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伝説のトレーナーと才色兼備のジムリーダーが行く全国周遊譚

作者:OTZ
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第十一話 広がる波紋

―4月27日 午後6時 エンジュシティ マツバ邸 書斎―

 マツバはミナキを呼び出して談笑していた。

「いやー。それにしても良かった生きてて」

 ミナキは何よりもそれを喜んでいた。
 
「生きてたというか生かされたというか……。記憶は消されたみたいだけどどうにか生還できたよ」

 マツバは自嘲気味に笑いながら答える。

「記憶を消されたっていうのはとんだ痛手だな……。でも別の考え方をすればそれだけあちらも触れて欲しくないことがあるっていう証だ」
「僕もそう思う。だから一週間くらい前までリーグにどうにか動いてもらおうとエンジュ大学や博士の周辺に探りを入れたんだ」

 マツバは表情を引き締めて真剣な様子で話す。

「それで何か成果はあったのか?」
「例のオリエンテーションの被害者に聞きこんで、どうやらあの事件は本当に起こったらしいという事。そしてそれにエンジュ大学、そしてオーキド博士が関与している疑いが濃厚という事がわかった。それと、そのポケモン達がロケット団によって酷使されているらしい事もね」
「うわぁ……想像以上にえぐいことしてるんだな……」

 ミナキはその話を聞いて大いに引いている様子である。

「うん……。これが事実だとしたらポケモンの研究や大学そのものに対する信用が失墜するだろうね……。それで、さっき言ったことを証拠と共にこの意見書としてリーグにこの前提出したんだ」

 と言いながらマツバは意見書の冊子を机上に出した。

「分厚いな……これ何ページあるんだよ」

 ミナキは手に取ってパラパラめくりながらうんざりしたような口調で言う。

「120ページくらいだったっけな……。意見そのものは十ページくらいにまとめてあとはほとんど証拠の資料とかそういうのだよ」
「そうか……。で、リーグは動いてくれそうなのかい?」
「ワタル理事長から直接さっき電話があって、影響が大きすぎるので明日副理事長と協議したうえで最終的な判断を下すという事だ」
「なんじゃそら……まあ相手は一応ポケモン研究の権威と内国のツートップの一角を占める大学だし仕方ないのか」
「正直取り合ってくれただけでも儲けものだと思っているよ。世間では良い博士として名が通っている人だし……話の分かる理事長で助かった」

 マツバは安堵している表情でそう話す。

「そうだな……。そういえばさ、例の二人はどうなっているんだ?」

 ミナキは話題を切り替えた。

「例の二人ってレッド君とエリカさんの事?」
「そうそう。何か進展あった?」
「ああ、どうやらあらぬ所から僕がエリカさんに恋していることがレッド君にばれてね……決闘を申し込まれたよ」

 マツバは10日ほど前の出来事を思い返し、先ほどよりは表情を崩しながら話す。

「おい言っておくが私じゃないぞ」
「出所の見当は大体ついてるからそれはわかってるって。その前に君はまだ二人に直接会ったことすらないだろう?」
「まぁな」
「話を戻そう。それで……」

 マツバはレッドと戦った時のことをミナキへ簡潔に話した。
 問大文字の事やレッドのエリカに対する思慕の強さなども交えつつ五分ほどで大体の事は言う。

「へぇ、それほど強くなっていたのか……」
「うん。先月の終わりくらいに会ったときとは別人なくらいにね。なんとなくエリカさんがレッド君に惚れる理由も分かった気がしたよ。でも、なんというかな……負けた分際で何を言うかと思うかもしれないが、どうも主体性がそれほど感じられなかったんだよ」

 ミナキは目をやや細めて尋ねる。

「主体性?」
「一見レッド君自身がグイグイ引っ張っているように見えるが、その実、流されやすい一面もあるように見えたのさ。まぁエリカさんは存外強かだからそのせいもあるんだろうけど……」
「へぇ……」

 ミナキは納得いっているのかどうかは窺い知れないがとりあえず相槌をうっている。

「願わくばそのわずかな心の弱さが夫婦の行く先に影を落とさないことを祈るばかりだけど……」

 そういいながらマツバは用意していた煎茶を啜る。

「そうだな……、ところでマツバ、今日私を呼びつけたのはこの意見書についてか?」

 マツバはミナキの質問に対し、湯呑みを机において話す。

「うん。これは前渡したやつのいわば改訂版だ。僕の身に何か起こったらこの書類をあの二人に渡してくれ……。今回はどういうわけか命が助かったが、明日……いや、今日にも命を落とすかもしれない。リーグも勿論頼りにしているが、それが万一叶わなければあの二人がきっとやり遂げてくれるはずだ。レッド君やエリカさんなら組織の都合でなく自身の良心に基づいて動くと信じている」

