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RSリベリオン・セイヴァ―

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第七話「大陸の猛者」

 
前書き

↑の表紙絵は狼と弥生の制服ですな。蒼真が作った狼達の制服は黒です。
凰が登場する話です。またしても、虐めっ子扱いを受けるセカンド幼馴染ですよ~? 

 
午前、IS学園のアリーナではISによる模擬授業が行われていた。
各生徒は、それぞれISを装着して技能を行っている。その中で俺と一夏は、スク水型パイロットスーツを着ている女子たちの中で、二人揃って制服姿となって授業を受けている。
前回、裏政府が学園へ俺たちに、あの``ピチピチタイツ``を着ないよう言い訳をしておいてくれた。
確かに、あれを着るなんて……男始まって以来、末代までに続く大恥になるな?
今回、俺が直接基礎を一夏に教えることになった。本来は、教員である千冬の役目である者の、『男性用のISは、従来のISと違って設計や操縦論まで何から何まで違うらしい』という政府直属の報告の元、専門の人間が来るまで俺が代わりを果たすことになったのだ。
「とりあえず、展開してみるか?」
「はい、楽しみにしてたんだよな……」
ウキウキする一夏は、左手を前にかざした。RSは、それに応じて彼のかざした掌から光の円陣が現れ、そこから彼専用のRSが現れた。
RSは一様ISと偽っているが。IS=パワードスーツとRS=近接武器という形では大きな差が生じる。しかし、それでも女子たちからは斬新な光景だと目を丸くしながら一夏の展開を見る。
一夏は、俺から貰ったRS「白夜」を展開させた。彼のRSは、白い鞘に刀身を収めた黒い柄の真剣である。
「これが……でも、狼さんのほうが二本もあってデラックスだな?」
羨ましい顔でこちらを見てくるが、彼の持つ白夜は防御力に優れた長期戦タイプだ。
一方で零場合は、攻撃力は高いものの、防御力は白夜より低いため長期戦では息切れを起こしそうになる。
「防御力はそっちが上なんだぜ? 一夏のほうが俺より安全面が高いってことだよ?」
「そういうものかな?」
「とりあえず、今回の授業で一通りの事を教えるよ?」
――どちらかといえば、俺って教えられる方のタイプなんだよな? 教えるって言っても上手くできるかな……?
そう、俺は昔から人に教えるようなタイプではない。どちらかといえば人に教えてもらうほうの人間だ。だから、教える器のない俺が果たして一夏に上手く説明することができるか……
こういうときに、弥生がいてくれれば助かるのだが……幸い、彼女はRS専用の整備係というので、模擬授業ではベンチでこちらを見守っている。ま、何かあれば彼女が駆けつけてくれるから大丈夫だ。
俺は、蒼真に教わった通りのことを覚えている限りで一夏に教えた。
「……わかるかな?」
「ええ……大体わかります。でも、武器を持つって形だから自分の体を動かすような動作でいいんですよね?」
