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RSリベリオン・セイヴァ―

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第十話・外伝「蒼真と神無……」

 
前書き
蒼真のサイドストーリー後篇です。結構長いです

   ↑神無 

 
どれほど堪えたことだろうか? もし、この場に神無が居なかったら、とっくにあの女を八つ裂きにしていたところだ。しかし、彼女にそんな光景を見せるわけにもいかず、ましてや神聖な境内を奴の血で汚すわけにもいかない。
しかし、そんな中で神無が割りこみ、とりあえず俺と奴の距離を離した。こうして、俺は今社務所の客室に居る。その間に神無があの女を追い返してくれるそうだ。

境内の外、第一鳥居の辺で神無は千冬と対峙するかのように会話している。
「織斑千冬……あのISの筆頭操縦士だな? 噂はかねがね聞いている」
「なら話は早い。早い事蒼真に会わせてくれないか?」
と、邪魔ものを見るかのように、千冬は神無をにらみつける。しかし、神無にそのような脅しは通用しなかった。
「残念だが……其方に今の蒼真を合わすことはできそうにない」
「何故だ? そもそも、貴女は蒼真の何だ?」
「彼を一晩、自宅へ泊めさせた者だ。其方から見れば単なる他人も同然だ。しかし、人の機嫌を見極めることはできる」
「どういうことだ?」
「其方も薄々気付いていたはずだ。今の蒼真殿は異常なほどの怒りを感じた。そして、恐ろしいほどの殺意が……」
「何を言っているか、私には全くわからないな?」
しかし、それをあえて千冬は認めなかった。
「其方……かつて、蒼真殿に何かよからぬ行いを与えたのか?」
「ッ……!?」
まるで、心の奥底を覗かれたかのように千冬はギョッとした。そして、さらにこの神無という巫女をにらみつける。勿論、神無もそんな千冬の様子を見るなり図星であることがわかった。
「言っておくが、私は彼に対して罪を犯したことは一度たりともない!」
少々口を強くさせる千冬であるが、それでも神無は動じることはなかった。
「……とりあえず、今回はお引き取り願おう?」
「……少しでも、蒼真と会わせてもらえないだろうか?」
「其方も先ほどの蒼真殿の異常な気配を感じたであろう? あの激情と殺気はほかならない。これは貴殿の身を案じて言っている意味にもつながる。さ、また後日にでも参られよ?」
「……!」
キリッと、千冬は彼女をにらみつけた後、仕方ないといわんばかりに元来た道を歩いていった。
――ようやく、彼に会えたというのに。あの女は何者なんだ!?
しかし、蒼真を一目見たときに彼からとてつもないオーラが感じたことは嘘ではない。これは、何か訳があるようで、自分の知らないところで蒼真に何かがあったのだ?

「まったく、しつこい御人だ……」
ようやく千冬が消えたことにため息をつく彼女は、社務所へ戻って客室で待たせている蒼真の元へ向かった。
「すまぬ、待たせたな?」
「いや……それよりも、ありがとう」
蒼真は、心より彼女に感謝していた。
「何をだ?」
「俺が、あの女を殺そうとしたから止めたんだろ?」
「……すまぬ、いらぬ世話だったか?」
「最初はね? だが、境内をあの女の血で汚したくなかったから、今回は見逃そうと思ったのさ」
「本当に……殺そうとしたのか?」
神無は、不安な顔で蒼真を見つめた。そもそも、蒼真は平然と「殺害」を衝動で行おうとしたのだ。昨日まで、気のよさそうな青年が突如あのように豹変するというのは、何やら訳があるようだ。
「蒼真殿……私でよければ話してみぬか?」
しかし真は静かに首を横に振った。それを見て神無も「そうか……」とだけ返すと。奉仕のため境内に向かった。
「さて……」
蒼真は、立ち上がると現下院へ向かい、神無へ別れを告げようとしたのだが。
「……?」
RSの通信機能から呼び出し音がなった。すぐさま通信ホログラムシステムを展開させてホログラム上のキーパネルをタッチして電話に応答する。
「はい、宮凪です……」
『あ、蒼真か? 俺……』
と、通話の相手は魁人であった。
「どうした?」
『勤務内容が変わった。君はしばらくそこで滞在しろだとさ?』
「どういうことだ?」
『上層部によると、糞兎共がそこの玄那神社をターゲットに軍勢送り込んでくるんだと? 天弓侍神無という重要な人物を保護するよう君に命令が来た』
「そ、そうか……それ以上変更はないんだな?」
『ああ、ない……』
「本当だな?」
『本当だよ?』
「本当に本当だよな?」
『本当さ?』
「よし、わかった……本当だな?」
『その場所が気に入ったのかい?』
「べ、別に……!」
あまりにもしつこいから尋ねてみると、やはり図星だった。
『いいよ? 本部は、そこを僕らの支局にしようかと考えている。神無さんにも要件を話せばきっとわかってくれるさ?』
「そうだな、じゃあ俺が話してこよう」
『じゃあ、頑張りな?』
そして、通信は切れた。まさかの展開に蒼真は隠れつつも小さくガッツポーズを取ったのだ。また、あの露天風呂に入れると思うとラッキー! と、叫びたくなった。
――しかし、神無はわかってくれるだろうか?
そう不安に思っていたが。彼女は別に蒼真ならと迷惑にならないと言ってくれた。
「……そうか、なら別によい。むしろ歓迎しよう?」
「本当か?」
「ああ、前々から私一人では苦戦を強いられることが多かったのでな? 一人でも戦力が加わってくれるのなら頼もしい。そなたの実力はあの時しかと見せてもらった」
「あの時? ああ……お前が鬼みたいな顔して俺に斬りかかってきたんだろ?」
「お、鬼とはなんだ! 私はそんな顔などして……」
顔を赤くする神無に蒼真は優しく微笑んだ。
「ま、そういうことで……しばらく厄介になるな?」
「そうか……なら、こちらに住むことになった以上、少しは働いてもらうぞ?」
「おう、男仕事なら任しとけ!」
しかし、そう軽く口で言い張ったのだが……それが後に仇となるのは言うまでもなく、蒼真にはよくあることなのだ。

