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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第三十四話

 毛利の後に続いてやってきたのは城下町、町の人の様子だけ見れば何も変わりなさそうだけど、よーく見てみると何かがおかしい。
いや、よく見なくてもおかしいのは丸分かりだ。人がおかしくないのならば全体を見ればいい。

 何というか、町並みが夢と魔法の国に迷い込んだみたいな状態になってるわけで……
あ、いや、ここら辺だとハ○ステ○ボスの方が馴染みがあるのか?
ともかく、日本の一角にいるはずなのに外国に迷い込んだような景色になっている。

 「……これはまた見事な洋風建築ですね」

 それには何も答えなかったが、毛利は何処か頭が痛いという表情を見せていた。
しばらく進むと今度は妙な歌が響いており、兵から渡された耳栓をしっかりと装着した後、歌の方へと近づいていく。

 聞こえてきたのは妙な歌、歌と言っても歌詞がザビザビしか言ってないから歌と言ってさえいいものなのか。
でも、これは……何だろう……電波ソングって奴? 妙に耳に残るのが嫌になるわね。耐性あるけど。

 「使者殿、あの奇妙な歌を謳う連中を一網打尽にして下され。それが元就様の試練にございます」

 試練って……どう見ても普通の人っぽいけど……。
まぁ、竹中さんから結構なお金貰っちゃったし、もう今更ここで逃げるわけにもいかないからなぁ……。

 とりあえず、つかつかと近づいていって、いかにも何処ぞの宗教団体のような格好の男達に思いきり蹴りをかます。
いきなり蹴られて歌うどころでは無くなった男達は、口々に私を非難する言葉を吐き連ねてくる。
愛が足りないとか、信仰心がないとか、暴力はいけないとか、何だかカルト宗教を思わせるような
胡散臭さに心底関わりたくないと思うのは仕方の無いことかもしれない。

 ……だけど、こちとら伊達に暴走族を束ねてないんだな。

 「るせぇ!! さっきからザビザビザビザビ煩ぇんだよ!!
奇妙な歌往来で歌いやがって、誰の許可を得て歌ってやがんだ!! これ以上ごちゃごちゃ抜かすと叩き切んぞ!!!」

 なんて一喝してやれば、蜘蛛の子散らすように男達が逃げていく。
ちなみにそれに聞き入っていた人達も蜘蛛の子散らすように逃げていきました。

 ……なんか、こんなことやってたら男なんか寄ってこなくなりそう……。

 何となく悲しい気持ちになりながら戻ってくれば、足軽さん達が全員感心した目でこちらを見ていた。
毛利も無表情だけれども感心しているような気がする。

 「なかなかやりおるわ……あの歌に惑わされぬとは」

 「あの不愉快な歌が何か?」

 「詳細については我が捨て駒より説明させて貰おう。使者殿、ついて参られよ」

 毛利に着いて行く道中、足軽こと捨て駒さんからお願いしたいことの内容を聞かされた。

 最近西国ではザビー教なる宗教が流行っていて、至るところで被害が出ているらしい。
その中でも安芸は最も被害を被っているらしく、和の佇まいだった町並みがいつの間にか西洋チックに改造されて、
民の三分の二がザビー教に染まっているというとんでもない事態になっているという。
ちなみに安芸は毛利元就が日輪信仰をしているため、この状態は放っておくわけにはいかないということで、
ザビー教に戦を仕掛けようと考えていたらしい。ま、俗に言う宗教戦争って奴かね。

 ところが一度攻めに行った際にあの電波ソングを聞かされて、捨て駒さん達が揃っておかしくなってしまった。
皆ザビー教に改心するようになってしまい、それを見た毛利が已む無く撤退をさせたのだという。
どうやらあの歌に惑わされない人間が欲しいと考えていたようで、そこで私に白羽の矢が立ったらしいのだけど……何で私?

 理由は分からないけど、とりあえず宗教の違いってのが一番厄介なんだよねー……
私のいた時代だって、宗教の違いで戦争が起こってたわけだしさ。
信じる神が違うけど仲良くやりましょーってわけにはいかんのかね。
神様信じてない私にはとことん分からないわ。てか、現代の日本人の大半が分からない感覚だと思うけど。

 「ザビー教を撃退出来れば、報酬はお支払い致します。望みも思いのままに。
使者殿には是非とも隊列に加わっていただきたい」

 素性も知れないような人間に頼るほどに困ってるってわけか。ああいうのってマインドコントロールっての?
確かにそんなインチキ臭い宗教に心を操られて三分の二もやられちゃ、形振り構っていられないか。

 「それで毛利様、ザビー教を攻めると仰られましたが具体的にどうなさるおつもりなのですか?」

 捨て駒全員に耳栓を渡して装着させると指示が行き渡らなくなる。かといって何もせずに突っ込めばザビー教に絡め取られる。
通常の戦と同じように考えていては、まずこちらが不利になるのは必至だ。

 「攻める手立てはいくらでもある……が、あの歌が見えぬ障壁となりて我らを拒む。
あれさえなければザビー教など容易く潰せるものを」

 なるほどね、あの歌をどうにか出来ればいいのか。確かに単調だし、催眠効果を齎すには持って来いなのかもしれないわね。
でも、私昔っからああいうのは気にならないんだよなぁ……。

 「僭越ながら相手の手の内を知ることで対処法が見えてくるかもしれませぬ」

 「草を放っておるのだが、悉く奴らに絡め取られる。
ザビー教の者を捕まえて尋問をかけたが、大した情報も得られぬ……手の内を知るのは困難ぞ」

 「ならば一般論ではありますが、あのような類の宗教は大抵人の弱みに付け込んで気を惹くのだそうです。
人は自分の弱みを優しく受け入れて貰えると、それだけで絆されるものですから。
おそらく連中はそういう手を使い、更にその上に洗脳という方法を使って強固なものを作り上げているのでしょう」

 なんてのをテレビでやってんのを見たことがあるような気がする。
マジ怖ぇとか思ったけど、そんな知識がまさかこんなところで役に立つとは……。

 「詳しいな」

 「私の国にもそんな宗教がありまして、そのからくりを研究している者がおり、そこから聞いたのです」

 まぁ、嘘は言ってない。奥州にはそんな奇妙な宗教は無いけれどもね。
元の世界じゃそんな宗教がとんでもない事件起こしたりしてましたから。ザビー教が可愛く見えるくらいに。

 「我が捨て駒には弱みの克服が成されていないというわけか」

 一体普段どういう扱いをしているのか分からないけど、捨て駒なんて言っちゃうくらいだから、
相当厳しい扱いしてんじゃないのかね。それこそ、恐怖で心を縛り上げるみたいな。

 「恐怖などの負の感情で縛るよりも、優しさなど正の感情で縛る方が人はより縛られると聞きます。
夜の暗さよりも日の暖かさに安堵するように……ザビー教対策には、まずそれが有効なのではないかと」

 毛利は何か考えているようだが、それ以上言葉にすることは無かった。

 とりあえず具体的な作戦が決まるまでは、ということで逗留を許されたわけだけど……
何だか厄介な問題に巻き込まれたって感じがするなぁ。

 稲葉山城の攻略、手伝うんじゃなかった。

 今更だけど後悔が湧いてくるよ……それに傷跡まで残しちゃったし。
こんなの万が一政宗様や小十郎に見られたら大変なことになっちゃう。

 まぁ、今更どうこう言っても仕方が無いか。
しばらくは町の様子でも見ながら、作戦が決まるのをゆっくりと待つとしますかねぇ……。 
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