 その後、ミナキとマツバは夜遅くまで歓談しあっていた。
 翌朝、ミナキは早々にエンジュを発ってスイクン探しの旅に戻る。

―4月30日 午前10時 エンジュ市街―

 悠久の古都は今や阿鼻叫喚の有様と化していた。
 突如、エンジュ大学構内より数万余とされるポケモンたちが放たれ、市民たちを襲い始めたのだ。
 後ろからはロケット団とみられる黒づくめの団員達が指揮を取り、ポケモンたちはそれに隷従していた。警官隊や機動隊も即座に出動したが敵はこの程度の装備では全く歯が立たないほど強く、敗れ去ってしまった。
 当然、このことはジムにすぐさま伝えられ、マツバを筆頭に舞妓とジムトレーナーたちが事態の打開にあたる。
 ポケモン関係の事案で最後に頼られるのはジムリーダー、引いてはリーグなのだ。
 
―午前10時30分 エンジュジム 入口付近―

 エンジュジムにはジムリーダーのマツバのほかに舞妓の代表として長女のタマオと何人かのジムトレーナーが居た。
 ほかの舞妓やトレーナーたちは市民の保護と周囲の防衛にあたっている。
 リーグに救援を求めようとしたが基地局やゲートは即座に占領され、情報の送受信を強制的に停止させられた為、エンジュ及び付近の通信網は壊滅した。
 スズの塔やカネの塔の存在も危ぶまれたが僧侶たちの奮戦とそこまで敵方も執着しなかったことが功を奏し、北部に居た人々は大体寺内に避難している。

「本来なら元凶であるエンジュ大学を叩きたいところだが……圧倒的に此方が不利な以上、市民の避難を第一に考える」

 マツバはそう自身の方針を述べる。

「寺院方と連携する事はどうにか出来ないでしょうか……?」

 ジムトレーナーの一人が提案する。

「そうしたいのは山々だけどね……。もうすでにここと両寺の間は敵によって分断されている。それに寺院方も防衛に懸りきりでとても手助けはできないと先ほど書状が来た」

 それを受けて舞妓方が口を開く。

「そやけどマツバはん。そうとしても今、三っつのゲート全てが封鎖されてはるさかい、どこか一つに限らんと数が数なだけなんも出来のうなるんは必至どすえ」
「タマオさんのいう通り、ここはどこかに絞らないといけない。僕としてはキキョウやコガネに避難できる南側のゲート、羅城門を出口として確保したいと思っているんだけど……どうかな」

 マツバはトレーナーや舞妓たちに尋ねる。

「いい案ですが敵もそれを察知していて、南側の警戒を特に強くしています。被害がいたずらに大きくなるのでは……」

 ジムトレーナーがそう提言した。

「そんなのは覚悟の上だ。どこのゲートもそれなりの警戒がしかれているだろうし、こうなればより効果の大きい場所に活路を見出すしかない。外部からの援護が期待できない以上非常に苦しい戦いになるだろうがエンジュ……引いてはジョウト、全国の為ここは耐えるしかない」
「そうおすな……。こうしとるあいさにも敵は迫っておるしはよう作戦を立ててどうにかせんと」

 という訳で、エンジュ市民の避難を優先的に行うこととした。
 ジムの前に防衛線を作り、その枠内に避難民を集めマツバを先頭に羅城門までの道を切り開くことにした。

―その頃 エンジュ大学 学長室―

「いよいよだのう」

 事の首謀者、オーキドが目下にいる逃げ惑う市民たちを見ながらそう呟く。

「敵は通信網を破壊され孤立無援。如何にジムリーダーや舞妓たちといえど、この大軍の前にはやがて屈するしかないな」

 ロケット団はオーキドの協力もありつつ総計で10万を超える改造ポケモンたちを手中におさめ、その一部を実験台の如くエンジュ市街に解き放った。
 集団催眠事件で得たポケモンたちも含めて改造ポケモンたちは様々な違法行為に酷使され、サカキはその悪銭を大いにため込んでいた。
 そしてその金で団員の再結集及び新規勧誘を行い今やロケット団は往時の頃以上の規模を誇っていた。

「エンジュの市民たちも捕えているようだが一体どうするつもりかの」
「見込みがありそうなのは新規に加えるつもりだが、それ以外は人質だな。女は上玉は俺の蒐集に加え後は団員の慰み者だ。東男に京女……。団員どももさぞかし喜ぶだろう」

 サカキはそう私信を述べる。

「フム……まあ好きにするが良い。ワシがこの町で欲するのはマツバ君のみだからの」

 オーキドがそう返すと

「貴様! 約束が違うではないか!」

 開戦の一報を聞いた学長が青い顔をしてすっ飛んできた。

「はて、約束とは……?」
「貴方とロケット団の研究に文句を言わず従っていればエンジュの市民たちには手を出さない! そういう約束だったはずですぞ!」
 
 学長は大いに憤慨している様子である。しかしオーキドの反応は冷淡かつ冷酷なものだった。
 オーキドはそれに対し鼻で笑い、

「我々の研究に手を貸す……。背後にロケット団もいるというのに、その言外の意を汲み取らず承諾したのは他ならぬ貴殿ですぞ。それすら汲み取れぬとは……それでもジョウトの多士済々(たしせいせい)が集う学び舎を治める人間かのう?」
「しかし」
「つまらぬ者の戯言など聞きとうないわ。おい連れて行け」
「ハッ!」

