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鎮守府にガンダム(擬き)が配備されました。

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第2部
  第8話 お前に最高の○○○を与えてやるッ‼︎ 前編

 
前書き
難産でした。
どうも、銀狼です。
遅れました、盛大に遅れました。
堪忍してくんさい。

さて、タイトルから察して頂けたと思われますが、今回のメインはあの男前なイケメン軽巡です。
まさかのダークホース出現か⁉︎
実は我が艦隊で最も高レベルな艦娘の1人(一隻?)だったりします。
他には加賀さん、扶桑姉様、鳳翔さんが居ます。
因みに鳳翔さん、最近の戦果は加賀さんより上です、なんでや……お艦強すぎるやろ…… 

 
10月5日

深夜
九州 鹿島鎮守府
リンドヴルム

真っ暗な艦内、その一角を歩く兵士がいた。
名をハーパーといい、リンドヴルムの歩兵大隊で警備隊に所属していた。
今日も彼は同僚たちと分担で艦内の見回りに精を出していた。

「あー、鳳翔さんの店行きたかったな……」

よりによってハーパーの部隊が居酒屋鳳翔の出入り日の日に警備任務をあたえられ(実際には押し付けられたのだが……)、こうして残業に勤しんでいるのだ。
ハーパーとしても落胆するのは致し方無い。

だが今日の見回りは何かが違った。
何が、というわけでは無い。
しかしハーパーは艦内に何やら変な雰囲気が漂っているのを肌身で感じていた。
電力消費を抑える為に艦内が一部消灯されている為に真っ暗である為に不気味である、というのもあるが……。

(何か……居る?)

懐中電灯で壁を照らしたハーパーは、右舷の資材格納庫前に来た事を確認した。
殆ど人が寄り付かない場所で、来る船員も研究開発斑か整備班位の辺鄙な区画だ。
だが、ハーパーは見た。
資材格納庫の扉が不自然に半開きである事を。

不審に思ったハーパーは肩に下げたサブマシンガンを構え、扉横の認証用コンソールに自分のカードキーを挿し込み、扉を開けた。
中は非常灯の赤い微かな灯りのみで照らされ、これまた不気味な様相を呈している。

……カラン……ガチャッ…………パキッ……

(……ッ⁉︎ …音……‼︎)

ハーパーは懐中電灯の光を消し、サブマシンガンのアタッチメントライトを点け、両手で保持した。
アタッチメントライトを音のした方へ向ける。
其処は試験用の試作資材や備品を保管する試作資材備品室。
また其処も扉が僅かに空いていた。

ゴクリ、と唾を飲み込む。
ハーパーは大のホラー嫌いで、見回りに不満を漏らしていたのも、不気味な艦内の雰囲気故であった。
手の震えがサブマシンガンに伝わり、アタッチメントライトの光を震わせた。
その震える光が謝って扉の隙間に入り込んでしまった時だった。

ガシャンッ‼︎ カラン、カラカラカラカラ……………………。

「ひぃ…………ッ⁉︎」

突然鳴り響いた大きな物音に思わず小さな悲鳴を上げた。
心臓の鼓動が早まり、鼓膜を震わせる。

居る、確実に何かが……。

自身を支配する圧倒的な恐怖感が高まり続けるのを感じながら、ゆっくりと扉へ摺り足で歩み寄る。
そして扉の目の前に辿り着き、深呼吸した。
そして、意を決して扉を開け、中へ飛び込んだ。

「…………ッ⁉︎」

ハーパーの目の前にあったのは、口をひしゃげさせたすっからかんの小型コンテナと、そのコンテナ内部と床を濡らす透明な液体だけ。
そして……。

「ひっ、ぎゃああああああああああああああああああああッ⁉︎」

小型コンテナの向こう側、壁に取り付けられた、こじ開けられた整備用ダクトと、其処から覗き蠢いている黒髪の女の顔半分だった。


◉◉◉


2日後 10月7日
鹿島鎮守府
リンドヴルム 提督執務室

「ふぅ〜〜む、どうしたもんか」

秋に突入しかけ、肌寒さを感じ始めた時期。
鹿島鎮守府に停泊したリンドヴルムの執務室で、俺はソファに寝そべり溜息を吐いた。

「んん……提督、どうしました?」
「ああ、この前起きた資材盗難の件でな。
というか野分、なぜお前はパジャマ姿で俺の上で寝てるんだ」
「サービスですよ、サービス。
最近は肌寒くなってきましたから、こうして提督を温めてるんですよ……」
「誰かに見られたら死ぬよね俺。
姉さん達とかラトロワとかまりもとか、まりもとか、まりもとかに見られたら絶対まずいよな。
最悪第三次世界大戦が始まるぞ」
「そうなったら提督と一緒に逃げます」

