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計画的失言

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第三章

 株価にも影響した、隣国の主鏡な企業のほぼ全ての株価がだ。
 暴落した、その有様は。
「ウォール街の悪夢か?」
「この下がり方は」
「こんなに下がることは滅多にないぞ」
「暗黒の水曜日だぞ」
 この発言が水曜日のものだったからついた表現だ。
「実際にここまで下がるなんてな」
「かなり酷いな」
「通貨が保証出来ないとかな」
「あんなこと言われたらな」
 それこそというのだ。
「どうしようもない」
「これは駄目だ」
「売りが止まらない」
「どうしようもない」
 それこそというのだ、そして。
 通貨自身もだ、急に変動してだった。
「通貨も暴落しているぞ」
「下がるのが止まらないぞ」
「もう駄目だ、下がるのを止められない」
「どうしようもないぞ」
 株価だけでなくこちらもだった、それで。
 この二つの暴落からだ、その国の経済は。
 企業が次々と倒産してだ、街には失業者が溢れ。
 経済は完全に崩壊した、インフレーションも物凄いことになった。誰もものを買わなくなり商品価値も落ちた。
 生き残ろうとする企業は海外に逃げる、政府もそれは止められず。
 社会も何もかもが崩壊してだ、文化遺産登録への抗議すら出来なくなった。その参上を見てだった。
 大統領は補佐官にだ、確かな笑みを浮かべて言った。
「この通りだ」
「いや、そうされるとは」
「思わなかったか」
「失言でした」
 補佐官は大統領のその言葉をこう指摘した。
「明らかな」
「そうだったな」
「しかしそれは迂闊に出したのではなく」
「考えて出したものだ」
「普通失言は迂闊に出すものです」
 だから失言なのだ、それを言ってしまって厄介なことになった政治家は多い。口は災いの元である。
「しかし今の様にですか」
「あえて出す場合もあるということだ」
「そういうことですね」
「そうだ、もっとも私もこうしたのははじめてだ」
 あえて失言を出したことはというのだ。
「凄い効果があったがな」
「ぽろっと出した感じでしたが」
「しかしその一言が大変なことになってな」
「あの国は完全に崩壊してです」
「もう我々に何も出来なくなった」
 それこそ文化遺産登録反対も何もだ。
「少なくともあの政権は崩壊だ」
「選挙での惨敗は間違いなしですね」
「そして次の政権も国家の立て直しに必死になってだ」
「動けないですね」
「またIMFの厄介になることは間違いない」
 以前にもそうしたことがあったのだ、そして今回もというのだ。
「数年は我が国に大きく動けない」
「大統領のたった一言によってですね」
「喧嘩を売るには自分と相手の状況、関係を見ることだ」
 大統領はシビアな顔でこうしたことも言った。
「そのうえで相手にどうした反撃を受けるかも考えないとな」
「あの国はそうしたことがわかっていない」
「それでこうなったのだ」
「閣下も我が国も傷付いていませんが」
「相手は崩壊した」
「まさにスズメバチの一刺しですね」
「蜂は甘く見ないことだ」
 蜂は小さい、しかしというのだ。
「言葉もな」
「たった一言でも」
「迂闊に出た言葉でもな」
 例えそれがふりであってもというのだ。
「恐ろしいことになる」
「そういうことですね」
「では文化遺産登録について本格的に動こう」
「邪魔はいなくなりましたし」
「他のこともな」
 大統領は上機嫌で仕事に入った、それはまさに目の前の蠅がいなくなった顔であった。その顔で仕事をするのだった。


計画的失言   完


                         2015・6・15 
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