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ポケットモンスター 急がば回れ

作者:おうーん
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31 イエローとフジ老人

イエロー「ここは……シオンタウン?」

フジ「いや、ここはシオンタウンのおよそ地球の裏側、南米のとある島じゃよ」

イエロー「なぜそんなところに……」

フジ「おそらくそのピカチュウ、いや、ミュウの帰巣本能とでも言ったところかの。
わしらはテレポートで一緒に連れてこられたのじゃ」

イエロー「ミュウ?」

フジ「イエロー君、これはいずれわかることだが君のそのポケモンはピカチュウではない。ミュウじゃ」

イエロー「どこからどう見てもピカチュウですけど」

フジ「そのピカチュウが普通のポケモンではないことに君は気づいておるはずじゃ。
ピカチュウが覚えるはずのない技を使えるのが証拠。完全に変身しきってないのじゃよ。
そして今、ミュウに戻ろうとしておる。
おそらくシオンタウンでミュウツーと接触したのが原因じゃろう」

イエロー「これからピカチュウに何が起こるんですか?」

フジ「まずはミュウについて話さねばならんな。
その昔、わしとオーキド、それからグレンジムのリーダーのカツラという男の3人でミュウを使って異端とされた研究をしていた……」

イエロー「…………」

フジ「……ミュウの研究はあまりに危険とわかり中止された。
そしてミュウは二度と人間に悪用されぬよう他の個体に変身させることになった。
その変身能力で、人類が誕生する遥か昔から環境に適応しながら生きてきたのじゃ。
環境は様々。厳しい自然や群れの中、生態系のバランスを保ちつつ環境に溶け込んでいった。
そして最後のミュウはわしに発見され、思えば研究と称した拷問を受けてきた。
このように科学が発達しすぎた時代でそのままの姿でいるのは生きづらいだけじゃ」

イエロー「それでピカチュウに変身を?」

フジ「うむ、それは君にも関係のある話じゃ。
ちょうどその頃、1人の少年がポケモントレーナーの旅に出ることになった。
彼はピカチュウを欲しがった。
するとミュウはトキワの森でピカチュウの姿に変身した。
それを見てわしとオーキドは決心した。この少年にミュウを託そうと。
ミュウの変身は環境があって初めて完成される。トレーナーのポケモンであることが環境なら、一緒に旅をすることが変身を完全なものとする鍵となる。
少年はピカチュウをたいそう大事に育てた。旅も順調に進んでいった。
だが、洗礼の時は訪れた」

イエロー「洗礼?」

フジ「ミュウのトレーナーになるのは想像以上でな、試練を受けねばならん。
ミュウは知能も高くそして強い。それだけのポケモンを扱うにはそれなりの腕が要る。
少年は洗礼を受けてからミュウを遠ざけるようになり、やがてわしらの元に返してしまった」

イエロー「その少年の旅は終わったのですか?」

フジ「いや、彼は旅を続け、その年のリーグチャンピオンになった。
彼の強さはそのバトルスタイルにあったが、ミュウを連れていた以前とは似ても似つかない凶暴さがあった。まるでミュウへの愛情を忘れようとするほどのな。
彼は修行のためシロガネ山に籠った。
音信不通になって3年ほど経った頃、彼の幽霊がシロガネ山に出るという噂が立った。幽霊とバトルをしたという者まで現れる始末じゃ。
今でも伝説になっておる。シロガネ山にかつてのチャンピオンの幽霊が現れてバトルを仕掛けてくる、と」

イエロー「少年は本当に亡くなったのですか?」

フジ「生きておるよ。
その少年は君の父親なのじゃから」

イエロー「父は僕がピカチュウを貰ったときに初めてポケモントレーナーの旅に出たはずですが」

フジ「おそらくシロガネ山に置いてきた記憶を思い出したのじゃろう。君がピカチュウを選んだことでな」

イエロー「シロガネ山の幽霊は父の記憶なのですか?」

フジ「幽霊というにはちと胡散臭いが、思念の塊が己に挑戦しようとはるばるシロガネ山まで来たトレーナーの思いに応え、ミュウの力で具現化したのじゃろう」

イエロー「一体ミュウは何のために……」

フジ「ミュウは姿を現す相手を選ぶ。その資格があるか試していたのじゃろう。まあ今は昔の話じゃ。
……さて、イエロー君。
どんな形であれ君はミュウに選ばれた人間じゃ。
変身を完全なものとしてピカチュウと旅を続けるも、ミュウを故郷であるこの島に残すも君次第。
ミュウはそれを君に選択してほしくてこの島にテレポートしてきた。洗礼を受けて決めることじゃ」

イエロー「洗礼とは、具体的にはどんなことをすれば?」

フジ「ミュウの記憶に触れるのじゃ。
人類が誕生する遥か昔、何億年という時間を一瞬で遡り、君はビジョンを見ることになるだろう。
わしも昔、洗礼を受けたことがある」

イエロー「そのときは何を感じましたか?」

フジ「昔のことではっきりとは覚えてないが、洗礼の後にこんな仮説を立てて研究所で大笑いされたことがあった。
ポケモンはモンスターボールで捕まえられて人間の命令に従ってバトルをしておる。
仲間や絆やチームワークと言ってしまえば聞こえはいいが、現実的に考えれば主従関係、主人と召使いじゃ。
ポケモンは弱ると小さくなって狭い空間に入りたがる、約100年前に発見されたポケモンの習性を利用して人間が優位に立っているだけに過ぎん。
だがそれも、あと何十年かすれば逆転する。
人間がポケモンを操る時代は終わり、ポケモンが人間を操る時代がやってくる。
なぜならポケモンは人間よりも知能の高い生物じゃ。その証拠にポケモンは人間の言葉を理解できても、人間はポケモンの言葉を理解できん。
ポケモンは人間を試しているのかもしれん。人間に文明や秩序を作らせ、それがポケモンにとって理想とするものか見届けてきたのではないかと思うのじゃよ。
……そして今、君の意思で人間とポケモンの関係、これからの歴史も大きく変わることじゃろう。
さあ、ピカチュウの頭を撫でてみるのじゃ」

イエロー「撫でられて気持ちよさそうにしてるけど、ピカチュウが何を言ってるのかわからない……」

フジ「以前まではテレパシーで通じあっていたが、ピカチュウでいることを選んで使えなくなったようじゃな。
君はどうじゃ?」

イエロー「どうって……?」

フジ「記憶を見たんじゃろう」

イエロー「よくわからなかったけど、何か懐かしいものを見たような気がします」

フジ「今はそれでよい。
これからの人生、大事なことを決める分かれ道が君の前にはいくつもある。
そのときに今のビジョンを思い出すのじゃ。
ビジョンは強さにもなり弱さにもなる。
正しい力を使えば正しい道へ君を導いてくれるじゃろう。
君の父親とも、そのまた父親とも違う道へな」

イエロー「僕の祖父……?」

フジ「わしはこれから旧い友人のところへ行かねばならん。
どうやらフリーザーとサンダーが何者かの手に落ちてカントーが異常気象に見舞われておるらしい。
わしが君にしてやれるのはここまでじゃ」

イエロー「カントーに帰るんですか? 僕らも……」

フジ「もうすぐここにお客が来る。
君とピカチュウは相手をしてあげるといい」

イエロー「お客?」

フジ「君がバトルをしたがってた相手じゃよ。
ほれ、もうすぐそこまで来ておる」

イエロー「あれはリザードン……ということは、レッド君!」 
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