 学長は闇の彼方へと連れ去られる。

「全く……どうして人間というのは……ここまで凡夫が多いのかのう……」

 オーキドはそう呟き、ため息をつく。
 碁盤の目は迅速な勢いで黒く染められつつあった。

―午後2時15分 エンジュジティ 羅城門付近―

 マツバや舞妓、ジムトレーナーたちの奮戦によりどうにか羅城門までたどりつき、エンジュジムにまでたどりついた避難民約六十万人を3時間かけて無事に避難させることが出来た。
 しかし時には折しもゴールデンウィークの真っ最中で観光客が多くいるせいもあり、ここまで救出に成功してもエンジュにいるとされる三分の一程度しか脱出に成功していない。
 ゲート封鎖前や寺院に逃げ切れたのを含めても6割に届かない。
 その為、とりあえず門から出られた人々を見送ったのち、残っている市民たちを救うために舞妓とジム方が二手に分かれて救出にむかった。
 しかし戦力が分断されたことによりただでさえ劣勢だったのが更に分が悪くなってしまう。
 救いに行った舞妓たちは一度か二度は戻ってしめて3000人ほどを新たにエンジュ市外へ送り出したがやがて全員帰ってこなくなってしまった。
 いよいよ。敗北の二文字が現実として襲いかかってきた。
 マツバは指示を出しつつ羅城門から退こうとは全くしない。

「リーダー。これ以上の救出は不可能です。今なら敵もそこまで迫っておりませんし、ご学友のおられるコガネシティにでもお逃げください!」

 最早残り数人となったジムトレーナーの一人がそうマツバに進言する。
 避難用として広くとっていた防衛線も崩壊し、ロケット団のポケモンはマツバやジムトレーナーたちのポケモンの反撃を受けながらも確実にマツバたちのもとにまで迫っていた。
 古の都はいよいよロケット団の手に堕ちてしまったのだ。

「気持ちはありがたいが僕にはエンジュのジムリーダーとして市民を最後まで救う義務がある。まだ多くの人が逃げれていないのに僕一人がおめおめと逃れる訳にはいかないんだ」
「そんな……もし敵方に捕まれば何をされるのか分からないんですよ!?」
「フ……。敵はもともと僕一人、もっといえばこの天より授かりし眼を欲しているよ。仮にもジムリーダーの僕が敵陣に簡単に降るわけにもいかないから今までこうして戦ってきたが、僕一人さえ捕らわれれば敵も本気でほかの街を取りにはいかない」
「どうしてそんなことがわかるんです?」
「そうでなければわざわざこの街を反乱の拠点には選ばないさ。長らくどうしてこの街をこの拠点を選んだのか合点がいかなったけど……。そう考えれば全て納得でき」

 言いかけたところで一人の水色の髪をした白い制服を着た青年が颯爽と前に出てきた。

「ご明察です。流石は私と同学なだけありますね」

 マツバは当初面食らったがやがて感づいて

「貴方はまさか……。ねずみ講まがいのことを構内でやって八千万を詐取した後行方をくらまし、エンジュ大学を除籍にされたと噂のアポロ……?」
「よく御存じで。さて、我らの主より貴方を捕えるようとの命が下りました。ご同行願いましょうか……。そこの門より逃げるというならどこまででも我々は追いかけますよ」

 アポロの背後には万を優に超えるポケモンの大軍が虎視眈眈とマツバを凝視している。
 マツバは残った最後の一体で抵抗を試みんとモンスターボールを手にするが

「おっと。この状況を見てもまだお分かりになりませんか? 最早貴方方の敗北です。それでも手向かうというならこちらも容赦しませんが、宜しいのですね?」
「くっ……ここまでか……」

 刀折れ、矢尽きる。マツバ及びトレーナーは投降し、ロケット団の軍門に降った。
 こうしてエンジュシティは4時間余りでロケット団の手に堕ちたのだ。

―――――

―午後4時頃 フスベシティ ポケモンセンター―

 イブキは戦闘準備の為ジムに戻り、二人は指示が出るまで休息の為ポケモンセンターに留まった。
 広間のテレビは臨時ニュースという題目でエンジュシティ占拠の件について延々と報じている。

