エル=ドラード
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9部分:第九章
第九章
「とてもね」
「そんなに安いんですか」
「そうさ。だからいいんだよ」
彼は言う。
「子供の頃よく親父が飲んでいるのを見てそれで飲んでみたけれどこれがね」
「へえ、チリのワインですか」
「それと軽く干し肉でも食べて」
それが肴だというのである。
「ナッツも一緒にね」
「いいですね。その組み合わせ」
シッドもそれを聞いて笑顔になっていた。
「軽いですけれど充実してますね」
「そうだろ?手早く楽しくできるところがいいんだよ」
「はい、それじゃあ」
「まずは帰ろう」
ポンスもまた明るい笑顔になっていた。
「大学まで。二人でね」
「はい。そして二人で」
「飲もうか」
「そうしましょう」
こう話をして大学に戻るのだった。そうして大学に戻ると実際に明るく二人で飲んだ。それから暫くはゆっくりと過ごすのであった。
骨休めをしてから二人でまた計画を立てる。エル=ドラードを探すことを。
「それで今度はですね」
「ああ、今度だけれど」
「はい」
「地図を見つけてきたよ」
今度は彼が見つけてきたのである。
「ほら、これ」
「また随分古い地図ですね」
「だからコピーも取っておいたよ」
紛失したり破損してしまった時に備えてである。
「もうね」
「そうですか。それじゃあ」
「うん、安心して使えるよ」
それは大丈夫だというのだ。
「それでだけれど」
「はい」
二人で地図を見て毎日遅くまで話をする。それでまた楽しく飲んで食べる。二人は探索の旅に出る時と同じ様に明るく過ごしていた。
そうした日々にポンスは満足していた。そのうえでシッドを見る。
彼女は今日も明るい笑顔だった。屈託がなく澄んでいる。
その笑顔を見てだ。自然にこう思ったのだった。
「いいな」
彼女に対して思ったことである。
「このまま一緒になんてな」
次にはこう思った。
「どうかな」
「それで」
「あっ、うん」
その彼女の言葉で我に返った。急にだった。
「何かな」
「何かじゃないですよ」
また笑って彼に言ってきたのだった。
「それで今度ですけれど」
「ああ、そうだったね」
自分でもぼんやりとした返答だと思うがそれでもこの言葉を出してしまった。
「エル=ドラードだね」
「そうですよ。それでどうしますか?」
「これでいいんじゃないかな」
やはりぼんやりとした返答だった。
「この案でね」
「まだもうちょっと話詰めていきませんか?」
しかしシッドはこう言うのだった。
「もう少し」
「ううん、そうしようか」
今一つ以上に要領を得ない返答を出す彼だった。
「今回は」
「はい。そうしましょう」
「わかったよ。それにしても」
ここで彼はこんなことを言ったのだった。その言葉は。
「あれだね」
「あれって?」
「いやさ、エル=ドラードを探してるけれど」
それが二人の目的である。このことを言う。
「それでもだけれど」
「それでも?」
「エル=ドラードって案外近くにあるのかも知れないね」
シッドを見ながらの言葉だった。
「近くにね」
「っていいますと?」
「いや、そう思っただけだよ」
ここでは笑みになるポンスだった。
「そうね。思っただけだよ」
「どういうことですか?」
シッドにはわからない言葉だった。話を聞いていてついつい首を傾げさせてしまった。
「それって」
「あのさ」
その首を傾げさせる彼女にさらに言う。
「これからもだけれど」
「これからも?」
「一緒に探してくれるのね」
笑顔で彼女に問うた。
「これからもね。ずっと」
「当たり前じゃないですか」
シッドは今の彼の言葉に笑って返した。
「そんなの。言うまでもないじゃないですか」
「ははは、そうかな」
「そうですよ。今更じゃないですか」
シッドは笑ったまま言葉を続ける。
「だからですね。これからも」
「有り難う。それじゃあこれからもね」
「はい、御願いします」
ポンスはエル=ドラードを見たのだった。しかしそれはあえて彼女には言わない。だがそれは暫く後で実現したのだった。彼は次の次のエル=ドラード探索には妻と共に行くことになったからだ。エル=ドラードを探しながらエル=ドラードと共にあったのであった。
エル=ドラード 完
2009・10・23
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