「そうだね。だいたい俺もそういう感じでやってるよ」
何度も言うが、RSの本体は近接武器である。よってそれを展開したといっても本体を手に持つだけの形だ。だから、それを手にして体を動かすなどは誰でも出来る。問題は……
「空は……飛べるのか?」
何度も失敗した飛行……でも、これは従来のRSなら普通のできるらしい。
……案の定、一夏は何食わぬ顔で空を飛びやがった! 何でだろ? ちょっとだけ俺は彼に嫉妬の目を向けてしまった……
「スゲー! 本当に飛んでる!?」
一夏は興奮して自由自在に大空を飛び回った。勿論、IS初心者である人間があんなに自由な飛行ができるはずがないと、女子たちは歓声を上げる。
「よし、じゃあ俺も……」
俺も、彼に続いて空を飛んだ。勿論、セシリア戦以来、零は何度も空を飛べるようになった。今では無意識に考えなくても空が飛べるようになる。
「一夏、RSの基本半分は空中戦だ。今後もそれが主体になるかもしれない」
上空に浮上したまま俺は一夏に説明する。
「安心しろ。RSは、装着者の思うように体が動ける。お前が動きたいように動けばいい」
「あ、ああ……」
ギクシャクしながらも、一夏は周囲を自由自在に動き回った。
「じゃあ、そろそろ的当てと行くぜ?」
俺は、掌に持つ球体の機器を起動させた。すると、周囲にISのシルエットを思わせるホログラムを展開される。これらのホログラムは、撃ってくる映像や斬りかかる映像もあるため、それに当たればダメージを喰らうという仕掛けになる。まぁ、相手がRSではなくISならダメージはそれほどくらっても大破はしないし、訓練だから何度でも出来る。
「このぉ!」
三十分経過した。一夏は、そこそこな動きでISの的を切り裂いていく。もしかすると、俺よりも上手いかも……
すると、調子に乗りだした一夏はこう言いだす。
「今度は、狼さんが稽古つけてくださいよ?」
「え、つまり……俺とやれって?」
「いいじゃないですか?」
「……」
互いの刃は、RSの防御機能はISよりかは低いものの、攻撃力はずば抜けているため、RS同士の訓練を行うのであれば、双方に与えあうダメージは2発程度までが限界だ。それ以上の攻撃はプロテクトがかけられるため、装着者のRSは拒否反応を起こして強制解除される。
「ライフは2つまでだ。いいか?」
「はい、いいっスよ?」
真っ先に先手を打ったのは一夏だった。しかし、零を装着する俺は一夏の攻撃を難なく受け止める。RSを装着してからというもの、俺の反射神経はこう言う場面では良くなる。
「このっ!」
引き続いて一夏は何度も白夜を振りかざしながら打ち込んでくる。しかし、俺もこのままでは終わらない。
「ッ!」
零の二刀が、白夜の攻撃を弾き返した。一夏は少し後ろへよろめいてしまう。
「まだまだ!」
空中戦を主体に一夏と俺は剣を交え、チャンバラを繰り広げた。その光景を目に地上の女子たちは目が釘付けであり、一方のセシリアは嫉妬の目を隠せずにいた。