「薪割りって……こんなにきつかったか?」
まだ十本も割っていないというのに……今は凄い汗だくになっている。神無は、奉仕以外にこういった肉体労働もしているとはかなりタフである。
「蒼真殿、薪割りを終えたら、次は境内の裏の畑を手伝ってくれ?」
「お、おう……」
まだ仕事は山ほどあるのか……
薪割り五十本をようやく終えた俺は、次に裏側に回ってそこにある畑を耕すのを手伝った。幸い面積はそれほど小さくはなく、手伝ってくれるので楽だった。
「巫女って、百姓もやるのか?」
「半分は自給自足だからな? ちなみに、昨日其方に飲ませた酒も自前だ」
「へぇ~? しかし、いつもこれを全部一人でやるのか?」
「まぁ……そういうことになるな?」
二人は、そのまま広くなくとも立派な畑を共に耕し合い、気付いたころには昼時であった。
「うむ、今日は蒼真殿も手伝ってくれたからいつもよりも早く片付いたな? では、ここいらで昼食にしようか?」
「よ! 待ってました?」
蒼真は、ササッと桑を片づけて彼女よりも早く食卓へ向かった。
「今日の献立は何だ?」
片づけを終えて一段落終えた蒼真は、台所に顔を出した。そこにはすでに神無が調理の準備を始めている。
「昼は菜っ葉の炒め物でもするか?」
昼は適当にある物をと、彼女はエプロンを付けて蒼真に振り返る。
「お、美味そうだな? 俺も何か手伝おうか?」
「そうだな……食器を卓袱台に並べてもらおうか?」
「いいぜ?」
食器といっても二人分の食事だけ故、枚数も少なくすぐに終わった。引き続き手伝おうとしても、もうすぐ出来上がるからテレビでも見てて待つようにと言われ、蒼真はワイドショーをつけながら台所に立つ巫女を見つめた。
――神無なら、立派な嫁さんになれるだろうな?
そうやって想像をしながら蒼真はテレビをへと視線を戻した。
「ほら、出来上がったぞ?」
大きな皿へ盛り合わせた肉と菜っ葉の炒め物、油でいためた香ばしく、美味そうなにおいが漂ってくる。
「そら、これを食って昼も頑張ってくれ?」
てんこ盛りの茶碗を蒼真へ指しだすと、それを喜んで受け取り、蒼真はガツガツと口へ頬張って美味そうに食い始めた。
その後、彼女の料理のスタミナあってか、境内の掃除も捗り、あっというまに空は夕日に包まれており、空いた時間に蒼真は石段に腰かけてボンヤリと夕日を宥めていた。
「……」
彼は、今日一日を振り返った。
――これが、普通の暮らしというものか……
これもこれで悪くはないな? そう感じながら後ろから歩み寄る気配に気付く。
「神無、この境内から見える夕日は格段と綺麗だな?」
「そうだな……私も、よく一日の奉仕を終えるとつい見とれてしまうことがある」
「あの夕陽を見てしまえば、今が女尊男卑なんて忘れてしまいそうだ……」
「蒼真殿……」
神無は、彼がリベリオンズに所属していることを考えると何やら宿命的なものを彼から感じた。
おそらく、過去に何か悲しみと憎しみを持ち、今日までそれをバネに生きてきたに違いない……
「……さて、夕食の支度をするか?」
「ああ、手伝おう?」
「良い、其方はそこで夕陽を見ていてくれ? あ、テレビでも見るか?」
「そうはいかねぇよ。居候って身だからな」
「なに、私とて「女」だ。女なら、女としての役割を務めさせてくれ?」
「神無……」
おそらく、蒼真からして神無という女性は今まで見てきた女性の中で最も女性らしい女だと感じた。
今まで彼の目に映ってきた女達は皆が女尊男卑に被れて歪んだ人間達ばかりだった。しかし、この神無には、やや武人のように堅そうな口調であるも、本当は母性溢れる家庭的な女性ではないかと思った。