のそのそと着替えを始める野分を完全に視界から外し、机に放り出された書類を掻き集めて1枚づつ捲っていく。
2日前、資材保管庫の試作資材備品室を荒らされた事件についての報告書だ。
痕跡無し、証拠無し、発見者の証言も碌な証拠にならない為、犯人の特定は困難だ。

「仕方ない、鎮守府から洗い直すか……ちょっと鎮守府に顔出してくる」
「御一緒します」
「いや、野分は書類整理を頼む。
顔出してくるだけだから大丈夫だ」
「で、でも……」
「大丈夫だって、じゃあ後で」

残念そうに項垂れる野分の頭を撫でながら制服に袖を通し、菓子折りを片手に部屋を出た。


◉◉◉


鹿島鎮守府 艦娘寮棟副棟
艦娘専用部屋 憩いの間

鹿島鎮守府には出撃予定の無い艦娘の慰安の為、艦娘寮棟の隣に旅館のような施設が併設されている。
出撃予定の無い艦娘や夜間哨戒任務の艦娘、帰投した艦娘に開放されており、旅館としての機能……温泉やサウナ、間宮の甘味庵、購買などが内部に軒を連ねている。
それらの運営も特定の艦娘達自身が運営しており、中には交代制で店番をしたり、自主的に開業し、運営を行っている艦娘も居る。

「はぁ……」

その旅館の一室、艦娘の休憩室になっている憩いの間の一角で3つ並ぶ長机に座るうら若い女性がため息を吐いた。
球磨型軽巡洋艦5番艦、木曾である。
現在は艤装改造により雷装巡洋艦として第一線で活躍する彼女であるが、その勇猛果敢な姿は今は見る影も無く、憂鬱そうな顔を浮かべながら項垂れていた。

「あん?木曾じゃないか、どうしたよ湿気た面ぶら下げてさ」
「ああ……隼鷹か……こんな昼間から飲んでるのか……」
「まっさか〜、ビールは酒じゃないからシラフだよ〜〜、ヒャハハハッ‼︎」
「いやいや、ビールはれっきとした酒だろ……うぷっ、酒臭ッ‼︎ 」

いきなり背後から絡んで来た軽空母隼鷹から顔を逸らして鼻を摘む。
臭さから相当な量を飲んでいるらしく、既に遠くの机には大量のビール瓶と被害者らしい姉妹艦の飛鷹が転がっている。
一葉がいなくなってから飲む量は著しく減っていたが、一葉が帰還してからというもの、以前の倍以上飲んでいる。
これで戦闘に支障がないのだから大したものだ。

「で、何があったんだい?ほらほら〜お姉さんに話してごらんよ〜」
「なんでお前に…う”っぷ、わかったわかったから離れろッ‼︎」

強引に隼鷹を引っぺがし、座敷に改めて胡座をかく。

「最近……彼奴が忙しそうで、なかなか会えなくてな……」
「彼奴? ……ああ〜、一葉の事か」
「……ああ。 彼奴、あれでも艦隊司令だろ?
金剛達みたいに仕事の邪魔するわけにも行かないし。
あの巡洋艦にほいほい出向く気になれなくてさ…………はぁ……」
「っか〜〜ッ‼︎ 青春だね〜ッ‼︎
ビールが甘酒になっちまう‼︎」

