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野獣

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8部分:第八章


第八章

 翌日僕達はまた警察に向かった。そして昨夜のことを報告した。
「よくご無事でしたね」
 警官達は驚いた顔で言った。
「何とか。笛の音もありましたし」
「笛!?」
 警官達はそれを聞いて目を見張った。
「はい、それが聞こえるとムングワは急に何処かへ行ってしまったのです。何かに呼ばれたかのように」
「そうですか、笛ですか」
 彼等はそれを聞いて考える顔をした。
「犬笛はご存知ですね」
「はい、犬を操る笛ですよね」
 僕は答えた。
「それと同じようなものでしょうね。ムングワを操る為の」
「というとやはり奴を操る人間がいるのですね」
「間違いありませんね」
 彼等は頷いた。
「おそらくムングワは何者かに操られているのです。その操っている人間こそが」
「今回の事件の黒幕」
「はい」
 僕達はそれを聞いて戦慄を覚えた。
「この街の何処かにいますよ、その黒幕が」
 その中にはあの医師もいた。彼は窓の外を見ながら呟いた。
「そして邪な企みを胸に人の命を奪い続けているのです」
「何の目的で」
 僕は問うた。
「そこまではわかりません。しかし」
 彼は首を横に振ったあとで語気を強くした。
「それは人の世において許されるものではないことは確かです」
 それだけはわかっていた。僕達は彼の強い目の光にそれに対する怒りを感じた。
 僕達は警察をあとにした。帰り際に僕は拳銃を手渡された。
「用心の為にどうぞ」
「しかし」
 僕はそれを断ろうとした。
「どうしたのですか?」
「僕は拳銃を取り扱う資格を持っていないので」
「それなら大丈夫ですよ」
 拳銃を手渡そうとした警官は笑って言った。
「この国では銃を持つのに制約はありません」
「そうなのですか?」
「はい、何かと物騒ですからね。自分の身は自分で守る為にです」
「そうなのですか」
 だがそれがかえって治安を悪化させているのではないかと思った。
「しかしそれでも」
 だが僕はやはり断ろうと思った。
「そんなこと言わずに。またムングワに襲われたらどうするつもりですか?」
「しかし・・・・・・」
 僕はバツの悪そうな顔でそれを拒否しようとした。
「銃の扱い方も知りませんし」
「何だ、それでしたら簡単ですよ」
 彼は笑って言った。
「え!?」
 流石にその言葉には驚かされた。
「今から教えますね。簡単なことですよ」
 彼はそう言うと説明を開始した。それはほんの数分のことだった。
 驚く程あっけなかった。僕は忽ちこの拳銃の扱い方を覚えてしまった。
「拳銃って思ったよりシンプルなんですね」
「そうじゃなければ手頃に扱えませんよ」
 警官は苦笑して僕に言った。
 「ううむ、それにしても」
 僕は帰り道その拳銃を見ながらガイドと二人歩いていた。
「思ったより簡単な構造だったのですね」
「そうですよ、むしろ貴方の国の銃の方が複雑です」
 彼は笑いながら言った。
「それは自衛隊の銃のことですか?」
「はい、よくあんな複雑なつくりの銃を使っていますね」
「そうなのですか。僕は銃のことには詳しくないので」
「私は銃のことには興味がありますからね」
 意外にも彼はガンマニアのようだ。
「色々と勉強したりしているのです。それで日本の銃についても読みました」
「そうだったんですか」
「私はあんな銃は使いたくはないですね。手入れが面倒だ」
「手入れ、ですか」
「おっと、馬鹿にしてはいけませんよ」
 彼は顔を引き締めて言った。
「手入れを怠ると大変ですよ。暴発してしまうかも知れませんしね」
「暴発、ですか」
 急に手に持っている拳銃が怖くなった。
「そうです、部品一つなくしても銃は駄目になってしまうのですよ」
「案外繊細なのですね」
「そう、女の子のようにね」
 彼はにんまりと笑ってそう言った。
「女の子みたいにですか」
「そうですよ、そう言うとわかりやすいでしょう」
「はい」
 彼の言葉に少し怖くなっていた僕の心が明るくなった。
「銃は細かい手入れをしておけばいいです。あとは簡単です」
「そうなのですか」
「今はそれよりもムングワのことを考えましょう。またすぐ出て来るでしょうし」
「僕達を襲いにですか」
「そうかも知れませんね」
 今度は笑ってはいなかった。
「奴が私達の顔を覚えていれば間違いなく」
「来るでしょうね」
 ネコ科の生物は執念深いと言われる。ムングワもそうであろう。
「これからはその銃を常に身に持っておいて下さいよ。もしもの時はそれが最も心強い友人になります」
「わかりました」
 その言葉には重みがあった。僕はその言葉に対し頷いた。
 
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