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異界の王女と人狼の騎士

作者:のべら
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第六十三話

 まさかね……。
 それが正直な感想だった。でも書き込みをよく見ると、事件現場が教員宿舎の近くであったこと。生徒からの書き込みらしい物もあり、そいつが担任に確認したところ、生徒指導先生が亡くなったらしいと言っていたこと。また、こんな時間に学校に教員が集まってきていること等々の書き込みがあり、案外、信憑性の高い情報かもしれない。

 先生達が学校へ集まっているとするなら、マスコミの取材に対する対応と記者会見の検討を行っているんだと考えられるな。
 寧々と如月の変死、そして把握しているかどうかは不明だけれど蛭町の失踪。そして今回の教員の殺人事件。
 わずかな間に3人、蛭町を入れたら4人だけど……、の犠牲者が出るなんて大量殺人事件以外では日本では無かったんじゃないか? こんなのをマスコミに知られたらそりゃ相当騒がれるだろうな。

 ……でも、学園都市についての都市伝説が本当なら、マスコミもあまり騒げないかもしれないな。
 寧々の事件でも予想外にマスコミが騒がなかったもんな。あきらかに普通じゃない死に方をしているのに、深く追求するようなことがなかった。最近のマスコミはそんな対応が多いからあまり気にならなかったのかな。もうしつこいぐらい追求するネタもあれば(これは国民はあまり興味がない)、明らかにおかしいだろうってネタには全く触れもしないことが幾度かあった。この偏向具合についてはネットとかでもいろいろな書き込みがあるけれど、どれも極端すぎてオカルト的でもあり何とも言えない。でも、確かに何らか勢力について、マスコミはまったく弱腰になるようだ。
 学園都市にもその力学が働いているんだろうかな。
 そいつの正体を知れば、面白いことになるかもしれないけれども、今はそこまで気が回らないや。

「さっきからごそごそやってるみたいだけど、……で、どうなっているの? 」
 いつの間にか王女が側に来ていて、俺の携帯の小さい画面をのぞき込んでいる。
 ごくごく側に彼女の顔がある。

 俺は少し距離を取り
「ネットでの情報だけど、どうやらまた誰かが殺されたらしいよ」
 と画面を見やすいように彼女に向けてあげる。
 しばらく画面を見ていたが再びこちらを見る。
「誰かが、……死んだの? 」

「それはまだ発表されていないから分からない。でもこの掲示板の情報を信じるとしたら、教員の誰かみたいだ。……姫、いちおう聞いておくけど、これは寄生根とかは関係ないよね」

「……それは分からない。でも、お前と闘った寄生根は消滅したはず。だから、すくなくともアレではないわ。……ただ、アレ以外にこちらに来ているものがあったら分からない。そうであるなら」
 王女は言葉を詰まらせる。

「つまり、もし寄生根が一体でなかったら、如月と同じようなことが繰り返されるって事、……なんだよな」
 俺の言葉に彼女は頷く。

「教えてくれ、その確立はどれくらいなんだ」

「そんなの私に分かるわけないわ。異形のものが尖兵としてどれだけの量のサイクラーノシュの寄生を送り込んだか、私を追うことが彼らにとってどれくらい重要かによるんじゃないかしら」

「姫と異形のものは戦っていたんだよね」

「そうよ。とはいっても、圧倒的な戦力差を見せ付けられていたわ。仲間の裏切りによってね。私たちの種族全員が総力をあわせれば、奴らとであっても互角以上に戦うことができたのに、長きに渡ってくだらぬ権力闘争を繰り返していた事が

仇となったわけだ。……滅び行く種族とは案外そんなものなのかもしれないけれどね」
 吐き捨てるようにつぶやく。

「その対抗勢力である姫たちはどういう状況になっているんだ」

「……父と第一皇子である私の兄が指揮していた。……父の指導のもと、各地に散らばった一族を集め、配下の族や使い魔達を終結させ反撃を行おうとした時に、あの男が、兄が裏切ったのだ」
 握った拳に、ほんの少しだけれど力が入るのが分かった。
「あいつは異形のものと通じていた。わざわざ私たちが集まるように誘導し、罠にはめたのだ。……集まった仲間たちがあの混乱のなかでは分からない。おそらくほとんどが殺害されたか捕らえられたのだろう。父もやつらの凶刃に斃れた。指導者を失った組織は惨めなものだ。その後は坂道を転がり落ちて行くようなものだ。ただただ、敗走し、逃走するだけだ」

「……そうか。うん、ごめん。辛いことを聞いちゃったね」

「ふん、辛かろうがどうだろうが関係ない。所詮、どうあがいたところで過去は変わらないのだから」
 内心はどうなのかわからないけれど、平然とした顔で答える王女。
 クールだな。

「ということは異形のものと戦う勢力にとって、王女が一番大事な存在ということだよね。当然ながら、やつらにとっても姫の生死は一番の関心ごとになるわけだ。君が生きている限り、反乱分子は集う可能性を持つということなんだから」
 王女が生きて異世界に逃走している事実。そして、強力な結界のために、二つの世界を行き来し王女を追跡できるのは寄生根しかない。そうなった場合、たとえ困難であったとしても追跡者をたった一体しか遣さないわけがない。

 つまり、まだ敵は存在しているってことだよ。

 そして、ニュース報道より早く、ネットの掲示板で殺害された教員の名前が書き込まれた。

 俺たちの高校の生徒指導教員、戸次(べっき)空次(くうそ)だった。

 
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