真っ赤な顔を仰け反らせながら、項垂れる木曾の隣で胡座をかいた膝をバシバシと叩きながら、隼鷹は手に持ったビール瓶を仰いだ。

「あの戦闘狂の木曾が一丁前の乙女になるたぁねぇ……」
「……そんなに俺ってガサツなのか……」
「そうは言ってないさ、どっちかって〜と球磨とか多摩の方がよっぽどガサツだよ。
あの2人は木曾みたいに化粧に気ぃ使ったり黒くて透けてる勝負下着用意したりなんてしないからねぇ〜」
「なっ、なんで知ってんだお前ッ‼︎」
「んあ? 球磨と多摩が言いふらしてたけど?」
「保健所にぶち込んでやるッ‼︎」
「まぁ〜まぁ〜、落ち着きなって〜」

怒り狂う木曾に抱きつきながら宥める。
対する木曾は、猛烈な酒臭に当てられて咄嗟に口に手を当てた。

「まぁ、さっきも言ったけどさ〜。
木曾はもう十二分に乙女なんだから、もっと自分に自信を持ったらいいと思うんだよねぇ。
例えば、そうだねぇ〜……もっと洋服とか装飾で着飾ってみるとかさぁ〜。
木曾って非番でも軍装だから硬派なイメージがするんだよなぁ」
「あ、ああ言うフリフリした奴は嫌いなんだよッ‼︎
……なんか股下とか脚が無駄にスースーするから……」
「ダァ〜カァ〜ラァ〜、着飾るってのはそれだけじゃないだろって。
もっとラフな感じの……そうだねぇ、ジーンズとかワイシャツとかの落ち着きのある感じの服とかさぁ〜。
大体普段の軍装だってスカートじゃ〜ん」
「こ、これはこれで慣れちまったんだよッ‼︎ それにそうならないように外套着てんだよッ‼︎
……でも、ジーンズとワイシャツか……それなら…………いい…かも」

考え込むように顎に手を当てた木曾を尻目に、隼鷹は次々とビールを胃袋に流し込んでいく。

「それに本題の方もさ、そうやって着飾れば自信も付いて会いに行きやすくなるんじゃない?
それで一発デートにでも誘っちまいなよッ‼︎」
「は、はぁ⁉︎ で、ででで出来る訳ないだろそんな事ッ‼︎」
「よく言うよ、動けない一葉に婚姻届のサインさせようとした張本人がさぁ〜」
「ふぐぅッ‼︎」

あの夜の事を指摘されて言葉を詰まらせる木曾を余所に、隼鷹は新たなビール瓶の王冠を栓抜きでこじ開けた。
景気の良い炭酸の抜ける音と共にビール特有の酒臭が匂ってくる。

「木曾は普段の砲雷撃戦の時みたいな大胆さをもっと別の方向に向けるべきなんだよねぇ〜。
婚姻届に関しちゃ、それの見極めというか、判断を誤ったとしか言いようがないね」
「うぅ……」
「それにさぁ、木曾は加賀と同じかそれ以上に一葉に懐かれてたじゃん。
開始地点というか、戦局的には木曾が優勢なのには変わりないんだぜぇ〜?」
「そ、それは……金剛や扶桑だって同じだろ……長門や球磨姉ぇとか、多摩姉ぇだって……」
「そうやって卑屈になりなさんな。
有りの侭の木曾を一葉に見せてやりゃ、案外コロッと行くもんだよ、男ってのはね」
「い、意外と詳しいんだなお前……」
「橿原丸ってぇ〜呼ばれてた頃にゃあ、日常茶飯事だったからねぇ〜…そういう色恋沙汰は。
船上で告白とか奥様方の経験談とか……プハ〜、旨ぇ〜〜ッ‼︎」
「有りの侭の……自分、か……」

木曾は机の下から自分の鞄を引っ張り出し、先日何気なく買った艦娘向けの女性雑誌を取り出した。
表紙には『気になるアイツを大破着底ッ‼︎ 最新艦娘ファッションッ‼︎』や『狙った相手を一発撃沈ッ‼︎ 男心を擽るアクセサリー集』など、デカデカとキャッチコピーが描かれている。

「ん? なんだ良い本もってんじゃん。
それ見ながら作戦を練ろうじゃないか。
手伝うよ〜」
「随分積極的だな……お、俺的には助かるけど……」
「今さ〜一葉争奪トトカルチョやってるんだよ〜。
オッズ的には加賀と扶桑が1番人気でさ〜」
「……は?」
「安心しなよ木曾っち〜、あたしは木曾っちに掛けてあるからさ」
「くっだらねぇ〜……」
「ちなみに発案は青葉と明石だよ」
「はぁ⁉︎ 明石⁉︎」

