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見えない来訪者

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見えない来訪者

                       見えない来訪者
 僕の右隣の部屋には先生がいる。何でも医者らしい。
 外見も性格も実に落ち着いているいい人だ。こうした人が隣人でよかったと僕は心から思っていた。ところがだ。
 隣の部屋からだった。異様な音が聴こえてきた。
 ドリルで穴を開ける様な音、ガラスを爪で掻き毟る様な音、その他にも無気味な、耳に不快感を与える音がだ。物凄い大きさで聴こえてきた。しかも真夜中にだ。
 僕は寝ていたがそれで起きてしまった。飛び起きた。それで慌てて自分の部屋から先生の部屋に行った。するとだ。
 先生はドリルを持ってだ。そのうえで部屋に壁を開けていた。その直後にドリルをそのまま壁に突き刺してガラス、曇ったものに爪を立てて一心不乱に引っ掻いたりもしていた。
 その他にもだ。鍋をおたまで叩きまくったり奇声をあげたりしてだ。得体の知れない行動を取っていた。それを見てだ。
 僕は病院に電話をした。お医者さんを病院に送るのは妙だなと思いつつもだ。それでもだった。
 先生を病院に連れて行ってもらった。先生は救急車の人達に掴まれても暴れ回っていた。
 先生は病院で治療を受けることになった。何でもストレス、仕事でそれがあまりにも蓄積されてだ。そのうえでだ。
 ああした状態になったらしい。先生はストレスで狂ってしまったということだ。
 先生は入院して話はこれで終わった。先生の話はだ。
 ところがだ。実は僕もストレスが溜まっていた。僕の仕事は漫画家だ。最近締め切りに追われていてネタにも詰まっていて原稿のボツが多かった。それで昼も夜も殆ど寝ずに仕事をしていた。
 この状況にストレスが溜まっていた。僕もまた。そして気付くと。
 僕もまた病院にいた。夜中に自分の腕を締め切り間近で部屋で原稿があがるのを待っていた編集物さんの前でペンで突き刺しまくって壁や机に頭をぶつけまくってたらしい。それで編集者さんに連絡されて。
 今入院している。何でも漫画の方は休載になったらしい。
 僕もまただった。狂気に捉われた。狂気は知らないうちにやって来て捉えるものだと。僕は退院して連載を再開させてからやはり何とか退院できて仕事に復帰できた先生と二人で話した。それは見えなくとも確実にやって来るものだった。


見えない来訪者   完


                 2012・1・22 
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