人気の少なくなった夕暮れ時、IS学園の正門前に一人の少女が仁王立ちしていた。
大きなツインテールと、それに似合わない小柄な背丈はまるで中学生か、下手をすれば小学生かと見間違える様子だった。
「もう……! なによここ? ディズニーランドよりもバカでかいんじゃないの!?」
受付の事務室を探そうとするも、なかなか目当ての場所は見つかりそうになかったが……
「ったく! ただっ広い場所だぜここは……」
「全く、どんだけ税金を無駄遣いすれば気がすむのやら……」
突如、少女の前に二人の青年が現れ、何食わぬ顔で彼女の前を横切っていた。一人は細長い体系の青年で、もう一人目は前者とは対照的に大柄で太った青年であった。
――怪しい……
そう察知した少女は、つかさず二人を呼び止める。
「ちょっと! アンタたち!?」
「ん?」
大柄な青年はゆっくりと振り向いた。そこには、ツインテールの小さい女の子が仁王立ちしていた。
「どうししたんだい?」
「アンタたち、何しにIS学園まで来たの? まさか……」
「許可書は持っている。そう言うお前こそ年幾つだ?」
と、細い青年が許可書を見せつけながらそう尋ねた。
「アタシはこれでも15よ!? ここの制服着てるのがわからないの!?」
癪に障ったのか、少女は機嫌を悪くしてしまう。
「……じゃあ、どうして外にいるんだ? 今の時間だと授業中だろ?」
「転校してきたのよ? そういうアンタたちは?」
「俺たちも、ここに用があってな?」
「……ねぇ? もしかして、事務室とか寄る?」
「ん? ああ……」
少女の問いかけに細い青年こと、 等幻太智は頷いた。
「じゃあ、一緒に付いてってもいいでしょ? アタシも、ここに来たはいいけど……迷子になっちゃってさ?」
「そうなんだ? それは災難だね? じゃあ、一緒に行こうか?」
と、大柄な青年こと 飛電清二が少女の同行を受け入れた。
二人の青年は、突然呼び止められた少女を連れて事務室へと向かう。そんな中、太智はふと前を歩く少女にこう尋ねた。
「お前……チャイニーズか?」
「ええ、そうよ?」
その質問に、少女は何食わぬ顔で平然と答えた。
「へぇ? 日本語とか上手だね?」
清二もつかさず言う。
「まぁね? 小学生のころ、日本にすんでたから……」
「中国からの転校生か……今時の中国も大変だろうに?」
大智は、少女の出身地である中国の状況を口にした。確かに、大半の在日外国人は中国や韓国人までが大半である。それは、前回説明した通りであるが、内乱や貧富の差が激しさを増し、中にはテロ活動まで目立ちつつあるために治安を求めて日本へ移住してくる人たちも少なくはない。
「そうね? 最近は男共がデモや内乱を起こしたりしてウザったるいけど、ISで適当に片づけたら、しばらくは大人しくなるものよ?」
そう彼女は、後ろに男が二人もいるというのに平然と言い返す。
――チッ! またISかよ……?
所詮、この小娘もISに毒牙をかけられた女の一人だろ? 
数十分後、ようやく学園の事務室までたどり着いた三人は、それぞれの書類を受付係に見せた。
「入校許可書?」
受付の女性は怪訝な目つきで二人の青年を見る。しかし、この書類は識別の機器を使用しても正真正銘の本物であるたがめに入校を許可するよりほかなかった。
「これ、お願いします!」
と、次に少女は入学許可書を受付嬢に見せる。少女が女性で、しかも学園の制服を着ている以上、前者よりも怪しまれることはなかった。
「一年二組へ行かれますか?」
少女の向かうべきクラスは二組である。すると、少女はとっさに「クラス代表生」の話を持ち掛けた。
「あの~? もう、クラス代表の人は決まってるんですか?」
「ええ……一週間前にもう」
「ふ~ん? じゃあ……代わってもらうこととかできますか?」
「えっ?」
受付嬢は首を傾げた。
「……」
そんな、少女の図々しい聞きいれを太智は見過ごさずに見ていた。
「太智、行くぞぉ?」
後ろから清二が呼んでいた。
「ああ……」