予想外の名前に驚きながら、木曾は隼鷹にアドバイスされながら女性雑誌と睨み合うのだった。


◉◉◉


「あれ? 木曾姉ぇに隼鷹?」
「ファッ⁉︎」
「お、一葉じゃ〜ん。
今日もかっこいいねぇ〜」

先日の盗難事件について姉達に情報提供してもらう為に艦娘寮附属棟の憩いの間を訪れると、木曾と隼鷹が机の上の雑誌をならんで読んでいる場に遭遇したので、折角なので声を掛けた。

「ん? どうしたの木曾姉ぇ。
顔真っ赤だよ?」
「な、……なんでもねぇよ……」

雑誌を背後に隠しながらビクビクする木曾を隼鷹が笑った。

「ひっひっひっ……で、どうしたよ一葉。
あたしと一杯やりに来たかい?」
「いやいや真昼間に何してんだよ……いやそうじゃなくて、先日の盗難事件でね。
あの日、何か変わった事なかった? 小さな事でも良いんだけど」
「いんや、あたしはあの日木曾と一緒に哨戒任務に就いてたからねぇ。
悪いけど力になれないねぇ。
……ああ、ならさ〜木曾に手伝ってもらったらどうだい?」
「え?」
「ひぅ⁉︎」

肩を落とし残念そうに苦笑いする隼鷹の提案に、木曾が素っ頓狂な声を上げてたじろいだ。

「う〜ん……木曾姉ぇが暇なら有り難いけど……」
「な、なん、隼鷹手前ぇッ‼︎」
「はっはっはっ〜〜ッ‼︎
上手くやりなよ木曾っち〜ッ‼︎ 」

残像を残しながら目の前から消えた隼鷹に向かって何かを言おうとする木曾は、見た事もないくらいに狼狽えていたのは言うまでもない。


◉◉◉


(うう……なんでこんな事に……)

仕方なく一葉を手伝う事になった俺は、一葉と一緒に鎮守府内で調査をする羽目になった。
とはいえ、アテがあるわけじゃないから虱潰しに話を聞くしかない。
先ず最初に犯人候補に挙がったのは、第1艦隊の赤城だ。
赤城は艦載機の維持にボーキサイトを使用する為、特によく食べる。
以前にも何度か資材庫のボーキサイトを摘み食いして以降、提督から資材庫への立ち入りを禁じられていた。
その為真っ先に赤城を疑ったが、赤城を含む第1艦隊は2日前……事件の日から呉鎮守府での教導任務を命ぜられていた為、犯行は不可能。

次に容疑を掛けられたのは戦艦棲姫・大和。
大和型は戦艦級の中でも桁違いの資材を消費する。
だが大和は事件の日に明石の検診を受けており、明石の証言も取れている。

鎮守府の一角にある喫煙所のベンチに2人で腰掛け、未だ照りつく太陽から逃れるように日陰でラムネを呷りながら、2人で溜息を吐いた。

「木曾姉ぇ、そのマント暑くないの?」
「……ああ、うん……暑い」
「……なら脱げばいいのに……」
「……一応正装なんだよ……」

傾けたラムネ瓶の中で、ビー玉がカラカラと鳴る。
そのままラムネ瓶を弄びながら、朴を伝って落ちる汗を拭う。

「……一葉は、さ……この服は嫌いか?」
「は?」
「いや、その…………俺、着飾った事とか……そもそもこの服しか無いし……」
「ん〜……そうだなぁ……」

まじまじと凝視する様に頭の天辺から足先まで、何度も繰り返し見返しながら、一葉は顎に手を当てて唸った。

「うん、可愛いと思うよ?」
「へ……?」
「そもそも木曾姉ぇは素が可愛いんだから、なに着ても似合うと思うよ」
「か、かわ……ッ⁉︎」
「うん、俺なんかじゃ釣り合わない位には」

