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ポケットモンスター 急がば回れ

作者:おうーん
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19 イエロー対レッド

イエローの父「イエロー、明日はお前の誕生日だ。
そろそろポケモンを持ってもいい歳だろう」

イエローの母「10歳まではまだまだですよ」

イエローの父「いいじゃないか。
お隣の虫採り少年も、斜向かいの双子ちゃんもポケモンを持ってるんだし」

イエローの母「それもそうね」

イエローの父「さあ、何がいい? 何でも言ってごらん」

イエロー「ピカチュウが欲しい!」

次の日、イエローの父はイエローにピカチュウをプレゼントした。
ポケモンを手に入れたことでバトルができるようになり、学校でもポケモンを持つ者同士の友達ができる。
イエローはポケモンを通じて成長していく。
しかしそれも長くは続かなかった。

友達A「お前のピカチュウ強すぎるんだよ」

友達B「なんで反則技覚えてるんだよ」

友達C「本当はピカチュウじゃないんじゃないのか?」

ピカチュウのその強さはイエローの予想に反し、尊敬よりも恐れを植えつける。
やがて誰もイエローとバトルをしなくなる。

イエロー「父さん、バトルしようよ!」

イエローの父「すまんな、明日からまたポケモントレーナーの旅に出なくてはいけなくなった。
お前がいつかポケモントレーナーになってポケモンリーグまで登りつめたとき、正々堂々バトルしよう」

そう言い残して父は姿を消した。
それからグリーンとブルー、そしてレッドと知り合う。

グリーン「やるなお前。
俺のじーさんには敵わないだろうけど」

ブルー「あたし引っ越したばかりだけど、マサラにはこんな強いポケモンがいるのね。しかも可愛い!」

レッド「…………」

レッドだけは負けても何度でもイエローに挑戦してきた。

イエロー「いけっ、ピカチュウ!」

レッドはモンジャラを繰り出した。

グリーン「あれは、南の草むらにいるポケモンじゃねーか」

ブルー「あそこは女の子が溺れて危険だからって柵ができて立入禁止になった場所じゃない!
まさかそこで捕まえてきたの?」

イエロー「ピカチュウ、電光石火!」

雷のような速さで間合いを詰め寄り一気に攻撃を仕掛ける。
しかしモンジャラの防御が勝り、逆に攻撃の機会を与えてしまう。

レッド「……絞めつける」

モンジャラは体を覆うつるでピカチュウを捉える。

イエロー「うかつに触ると静電気で麻痺するよ」

モンジャラの様子は変わらない。

イエロー「そうか、今日は日差しが強いからモンジャラは元気なんだ」

ピカチュウはつるから抜け出す。

イエロー「それなら……ピカチュウ、火炎放射!」

グリーン「あいつまた反則技使いやがった」

ブルー「反則技って?」

グリーン「本来覚えることのない技だよ。
公式戦で使ったら反則負けさ。
まあ、これは公式戦じゃないからいいんだけど」

モンジャラはピンピンしている。

イエロー「そうか、モンジャラは長靴を履いてる。
きっとあそこに蓄えられた水で防いだんだ」

レッド「……つるのムチ」

伸びて向かってくるつるを掻い潜るがどこまでも追いかけてくる。
ついにピカチュウはつるに捕まる。

レッド「……吸い取る」

見動きの取れないピカチュウは体力を吸い取られてダウン寸前になる。

オーキド「こらっ、お前たち! またバトルなんぞしおって!」

グリーン「やべっ、じーさんに見つかった逃げろ!」

バトルは中断する。
イエローとレッドはその場にとどまっている。

オーキド「お前たちはまだポケモンを持ってはいけない歳なんじゃぞ。
レッド、そいつはモンジャラじゃないか! またあそこに入ったのか!」

レッド「…………」

オーキド「連れてきてしまったのはしょうがない、わしが預かろう。
イエロー、ちょっとわしの研究所まで来なさい」

どうしようピカチュウも没収されてしまう、とイエローは思った。

オーキド「没収などせんよ」

イエロー「えっ……」

オーキド「君のお父さんからもらった大事なポケモンなんじゃろう?」

イエロー「どうしてそれを……」

オーキド「そのピカチュウはもともとわしのポケモンじゃった。
君のお父さんに頼まれてわしが特別に譲ったのじゃよ」

イエロー「そうだったんですか……」

オーキド「そのピカチュウが普通のピカチュウではないことはわかっておるな?」

イエロー「はい。
覚えるはずのない技を覚えてたり、異様に強かったり……」

オーキド「まあそれもあるが、もっと本質的なことじゃ」

イエロー「本質的?」

オーキドは一度咳払いをして話し始める。

オーキド「近いうち、タマムシ大学でインターンを行おうと思っておる。
その候補にレッド、グリーン、ブルーが挙がっておるのだが、わしは君にも行ってもらいたいと思っておる。
カントーを周ってポケモンを集めながらポケモンリーグを目指すといったような旅なんじゃがの」

イエロー「僕が、ポケモンリーグを目指す旅に……」

オーキド「ピカチュウはその旅に出るいずれかの者に授けるつもりじゃった。
だが君に授けた。なぜだかわかるかな?」

イエロー「父さんが頼んだから……」

オーキド「違うな。
君がいちばんピカチュウのことをわかってやれると思ったからじゃよ」

ピカチュウが苦しそうにしている。

オーキド「火炎放射は炎タイプの技。
本来覚えるはずのない技は体の負担が大きいようじゃのう。
早く休ませてやるとよい」

イエロー「はい!」

オーキド「それから、こいつをレッドに返しておいてくれんか?
レッドのところに帰りたいと駄々をこねていかん」

イエローはピカチュウとモンジャラを連れて帰る。

助手「博士、インターンなんて初耳ですよ」

オーキド「当たり前じゃ。今思いついたのじゃからな」

助手「どういうことですか?」

オーキド「……今のままでは無理じゃ」

助手「えっ?」

オーキドは電話を取る。

オーキド「わしじゃ。久しぶりじゃのう」

電話の声もオーキドと同じくらいの年頃である。

オーキド「ピカチュウは君の孫に任せたよ。
やはり親子じゃな。君の息子と同じピカチュウを選んだ。
君の息子の手には負えなかったが、わしはあの子に賭けてみようと思う。
……まあ、今はまだ本当のピカチュウではないがのう」

オーキドは古いポケモン図鑑を取り出す。
ところどころ傷んだりへこんだりしているそれの裏に、赤い文字でこう書かれている。

ぴかちゅう
ぼくは がっこうに いかなくては いけなくなったんだ
ぴかちゅう
ぼくらの たびは なんだったのか わかるか
ぴかちゅう
きみは たくさんの ひとたちを やっつけてきた
ぴかちゅう
おまえは ぼくのみえないところで にやにや わらってたんだね
ぴかちゅう
もう たびは おわりだ
ほんとうに おわりだ
ぴかちゅう
がっこうにいってくるからさ
ぴかちゅう
おまえは すきなひとを やっつければいい 
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