セシリアとの決戦の後、俺はクラス代表を余儀なくされてしまった。やれやれ、代表者になった以上、学級委員としての役割や、クラス代表戦とかにも出なくちゃいけないからこの先が思いやられるな……?
ちなみに今現在、一組はクラス中で俺をクラス代表としての祝い? を、してくれていた。
しかし、祝いというよりもただ「おめでとう!」と、一言だけ言っただけで後はセシリアにどう勝ったのかを問い詰めてくるのが主体だ。
「ねぇ! 狼さんは、どうやってセシリアさんに勝てたの? それとも、セシリアさんの機体にトラブルとかあったのかな?」
「でも、トラブルだったら、あんな墜落のしかたはないよ?」
「だよね……そもそも、狼さんが持ってるあのISって、何だか別の物っぽいように見えるな~?」
――ギクッ!?
やっぱり、RSをISに見立てるには無理があるのか? いや、説明次第によれば何とか誤魔化せそうだが、それ相応の話術が俺にはないため、苦笑いするしかなかった。
「まぁ? 私は、代表候補生ですもの。わざと負けたのは当然ですわ?」
と、質問攻めの中からドサクサに紛れてセシリアが割りこんできた。どうやら、負けても懲りていないようだ。
「やっぱりそうだよね? だって、狼さんと戦った相手は代表候補生なんだもん!」
セシリアの一言で周囲の女子たちも賛同する。
――全く、呆れるぜ……
人ってものは、性格を変えるのが一番難しいんだ。変えようと心がけても、今の性格が癖になってしまうから中々抜け出せないでいる。
「何だよ! 地上戦限定で戦う条件だったのに、そっちは負けそうになると空を飛んで反則勝ちしようとしたじゃないか!?」
そこから、一夏がキレて怒鳴ってきた。
「で、でも! あちらだって空を飛んだではないですの!?」
「え、ああ……それは」
俺がどう言い訳を言えばいいのか纏っているところに、ある説明が挟んできた。
「鎖火さんの機体は、ブラックボックスなどが多い機体なのです。政府が送った男性専用のISは、世界初の最先端の技術を駆使して開発されたものなので、海外から技術が漏れぬよう最低限の移動操縦以外は厳重にプロテクトされております。しかし、今回は鎖火さんのIS適性能力が大幅に上昇して専用機にかけられたプロテクトが強制解除されてしまったのだと思います」
と、俺の前に弥生が出てきて説明した。当然嘘だけど。だが、それ相応の理由だと俺は思う。
彼女のおかげで、周囲はどうにか納得してもらえたようだ。しかし、セシリアは……
「納得がいきませんわ!? 男だからって、あの形はIS独自のパワードスーツではございませんことよ!?」
「お、落ち着けよ?」
俺は興奮気味のセシリアにそう言う。
「当り前です! 男ですよ? 男なんぞが、あんな得体のしれないISを駆ってイギリスの代表候補生であるこの私に……」
「凝りてねぇようだな? コイツ!!」
一夏はセシリアに再び言い返す。しかし、これ以上やったら喧嘩が酷くなる。
「ああ! もう!! 二人ともやめろって!?」
原因である俺が、二人を止めに入る。
「一夏も落ち着け! セシリアも、これ以上食いつかないでくれ!? クラス代表の座が欲しいなら、俺が辞退して譲るから」
「いいえ! 私はそれ以前に……」
と、セシリアはさらに激怒しそうになるが、
「セシリアちゃん? おいたは、めっ」
弥生の御札がセシリアの額に張られた。すると、セシリアは寝息を立てて動かなうくなった。
「しばらく落ち着かせることが必要ですね?」
もうすぐ授業が始まるしこのままの状態ではセシリアは集中できないとみた。
「あ、織斑先生? セシリアさん、具合が悪いようなので保健室へ連れていきますね?」
弥生は、タイミングよく教室に入ってきた千冬に一言いうと、彼女はセシリアを担いで教室を後にした。
――弥生のおかげで助かった……けど、あの御札ってどうやって作ってんだろ?
まるで漫画や映画に出てくるようなアイテムだ。もしかして本物……?