蒼真は、真剣な眼差しで神無を見つめた。そんな彼に見つめられた神無は、急に赤くなってすぐさま彼に背を向けてしまった。
「ゆ、夕食の支度が整い次第、貴殿に声をかけよう? それまで……ゆ、ゆっくりしておくがいい」
そう、いつものような固い口調で彼女は駆け足で自宅に突っ込んでいった。
「……」
そんな妙な態度をとる神無を疑問に思いながらも、蒼真はしばらく山に沈みかけている夕陽を見つめていた。
それから夕飯になって、二人はいつものように食卓について夕飯を食べ始めた。
いつも神無は、これまで礼儀作法に沿って食事は無言で取っていたが、蒼真に会わせて彼のおしゃべりにつき合っていた。
「おお! この煮物は美味いな?」
「今日、蒼真殿と一緒に収穫した野菜の一つだぞ?」
「へぇ? 自給自足ってのも悪くないな?」
「案外大変だぞ?」
何でもない平凡な会話でも、お互いにとって楽しい食事だった。
食事も終え、風呂も入った。今回は神無はバスタオルを巻いて入ってこなかったらしく、蒼真は一時安心した。しかし、あのときの彼女の肉体がどうも頭から離れられないのは何故だろ?
風呂も出て寝巻に着替え、与えられた寝室へと向かい、布団に入って深い睡眠に入った。
――こういう生活も悪くないな? これが、平凡というものか……
こうした平凡で平和な日々がしばしの間続いていき、蒼真と神無は体外に距離が縮まり、気付いたころには親しい間柄になっている。時折、集落に住む老人たちからは「神無ちゃんのところに男が来た!」、「玄那神社の巫女さんが年端の近い男と結婚した」、などという噂が広まって互いに顔を赤くしあったこともあった。
思いは互いに思い合うようになり、しかし告白する勇気もないままこうした同居生活が今後も平凡に続いていった。
しかし、ある夜更けのことである。
満月の輝くその夜のこと、縁側をドタバタと走る物音に彼は起こされた。
「……?」
ふと、障子川へ寝返りを打つと、その障子をバタンと開けて巫女装束に着替えた神無が真剣を片手に押しかけてきた。
「蒼真殿!?」
「ん、どうした……?」
「夜更けに申し訳ないが、敵襲だ!」
「なに!?」
その一言に、蒼真は勢いよく起き上がり、すぐさま私服へ着替えると、彼女と共に縁側を走った。
「敵勢は!?」
「無人ISが五機だ……!」
――こんな時に夜襲か!?
眠気が残るものの、蒼真は迅紅を片手に神無と共に境内へ飛び出した。
「……来るぞ!?」
彼女の台詞と共に月に浮かぶ三体のシルエットが浮かび上がった。それらは一瞬のうちにこちらへ迫り、そして境内の砂利をまき散らしながら着地した。
――見たこともないタイプだと!?
それは、彼が調査した無人ISとは違い、巨大な両椀部より従来のサイズ、シンプルな黒い装甲に覆われた人型のシルエットであり、右腕には近接戦のブレードが握られていた。
「来るぞ……!」
神無が叫ぶまさにそのとき、五体のISが一斉に刃を向けて襲い来る。その身の素早さはただ者ではない。
「くぅ……!」
その隙を与えぬ攻撃に蒼真は苦戦する。彼が所有するRS迅紅は、強襲用に手向けた太刀タイプであるため、これほど素早い動きを取る敵数人に襲われれば反撃の余地は厳しくなる。
「ハァッ!」
しかし、神無は彼よりも劣らぬ剣術により一体目の無人機を切り裂いた。
「蒼真殿! 相手は一定の動きしかとらぬ」
「一定の動き!?」
例え人間以上の動きをするとはいえ、所詮はプログラムされたもの。なればと蒼真は迅紅を強く握りしめた。
「……そこだぁ!」
相手の動きに沿って彼は相手の攻撃を弾き返した。そして、その隙をついて一体の右腕を斬り飛ばしたのである。

