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安くて新鮮

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5部分:第五章


第五章

「またか」
「また人食いか」
「最近こんな事件が多いな」
「全くだ」
 騒ぐが何処か納得していた。そうした事件が多かったからだ。
 第一次大戦の後のドイツは何もかもが荒廃していた。人心もだ。その為こうした事件もありそして荒廃した心の人々もだ。
 そうしたことが起こってもだ。いささか無反応だったのだ。驚きはしていても何処か無反応でだ。醒めた口調で言ったのである。
 しかしだ。家族を食い殺されたかそう思われる者達は違った。ハールマンに対して怒りを露わにさせていた。その中でのことだ。
 ハールマンにだ。子供を食い殺されたと思う親がだ。裁判の場でその子供の写真を見せて彼に詰め寄った。そうしたことがあった。
「御前がうちの子を食べたんだ?」
「そいつをか?」
 ハールマンは少年の顔写真を見た。そうして言葉を返した。
「そのガキか」
「違うか!御前が食ったんだな!」
「馬鹿を言え」
 ハールマンはその親にだ。せせら笑ってまた返した。
「俺がそんなことをするかよ」
「御前は食うだろ!人を!」
「ああ、そうさ」
 そのことは認める彼だった。
「ついでに言えば同性愛者さ」
「ならだ!御前が食ったに決まってる!」
「そんな不細工でまずそうなガキをか?」
 何故せせら笑っているのか。ハールマンは自分から話した。
「ふざけるな。俺はグルメなんだ」
「グルメだと?」
「人ってのは外見で大体美味いかまずいかわかるんだ」
 まるで牛や豚の肉について話す様な言葉だった。
「そのガキはまずいな」
「うちの子がまずいだと!」
「ああ、まずいな」
 完全にだ。食べ物を見ての言葉だった。
「そんなガキ誰が食うものか」
「何て奴だ、人は食い物か」
「俺にとってはな。それにな」
 ここでだ。ハールマンは嘲笑しながら。
 そのうえでだ。こんなことも言った。
「他の奴等もだよ」
「他の奴等?」
「誰だそれは」
「誰のことなんだ?」
「まだ食った奴がいるのか?」
 共犯者ではないかと思われた。しかしだ。
 ここでだ。彼は言うのだった。
「俺の店の肉を食った奴等。安くて新鮮で美味いって言ってたからな」
 彼が今言うのはこのことだった。
「その連中も食ったからな。その連中も楽しんでくれたからな」
 これが彼の言葉だった。そしてその話を聞いてだ。
 店の客だった者達はだ。話を聞いたその瞬間にだ。
 口を押えるか嘔吐した。その事実を知ってだ。そしてハールマンはその彼等の話を聞いてまたしてもせせら笑うのだった。
 そんな彼の判決はだ。もう決まっていた。
 死刑しかなかった。誰もこのことに驚きはしなかった。
 そしてだ。彼がギロチンにかけられてだ。あるものが残った。
 その脳だ。脳は保管されることになったのだ。
 その脳をだ。多くの者が見てこう言うのだった。
「こいつはどういった奴だったんだ」
「人を何十人も食い殺した同性愛者か」
「何人殺しても平然としていたっていうが」
「何を考えていたんだ」
「この脳は」
 そのことはだ。誰にもわからなかった。だが、だ。
 事実としてだ。ハールマンが少年や男娼達を何十人も犯し食い殺していたのは紛れもない事実だ。その事実だけは今もはっきりしている。


安くて新鮮   完


                2011・8・29
 
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