セシリアはこのあとも保健室のベッドから起き上がることはなかった。弥生の話によると、明日の朝までには起きないらしい……
さて、学校が終わってようやく夕食の時間だ。IS学園は全寮制なので、夕飯も学食で日替わりランチを食べることになる。
俺と一夏、そして弥生の三名は共に学食で夕飯を食べていた。
「そういえば……隣の二組に転校生が来たらしいですよ?」
食事中、一夏はふと小耳に挟んだ情報を俺に話した。
「転校生?」
「なにせ、相手は中国から転向してきた代表候補生らしいです?」
「おいおい……またかよ? もう代表候補生の相手をするのは懲り懲りだぜ……」
「セシリアさんみたいな人じゃなければいいのですが……」
弥生が苦笑いする。
確か……明後日は、クラス代表選があったはず。憂鬱な日々が続いてもう何もかも逃げ出したい。
――そういえば、俺にも中国の知り合いが居たな? いやぁ……あの子はジャイアンみたいな乱暴な子だから、箒よりも苦手だったな?
昔の懐かしい思い出を回想する一夏であるが、そんな彼の背後から女子の呼び声が彼を振り向かせた。
「久しぶりね! 一夏っ?」
「ああ?」
振り返ると、そこにはツインテールをした……小学生? レベルの背丈を持った小さい女子生徒がこちらへ仁王立ちしていた。
「えぇっと……誰、だっけ?」
一夏の苦笑いにその少女は呆れた顔で不機嫌となると、いきなり大股で一夏の元へ歩み寄ってきた。
「もう! あたしよ! あたしぃ!! 凰鈴音よ!? 小学校のころ幼馴染だったでしょ!?」
「えっと……あ、ひょっとしたら?」
一夏は考える。顎を抱えて何やら記憶の片隅に心当たりがあるようすであった。
「うんうん! ようやく思いだしたようね?」
笑顔を取り戻した少女だが、その笑顔も長くは続かなかった。
「ああ? お前、もしかして小学校のころウチのクラスを牛耳っていた、あの虐めっ子だろ?」
「……って、ちっがーう!!」
「一夏! キサマ、幼馴染は私以外にもいたのか!?」
と、タイミング悪く箒が割りこんできた。弥生は、懐から御札を取り出そうと準備をしている……
「ち、違うって!? 小学校のころに俺をいじってた虐めっ子だって?」
「誰が虐めっ子よ!? よくアタシの家でご飯とか食べてたじゃない!?」
「お前が勝手に拉致ってきたんだろうが! 腹も減ってないのに、無理やり口へ詰め込ませるんだから……あのころは、よく隙を見ては逃げ出したもんだな?」
「一夏……お前、虐めっ子に縁があるんだな?」
と、俺。
「やめてくださいよ? 狼さん……俺だって、こんなことになるなんて思っても見なかったんですから……」
「……で、誰よ? ソイツ」
そこで、この凰という転校生が、俺に視線を向けた。何やら邪魔者を見下げたような目つきで、何だか嫌だった。
「この人は、俺と同じ世界初の男性操縦者で鎖火狼って人だよ?」
「へぇ~?」
何やら、彼女は俺を疑うような視線を向けだしてくる。何やら気まずい雰囲気だ。
「ねぇ?」
しかし、途端彼女は俺の隣に座りこむと、先ほどまでの態度が嘘かのように俺へ笑顔を見せてきた。
「へぇ! 男性操縦者なんだ? 一夏以外にも居たのね~?」
「な、何だい?」
急に態度を変えた彼女に、俺は少し気味悪がった。
「……アンタ、明日とか暇?」
そんなとき、凰は何やら俺にそう聞いてくる。別に、明日の休日はRSの稽古以外はやることがない。だが……いったいどうしたんだ?
「空いてる……けど?」
俺も、彼女を疑うような目つきになって答えた。
「じゃあさ? 明日、アタシにつき合ってくれない?」
「はぁ……?」
突然の御誘いに、俺はあんぐりと口を開けた。
「IS学園周辺にあるメガロポリスのエリアを見てみたいのよね?」
「メガロポリスの……か?」
今更、どうしてあんなところを観光したがるのか。外国人が観光するといったらエリア29の広島県の宮島や、お隣のエリア30の山口県より錦帯橋などといった名物のほうが面白いというのに、あんな危険と安全が混ざり合った治安も行き届かない首都エリアを見ても何の得にもならない。そもそも、中国も現在は日本と同じような治安状況のはずだ。いや、もっと酷いだろう?
「いいでしょ?」
「別に……構わんが、あんなところ行ったって面白くもないよ?」
「思い出の場所なのよ♪」
と、彼女は席を立つと俺にウインクを飛ばして去ってしまった。
「……」
――何なんだ? 
無言のまま、そう心に呟いていた。あの不思議な印象ではなく、逆に怪しい印象に近かった。
しかし、怪しいと知っていても、彼女の思惑が掴みにくい。
「鎖火さん……?」
と、弥生が歩み寄って俺に耳打ちをする。
「……怪しいです。正体を悟られないよう会話には注意してくださいね? 私も、悟られぬよう同行いたしますので」
「あ、うん……」
弥生がついてくれるのなら安心だ。こちらも、あまり口を滑らさないよう気を付けないとな?