「もらった!」
右腕を失い、怯む無人機を真二つに切り裂いた。
続いて背後から斬りかかる無人機を、回し蹴りで跳ね返し腹部を迅紅で貫いた。
神無も、華麗な剣さばきによって二体目を倒す。そして最後に残った一体目を蒼真が斬りかかろうとした刹那、その最後の無人機は素早く彼から距離を取った。
「素早いな……」
次こそは外さないと、迅紅を上段に構えると。
『もう……ここらへんで、束さんのメッセージを聞いてくれないかな~?』
聞き覚えのある忌まわしい台詞が、その無人機から聞こえてきた。
「束……!?」
その声を聞いて蒼真は目を見開いた。
「出たな、外道・篠ノ之束ッ!!」
神無は真剣の剣先を向けて叫んだ。
「何のようで玄那神社を襲う!?」
蒼真は我に返ると、咄嗟に束ねへ問い叫んだ。
『なーんだ……あの時のワカメ野郎か? 生きてたんだ? 最近、束さんの邪魔ばかりする裏政府のウイルス共がうろついているって聞いたけど、それってテメーのこと?』
「束ェ……!!」
『そうカッカしんさんな? どうせ、束さんの邪魔するウイルス共は、みーんな束さんが全殺しにしちゃうんだから?』
「そうはさせん! お前の悪事は必ず阻止してみせる!!」
『たった二人しか生き残っていない絶滅危惧種の巫女ちゃん姉妹に何がデキるのかな~?』
「黙れ!」
――たった二人? 神無と弥生のことか? どういうことだ……
蒼真は、神無へ振り向いた。
「私達だけでも、命をかけてキサマと戦う! 例え刺し違えてでも……」
『無駄♪ 無駄♪ どーせ神無ちんや弥生ちんも、パパやママみたいに束ねさんによってペタンコにされちゃうんだからさ~?」
「ッ……!!」
神無は、冷静を保ちつつも激しく無人機を睨み付けた。
――確か、両親は居ないと神無は言っていたな……
咄嗟にあのとき彼女が発した言葉を思いだすと、蒼真は叫んだ。
「束! テメェ……神無達の両親をどうしたんだ!?」
『ハァ? テメ―にはカンケーねぇだろ? まぁ、強いて言うなら……テメ―のと同じようにファミリーを殺したんだよ? そうそう、ワカメのママを自殺へ追い込むよう政府に仕向けたのは、この束さんなのだ~! テッヘン!』
「なに……!?」
――母さんは、父さんが死んだショックで自殺したんじゃなかったのか!?
『ニンゲンってさ~? 死んだ好きなヒトのことでシツコク追い詰めてやるとすぐにクビつっちゃうね~? それと? テメ―のパパの脱出にプロテクトかけたのもこの束さんで~す♪ ブイ!』
「ッ……!?」
全ては偶然ではなかった。親父の戦闘機の脱出機能にプロテクトをかけ、さらにお袋を政府の人間を使って自殺へ追い込むよう仕向けた……
蒼真の表情は途端に暗くなる。そして、真実を耳に今よりも更なる憎しみが彼の中から湧き上がってきた。
彼の、迅紅を握る手が強く震えだした。
「……してやる!」
蒼真は呟く。
『ハァ?』
「……殺してやるぞ、殺してやる! 束ェ!!」
大粒の涙と共に彼は叫んだ。