『……繰り返します。きょう午後二時三十分頃、エンジュシティがロケット団によって占領されました。付近の住民の方々は速やかに近くの街に避難してください。これを受けてポケモンリーグは限定総動員令を発動し、事態の対処にあたる姿勢を示しました。日本政府は緊急対策本部の設置を緊急の閣議で決定し、エンジュ市民の食糧確保や衣料品の支給など諸事の支援政策の立案及び執行を行うとの事です。近隣のコガネシティ、キキョウシティ、チョウジタウン、アサギシティは避難民の受け入れを表明しました。具体的には体育館やホールを開放し、避難場所として提供。生活支援を行う指針を示しました。尚、自衛隊の介入等について日本政府は当面ポケモンリーグに任せ、動静を見守る所信を表明しました。尚、これに係るロケット団の声明はこの通りです』

 ―本日、ロケット団は先年の雪辱をすすぎ、サカキ様を迎えこの通り復活を果たした! 我々が望むことは前年我々に耐え難き侮辱を行ったポケモンリーグの速やかな全面的解散である! これが実現されなければ我々に従わぬ物として近隣の市街への侵攻及び人質の命を亡き者にすると思え。―

『尚、警察庁の発表によりますと人質としてエンジュシティジムリーダーのマツバ氏、ジムリーダー予備役の舞妓のタマオ氏を筆頭とする5名。他に逃げ遅れたエンジュシティの市民が10万人ほどと推測されるとのことです。しかし詳細は情報が不足しているため不明とされており、これより更にリーグと連携しつつ調査を進め明らかにしていくと発表がありました』

 ポケモンセンターの中はエンジュシティに居る親類や友人などに連絡を取る人やこれからについて打ち合わせに来た人などでごった返していた。

「とんだ一大事になったな……」

 着いた頃の平穏とは打って変わった人々を見てレッドはそう言った。

「ええ……それにしても一日足らずで一つの街を占領するなんて前代未聞ですわ……。手際の良さといい相当かつ慎重な準備があったのは明白ですね」
「マツバさんの言ってたことがまさか現実になるとはな……。これから一体どうなる」

 レッドが言いかけた所でエリカとレッドのポケギアが鳴り響く。
 
「はいもしも……」
「これは緊急用の一斉連絡の為、一方的にこちらが話す。何か質問や意見があれば別途リーグにまで連絡するように」

 ワタルがそう初めに言う。
 二人とも少しだけ恥じる。

「これより、エンジュシティの周りを取り囲む布陣を発表する。まずエンジュに繋がる三つの道路に陣を敷くことにする。まず第一軍として……」

 ワタルの決定した事は以下の通りである。
 第一軍(東方部隊。本拠 チョウジタウン)→ワタル(総司令官)、ヤナギ、レッド、エリカ、イブキ、ナツメ、タケシ
 第二軍(南方部隊。本拠 コガネシティ)→マチス(司令官)、アカネ、ツクシ、ガンテツ(ヒワダジムリーダー)、アンズ、キョウ、ハヤト、グリーン
 第三軍(西方部隊。本拠 アサギシティ)→シジマ(司令官)、ミカン、カツラ、カスミ、シバ、イツキ、カリン
 
「これはあくまで戦闘状態に陥った時の備えとして考えたものであり、こちらとしてももう暫くは人質の解放に向けて交渉を続ける。勝手な行動は厳に慎むようお願いしたい。では、総員可及的速やかに本拠まで赴くように! 以上」

 これでワタルからの連絡は切れた。

「いよいよだな……」
「ええ。経験したこともない事態ですが……とにかく国の存亡がかかっています。心していきましょう」

 こうして、二人はチョウジタウンに急行した。

―午後5時30分 チョウジタウン ポケモンセンター 会議室―

 およそ一時間後、チョウジタウンには第一軍に配置された人々が円卓で一堂に会していた。
 ついて早々、二人は作戦会議の為に会議室へ呼び出される。
 ワタル以外の全員が会議室に入ると、時計の長針が6を指した頃にワタルが入ってきた。

「既に委員やニュースなどで見聞きしていると思うが、ロケット団が我々に宣戦布告を行った。現段階では人質解放に向けて交渉を重ねている段階だが、交戦状態に陥った場合の事を考え今のうちに作戦を建てておこうと思う」

 これに対し、イブキが提言する。

「ねえ。ロケット団はリーグの解散を要求しているんでしょう? 身代金とかそういうのならともかくこういうのって交渉したところでどうにかなるものじゃない気がするんだけど……」
「こちらとしても別の条件を提示したり、解散より緩和したものにするよう要請しているんだ。まぁ全くと言っていいくらい相手にされてないけど……」

 ワタルは表情を曇らせて言う。

「じゃあ、どうして」
「時間稼ぎ……だろう」

 ヤナギが静かに言った。

「え、ええ……正直な所、その通りです」
「敵もそれに応じているという事はすぐに交戦に応じられない事情があるということ……例えばマツバ君たちの奮戦で予想外の損失があったりの」