翌日、俺は適当な私服に着替えて正門前のところで凰を待ち続けた。かれこれ、10分も経過するのだが……果たして来るのか?
「やれやれ……」
本当なら、今日は弥生と共にRSの鍛錬をした後に昼寝でもしようかと計画していたのだが、突然現れた謎の転校生、凰によって今日の俺的有意義な休日は潰れてしまった……
――どうして、一夏を誘わなかったんだ?
箒にせよ、はじめは積極的に一夏へ近づいてくる。しかし、今回の凰という幼馴染は、性格上勝気っぽくて、箒以上に大胆な性質を思わせる風格をしている。それなのに、どうして今日は一夏ではなくて、全く顔も知らない他人の俺を誘ったりしたんだろう……?
「……」
「おーい!」
「ん?」
校内から正門へ息を切らして走ってくる一人の少女の姿がうつった。凰である。
「ごめん! ごめん! 待った?」
「いや、別にいいよ?」
「じゃ、行こう!」
上機嫌に凰は、俺の手を引っ張ると、モノレールの駅へ走りだした。
IS学園へ出入りするには、そのモノレールか或は船で行き来するしか方法はない。
「……」
「……でさ? ……でね?」
揺れるモノレールの車内で、一方的に喋くっているのは凰のほうだった。俺は、それを適当に聞き流しては、頷いているだけである。
モノレールは、数分後にメガロポリスのエリア2へ到着した。ここは、階級社会で表すなら二番目に治安が行き届き、日本中の富豪共が住み着く豪華な巣だ。ちなみにエリア1は、国会議事堂を中心とした、政府関係者や皇族が住む政治関連の居住施設である。
「エリア1へ行くなら、社会勉強になるぞ?」
「興味ない。とりあえず、エリア14に行ってみない?」
「は、はぁ!? あそこは、日本の中で最も治安の悪すぎる危険エリアだぞ!?」
出入りする連中と言えば、ヤクザかチンピラ、麻薬の売買人ぐらいだ。そんな悪党どもが集うような場所に堂々と「行ってみない?」と尋ねる彼女は、普通ではない!
「そう? アタシの国じゃあ、目の前でシャブやってる奴らとか普通に見かけるわよ?」
――どんな国だよ?
「それに……エリア14って、小さいころ一夏とよく遊んだ場所なのよ? まだ、ISができる前の話なんだけどね?」
「ふぅん……」
「まぁ、無理なら無理で別に構わないけどね?」
「じゃあ……せめてエリア17でいいか?」
あそこなら、最低でも警官がよく歩き回っている場所だ。そこなら、別に普通に男女が歩き回っていても違和感は無いだろう。
「エリア17……? ああ、そこって昔一夏と駄菓子屋へ通った場所じゃん!」
「一夏とは、よく遊んだのか?」
先ほどから一夏に関する話題が出てくる。
「なぁ? 一夏も誘えばよかったんじゃ……」
「行こう!」
と、彼女は俺の手を引っ張って駆け出した。
「ちょ、ちょっと!?」
俺は、そんな彼女に連れられてエリア17へ足を運んだ。