しかし、そんな憎しみに満ちた彼の反応を、束は面白げに聞いていた。
『クスクス……そーんなに死にたいんだ~? あの大好きなパパみたいに~?』
「黙れぇ!!」
そして、次に気付いたときには迅紅が無人機の頭部を斬り飛ばしていた。そして、束の通信が途絶え、ノイズへと変わった……
「……」
神無も、そんな蒼真の後姿をただ見守るしかできずにおり、時期に夜空が雲に覆われて夜の雨に二人は打たれる。
雨は次第に激しさを増し、蒼真はずぶ濡れになりながら、ただ地面の砂利を見つめていた。
「蒼真……」
風を引くからはやく中へ……と、神無は声をかけようとするも、蒼真は何も言わずにただ下を向いたまま彼女通り過ぎて、先に中へと入っていった。
「すまない……今は、一人にさせてくれ……」
それだけを言い残し、蒼真は一人寂しく部屋へ戻った。

翌朝、蒼真はそのまま濡れたまま部屋の隅に蹲っていた。
「蒼真……入るぞ?」
静かに障子を開けて、朝食が乗せられた盆を持って神無が入ってきた。
「朝食を持ってきた。少しでもいいから、口に入れておけ?」
「……」
しかし、蒼真はただ黙ったままだった。昨夜のことが今でも忘れずに彼の頭に焼き付いているのだ。
「蒼真……」
「……ゲホッ……ゲホォ……!」
しかし、途端に蒼真は激しい咳と共に蹲っていた身体が崩れた。
「そ、蒼真っ!?」
「……ゲホッ……ゲホッ……ゲホォ……!」
「蒼真!?」
神無は、彼の額に掌を添えると、彼の体内から高熱の温度が伝わってくる。さらに彼の額には無数の汗の雫が浮かんでいる。
「凄い熱……!」
慌てた神無は、彼を担ぐと服を脱がし、寝巻を着せて布団へ寝かしつけた。
おそらく、昨日の件で一晩中興奮状態のまま熱を出し続けたために酷い高熱が発生したのだろう。こうなると、厄介だ。
「しっかりしろ、蒼真……」
引き出しから自前の薬剤を取り出し、それを複数配合したものを湯に煎じて蒼真に飲ました。最初は咳が邪魔をして何度も吐き出したが、それでも徐々に飲んでくれて、しばらくは長く続いた咳も徐々に静まっていった。
「しばらくは、安静にしておくんだぞ?」
神無が奉仕のため一旦彼の部屋を後にするが、それでも蒼真はまだ残っている辛さ故に頷こうともせず、ただ目を閉じたまま寝たように静まり返っていた。それとも、昨夜のことしか頭になく、彼女のことに気付いていないのだろうか。
「……」
しかし、神無が居なくなってから、蒼真はゆっくりと瞼を開けた。昨夜を思い返すと、やはり腸が煮えかえるほどの憎しみが込みあがってくる。
だが、今の自分は動くことすらままならない状況ゆえに憎しみの他にも無力と悔しさも感じていた。
それと同時に、それらの憎悪と悔しさが超越して彼から生きる気力が失いつつあったのだ。
そんな彼は、薬に含まれた睡眠薬によって徐々に睡魔に見舞われて深い眠りについた。
彼は、眠る夢の中で嘗て少年時代を過ごした記憶を辿り始める。彼がまだ中学生の頃、白騎士事件で千冬と束が彼の目の前から姿を消して数ヶ月後、日本は早期にISを正式認定した。
これが発端で、ISは女性しか扱うことができないという風習が広まり、後の「女尊男卑」なる性差別が社会現象と化した。
これを気に、男尊女卑の強い中東の国や平等社会を掲げる国々が各地で激しく反発し、またその国から女性権を強く訴えるためにISらによる過激テロが相次いで起こった。
ISは、国家スポーツとして認定されているとはいえ、こうしたテロによる悪用も相次ぎ、さらには国さえもISを兵器として違反ながらも軍用化していた。
このような状況からして、各国では激しい内乱と貧富の差が激しさを増し、日本を含めた全世界の国々は、自らの国の領土をエリアごとに強制管理を行っていった。
そんな世界の中で、宮凪蒼真はエリア41という祖父母の住む田舎の集落に引き取られ、そこで差別に縛られずに平凡な生活を送るつもりであった。

「ほらぁ、蒼真? 誰がこげんなジュース買ってこいって言うたか!」
田舎の女の子らはこのとき完全に女尊男卑に毒されており、新しく通い始めた中学校では、それが当たり前のようになっていた。
しかし、そんな性差別に猛反発する彼は当然のように田舎弁口調の不良女子らに抗い続けていた。
「テメェらで買いに行きな?」
そう、不愛想に言い返しては言えたが。
「はぁ? コイツ、都会モンのくせして何えばっちょるんか!?」
日々彼の口答えに反発する彼女らは、無理やり彼氏にさせられたクラスメイトの男子らを呼び寄せて、彼らを使って蒼真に暴行を加え始めた。
「蒼真……すまん!」
彼氏にされた男子達も、皆が蒼真にそう詫びを入れながら殴り、蹴り続けた。
毎日帰ってくる蒼真は全身をあざだらけにして帰宅してくる。だが、そんな孫の姿を見て祖父母は何も思わなかった。今亡き両親の駆け落ちによって既に縁を切られているため、蒼真を引き取ったのは、父親の保険金目当てである。
所詮、蒼真は祖父母から「よその子」という見方で冷たく引き取られていたのである……
しかし、そんな彼は日々虐待され続けた挙句、ある邪心が芽生え始めた。憎しみと悔しさによって突き動かされた復讐心でもある。この時、彼に初めて真の悪意が生まれたのである。