 ヤナギはそういうと手元にあった煎茶を啜る。

「え、そうでしたらすぐにでも攻めこむべきでは……」

 イブキがそう返すと

「それはまずい……。敵はたった4時間くらいでジムリーダ数人分の軍勢を打ち破っている。相当な数を揃えていると踏むべきだろう。迂闊に入りこめばこちらが大打撃を被るかもしれない」
「しかし、もしヤナギさんの言うとおりならば今こそが最大のチャンスでは……」
「イブキ女史。これはあくまで仮の話。敵も一つの都市を占領するくらいだ、十重二十重の策をめぐらしているに違いない。ここはワタル殿のいうように慎重を期して然るべきだの」

 そうヤナギが諭すとイブキはようやく沈黙した。
 少し間を置いて、ワタルが続ける

「話を戻して……。とにかく、これから作戦を話す」

 と言いながら、ワタルは円卓に広域の地図を広げた。
 チョウジタウンから42番道路までを範囲とし、北側にはいかりの湖を収めている。

「敵はおそらく東側ゲートより一斉に打って出てスリバチ山を経由しつつ二つの池を渡ってチョウジへ向かうつもりだろう」

 ワタルは大きく赤い矢印を二つ描く。

「我々第一軍はスリバチ山に本陣を設営し、ここで総指揮を執る」

 ワタルはスリバチ山の頂に青の凸字を描いた。

「スリバチ山ならば見晴らしも良く、戦地の概況がよく分かるであろうな」

 ヤナギがそう評す。

「はい。しかし、ここはあくまで僕一人が指揮を取る場所として確保するつもりで、対抗する部隊はここ」

 ワタルはチョウジ側の出入り口に青の二つ目の凸字を描く。

「で、敵が突入する前に各自、足の速いポケモンを予めここに置いてほしい」

 ワタルはエンジュよりの原に黒い×字を描く。

「それで、適当に戦ったら、少しずつさりげなく退いていくんだ。それで、スリバチ山前のここまで引き寄せたらヤナギさんとレッド君とエリカ君がここで引き留める。注意して欲しいのは、ここで全力を出すのではなく、6,7割くらいの力に抑える事」

 ワタルはスリバチ山の入り口あたりに二つ目の×字を描く。

「で、ここからが肝腎だから心して聞いてほしい。この中州で戦っている間に敵はどんどん前に寄ってくると予想される。敵の大半が池、もしくは池の周辺に来たと判断したら先ほどのように一斉にポケギアを鳴らすからそれがき次第、必ず飛行ポケモンでチョウジタウン近くまで引き上げる。控えも念のため」

 ワタルは青い矢印で×印と凸字を陸側に大きく引き下げた。

「全員が引き上げたのを確認し次第、予め用意した運河の堰を切って意図的に氾濫させる」

 ワタルはいかりの湖から強く青い矢印をスリバチ山の池まで引っ張る。

「それで、氾濫して敵方が慌てだした頃に、ありったけのポケモンを出して急襲する!」

 引っ込めた凸字を黄色の矢印をエンジュ側まで引っ張り出した。

「慌てだした敵は算を乱して撤退する……と。こういう次第だ」

 ワタルはやや息を切らして言う。

「悪くない作戦ですわね。環境にはあまり宜しくないですが、数の差が明らかにある以上このくらいの事をしなければ覆すのは難しいでしょうし……」

 エリカがそう意見する。

「うん」

 ワタルが心なしか少し嬉しそうにうなずく。

「しかし、運河の件ですが……いかりの湖からスリバチ山まではかなりの距離がありますわ。予断を許さない状況下であまり時間はかけられないのでは?」
「うっ……そこなんだ。この作戦の痛いところは……。この地図によればいかりの湖からスリバチ山まではだいたい20㎞。結構な大仕事だし、時間もかかるし……うーむ」

 ワタルは腕を組んで考え込んでしまった。
 そこでタケシが手を挙げる。

「あの! 俺にその仕事任せて貰えないでしょうか。岩ポケモンならば疎水工事も楽々ですし、大いに期間を縮めることが出来ると思いますが」
「ふむ……だいたいどのくらいで出来そう?」

 ワタルは関心を持ったように尋ねる。

「俺のポケモンを総動員すれば三日ほどで出来ると踏んでます」
「おお! これは頼もしいね。三日くらいならどうにか時間稼げると思うし……。頼んだよ」
「はい。任せてください」
「しかし……運河の問題はこれで良いとしても、もう一つ問題があると思うわ」

 イブキが問題を提起した。

「うん?」
「堰を切った時、とんでもない量の水が池にまで流れ込むんでしょ? 下手をすればスリバチ山もそのせいで一部が崩れちゃったりするんじゃない?」
「そこは私が何とかしよう。スリバチ山ごとまもるの結界で防護し、影響を受けないようにする」

 ヤナギがそう提案する。

「うん……イブキの言うとおり、スリバチ山もこの影響で一部、もしかすれば全体が削れる可能性がある。だからヤナギさんの支援は勿論。出来る限り外側に運河を作らないといけない。タケシ君もその辺りに留意するように」

