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髑髏の微笑み

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4部分:第四章


第四章

 鉱夫と飯場の雇いの女の結婚なので贅沢なものではなかった。街の教会で簡単な式を済ませただけである。その後は酒場で鉱山の仲間達に迎えられての宴会だった。当然主役はディックとエミーである。
「おめでとうさん」
 仲間達が二人に声をかける。二人は今宴の中心にいた。
「今日はあんた達が主役だぜ」
「俺達のおごりだ。存分に楽しみなよ」
「ああ、悪いな」
 ディックはエミーを隣にしてそれに応える。今日は手に持っているのはバーボンではなくワインであった。結婚の場だったので祝いの酒だったのである。
「しかし本当にな」
 ソノーラが二人を見て言う。
「運のいい奴だぜ」
「そうだよな、こんな美人のかみさんもらうんだから」
 ジョニーも言った。
「羨ましい限りだ」
「まあ運は昔から悪くないんだよ」
 ディックは鶏の肉を焼いたものを口の中に入れながら応える。やはり七面鳥ではない。
「何処かでな。助かるんだ」
「それはいいことだな」
「その運のおかげでかみさんもか」
「ああ」
 そう言われて顔をさらに綻ばせる。酔って赤くなっているからそれが余計に目立つ。
「神様に感謝しているぜ」
「そうだな、感謝しとけ」
「幾ら何でもつき過ぎだぜ」
 やっかみもかなり入っている言葉が周りからかけられる。そんな彼等に料理が次々と運ばれて来る。質素ではあるが量も種類もかなりのものである。
 その中にはスープもあった。人参や玉葱をたっぷりと入れたスープだ。それが溢れる程に注がれた鉢ごと運ばれてきたのである。
「今度はスープか」
「おっ、いいなあ」
 ディックはそのスープの匂いを嗅ぐと目を細ませた。
「俺これ好きなんだよな」
「ああ、そう思ってだよ」
「まあどんどん飲めよ」
 仲間達が勧める。それはエミーに対しても同じであった。
「あんたもな」
「飲んでみてくれよ、美味いから」
「ええ」
 エミーは相変わらず表情がない。その表情のない顔でそれに頷く。鉢の蓋が勢いよく開けられる。
 するとそこからスープと共に何かが出て来た。それは何と人間の生首であった。
「!!」
 そこにいた全員が凍りついた。髪の毛がスープの中に漂い虚ろな目で新婦を見ていた。まるで何かの恨みがあるように。
 だがそれは一瞬のことだった。次の瞬間にはスープの中にはそんなものはなかった。ただ美味そうな匂いのするスープがあるだけであった。
「お、おい」
 ソノーラが引き攣った顔で静まり返った皆に対して言った。
「気のせいだったみたいだな」
「あ、ああ。そうだな」
 ジョニーがそれに頷いた。
「見れば何もないじゃないか」
「そうだよ、何もないよな」
「そ、そうだな」
 皆もそれに頷く。今見たものを確かに覚えているからだ。
「ほら、旨いスープがあるだけだぜ」
 また誰かが言った。実際にスープを皿に入れて飲んでみせていた。
「こりゃかなりいけるや」
「本当か?」
「ああ、飲んでみろよ」
 他の者にも薦める。
「今日のはかなりな」
「ああ、本当だよ」
 薦められた者が実際に飲んでみて頷く。
「こりゃいいや」
「かなりな」
「どうだ?旨いよな」
「そうだな」
「御前もどうだ?」
「ああ、是非共」
 ディックは何とか笑顔を作ってそれに応える。
「じゃあ一杯な」
「一杯なんて言わずに幾らでも」
「ほ、ほら早く」
「君はどうだい?」
 ディックはここでさりげなくを装ってエミーに声をかけた。
「本当に美味しいからさ」
「いえ、いいわ」
 エミーは青い顔でそれに答えた。それまでも表情がなかったが今度は余計にそれが顕著になっていた。
「悪いけれど」
「そうか、じゃあいいよ」
「俺達だけで飲ませてもらおうぜ」
「そうだな、これだけあるし」
 彼等はその場をまだ取り繕う必要があった。だがどれだけ取り繕っても不気味なものは隠せないでいたのであった。そればかりはもうどうしようもなかった。
 エミーはまだ暗い顔をしていた。それに見かねた者達が彼女に声をかけてきた。
「少し休んだら?」
「そうだよ、夜はまだ長いし」
 女達がまず声をかけてきた。皆エミーの同僚か鉱夫達の妻である。その職場や家庭から安易に想像できるように皆結構荒々しい。
「ちょっとね」
「それで気分を落ち着ければ」
「はい」
 エミーは青い顔のままそれに頷いた。そして今はそこを後にするのであった。
 女達は彼女についていく。残ったのは男達だけになった。
 男達はとりあえず生首のことは忘れた。そして飲みはじめた。
 彼等は酒豪揃いであった。祝いでとことんまで飲んだ。皆酩酊状態になったところで彼等は散開した。後に残ったのはディックだけであった。

 
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