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真田十勇士

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巻ノ十九 尾張その八

「かなりの法力を持たれておるか」
「左様です。それで殿の方は」
「稼ぎじゃな」
「講釈で、ですか」
「うむ、結構貰った」
 自分の講釈を聞いて者からとだ、幸村は伊佐に笑顔で答えた。
「これでまた旅が出来る」
「それは何よりです」
「そうじゃな、ではな」
「はい、ゆっくりと休み」
「三河に向かおうぞ」
 家康の領地であるその国にというのだ。
「そうしようぞ」
「さすれば」
 こうした話をしてだった、一行は次の日には三河に足を向けた。その一行のことについてだ、服部は己の屋敷の中で影の者達から聞いていた。
 屋敷はそれなりに大きいが質素だ、華美なものは一切ない。それは彼の部屋も同じで質素そのもので畳と障子以外は何もない。
 その部屋の中でだ、彼は着物を着て袖の中で腕を組みながら話を聞いていた。
「十一人となられてもです」
「何も乱れることなくです」
「伊勢も進まれ」
「尾張からです」
「いよいよ」
「そうか、来られるか」
 服部は腕を組んだまま述べた。
「遂に」
「はい、三河に入られ」
「この駿府にもです」
「やがて来られると思います」
「わかった、殿のお言葉はじゃ」
 彼が仕える家康、他ならぬ彼のことだ。
「よいとのことじゃ」
「ご自身のご領地に入られても」
「それでもですな」
「そうじゃ、真田殿は今は敵ではない」 
 徳川の、というのだ。
「それならばな」
「特に、ですか」
「こちらから仕掛けることはない」
「だからですか」
「幸村殿にもですか」
「手出しはしないと」
「そうじゃ。徳川家は信濃、甲斐に兵を進めておる」
 そうしてその二国を次々と手中に収めてきている、そうしつつ相模の北条氏とも度々衝突している。北条も信濃と甲斐に兵を進めているからだ。
「しかし戦が主ではない」
「あくまで必要なのは国」
「戦ではありませんな」
「それ故に」
「従う国人は、ですな」
「家臣とされている」
 戦わずして、というのだ。
「殿は戦は恐れぬが好まれぬ」
「戦わずともことを為せれば、ですな」
「それに越したことはない」
「だからですな」
「従う国人はそのまま召抱えておられますな」
「それは真田殿も同じじゃ」
 幸村の家もというのだ。
「従われるならそれでよい、ましてやな」
「今はまだ、ですな」
「徳川家とは揉めていない」
「戦どころか話もしていない」
「だからこそ」
「それでじゃ」
 まだ関わりがないからだというのだ。
「殿は幸村殿には手出しをされぬ」
「そういうことですな」
「敵でないからこそ」
「お国を通ることを許される」
「そうされるのですな」
「殿は非常に律儀な方じゃ」
 家康のその資質は天下によく知られている、その律儀さは彼と長い間同盟を結んでいた信長も頼りにしていた程だ。 
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