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幽霊はいつも気まぐれ

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4部分:第四章


第四章

「何もなしだったのかよ」
「ああ」
 隆一はレストランで待ち合わせした卓也にそう答えた。
「それだけだぜ」
「何だ、面白くねえな」
「そんなものだぜ、幽霊の正体なんてな」
 隆一は笑ってそう述べた。今はハンバーグを食べている。
「幽霊の正体見たりとか言うだろ」
「まあな」
「そういうことさ。で、御前は見たのかい?」
「いや」
 卓也もそれには首を横に振った。
「全然。車とバイク以外何も見なかったぜ」
「だろ?やっぱりそんなのいねえって」
「ここはそうだったけれどよ」
「まだいるって言うのか?」
「・・・・・・悪いかよ」
 憮然としてそう返す。
「いないって完全にわかったわけじゃねえだろ」
「諦めが悪いな、御前も」
「ふん」
 憮然とした顔でまた返す。
「まあいいさ。ところでな」
「何だ?」
「御前そのスパゲティ美味いか?」
 見れば卓也はミートソースを食べていた。量は結構あり皿がかなり大きい。
「ああ、いけるぜ」
「そうか、じゃあ今度はそれ頼もうかな」
「おいおい、まだ食うのかよ」
「ドライブインじゃコーヒーだけだったからな」
「それでか」
「御前はもういいのかよ」
 そう尋ねる。すぐに返事が返ってきた。
「さっきサンドイッチ食ったしな。別にいいぜ」
「そうか」
「じゃあスパゲティ頼むのか?」
「ああ、美味そうだしな」
 そう述べてテーブルの上のボタンを押した。そしてウェイトレスを呼びそのスパゲティを頼むのであった。
 可愛らしい服と顔のウェイトレスに運ばれてきたそのスパゲティは確かに美味かった。それを食べ終えてサービスの紅茶を飲んだところで二人は店を後にした。
「もうすぐ朝だな」
「ああ、段々空が明るくなってきてるぜ」
 一緒に店を出た卓也が空を見ていた。
「帰るか。帰ったらどうする?」
「俺か?もう寝る」
「寝るのかよ」
「御前はどうするんだよ」
「俺も寝ようかな」
 だが彼も同じ考えになっていた。
「何か疲れたしな」
「そうか、じゃあ戻るか」
「そうだな。・・・・・・んっ!?」
「どうした?」
「いや、あれ」
 ここで隆一は駐車場の出口に立つ一人の若い女を見た。
「あれ」
「あれってよお」
「まさかな」
 二人は心の中の言葉を必死に打ち消そうとしていた。
「いないんだよな」
 隆一は言った。
「だってよ、俺が夜に送ったからよ」
 見れば顔が違う。服は似た感じだが。
「おい、こっち見てるぜ」
 卓也が言う。
「どうするよ」
「知るか、幽霊なんていないんだよ」
 半ばムキになって否定する。
「だからよ、帰るぜ」
「そうだな、とりあえず帰るか」
「ああ、それで寝る」
「わかった、じゃあ行くか」
「ああ」
 そこで女を見た。まあ点いている電灯には影が浮かび上がる筈である。しかし。
 影がないような気がした。隆一も卓也もそれを見た。だがそれは見えなかったことにした。
「行くぜ」
 女を振り払うかの様に車を出した。駐車場を出る時に彼女がずっとこちらを見ているように思えたし何か手招きをしているのも見えたがそれは見えないふりをした。自分自身に対して幽霊なぞいない、夜のあれが本当なんだと言い聞かせながら駐車場を後にしたのであった。



幽霊はいつも気まぐれ   完


            
                   2006・10・19

 
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