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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第三十六話

 安芸に来てから一週間、町中で布教活動をするザビー教をちょいちょい潰しながら作戦が決まるのを待っている。
あちらの戦力自体は大したことはないと踏んでるみたいだけど、ネックなのはあの電波ソング。
よくよく聞いてみれば、変な顔がついたおかしなからくりを通して大音量で流しているらしくて
人ならば簡単に倒せるもののからくり相手では一撃で倒すことが出来ない分、困っているのだとか。
婆娑羅者であれば叩き潰すのは楽かもしれないけど、毛利のスタンスは捨て駒が戦をして大将が陣に詰めて指示を出すというもの。
何処かの族のヘッドと違って前線には出ないらしいから、捨て駒さんが戦えなければ意味がないわけだ。

 そうは言っても智将と呼ばれてるらしい毛利さん。ちゃんと手は考えているようで。

 「……あの、この大きな鏡は?」

 「これが我が策、照日大鏡よ」

 この馬鹿でかい鏡で何をするのかと思っていれば、説明するよりも見た方が早いと捨て駒さんを使って説明をしてくれた。

 照日大鏡が太陽の光を集めてゆっくりと捨て駒さん達に向けられる。
一体何をするのかしらなんて思った瞬間、私の目の前で捨て駒さんが跡形もなく消滅した。
残っているのは焦げた跡ばかりで、そこに人がいた痕跡は全くない。

 なるほど、虫眼鏡に光集めて黒い紙を燃やそう、なんて理科の実験でやったような気がする。
つまりあれは、それをもっと強力にした奴ってわけね。
……でも、その説明するのに捨て駒さん蒸発させなくても良かったんじゃ……。

 「然るべき処遇よ。奴は失敗に失敗を重ねておったのだ。生かしておく価値も無い」

 ……そんなんだからザビー教なんて怪しげなものにとっ捕まるんだよ。捨て駒さん達が。

 よくもまぁ、捨て駒さん達もこんな主の下で頑張ってるよ。
でも、捨て駒さんはこんな毛利のことを何だかんだで慕ってるから不思議なもんでさ。
ドMの集まりか? 女王様に調教されてんのか? なんて思ったけど、
まぁ……あの変態(あけち)にだって慕って付いて行く家臣はいたんだろうし……本当にいたのかな?

 でまぁ、この照日大鏡って奴を使って遠隔操作をしてぶっ潰そうって腹らしくて。
ただ、太陽の光を利用するから曇りの日に進軍は出来ないし、途中で曇っちゃってもアウトだ。
それに人を容易く蒸発させられる威力はあっても、からくり相手となると些か威力が弱いらしい。
まぁ、人間を蒸発させるのと機械を蒸発させるのとでは必要な熱量も変わってくるだろうからね。分からないけど。
これでは使えないというので、照日大鏡を超える兵器の開発を急がせているのだとか。
それに平行して他の兵器の開発もしているからなかなか手間取っているらしい。

 で、その他の兵器、ってところに実は私が間者と間違われたという話に繋がってくるわけだ。

 長曾我部さんと戦になりそうだって話を覚えているかな。
この長曾我部ってのはからくりの開発が得意らしくて、つい最近も富岳という大型の戦艦を作ったらしい。
これは水陸両用で、船にもなるし戦車にもなるしという本当に便利な代物だという。
それを見た毛利がつい欲しくなっちゃったとかで、上手く騙して自分のものにして
勝手に改造を始めちゃって、それで不仲になったんだそうだ。

 ……そりゃ、アンタが全面的に悪い。
そう言いたくなったけど、この女王様にそんなことを言おうものなら何をされるか分からないから
何も言わなかったけどもさ。

 勝手に改造しちゃってる戦艦の名は日輪、照日大鏡以上の威力を持つ大鏡を据えるとかで、
それが完成すればザビー教など大したことはない……らしい。
とはいえ、日輪の完成まで二、三ヶ月はかかるみたいで、
そこまで待っていられないと照日大鏡の改良版を開発させてるらしいんだけど。

 「……あの歌に免疫がある人が飛び込んでって壊しちゃった方が早いんじゃないのかなぁ」

 「そのような者がおるのならば、とうにやっておるわ」

 馬鹿め、と言いたそうな毛利に正直イラついたけど、多分この人も電波ソングの餌食になるクチなんだろう。
耳栓バッチリ付けてたし。

 「そなたが行くのが一番早いようにも思うが」

 冗談、だって貴方、絶対に捨て駒にするでしょ? もう分かってんだから。

 「改良した照日大鏡ももう後二、三日ほどで完成する。そうなれば戦に出ることになる。片倉よ、そなたも準備をしておけ」

 「分かっ」

 ……片倉? 今、片倉って言ったよね?

