おかしい

第二章

「あのクラスおかしかねえか？」
「そうだよな。何であいつ等だけで動くんだ？」
　隣のクラスでもこのことに気付いた。それであれこれと話すのだった。
「まるであいつ等だけで世界があるみたいにな」
「だよな。完全にあいつ等だけの世界だ」
　こう見ているのだった。
「それっておかしいだろ。何があるんだ？」
「あのクラスに何かあるのか？ひょっとして」
「連中にとってみればそうなんじゃないのか？」
　彼等にしてもその閉鎖的な状況がわからずに言うのだった。
「それであんなに固まってるんだろ」
「そうか。それでも」
「何だ？」
「気持ち悪いものがあるな」
　それを感じるものがあったのだった。
「あのクラス。そう思わないか」
「ああ、確かにそれはあるな」
　他から見ればそうなのだった。
「明らかにおかしいよな」
「閉鎖的だしな」
「こっちには絶対話し掛けないしな」
「そうそう」
　こう話していくのだった。
「完全にあの連中だけで固まってな」
「部活でもそうなんだよ。出ることは出るけれど絶対話なんかしないぞ」
「それっておかしいどころじゃないだろ」
　流石にこれには懐疑的な言葉が出た。
「部活でそれは」
「それで実際にそうなんだよ」
「異様だな」
　外から見ればまさにその通りだった。
「おかしいなんてものじゃないな」
「異常だろ。あちの方がおかしいぜ」
「そもそもだよ」
「ああ」
　彼等の分析は続く。
「あいつ等何がおかしいっていうんだ？」
「さあな」
　それは誰にもわからないのだった。外から見ればだ。だからよけいに異様に思えたのである。そのことを言い合い首を傾げ合っていた。
「けれど。あのままいったら余計におかしくなるだろ」
「余計にか」
「どうなるんだろうな、本当に」
「少なくともあれだろ」
　外から見ての言葉がまた出た。
「連中は自分達以外には見えなくなっているからな」
「あのまま行くところまでってやつか」
「そうじゃないのか？」
　こう予想されたのだった。
「あのままな」
「大変なことにならないといいがな」
「そう思うんだがな。どうなるかな」
　外からは不安視されていっていた。そしてそれがやがて。現実のものになろうとしていた。
　彼等はさらに閉鎖的になり遂には。中でも何かを探すようになっていた。その探すものとは。
「絶対にいる筈だ」
「そうだ、いる筈だ」
　こう言い出したのである。
「中にこそいる」
「おかしいのが」
　内部において異分子を探しだしたのだ。ごく自然に。
「探せ」
「探せ」
　集まればまるで夢遊病者の様に言い合っていた。
「何処かにいる」
「誰かがそうだ」
　そうしておかしな者を探していった。そうして遂に一人それが見つかったとされた。それは何処にでもいるごく普通の生徒だった。彼等の中にいるだけの。
「あいつだ」
「あいつだ」
　彼等は彼を指差して言う。
「あいつがおかしい」
「あいつしかいない」
　やはり夢遊病者の顔で言うのだった。
「あいつが全て悪い」
「あいつがおかしいんだ」
　何を根拠にするでもなくこう言って動き遂には。彼を捕らえ教室でリンチをはじめたのだった。
「おかしな奴を消せ」
「この世からいなくなれ」
　リンチは最初数人がはじめたがやがてそれは一人増え二人増え遂にはクラス全員のものとなった。そのリンチに隣のクラスの担任が気付いた時には最早大変なことになっていた。
「離せ！」
「御前等は関係ない！」
　彼等は取り押さえられても虚ろな目で叫ぶのだった。
「おかしな奴がいる」
「おかしな奴を消すんだ」
　こう言ってまだ動こうとするのだ。そしてリンチを続けようとする。
「消せ」
「粛清だ」
　遂にはこうした言葉まで出て来た。
「世界を乱す者は消せ」
「粛清だ」
「抹殺しろ」
　こう口々に言ってまだ動こうとした。しかしそれは何とか数を使って押さえリンチは止められた。犠牲になった少年は重傷を負っていた。それが終わってからこのクラスは一時休校となり分析が行われたのだった。それにより恐ろしいことが判明したのだった。
「群集心理ですか」
「それとですな」
　この学校の職員室においてだった。このクラスの担任達も含めた話し合いが持たれそこでその分析結果が話されていたのである。
「閉鎖的な社会独特の行動が出ました」
「閉鎖的な社会の」
「そうです」
　述べていたのは教頭であった。彼は校長の横で強張った顔で述べていた。