 この後も作戦会議は続き、19時過ぎに漸く終了した。

―19時30分頃 同所 209号室―

 二人は休息の為自室に戻る。

「ハァ……何もしてないけど疲れたな……」
「ああいう場は息が詰まりますものね……分かりますわ」

 エリカはレッドに頷きながら同調する。

「お腹も空いたな……。エリカ、今日の晩御飯は?」
「あ……まだお買い物も済ませておりませんでしたわ……。本当今日はあわただし……」

 そうこう言っているとエリカのポケギアが鳴り響く。
 
「はい、もしもしエリカですが……」

 彼女はすぐさま出た。

「エリカ? ウチウチ。アカネやで」
「ああ……アカネさんですか。何の御用ですか?」
 
 エリカが尋ねるとアカネは高揚した調子の声で喋り始める。

「あんな、めっさ嬉しいことがあったんやで! 聞いてくれな!」

 煩わしくなるくらい喜びの感情が伝わってくるような声で彼女はエリカに言う。

「ええ……何があったのですか?」

 エリカは少々気圧されながら尋ねる。

「へへ、さっきワタルはんから戦争の布陣の話があったやろ?」
「ええ。御座いましたわね。アカネさんは確か第二軍でしたか?」

 エリカは記憶をたどって思い出したかのように話す。

「そうそう。あーそういや司令官が確かマチスとかいう外人のおっさんでな、着いて作戦会議でもやるんかと思うたら早速コガネデパートのビアガーデンでバーベキュー始めよってな……もーしんどぅてたまらんかったわ」
「そういう賑やかなの好きなお方ですしね……。外国生まれの方はどうも気質の違いに苦労致しますわよね」
「気質どうこうどこやないわ! もう戦争なんか知らんぷりな態度でずーっとどんちゃん騒ぎ。ウチは寧ろこういうの好きな方やけどどうにもついていけんで早引けしたんよ……」

 アカネは先ほどまでの高揚とは打って変わってうんざりしたような口調で話す。

「アカネさんのように陽気な方でも参ってしまうほどですか……それはほかの方々も難儀するでしょうね」
「同じ国ならまだな、話も通じるからまだ盛り上がるんやけども、あの場合は片言でぐいぐい絡んでくるからかなわんわ……。もう皆呆れてポケセンにUターンよ。今はクチバからついてきた取り巻きとしか盛りあがっておらへん。あーあ、あんなけったいなもんの下で戦うとか荷が重いわ。ワタルはんもなんであのオッサンを軍人だかなんだか知らんけど司令官に選んだんか納得でけへんわ」

 アカネは大きくため息をついている。

「お気を落とさずに……。それで、アカネさんの嬉しかったこととはなんですの?」

 エリカは本題に戻す。

「あぁすまへんな話が脱線してもたわ。そんで、ウチの嬉しかった事言うのは、ツクシがウチらと同じ所にいたんよ!」

 アカネはジェットコースターのごとく気分を高めて話した。

「あら、そういえばそうでしたわね。このような事態になった以上少しでも多く人手が必要でしょうし不思議ではないですわ」
「なんやリアクション薄いなー。まぁええわ」
「それにしても良かったではないですか。これで接触する機会が生まれますわね」

 エリカは少しだけ嬉しそうに言う。

「ん……ま、せやけどな。もうあれっきりや思うたんが棚から牡丹餅やで! ワタルはんも粋なことしてくれはるわ」
「別にワタルさんはそういうつもりで布陣したわけではないと思いますが……。それで、何かツクシさんにはアクションを起こされたのですか?」

 エリカがアカネに尋ねる。しかし、彼女は言葉を詰まらせてしまう。

「まだ何もされていないのですか? あれほど残念がっていらっしゃいましたのに」
「い、いや挨拶くらいはしたで。ただ……一回告ってしかも時間も空いたさかいどうにも先に進むのが気恥ずかしうてな……」

 アカネは珍しく後ろ向きな事を言った。

「アカネさんらしくありませんね……。コガネで初めて貴女の恋情に気付いたころも思いましたが意外に恋愛には晩生ですわね」
「や、やかまし! そういうエリカかてレッドに体触らせたこともないやろ? お互い様やん!」
「どうしてそんな事わかるんですか……」
「お、当たった。ウチの勘はよう当たるわー」

 アカネは少々得意げに話す。

「もう……からかうおつもりなら切りますわよ!」

 エリカは照れ隠しとばかりに少しだけ語気を強めた。

「わわ。そないな事で怒らんといてよ」
「ハァ……。何にしても、私そろそろお夕食を作らないといけないので切りますわね」
「ん、ほんならしゃーないな……。また進展あったら電話するで」
「あの……。アカネさんは私以外にもお友達は多くいらっしゃるでしょう? どうして私にばかり……。あ、いえ別に迷惑とかそういう意味で言ってるわけではないですよ?」

