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俺と乞食とその他諸々の日常

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四十話:覚悟と日常


 ピリピリと肌を痺れさせる一触即発の空気の中ジークはゆっくりと口を開く。

「……なんでや? なんで(ウチ)と戦いたいん?」
「理由は二つある。一つ目は汝がエレミアだからだ」
「ご先祖様がなんかしたん?」
「ああ、我を殺したのはヴィルフリッド・エレミアだからな」

 その言葉に全員が驚愕の表情を浮かべる。
 特にジークは手が震えて言うことを聞かなくなっている。
 何故なら彼女は自分がリヒターを殺す光景を想像してしまったから。

「そんな……でも、恨まないって言ったじゃないですか!」
「勘違いするな、聖王の小娘。恨んでなどいない、むしろあれには感謝しておるのだ。人生最後にあれほどの死合いを味わえたのだからな」

 狂気の笑みにジークは背中が冷たくなるのを感じる。
 やはり、あれは自分達が理解できる人間ではない。
 人の皮を被ったおぞましい何かなのだと思わずにはいられない。

(ウチ)はリッドやないよ。(ウチ)にそんなもん期待しても無理なもんは無理や」
「そう、急くではない。二つ目の理由として我が貴様を試したいのだ―――リヒテン・(ヴォート)・ノルマンの傍に置いておくに相応しいかをのう」
「なん…やて?」

 予想だにしていなかった言葉にジークの表情が崩れる。
 意味が分からないのは他の者達も一緒でエクスヴェリナの顔を見つめる。

「知っておるか、汝は。我が子孫がどれほど汝を恐れていたかを?」
「え…?」
(それ以上言うな!)
「少し、汝は黙っておれ」
(―――ッ!?)

 言葉を失うジークに話しかけようとするリヒターだったがブツリと念話を断ち切られてしまう。
 そんな様子にシャマルとスバルは臨戦態勢を取るがエクスヴェリナは相変わらずの不敵な笑みを浮かべたままだ。

「これはな、汝の姿にヴィルフリッド・エレミアを見出してな。我の記憶のように殺されるのではないかと恐れていたのだ」
(ウチ)のことを…?」
「ああ、そうだ。汝の青い目を恐れ、鉄腕を見るたびに心臓を貫かれた痛みを思い出したのだ」
「そんな……じゃあ、(ウチ)と距離を取り続けているんわ……」
「汝を恐れてのことかもしれんのう」

 その言葉にジークの顔が真っ青になる。
 自分は嫌われているのだと、恐れられているのだと思ってしまったから。
 そんな様子に見かねたアインハルトとミカヤがジークを庇うように前に進み出る。

「あり得ません。お兄ちゃんはそのような人ではありません」
「そうだよ、リヒターは嘘つきだけど人を傷つける嘘はつかない。だからジークを恐れているのを隠すような人間じゃないよ。その証拠にあなたは今リヒターが話すことを禁じている」
「くくく! 信頼されているようでなによりだな」

 二人の強い言葉にエクスヴェリナは高らかに笑う。
 その様は純粋に喜んでいるようにも見下して笑っているようにも見える。

「まあ、何にせよ元に戻したいのなら我と死合え。それ以外は認めんぞ」
「待って! 死合いなんて認められないよ! やるなら普通の試合にはできないの?」
「戦いとは殺すか殺されるかだ。それ以外の結末など我は認めん」

 スバルの説得にも聞く耳を持たないエクスヴェリナ。
 ジークはそんな様子をじっと見つめながら思考を続ける。
 そして、ある決意をして口を開く。

「わかった、その勝負受けたるわ」
「ジーク! あなた何を―――ッ!」

 ヴィクターが非難するように呼びかけるがジークの目を見て直ぐに口を噤む。
 彼女の目は驚くほど澄んでおり覚悟を決めた者にしか宿せない光が宿っていた。

「リヒターがどう思ってるかなんて(ウチ)には分からへん。でも、(ウチ)の想いをリヒターに届かせることはできる。見せたるわ、(ウチ)のエレミアを!」
「そうか、それは楽しみよのう。果たして汝がこれと歩むに相応しい器があるか……見定めさせてもらおう。死合いは明日だ。場所は―――」
「ダールグリュンが責任を持って用意しますわ」
「そうか、それでは我は帰らせてもらおう」

 必要なことだけを言い終えると呼び止めようとするスバル達を無視して部屋から出て行くエクスヴェリナ。
 その姿が見えなくなってからジークは力が抜けたようにヘタリと座り込む。

「大丈夫ですか、ジーク?」
「ううん、平気よ。ちょっと気が抜けてしもーてな」
「それにしても君があっさりと申し込みを受けるなんてね。もう少し悩むと思ったんだが」

 ミカヤの問いかけに少し照れたように顔を赤らめながらジークは立ち上がる。
 そしてモジモジと指をつつき合わせながら恥ずかしそうに理由を答える。

(ウチ)がリヒターの傍におってもええかを確かめるんやろ。やったら、(ウチ)は逃げんよ。伝えたいことがあるし、それに……ずっとリヒターの傍に…おりたいし」

 軽くプロポーズ紛いなことを言ってのけるジーク。
 しかし、周りの人間はジークがリヒターのことを好きなのは百も承知なので特に反応を示さない。
 ジークとしては恥ずかしいことを言ったのに誰も反応してくれないので少し悲しい気持ちになる。

