めた。親もダメ、身近な忍もダメ、もう何をすればいいのか彼女にはわからなかった。
 そうは言っても彼女の悩みはまだ必要ないと言える。アカデミーに通ううちにカリキュラムに着いて行けずに諦める者も少なからずいる中で平均以上の評価を得ていることや、基本ができるのは十分に優秀といえる。アカデミーレベルでは突出した能力はまだ必要ない。自分の目指す先がみえないのも当たり前のことだ。

 家にある書物をパラパラと読んでみたテンテンであったが、結局何がいいのかもわからずにその日はそのまま寝ることにしたのだった。





 翌日、彼女はアカデミーへ来ていた。もちろん、それは紅に相談するため……ではなく、具体的なイメージを掴むために様々な資料を探そうと思ったからである。木の葉隠れの里には一般開放されている資料館や図書館などがあるが、忍の資料は里外不出のものだ。その点、アカデミーの図書室はこれから忍になるアカデミー生のために多くの資料を備えている。
 きょうのアカデミーは休校日。一般家庭出身で修行できないこどもたちのために休校日も利用することが可能であるため、使える時間を十分につかって自分の目指す姿を探そうと思っていたのだった。

「おう、テンテンじゃないか。きょうはどうした?」
「イルカ先生、きょうは図書室を使わせてもらいたくて……」
「そうか、わかった。まったく、ナルトのやつもテンテンくらい真面目だったらいいんだがな……」
「ナルトって……」
「ああ、俺の担当しているクラスの問題児なんだがな。負けん気はあるものの体術や忍術まかりで勉学はさっぱりだ。忍としては術だけじゃなく勉強も大切なんだがな」
「ははは」

 テンテンもナルトという少年のことは聞いたことがある。一つ下の学年にいる問題児で落ちこぼれ。同じ学年にも落ちこぼれと呼ばれている存在はいるが、彼以上にそのナルトという子は多くの者から煙たがられていると聞く。そのどちらともあまり関わったことがない彼女としては、そんな問題児を同じ生徒としてみるイルカはすごいと思う。そして同時にいつの間にか彼らを見下している自分に気づき、嫌な気分になった。

「まあ、そうはいってもお前以外に休校日にアカデミーを利用するっていう子は他にいないんだけどな。だからまだ図書室のカギはかけっぱなしなんだ。終わったら職員室に戻してくれればいいから、自分でカギを開けてもらってもいいか?」
「いいんですか?」
「本当はダメなんだけどな、テンテンなら大丈夫だろう。それに、きょうは他の先生も休みでここを空けるわけにはいかないんだ。悪いんだけどいいか?」
「それはもちろん、いいですけど」
「なら頼んでいいか?」
「……はい」

 イルカに渡されたカギを握りしめ、彼女は図書室へ向かう。

 真面目、信頼、勉強。彼女にとってこれらの言葉は決してよいものではない。本当は他の女子たちみたいに色恋にはしゃぎたいし、問題児の彼らのように先生に目をかけてもらいたい。しかしいま気になる男子はいないし、現状に憂いているいま、そんな暇はない。自分が天才であれば教師に目をかけてもらえるだろうが、そんな才能はない。だからといって基本はできてしまうため、わざわざ手を抜くのは嫌だった。
 彼女は自分を真面目とも思わない。先生に信頼されるほどの何かをもっていないと思っているため、手に持ったカギが本来の重さ以上に重く感じた。



 
 

 
後書き
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