木の葉詰め合わせ＝IF=

　少々例え話をしよう。
　貴方の目の前に、若い男女の二人組がいるとする。
　片方はどこまでもにこやかで、片方は超が付く程仏頂面を浮かべている。

　そんな彼らを見て、彼らがあまり親しくない友人同士、または結婚したての新婚夫婦と――貴方はどちらを想像するのが容易いだろうか？



「――おぉ、書類上の夫。丁度良い所に来たな」
「何だ、名目上の妻」

　さらさらとした黒髪を後頭部で纏め上げた人物がそう呼びかければ、先程室内に入室したての青年が不機嫌そうに返事を返す。

　その有様を特に顔色を変える事なく見つめていた桃華は、青年の後ろでハラハラとした表情を浮かべている顔見知りと目が合って、そっと肩を竦めてみせた。

「この間の任務がつまらんと愚痴を零していただろう？　丁度いい具合にS級の任務が入ったんだ。――ちょっと行って来てくれ」
「内容による。くだらん物ならお断りだ」

　手渡された書類にざっと目を通した青年が不機嫌そうに舌打ちすれば、黒髪のその人は困った様に微笑む。

「まあそう言ってくれるな。こっちとしてもお前の嗜好に合う様な任務を選別するのは難しいんだ」

　この会話を聞いて彼らを新婚ほやほやの夫婦だと思えた人はきっと脳みそが糖蜜漬なのか、年中頭に花を咲かしているような間抜けに違いない、と桃華は確信している。

　……なんせ、どっからどう聞いても甘さがない。
　全くもって、無糖100％を過ぎてしまえば苦さを通り越してもっと別次元のものになってしまうといういい例だと思わせる様な会話だ。
　頭を抱えているうちはヒカクに視線を送れば、彼は心底疲れ切った表情でこの会話を耳にしていた。

「……成程。これならば楽しめそうだ。相手の生死は問わないのだろうな？」
「そこん所はお前に一任する。そいつも乱世で名を馳せた高名な忍びだからな。油断すれば足元を掬われるぞ」
「誰に物を言っている」

　花も無ければ色気もない。
　あまりにも無さ過ぎて、何故だか涙が零れ落ちてしまいそうだ。
　勿論、零れるような涙など桃華は流さないけど。

　どうにかなりませんかね、この二人。
　……という視線が正面から送られてきたので、桃華は微かに首を振る。
　どうにもならんだろう、と意味を込めた眼差しで見つめれば、ヒカクは絶望しきった表情を浮かべた。

　にしても彼も大分やつれたものだ。
　原因が分かっている分、今度滋養の有る物を差し入れでもしてやろうかという気になる。

「――じゃあ、とっとと行ってきてくれ。あまり時間を潰しすぎると標的に逃げられかねない」
「……わかっている」

　書に視線を落としたまま、ひらひらと空いた左手を振る妻と不機嫌な表情のまま退室した夫。
　これで夫婦だというのだから、世の中とは全く持って不思議なものだ。

　――それにしても新婚って、もっと甘酸っぱいものじゃなかったっけ？