「え、えっと、もうちょい反応があってもええと思うんやけど?」
「いえ、チャンピオンがリヒターさんを好きなのは周知の事実ですし」
「私は寝取りを目標にしているからね。早くくっついてくれないと困る」
「如何に二人の距離が近づいたとしても妹には遠く及びませんので」

 エルス、ミカヤ、アインハルトにそう返されてガックリと肩を落とすジーク。
 なお、ミカヤの寝取り発言は教育上不味いのでヴィクターがヴィヴィオの耳を塞いでいる。

「でも、相手は殺し合いを申し込んできたのよ。それは分かっているの、ジークちゃん?」
「……怖いけどそうせんとリヒターが帰ってこんのなら(ウチ)は戦います」
「そうじゃないのよ。勿論ジークちゃんが死ぬのもダメだけど―――あなたがリヒター君を傷つけちゃうかもしれないのよ?」
「……え?」

 シャマルから改めて覚悟を問われ、死ぬ覚悟はあると答えるジークだったが、自分がリヒターを傷つける可能性を気づかされ顔を青ざめさせる。
 それは当然だろう。自分が傷つく覚悟を決めるより自分の大切なものを傷つける覚悟を決める方が重いのだから。
 助けたいと思うその人を傷つける。この戦いが意味するものはそれなのだ。

「そ、それは……非殺傷設定があるからだいじょぶやと……」
「そうね。確かに非殺傷設定があるから死にはしないでしょうね。でも、相手はあの様子だと殺しに来るわ。その時にあなたは自制心を保って傷つけずに戦える?」
「…………」

 ジークはその問いかけに答えられない。彼女は優し過ぎる。
 試合で相手に怪我をさせただけで心を痛める。それは美点であり弱点でもある。
 それにもかかわらず命の危険を感じ取ればエレミアの神髄が発動し容赦なく相手を屠る。
 相手を救うために戦う上ではこれ程不利な能力もない。
 これは勝てばそこで終わりという戦いではないのだ。

「相手も、自分の心も傷つけてでも戦う覚悟はある?」
「……正直恐いです。でもッ! (ウチ)は伝えんといけんことがあるから! なんでもええから一緒におりたいから! ……戦うんや…ッ」

 ジークの静かに、しかし叫ぶ様に告げられた言葉をシャマルは無言で聞き届ける。
 他の者達も彼女の覚悟を感じ取り静かに見つめる。

「……分かったわ、頑張って頂戴。私たちは何か参考になる情報がないか探してみるわ」
「どうだい、ジーク。模擬戦の相手なら今からでもOKだよ」
「それならわたくしは決闘に相応しい場を整えませんと。それと、ジーク今日は家に泊まっていきなさい」
「私もお手伝いできることがあったら何でも言ってください」

 各々がジークの力になれないかと動き始める。
 その姿にジークは改めて自分の周りには自分を助けてくれる人が居るのだと再認識する。
 同時にいつもなら一番近くで茶々を入れてくる彼の姿がないことに胸を痛め決意を強める。


「一発キツイの入れて目を醒まさしたるからな―――リヒター」
 
 

 
後書き
おまけ~ソードマスタージーク~

エクスヴェリナ「よく来たなジークリンデ・エレミア…待っていたぞ…」
ジーク「リヒターの部屋、こ…ここが決闘場やったんか…! 感じる…リヒターの魔力を…」
エクスヴェリナ「エレミアの小娘よ…戦う前に一つ言っておくことがある。汝は我を倒すのに『死ぬ覚悟』が必要だと思っているようだが…別に殺す気はない」
ジーク「な 何やって!?」
エクスヴェリナ「そして我が子孫は普通に元気でおるぞ。あとは我を倒すだけでゴールインだなクックック…」
ジーク「フ…上等や…(ウチ)も一つ言っておかんといけんことがある。エレミアの神髄どうしよかと思ったらいつの間にか自由に操れるようになっとった!」
エクスヴェリナ「そうか」
ヤマト「ハァァアア! いくでェェエエッ!」
エクスヴェリナ「さあ来い、エレミアの小娘!」


ジークの愛がリヒターを救うと信じて…! ご愛読ありがとうございました!





嘘です(笑)

おまけ2~去っていった後のご先祖様とリヒター~

「我が子孫よ」
(……なんだ、何か用か)
「家までの帰り道が分からんのだが、どうすればよい?」
(いいから俺に体を返せ!)
「それでは我のアイデンティティがなくなってしまう!」
(俺が知るか! それと幽霊がアイデンティティなんか言うな!)


~おしまい~ 
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