「な、何しちょるん……何する気!?」
夕暮れ時の教室に連れ込まれて、包丁を向けられて怯えているのは、今まで蒼真を虐めていた女子の一人だった。自分がしてきた行いに初めて気づいて普通の女の子の仕草を取り始めるが、今の蒼真には何も感じることはない。
「女っつう雌犬は、どういう声で喚くかなぁ……」
そういうなり、蒼真は彼女の体を包丁で滅多打ちにして傷つけた後、その血まみれの包丁で彼女のセーラー服を切り裂き、半殺しにした。
さらに、その勢いは止まることなく、彼を虐げてきた女子生徒達の自宅へ放火を行い、さらに祖父母の物置から盗んできた桑で少女達の背後から殴りつけて重傷を負わせた。
そして、最後に彼を警察へ連絡した祖父母の自宅にも火をつけて、彼はこの集落から逃げ去った。
後に指名手配された蒼真には、どこにも行くあてはなく、こうして野垂死ぬのを待つばかりだった。
徐々に疲労に見舞われ、何日も飲まず食わずで歩き通し、迷い込んだ深い山中で彼は行倒れとなって意識を失った。こうして、ようやく死ねるのかと自分の死を受け入れようとした。
……が、そう簡単に死ぬことは許されなかった。
「……?」
次に目を覚ました時、ここはあの世かと思ったが、残念なことに違った。そこは、見知らぬ器具が目立つ。何かの実験室か何かであろうか。
「あ、目が覚めたかい?」
「……?」
そこには白衣を着た自分と同い年の少年が居た。彼が、後に蒼真の相棒となるリベリオンズの天才科学者の魁人である。これが、彼との初めての出会いであった。
ちなみに彼、魁人は試験官ベビーであったからしてフルネームは与えられず、研究員から「カイト」と名づけられ、後に日本へ移住した時にその名前を漢字で表記したらしい。
「アンタは……?」
「僕は魁人、日本へ移住しているリベリオンズの科学者さ?」
「リベリオンズ……?」
このとき、蒼真はリベリオンズの存在を知ることとなる。そして蒼真は自分が犯罪者であることを隠そうとしたが、魁人は何も効こうとはせず、ただ単に人助けとして蒼真を助けたとだけ言って、しばらくの間彼を自分の元で保護することにした。
こうして、蒼真は当分の間蒼真の元で居候させてもらうことになり、暇なときは彼と雑談を飛ばし合ったりして楽しんだ。元々お互い変わり者同士ゆえに気も合ったようだ。
魁人は、今まで試験管ベビーと化け物扱いされてきた中で初めて同い年にして彼に親しい友人が出来、蒼真を心より受け入れた。後に二人は親友となり、そして互いに己の正体と大罪を犯した過去を打ち明け合い、絆を深めていった。
それからは二人はコンビになって共に行動し、魁人はリベリオンズの対IS兵器「RSリベリオン・セイヴァ―」を蒼真に与えて、彼のサポート役を務めて、幾年にわたってIS社会と戦い続けていった……