「へぇ? ここって全然変わってないね?」
「そりゃそうだ……何せ、白騎士事件が起こってからというもの、いろいろあってこの場所はあの時のまんまなんだからな」
「そう……そうだ、今でもあの駄菓子屋やってるかな? あの優しいお婆ちゃん今でも元気かな?」
「いや……もう死んだよ?」
「えっ?」
「五年前、女尊男卑がエスカレートして、中学に上がったばかりの孫息子が頻繁に女の子たちから虐めをうけるようになってさ? 孫息子は自殺へ追い込まれ、婆さんは孫息子が自殺したことで、孫の後を追うかのように近くの湖へ身を投げた。それ依頼、駄菓子屋は壊されて、今では暴力団の事務所になってるよ?」
「……」
しばらく、彼女は黙ったが、それほど口を閉ざている時間は長くはなかった。
「そう! じゃあ、仕方ないわね? 寂しいけど……」
開き直ったかのように彼女は再び笑顔になった。
「大切な場所が、一つ無くなって残念だったな?」
「別にいいわよ? 大切な場所ってのは、思い出の中に生き続けるって言うじゃない?」
「そう、それじゃあ……」
「ついてきて?」
次へ向かおうとしたが、再び彼女に手を引かれてどこかへ連れて行かれた。
「暴力団の事務所ってここ?」
と、かつて駄菓子屋があった場所へ向かわされると、指をさして尋ねてきた。それに俺は恐る恐る頷くと、彼女はISを片腕だけ展開しだした。も、もしや……?
――コイツ、開き直ってねー!?
そして、目の前に小さなキノコ雲が浮かんだ。それと同時に頬に傷をした怖いオジサンたちが俺たちを追い回してくる。
「どうしてこうなるんだぁ~!?」
死に物狂いでどうにか抜け出した俺は、凰の隣で息を切らしていた。こういう時に弥生は何してんだよ!?
だが、突然暴力団はピタリと止まった。後ろだけ時間が止まったかのように見えた。
――弥生?
そのまま俺たちは安全な場所まで逃げ延びた。
「大丈夫?」
と、平然とした凰が俺に尋ねる。
――大丈夫じゃねぇよ!?
しかし、俺は口でこたえることはできずに未だ呼吸を荒げていた。
「大丈夫みたいね? それじゃ、次行きましょ! 次!!」
また、凰は俺の手を掴んでどこかへ連れ出す。次はどこへ行こうとしているんだ?
「……公園?」
彼女に連れられた次なる場所は公園だった。しかし、近頃の公園とは違ってあるものといば、滑り台かシーソー、ブランコといった一般的な遊具だけである。しかし、ここもまた人が訪れない場所ゆえに遊具は所々に錆びついている。
「一夏と、一緒に遊んだ公園なのか?」
と、俺は先読みして彼女に尋ねた。
「ええ、そうよ?」
「だが、ここも人はいないな?」
「まーた『白騎士事件』がって言うんでしょ?」
凰も、先読みして俺に尋ねる。まぁな、大抵はその理由が正しい。
「エリア17は、大抵『白騎士事件』や『女尊男卑』の影響でこうなったわけだよ?」
「男が言うような理由ね?」
「じゃあ、お前さんはどういう理由だと思うんだ?」
「男共が、各地で反IS運動をしたり、それに乗じたヤクザやテロリストが群がってこうなったんじゃない?」
「いや、それってもろIS絡みじゃん?」
ため息をついて近くのベンチへ腰を掛けた。
俺は、先ほどから彼女に振り回されているばかりだが、今度は俺が彼女に何か質問しようと思った。
「なぁ? 鈴音さん……」
「凰でいいわよ?」
「じゃあ、凰さん? 一つ聞いてもいいか?」
「なに?」
「……どうして凰は、IS操縦者になったんだ?」
「え?」
「だって、別にISに乗らなくても一夏に会えるんじゃないか?」
「……」
すると、彼女は黙ってしまった。何か気に障るような事でも聞いてしまったのか、しかし彼女はしばらくしてから口を開けてくれた。
「……強くなりたかった、かな?」
「強く?」
「アタシね? 両親が離婚してさ、今じゃお母さんと一緒に住んでんの。でも、世間の風当たりは急に厳しくなってさ? いつも希望も何もない日々が続いて、このままじゃ一生、一夏には会えないんだろうなって思っていたら……ISの存在を知ったの。何か強い力を持てば今の暮らしとは違う何かがあるんじゃないかって。そう思ったの……」
「そう……」
しかし、世間が急に厳しくなったのは、おそらくISが原因だろう。それを知らずに今、彼女は自分と母親を苦しめていた元凶を自らの力として受け入れてしまった。おそらく、彼女がIS操縦者になったことで、今までよりもさらに彼女の母親が苦しむことになりうると思う。
「……?」
すると、目の前のベンチでチンピラともがシャブをしていた。できるだけ目を合わせない方がいい。と、いうよりも早くこの場から立ち去った方がいいな……
「フッフッフ……」
しかし、凰は足元に転がっていたそこそこ大きな石を片手で拾い上げると、それを思いっきり……
――今度は何をする気だ!?
案の定、拾い上げた石は見事チンピラの一人の額に命中。俺たちは、怒り狂うシャブ中のチンピラ達に凶器を向けられて追い回されることに……
しかし、そのチンピラも目の前に突如出来上がった落とし穴に引っかかって身動きがとれなくなる。
――助かった……!
またしても弥生がやってくれたようだ……