 「……やっぱり素性をご存知でしたか」

 「我を誰と思っておるのだ。とうに分かっておる。
独眼竜の隠された右目、竜の宝珠、影で糸を操る者……そなたの評判もなかなかのものぞ」

 その影で糸をってのは何なんだっての。
そんな黒幕的な言い方しなくたって……私、政宗様操ってるわけじゃないし。
ついでにその評判詳しく聞きたいわ。絶対ろくなもんじゃないって自信はある。

 「東の智将、竜の右目片倉小十郎……気に食わんが、それと並ぶと称されたそなたよ。しかと働いてもらうぞ」

 「……あちらから貰ってしまった金額分の働きはしますよ」

 東の智将ねぇ……西の智将は自分だと言いたいんだろうか。
まぁ、竹中さんと並んで腹黒そう、いやこっちの方がどす黒そうではあるかしら。
うちの小十郎がまだ白く見えてくるよ。いや、アレは違った意味で黒いか。純粋な黒って感じで。



 さて、照日大鏡改良版が完成し、いよいよザビー教の本拠地であるザビー城に乗り込むことになった。
出発した日は雨で、毛利が忌々しそうにザビーめ、と呟いていたがこれはただの偶然だと思う。
この調子だと風が吹いてもザビーのせいにされてしまいそうな予感。

 三日かけてザビー教の本拠地まで辿り着き、その前の日までの雨が嘘だったかのように綺麗に晴れた。

 「これが日輪の加護よ!」 

 なんて無表情で得意げに言ってたけど、やっぱりそれも偶然だと思うんだけど。
まぁ、本人がその気になってるから水を差すようなことは言わないけれども。

 「オー、マタ来マシタネー、アナタ、チョットシツコイヨー?」

 出てきたのはガタイのいい中年の外国人のおっさん。
河童みたいなヘアスタイルで、片言の日本語を喋るもんだから可笑しくって仕方が無い。

 「アナタ、愛ガ足リマセンネー。愛ヲ語ライマショウ! 愛ハ世界ヲ救ウノデース!」

 うわぁ、胡散臭ぇ……。愛とか何とかって、変な歌流して洗脳して信者増やすのが愛ですか? そりゃねぇだろうが。
つか、アレがザビーなんでしょ? “ザビー”ってもしかしてモデルになってるのって、フランシスコ・ザビエル?

 ……コレが外国の一般的な宗教だとか、そんな設定だったら真面目に泣きますよ?
いくら世界観おかしいからってコレはない。

 「ミナサーン! イッショニ、歌イマショ~ウ!」

 ザビザ~ビ♪ と流れてきた歌に、捨て駒さん達が耳を塞いでいる。
毛利さんも不愉快そうな顔をしているが、すぐに照日大鏡をセットするように指示を出す。
照準を合わせてからくりに向かって光を浴びせていくと、面白いくらいに次々にからくりが破壊されていく。

 「……ふむ、まだ威力が弱いな。改善の余地はあるということ、か……」

 ……アンタ、何処まで極めるつもりなのよ。その大鏡。

 落ち着いたら奥州に文送っておくかぁ……大鏡にも気をつけろって。

 「皆の者、あの異人を討ち取れ!」

 捨て駒さん達が一斉に毛利の合図と共にザビー教へとなだれ込んでいく。

 「オ~……コレハ、チョットマズイカモ~?」

 怪しい宗教団体の教祖ことザビーがそんなことを言いながら城の中へと消えていく。
あちらには兵がいないから、歌さえどうにかなれば後は捨て駒さん達でも鎮圧出来る。
そう毛利は踏んでいるようで、事の成り行きを静かに見守っていた。時折大鏡で適当に攻撃しながら。

 一時間くらい経っただろうか、急に辺りが静かになった。
鎮圧が成功したのかと思ったが、それにしては兵が引き上げてくる様子もないし、何より静か過ぎる。
もしあのザビーとかいう外人を討ち取ったら、“とったど~!”くらい聞こえて良いと思うんだけど。