「……?」
夢から現実へ戻ってきた蒼真は、静かに暗い部屋の中で静かに瞼を開けた。
――夢……だったのか?
に、しても懐かしく、そして忌々しい記憶の回想であった。あんな夢は、もう二度と見たくないものである。
「……神無?」
そのとき、ふと障子に人影がうつった。影の形からして女性と長いポニーテール、まぎれもなく神無であった。
「蒼真、入るぞ……」
静かに障子が開き、そこからはいつのものように巫女装束の彼女がランプを照らして部屋へ入ってきた。
「夕飯はどうする?」
「しばらく、何も口にしたくない……」
「そうか……やはり、あの事で?」
聞いてはいけないことだとわかっている。しかし、彼女は同じ境遇者ならばと恐る恐る彼に尋ねた。
「……アンタは?」
「ん……?」
「……そういうアンタは、束との間に何があったんだ?」
と、ゆっくりと布団から上体を起こす蒼真は、逆に彼女へ返した。
「私か……?」
彼女は、蒼真の元へ座って足を崩すと、自分の過去を喋った。
「……私も其方ぐらいの年だとおもう。私が中学生の頃、夏祭りに向けて両親の指導の下、神楽殿で舞の稽古に励んでいた。複雑で疲れる時でも、小学生の弥生に応援されながら、私は徐々に舞の腕前を上げていった」
「……」
ランプの小さな明かりが照らされる蒼真は、表情を変えずただ無言のまま彼女の話を聞き続ける。
「……しかし、白騎士事件が起きる前日のことだった。あの日は祭りの前日でもあり、いつもより夜更けまで稽古に励もうとした。当然、両親と弥生もそんな私の稽古につき合ってくれた。しかし、突然父と母が何かに気付いて、私と弥生に逃げるよう叫びながら私たちを神楽殿から外へ出した途端、神楽殿は一瞬にして炎に包まれた。私は叫びながら燃え盛る神楽殿へ駆け寄ると、そこには燃える柱の下敷きとなり息を引き取る両親の姿が見えて……それを最後に、神楽殿は崩れ落ち、父と母は崩れ落ちる瓦礫に押し潰されて灰となった。そして、泣き崩れる私たちの前に……奴が現れたんだ」
「奴……?」
それは聞くまでもなかった。その正体は紛れもなく篠ノ之束であった。彼女は当時、燃え盛る神楽殿の明かりに照らされた束の姿が今でも頭から離れない。

『あーあ~……ガキ共は()りそこなったな~? ま、いいか? 霊術の継承者だけは潰せたんだし?』
『お、お前は何者だ!?』
『ど~も? 天才科学者の束さんだよ~? ハロ! ハロ!』
『……どうして! 父様と母様を!?』
『だってぇ~? 束さんにとって、霊術なんていう魔法は超~邪魔なイレギュラーなんだもん♪』
『……のれ……おのれぇ! よくも父様と母様をぉ!!』
『そんなに死にたいの~?』
『ッ……!?』
咄嗟に、神無は隣で泣きじゃくる弥生を抱きしめて庇う。
『じゃあ、束さんは行くよ~? グッバーイ♪』

「あの時、私はこれほど人を憎んだことはなかった。そのあと、私と弥生は親戚をたらい回しにされながら中学を卒業し、その後は親戚の家を離れて、二人だけで実家で暮らしだしたのだ」
そこで、神無の話は終わった。そして、彼女は蒼真へ顔を向ける。
「これが、私の過去だ。私は、其方に知ってほしくて話した。別に、蒼真も話さなくてはいけないわけではない。話したくないならそれでいい……」
「……神無は、俺よりもずっと心が強いんだな? 俺とは違って……」
「そんなことはない。私は……」
「俺の過去も聞いてくれるか?」
「……?」
神無は黙って強く頷いた。蒼真は、それに応じて全ての始まりを彼女に話した。
自分が、かつて千冬と交際があったことを、そして白騎士事件に巻き込まれて父親が彼女と束に殺され、母親も束によって自殺へ追い込まれたことを、そして心のない祖父母の元へ引き取られて、その地で虐待された挙句、多くの少女たちに手をかけて大罪を犯したことを……
そして、魁人と出会ってリベリオンズとしての道を歩み始めたことまで全てを彼女に話した。
「そうか……そのような悲しい過去が?」
しかし、神無は蒼真の話しで、虐めていた女子生徒へ強姦や暴力を振るったり、ましてや放火をしたりする場面など聞いても、彼女は顔いろ一つ変えずに熱心に彼の話す過去を最後まで聞き続けた。
「……其方に、そのような過去が」
「そうさ……所詮俺は頭のイカれた狂人さ? お前のように耐えることもできずに怒りと憎しみにつき動かされて、気が付けば多くの人間を傷つけていた。俺は、こう見えて束以上のキチガイかもしれないな……」
「そんなはずはない! 現にお前は……」
「慰めなんてよせ!」
蒼真が叫んで、両手で頭を抱えると苦しむように唸りだした。
「俺は……ISによって人生を狂わされて生まれた、哀れな悪党さ?」
「蒼真……!」
そのとき、蒼真の頬に神無の暖かな温もりが伝わってきた。彼女の柔らかな掌が彼の頬を包んでいた。そして、真剣な目で彼を見つめた。
「蒼真……見て?」
そういうと、彼から掌を離すと、その掌は紙帯で束ねた黒い髪を解くと、巫女装束の帯へ回し、そしてシュルシュルと布の擦とれる音と共に彼女の裸体が露になる。

