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呼んで欲しくない者 

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第一章

                呼んで欲しくない者
 アスモデウスといえば魔界では知らぬ者はいない。魔神達の中でも相当に高位であり魔界に巨大な屋敷と領地を持っている。
 人と牛、羊の三つの頭を持っていて脚は鵞鳥のものだ。背中には翼があり手には戦旗と槍を持っている。
 その彼であるがだ、近頃家臣達によく不機嫌な顔で言っていた。
「召喚されるのは悪魔の常であるがだ」
「魔神ともなれば」
「ましてや大公閣下の様な方は」
「そうだ、召喚されてだ」
 そしてというのだ。
「召喚した人間の求めに応じるのも仕事だが」
「それでもですな」
「近頃の人間は」
「どうにも」
「悪魔といってもだ」
 こう家臣達に言うのだった、己の巨大かつ壮麗な宮殿の中で。
「恐る者も少なく」
「悪徳ともですな」
「思わない者も出て来ている」
「そうなってきていますな」
「キリスト教の神の教えが絶対とは思わなくなってきている」
 こう言うのだった。
「他の宗教を知りだ」
「イスラムも仏教もですな」
「ヒンズーといい道教といい」
「人間は様々な宗教を知りました」
「古の神話も」
「余の正体も知った」
 それもというのだ。
「余は確かに元天使だが」
「それでもですな」
「他の姿もあった」
「それこそですな」
「古代の魔神でもあった」
「そのことも」
「魔界には他の宗教で神であった者も多い」
 アスモデウス自身もそうであったことを言うのだった、天使であったと共に。
「そうしたことまで知ってだ」
「キリストの教えが絶対ではない」
「正義も一つではない」
「人はそう考える様になった」
「そしてそれ故に」
「近頃務めを果たしてもだ」
 アスモデウスはまた言った。
「面白くない、魂を得てもな」
「魂はただ魔界の住人になるだけで」
「我々を悪とも思っていない」
「それで、ですな」
「ご主人様も」
「領民が増えるのはいい」
 召喚され務めを果たし領民とした者達をだ。
「しかしだ」
「その領民が、ですか」
「悪を為している自覚がなければ」
「それでは、ですか」
「領民となっても」
「面白くない」
 アスモデウスは憮然として言った。
「どうにもな」
「ですな、まことに」
「そのことはです」
「我等は悪魔です」
「悪魔ならば」
「悪魔とは悪を為すとなっている」
 キリスト教の定義、アスモデウスはそれを言った。
「しかしその我等の行いもまた正義、善とされると」
「どうにも張り合いがないですな」
「実際そう言ってしまえばそうですが」
「我等とて元々は神とその眷属ですし」
「天使でもありましたし」
「天界から落ちたのもな」
 このことについてもだ、アスモデウスは話した。 
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