 エリカは最大限気を遣っている口調で話す。純粋に疑問なだけなようだ。

「どうしてもこうしてもあらへんよ。ウチがツクシの事好きなん知ってるんわエリカとレッドしかおらん。下手に広められでもしたらウチ一応芸能人やし困るしな。それに……」
「それに?」
「エリカと話してると落ち着くんよ。コガネ……というかウチの周りにはエリカみたいに普段落ち着いてる人はあまりおらんしね。そういうせっかちなとこ含めてコガネの良さやとウチは思うとるけど。そないな事でなんちゅーか新鮮なんよねアンタみたいな女の子って」
「へぇ……そうなのですか」

 エリカは少々意外だったのか大きく息をついている。

「せやねん。もしやけどこれがレッドだけしか知らんかったら胸の内にしまうんの辛なって誰かに話したかもしれんのよ」
「マツバさんですか?」
「いやいや異性にこんなん話せる勇気はあらへんって。それにあいつはここ最近忙しそうにしてたから会う機会もなかなかあらんかったしなー。そんで挙句の果てにあないな事なって……」

 アカネの声調が段々と暗くなっていく。

「左様ですね……。私としてもマツバさんの身は案じてますわ。どうにかワタルさんが救い出してくれれば宜しいのですが」
「そか……。マツバもそれ聞いたらさぞかし喜ぶと思うで」
「あら、そんなにですか?」

 エリカからすればひと月ほど前にエンジュシティで漸くポケギアの番号を交換したというだけの間柄である。そんな彼女からすればアカネの表現が少々過剰に思えたのも無理はない。
 不意に突っ込まれたアカネは一瞬だけ言いよどんだ。

「あ、いや、そのな……。男なら誰だって女からどんな形であれ自分を思ってくれればそりゃーもう飛び切り喜ぶものなんやって! エリカやウチみたいな器量よしならそらもうひとしおよ!」
「何をそんなに慌てていらっしゃるのか分かりかねますが……。ま、まぁ確かにそうかもしれませんわね」

 エリカは最後に少しだけ頬を緩ませる。彼女はふと腕時計を見てだいぶ時間が経ったことに気づく。短針は8のところをさしていた。

「あら、もうこんな時間……。アカネさん申し訳ないのですが本当にそろそろ……」
「ああ、すまへんね。ほなさいなら」

 こうしてアカネとの通話は漸く切れた。

「本当、コガネの方はお話が大好きですわね……。申し訳ありません貴方、これからお夕食買い出しに行ってまいりますわ」

 彼女はレッドに陳謝しながらそう言った。
 レッドは途中から手持ちの整理や世話をしている。

「まったくアカネさんにも困ったもんだな……。分かった俺はエリカの分まで世話するから行ってき……」

 レッドが言いかけたところで二人のポケギアがまたも同時に鳴り響く。
 さすがに二回目なので二人とも取った後何も返さなかった。

「これは緊急用の一斉連絡の為、一方的にこちらが話す。何か質問や意見があれば別途総司令官のワタルにまで連絡するように」

 どうやら第一軍内の緊急連絡なのかリーグからワタルに読み替えられている。

「たった今、ロケット団側より交渉決裂が宣告された。これにより、いつ侵攻が開始されてもおかしくない状況になった為、大変疲れているとは思うが大至急43番道路まで移動していただきたい。先ほど話した作戦の詳細を今一度確認する為集合が完了し次第、もう一度作戦会議を行う」

 その後、集合場所や時間などの諸連絡を行って通信は切れた。因みに先ほどの作戦会議で業務用のワタルへの連絡先は伝えられている。盗聴を防ぐためにプリペイド方式のポケギアを新たに購入したようである。
 レッドは夕食の時間が先延ばしにされた事を不快に思ったがやむを得ず堪えた。

―午後8時30分 43番道路 大テント内―

 ジムリーダーたちは着の身着のままでポケモンセンターを出て43番道路へ向かった。
 さすがに暗い中本陣予定地のスリバチ山まで行かせるのは酷に思ったのか道路に入って数分もしないところにワタルがあらかじめテントを立てており、ここが緊急設営の会議室となった。
 タケシは最初の作戦会議終了後すぐにいかりの湖まで飛んで行って、運河の工事を開始している。
 ワタルはこうなったのは自らの力不足が原因であると陳謝したのち、切り替えて作戦について再確認を行う。
 先ほどワタルが大いに書き込んだマップを机の上に広げた。

「カイリューが空中から偵察したところによると、まだエンジュのどのゲートにも敵は集中していないという。だから恐らく攻撃の開始は早ければ翌日の夜明け、遅くとも朝までには行われると考えられる。先遣隊のナツメ君は今夜のうちにエンジュ側の原で野営していてくれ。一人で心細いかもしれないが、足の速くて強力なポケモンを多く有しているのはこの中では君しかいないんだ」
「分かりました」

