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妄執

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2部分:第二章


第二章

「御前に一つ言っておくことがある」
「何でしょうか」
「鬼はだ」
 その鬼の話であった。
「鬼は最初から鬼ではないのだ」
「最初からではないのですか」
「そうだ。最初から鬼になるのではない」
 和尚は静かに、だが峻厳な面持ちで話していく。
「そうなっていくのはだ」
「はい」
「人がなっていくのだ」
「人がですか」
「そうだ。人がだ」
 まさにそうだと。小僧に対して話した。
「人は何故人かというとだ」
「姿形ではないのですね」
「心だ」
 それだというのである。
「人はその心が人だからこそ人なのだ」
「そうだったのですか」
「そうだ。人を人にしているのは心だ」
 和尚はそのことをまた話した。
「心がそうさせているのだ」
「では心が鬼になれば」
「それで鬼となる」
 まさにその通りであるというのだ。
「つまりだ。キンさんはだ」
「その心は既に」
「人のものではなくなっている」
「鬼にですね」
「生きているそのうちに鬼になってしまっている」
 それが今の彼女であるというのだ。それは小僧にとっては実に恐ろしい言葉であった。それを聞いて青い顔にまでなっている。和尚はその彼に対しても言ってきた。
「恐ろしいか」
「はい」
 そして小僧はそのことを素直に認めた。
「人が鬼になるなぞと」
「だがその通りなのだ」
 それが事実なのだというのである。
「鬼は心で鬼となるのだ」
「人が」
「今のキンさんはその中でもだ」
「その中でも?」
「餓鬼に近い」
 この存在の名前も出すのだった。
「餓鬼とは知っているな」
「はい、それは」
 小僧も餓鬼については知っていた。和尚に教えられたのである。
「あの幾ら食べようとも餓えているという」
「食べられぬ餓鬼もいるがな」
 餓鬼といえど様々ということである。
「しかし餓鬼というものはだ」
「常に餓えているのですね」
「決して満たされることはない」
 そうした存在だというのである。
「そしてキンさんはだ」
「その心がですね」
「その通りだ。まさにだ」
「餓鬼になってしまっている」
「妄執によってだ」
 まさにそれによってというのだ。彼女は鬼、それも餓鬼になってしまっていると。和尚はそう小僧に対して語ったのである。そうしてであった。
 
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