それから気付くと、辺りはすっかり夕暮れになっていた。
――もう帰りたい……
今日は一日中、凰に振り回されて散々な目に会った。弥生がいてくれなかったら、今頃どうなっていたことか……
「日が暮れだしたころだし、もう帰ろうぜ?」
「何言ってんの? 今日は、夜までパーッとやるわよ!」
「うそぉ!?」
「……って、いいたいところだけど? もし、お願いを聞いてくれたら先に帰ってもいいわよ?」
「本当?」
「うん、明日のクラス代表戦の試合だけ一夏と変わってくれない?」
「え?」
「アタシは、一夏と戦ってみたいの! アイツが、どれだけ強くなったのか……この体で感じたいのよ?」
「……」
――つまり、そういうことか?
「……で、俺に代われって?」
「そう! ……いいわよね?」
「千冬の先公にどう言い訳すりゃあいいんだよ?」
「ねぇ? 嫌ならこの後、エリア15の歌舞伎町へ行こうよ?」
「譲ります! マジで譲ります!!」

「ったく……どうして、次から次へ苦手な奴らが現れるんだろ?」
寮で、狼と弥生の帰りを待つ一夏は、ベッドに横たわっていた。
凰鈴音、確か小学校の低学年の頃に自分のクラスに転校してきた勝ち気で強引な少女、運悪くそんな彼女が自分の隣の席に座ることになってしまった。授業中はしょっちゅうチョッカイを出してきた鬱陶しく、さらに五月蠅い。
毎日学校の帰りは、互いの家は正反対なのに一緒に帰ろうと強引に誘ってくる。どれもこれも自分にしては嫌な一日でしかない。これも、女尊男卑の影響だろう。
コンコンッ……
「……?」
ふと、ドアをノックする音が聞こえた。狼達が帰ってきたのか、いや……ノックということは別の人か?
「はーい」
「一夏! アタシよ?」
カチャッ……
一夏は、すぐさま鍵を閉めて居留守を使った。
「ちょっと! 開けてよ!?」
「織斑一夏はただ今留守です。一か月後にお越しください」
「ふざけないで! とりあえず開けてよ!?」
「用があるならここで言えよ?」
「開けないと、ISでこじ開けるわよ!?」
「はぁ?」
別にしたって怒られるのはコイツであるが、千冬のことだからきっと自分にこっちにも非があるというのが道理だ。仕方ない……
「入れ……ただし、手短に済ませろ?」
「もう……どうしちゃったのよ?」
ブツブツ言いながらも、凰は本題を言った。
「ねぇ? 前にアタシの家でご飯食べてた時のことなんだけど……覚えてる?」
「全然」
「ええ!? 約束したはずよ!?」
「小学校のころからの約束なんて覚えていないよ?」
「酢豚よ! 酢豚!!」
「酢豚?」
「そうよ、今度アタシが大きくなったらアンタに酢豚を……」
「ああ……でも、俺って酢豚嫌いなんだ」
「え……?」
「だってさ? 俺、パイナップルは言ってるのって食えないんだよね?」
「ぱ、パイナップルが入っているから美味しんじゃない!?」
「とにかく、俺は酢豚は食えないから? チンジャーロースか、ギョーザならまだしも……果物を使った肉系料理はちょっと……」
「何よ! あの時の約束を覚えていないの!?」
「約束って……小学生のころだからなぁ……?」
「はぁ~……もういいわ? 明日の代表戦でアンタに勝ったら酢豚を食べさせてやるんだから!」
「え、代表者は狼さんだけど?」
「代わってもらったのよ? 『ハニトラ』でね?」
「は、ハニトラ!?」
一夏は、飛び上がりそうになった。
「ああー、でもハニトラって言っても従来のああいうエロいことはしないわよ? いろいろと振り回したりとかして、散々になったところで代わってもらったの」
「テメェ……狼さんに何をした!?」
すると、突然豹変するかのように一夏は立ち上がると、凰の胸ぐらを掴んで怒号を上げてきた。
「な、なによ……?」
「狼さんに何をしたんだ!?」
「べ、別に怪我とかはさせていないわよ!?」
「本当だろうな? 関係のない人を巻き込むなら、俺が許さないぞ!?」
「そんな悪役みたいな風に見ないでよ!? アタシは、一夏と戦いたいから……」
「まぁいい、あとで狼さんから詳しいことを聞く……」
一夏は、少々落ち着きを取り戻してベッドに座り直した。
「と、とりあえず! 明日は覚悟しなさい?」
「チッ……」
一夏は、舌打ちをして凰を鬱陶しいような目で見た。
「本当に覚悟しなさいよね!?」
それだけ言うと、凰は部屋から出て行った。
その後、しばらくしてから狼は弥生と共に一夏の元へ帰ってきた。
狼は、弥生に何度も礼を言いながら今日が無事に終わってくれたことに感謝している。
しかし、一夏は明日行われる代表戦に凰が初戦の相手が凰であることを狼達から告げられて、かなり憂鬱な気分であった。
 
 

 
後書き
予告

狼さんに変わって代表戦に出るはめとなった俺。しかし、激戦を極める凰との戦いの中、突如現れた巨大な謎のIS……あれは何者だ!?

次回
「謎の襲撃者」

 
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