 それ以外にもナツメは自前の超能力の恩恵で索敵にも現役の忍者であるキョウやアンズと比肩すると目されるほど非常に優れているため、戦況の詳細を逐次伝える役目を担っている。但し何分敵が多すぎるので万一の事を考えワタルはこの段階での潜入調査は断念した。もしまたジムリーダーが囚われればリーグの責任問題だけではなく戦局に甚大な影響を及ぼすのだ。

「スリバチ山入口付近に置かれた人々は翌日早朝にそこまで移動するように。攻撃や戦地での采配などはヤナギさんにすべてを任せる。レッド君とエリカ君はヤナギさんの命に従うように」
「うむ。任しておけ」

 ヤナギの一言は自信と余裕に溢れていた。ヤナギ配下に置かれた二人にとってどんなにそれが心強かったかは語る間でもないだろう。

「後の控えはイブキだけど……。最後まで基本的には動かずに、但しもしも戦況が危うくなれば救援を頼むかもしれないからその時は宜しく」
「分かったわ」
「いいね? 勝手に動かないでよ? いくらドラゴンが強いといっても限界がある。どんなに動きたくてもひたすら指示が来るまで待つんだ」

 ワタルはイブキの性格を幼いころから知っているだけあり、念入りに釘を刺す。

「うるさいわね! 分かってると言ってるでしょ」

 イブキは少々苛立っている様子の声で答える。

「ほらそういうところ……。全く君は師匠の下に居たころから全然変わってないんだから……。こんなことならフスベに待機させておけば」
「ワタルもそういう心配性な所全然変わってないわね……。だから大丈夫だって。理事長様の指示が来るまでしっかり待ってますわよー」

 イブキはあてつけがましい声でそう返答する。

「心配させてるのは誰のせいだよ全く……」
「あの、一つ疑問に思ったのですが」

 エリカがワタルに尋ねた。

「ん? 何だい」
「作戦の要となる運河の件ですが作戦に間に合う見込みはあるのですか?」

 彼女がそれを尋ねるとワタルは渋い顔をする。

「分からないとしか言いようがないね……。タケシ君には既にこの件は伝えてあって当人は不眠不休で掘削を続けると意気込んでたけど……。三日を一日……いや半日で達成するだなんて果たして出来るのか……。でも僕は土木の事はあまり詳しくないし、彼を出来る限り信じるよ」
「でしたら私が手伝おうかしら?」

 イブキが提言したが

「気持ちはありがたいが駄目だ。運河の工事は大変な労力を伴うしただでさえ少ない戦力をこれ以上割くことはまかりならない。諸君もどうかそのあたりを分かってくれ」

 戦いの最中に傷薬など回復道具を使う余裕は無い。ワタルは苦しそうな心情が十二分に伝わる声でそう言った。
 この戦いは断崖絶壁の綱渡りの如く危うい状況なのは明白である。

「分かりました。出来る限り踏ん張って見せます」

 レッドがそう返答した。

「うん。頼んだよ。先ほども言った通り本当に危うくなれば僕やイブキが援護に回る。だけれどこれはあくまで最終手段。出来うる限りヤナギさんたちは敵の攻撃を凌ぎ、運河完成まで耐え忍んでくれ……!」

 ワタルは手をついて机に伏す。
 万一この軍が破られればワタルやイブキの故郷であるフスベが危うくなることを彼は危惧していることも大いにかかわっている。

「何度も言うとおり、これは非常に苦しい戦いだ。だけれども、ここまで築き上げてきたリーグの威信や誇りを守る為に絶対にこの戦いには勝たなければならない。理事長として、このような状況になってしまった事は大いに申し訳ないが、どうか総員の全力を以てこの急場を凌いでほしい」

 ワタルは引き締まった表情でこう言い残し、会議を締めくくる。
 この後全員は持ち場に赴き、ヤナギやチョウジ市民の好意で配給された夕食を食して床についた。

―5月1日 午前5時 42番道路 エンジュ側河原―

 ナツメは気配を察すると、飛び起きてテントをたたんだ。

「来たわね……」

 ナツメは静かにそう呟き、ありったけのポケモンたちを前に出した。
 フーディン、エーフィー、バリヤード……重複も合わせれば30体程が大挙してやってくる敵勢を待ち構えていた。
 春霞があたりにあるなか敵を察知できたのは超能力の賜物である。
 そして彼女はポケギアを取出し、ワタルに連絡する。

「こちらナツメ。敵が動き出しました。敵勢はおそらく……3万5000体。詳細は……」

 数分ほどで内訳を全て話し、彼女はその場にいるポケモン全てにリフレクターとひかりの壁を指示して全面をカバーしたのち、一斉にサイコキネシスを指令する。

 ここからリーグ、否、全国の命運がかかった戦闘が開始された――

―第十一話 広がる波紋 終―




 





 
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