「神無……!?」
何の冗談だか、また酒でも飲んで酔っ払っているのかと思うと、蒼真は気を悪くしてしまった。
「悪い冗談はよせ……!」
「冗談ではない、本当だ……」
と、頬を赤く染める神無は蒼真の後ろ首へ両手を回すと、そのまま彼を自分の豊かな胸元へ抱き寄せる。
「神無……!?」
彼女の弾力と柔らかみ、そして温盛に満ちな胸元へ顔を埋められる蒼真は、目を丸くする。
「私は……お前に、抱かれたい」
神無は、蒼真をさらに強く抱きしめると、彼の髪を優しく撫でまわした。まるで、泣きじゃくる子を抱きしめてあやす母親のように。
「この心の痛みを、分かち合えってくれる人がいつまでも傍に居て欲しい。これ以上一人だと、心が折れてしまいそうで……寂しくて……もう、耐えられない……!」
神無の瞳からホロリと涙が流れた。今まで、無理にでも強がって弥生を守りながら今日まで弱さを見せずに耐え続けてきた。しかし、蒼真という青年と共に生活していくにつれて、共に話し合い、そしてお互いの過去を打ち明け合い、次第に彼に対して強い恋心を抱いてしまう。
「蒼真……私を、抱いて? そして、お前の苦しみを私が解き放ちたい……」
「神無……」
「蒼真、お前は……決して悪人ではない。私の妹を助けてくれたではないか?」
「神無……けど、俺は……」
しかし、やはり自分が今までしてきた罪は消えない。しかし、神無はそれでも構わない瞳をして彼に言う。
「今日まで蒼真と共に過ごしてきて感じたんだ。お前は、決して狂人でも、束と同様な外道でもない。優しく、そして正義感に満ちた立派な殿方だ……」
「……」
「蒼真、これからもずっと……私の傍にいて? 貴方が言うその大罪に、お前が苦しんでいるというのなら、私も共にその罪を背負い、そしてお前と共にどこまででもついて行こう?」
「神無……!」
蒼真も、そんな神無を強く抱きしめ、そして涙だを零しながらこう告げる。
「……こんな……こんな、俺でいいのなら……これからも俺の傍に居てくれ? そして、お前が抱えるその心の痛みと悲しさを、俺の不器用だけど、本気の『愛』で何度でも包み込んで温めてやる!!」
こんなベタで恥ずかし気な台詞しか今の彼には浮かんでこなかった。それでも、彼にとって正直な思いを出しての告白だった。
「ああ……その言葉を待っていたんだ!」
気付いたときには、辺りには寝巻と巫女装束の衣類が散乱し、そして一つの布団の中で互いの裸体を抱きしめ合う男女の姿があった。



ある無人の駅にて

織斑千冬は、蒼真に関して詳細な情報をさらに求めるため、偵察に向かわせた束との連絡を行っていた。
『もしもし、ちーちゃん?』
「束か? 様子はどうだった……?」
『う~ん……やっぱ、あの神無っていう巫女が黒幕っぽいよ~?』
「……やはりか、しかしどうすれば?」
『玄那神社の人間は、『霊術』って言うサイキックパワーを使う連中だから……多分、それを扱う人間をやっちゃえば、モヤシも正常になるんじゃない?』
「……つまり、その神無という巫女を?」
『ピンぽ~ん!』
「だが……私も、これ以上の休暇は無理だ。一旦学園へ戻ってから対策を整えよう?」
『じゃあ~あ? 束さんが上手く誘き出しといてあげるね~? ほらほら! 確か、夏休み前に臨海合宿するんじゃなかったっけ? そん時にあの二人をビーチへ来るように上手いこと誘い込んでアッげる~!』
「そうか……それは助かる。期待しているぞ?」
『まっかせといて~ 束さん、ちーちゃんのためなら何だってするね~!!』
と、ここで束との連絡は終わった。千冬は次の列車が来るまで無人のホームでただ待ち続けながらこう心に誓った。
――蒼真……神無という巫女の呪縛から、お前を必ず救いだしてみせる!
しかし、その行き違った思いはすでに最悪の方向へ突き進んでいることを、彼女は知る由もないまま学園へ戻っていった。







 
 

 
後書き
予告

フランスで、一夏と同じIS男性操縦者がIS学園へ転校してきた? それも彼と同年代の少年だった。
疑問を抱いたリベリオンズ・パリ支部は、その少年の正体を探るため恐るべき刺客を学園へ送りんできた。
そんなことも知らずに狼達は呑気に平凡な学園生活を過ごしていた……
次回
「オー・シャンゼリゼ」 
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