 ……これってもしかして、まさかと思うけども。

 「……自軍全滅?」

 「…………」

 ……何か答えてよ。認めたくないのは分かるけども。

 「アナタタチ、ナカナカヤルネェ~」

 突然背後から聞こえたその声に、私達は揃って飛び退いた。各々の武器を構えて敵を迎え撃つ。

 「貴様は……ザビー!」

 「……敵の総大将がここにいるってのは、どういう腹かしら? てか、一体どっから出てきたのよ」

 そんなことを言えば、ザビーは目をキラキラと輝かせて私達を交互に見つめてきた。

 「アナタタチヲ、歓迎シマ~ス。ザビー教ニ入信シテ、一緒ニ愛ニツイテ語リマセンカ~?」

 愛、だと……? いや、確かに愛を探して旅をしてますが、そういう胡散臭い愛はいらない……ぶっちゃけなくてもいらない。
というか、どっから出てきたってのは無視かい。

 「愛などいらぬ! そのようなもの、我には不要ぞ!」

 「オ~、愛ハ必要ネ~。ソレハ、ザビーニモ、アナタニモ、必要モノデ~ス」

 「そんなものはまやかしぞ。我が欲するのは毛利家の安泰、そのようなものなど邪魔なだけよ」

 「サミシイヒトデスネ~……アナタ、ソンナコト言ッタラヒトリボッチヨ?」

 ザビーのその言葉に顔色を変えた毛利を見て、素直にヤバいと思った。

 この手の手合いは言葉巧みに人の心の隙間に付け入ってくる。
この人、冷酷に振舞ってるけど心の奥底ではもしかしたら愛情って奴を欲しているのかもしれない。

 独りぼっち、これが陥落させるキーワードになっているとしたら……この状況は危ない。
絡め取られる可能性が高い。

 「も、毛利様? あのような者に耳を貸す必要はありません。早く討ち取って終わりにしてしまいましょう」

 「黙れ! 分かっておる!」

 ……冷静さを欠いたら負けだよ? 戦術的にも。
てか、そういうのは一番良くわかってるんじゃないの? 安芸の軍師様。

 「このような下品な異人を生かしておくわけにはいかぬ! 言われずとも討ち取ってくれるわ!!」

 振るった輪刀を難なくかわし、巧みにバズーカーを撃って来る。
加勢しようかとも思ったけれど、完全にキレてザビーに攻撃してるもんだから近寄る隙が無い。

 「愛ハ~、必要デ~ス」

 「まだ言うか! その口を閉じよ!!」

 「アナタ、誰カラモ必要トサレテイナインデスカ~?」

 「……っ! 我は安芸の守護者ぞ! そのようなことは関係ないっ!!」

 「アナタ、サミシイヒトデスネ~。デモ、ザビー教ニ入レバダイジョウブ~。アナタヲ、ワタシタチハ必要トシマ~ス」

 段々と敵のペースに乗せられていく毛利に、これは撤退を考えた方が良いのではないかと思い始めてきた。
だって、このままだと私まで巻き込まれそうな気がするし……つか、西国の事情なんか私の知ったことじゃないし。

 「アナタ、タクティシャ~ン。洗礼名ハ、サンデー……“サンデー毛利”トシテ、愛ヲ語ライマショ~ウ」

 「我は……」

 ……こりゃ駄目だ、完璧落ちた。逃げよう。

 踵を返して一目散にその場から逃げ出した。
何処に潜んでたのか分からない教徒やすっかり寝返ってしまった捨て駒さん達に行く手を阻まれるもんだから、それを逐一駆除して走り回ってる。

 ここは海が近い。船にでも飛び乗ってしまえば追っては来られないだろう。

 「逃ガシマセ~ンヨ!」

 妙なイントネーションが聞こえたと振り返ったところで、突然網が頭の上から降ってくる。
気を取られたプラス動揺してうっかり力を網だけに使ったのがいけなかった。
背後に回っていた奴に思いきり殴られて、私はそのまま気を失ってしまった。

 こんなところで捕まったら絶対大変なことになるってのに……ごめんね、小十郎。
お姉ちゃんがおかしくなっても、絶望しないでね? それとアンタはザビー教に入信しないでね? 
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