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真田十勇士

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巻ノ二十 三河入りその九

「堅固な城も大事じゃがな」
「堅固な城と確かな人」
「その二つがあってこそで」
「その中でも人」
「そういうことですな」
「そういうことじゃ。では町に行ってな」
 岡崎城の城下町、そこにというのだ。
「何か食するか」
「しかし殿、どうもです」
 清海が飯と聞いてだ、幸村に今一つ浮かない顔で述べた。
「三河は」
「美味いものがか」
「あまりです」
 それは、というのだ。
「見受けられませぬ」
「そういえば質素じゃな」
 望月も言う。
「三河は」
「そうじゃな、この国はどうにもな」
「質素じゃ」
 由利と根津は望月のその言葉に頷いて応えた。
「酒はあるが」
「上方に比べて遥かに質素じゃ」
「まあ上方にしても織田家の領国は豊かでありますな」 
 伊佐はこう述べた。
「元々豊かであった故に前右府殿が善政を敷いておられたので」
「三河も善政を敷いておるが」 
 穴山が言うには。
「そもそもの豊かさが違うか」
「そういうことだな、それに徳川家は最近まで武田家との戦に力を注いでいた」
 霧隠も言った、人と銭をそちらに向けていたというのだ。
「それでは尾張等と比べて質素なのも当然か」
「そういうことじゃな」
 海野は霧隠のその言葉に頷いた。
「この国はこれからか」
「そういうことか」
 猿飛も言うのだった。
「この国は」
「そうであるな、しかし何か食するとしよう」
 幸村はそれぞれ話した家臣達にあらためて言った。
「腹が減ってはじゃ」
「はい、では」
「何はともあれ食するにしましょう」
「ではな」
 こう話してだった、幸村は家臣達を連れて岡崎の町に入ってだった。そこでこれはという店に入ってだった。
 飯を頼んだ、そしてその飯とおかずを口にするがここでだった。
 清海は飯を食いつつだ、こう言ったのだった。
「ふむ、これはな」
「これはこれでな」
「うむ、美味い」
 猿飛ににこりと笑って述べた。
「確かに質素、しかしな」
「うむ、食材が新鮮でな」
「味付けも真面目でな」
「よいな」
「これはこれでよい」
 非常にというのだ。
「幾らでも食えるわ」
「全くじゃな」
「徳川殿のお国らしいな」
 幸村もその飯を食いつつ言う、その飯は玄米でありおかずは味噌を塗った田楽や魚を焼いたもの、それに梅だった。
 飯は山盛りだ、その飯を食いつつの言葉だ。
「確かに質素、しかし」
「その味は、ですな」
「確かですな」
「これはこれでよいですな」
「美味です」
「まことにな。幾らでも食することが出来る」
 その味に笑顔になりつつ言う幸村だった。
「ではたらふく食し」
「はい、では」
「そのうえで」
「次は遠江ですな」
「あの国に行きますな」
「そして駿河に向かいじゃ」
 そしてというのだ。
「甲斐から上田に戻るか」
「甲斐、ですか」
 甲斐と聞いてだ。筧は幸村に複雑な表情になり問うた。 
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