機関部が融解するんじゃないか、といわんばかりに鼓動が高まる。
鎮守府には提督位しか男が居ないとはいえ、こんな風に褒められたのは初めてだった。
軽巡洋艦だった頃から、斬り込み役として最前線で砲火を交えていた為に何時も生傷が絶えず、同じ艦娘からも尊敬や信頼の言葉を掛けられても「女」としての部分を褒められた事はなかった。

女として受けた2度目の生。
本当は足柄や扶桑みたいに女としての部分を誰かに見て欲しかった。
髪の手入れや化粧だって自分なりに試行錯誤を繰り返した。
初めこそ「誰か」に見てもらいたい一心だったが、今では1人の女として「一葉」に見て欲しかった。

「ん〜、でもやっぱ俺なんかじゃ釣り合わないな。
そもそも……」
「そもそも……なんだよ」
「……俺は提督でもあり、MS乗りだから。
MS乗りはMSに乗って死ぬ、そう決まってるんだ。
出撃したら最後、無事に帰って来れるかもわからない。
そんな俺の為に、姉さん達がまた悲しむなんて、俺は嫌だ」
「……」


◉◉◉


数時間後
艦娘寮棟 球磨型居室

「……で、なんで木曾は不貞寝してるんだクマ?」
「……ほっとけ」
「にゃ〜……ゴロゴロ……」

あれから数刻過ぎて。
半ば玉砕に近い別れ方をして互いに本来の任務に戻った後、 就寝前の休息時間に部屋に戻った俺は、姉2人が寛ぐ炬燵に入って寝転がっていた。

「……一葉に振られたクマ?」
「………………なんで知ってんだよ……」
「予想だクマ。
大体、何年来の付き合いだと思ってるクマ」

実の姉に事実を見抜かれ、更に不機嫌になる。

「……情けねぇなぁ…無駄に空回りして……無様な道化だ……」
「そんな事ないクマ」

球磨が静かに、俺の言葉を否定した。

「木曾は道化なんかじゃないクマ。
必死に自分を磨いていたクマ、その努力は決して無駄でも無様でもないクマ」
「……」
「木曾の気持ちを真っ直ぐぶつければいいクマ。
一葉だって満更でも無い筈クマ」

球磨は徐に立ち上がり、箪笥の引き出しから2枚のチケットを取り出した。

「これやるクマ」
「……なんだよこれ」
「地元の映画チケットクマ。
2人分あるクマ、これに一葉を誘うクマ」
「……なんだってこんなもん持ってんだよ」
「本当は一葉とクマで行くつもりだったクマ。
でも木曾に譲るクマ。
妹の幸せも姉の幸せクマ」
「多摩姉ぇはいいのかよ……」
「気にすることないニャ。
妹の後押しも姉の務めニャ」

不意に手渡されたチケットを握り締める。
くしゃくしゃになったチケットを手に立ち上がり、靴を履いた。
これだけされて成果無しとなったら球磨型軽巡洋艦の名が廃る。

「行ってくる」

ただ一言、そう言って部屋を後にした。


◉◉◉


「全く辛気臭い妹クマ」
「どうするニャ?」
「言った筈クマ、妹の後押しも姉の務めクマ」
「球磨がそれでいいなら多摩もいいニャ」
「今度木曾に間宮のパフェ奢ってもらうクマ。
それで手打ちクマ」
「…………本人の前で言わなきゃ意味ないニャ。
……末っ子贔屓も大概にしてほしいニャ」
「……チケット渡せって言ったのは多摩だクマ……」
「覚えてないニャ……ゴロゴロ」


◉◉◉


リンドヴルム
提督執務室

「一葉ッ‼︎」
「な⁉︎……な、なに、木曾……姉ぇ?」

スライド式のドアを蹴り破って現れた木曾に吃驚して、焼き立てのクッキーを床にぶち撒ける。
昼間、別れ際に機嫌を損なわせてしまった姉の来訪に、内心ビクビクしてしまい、手足が震えた。

「……これ」
「……へ?
……映画のチケット?」

くしゃくしゃになったチケットを突き渡したまま顔を真っ赤にして立ち尽くす木曾が、徐に顔を上げ、艦内に響き渡るくらい大きな声を張り上げた。


「俺と……で、で、……デートしてくれッ‼︎」
「……はい?」


後編へ続く 
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