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DIGIMONSTORY CYBERSLEUTH ~我が身は誰かの為に~

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Chapter2「父を探して 山科悠子の依頼」
  Story9:決意を新たに vsグラウモン

 
前書き
 
 随分と長くなってしまいました(時間的にも、文章的にも)
 リアルがすんごく忙しくて、執筆の時間があまり取れなかったんです。しかも祝日には授業あるし…友人には勝手に誕生日会に参加させられたり、風邪ひくし、モンハン面白いし……テレビ欲しいし、部活忙しいし、ゲーム楽しみだし……(くどくど

 しかしその前にだいぶ溜めていた所為か、実際前回の話を投稿してから書いたのは、グラウモン戦中盤辺りからです。
 ね、どれだけ忙しかったかわかるでしょう?

 多分これ、私が書いた中で最高文字数なんじゃないかな?
 長々とすいません、それではどうぞ~
  

 
 





 早速、先程もらった新規アカウントでEDENへログイン。EDENエントランスで、『アカウント狩り』について聞き込み調査を始めた。
 しかし、否やはりと言うべきか、一般の人でその詳細について知る者はいなかった。

 だが、一つだけ有力な情報を手にすることができた。それは……


「あぁ、アカウント狩りをしているのは『ザクソン』らしいぜ。やつら最近は結構むちゃくちゃやってるみてーだ」

「『ザクソン』……そのチームがどこにいるか、知ってますか?」

「いや、どこにいるかまでは知らねぇな。でもでけぇチームだからな、クーロンにでも行けば知ってるやつがいるんじゃねーの?」

「そうですか……ありがとうございます」


 エントランスにいた男性の情報を元に、俺はクーロンへと向かった。

 ……そういえば『ザクソン』といえば、ユーゴが入っているチームだったな。アイツがいるチームが、アカウント狩りを…か……
 ユーゴがアカウント狩りをやっている訳ではないだろうが、きっと一枚岩というチームではないのだろう。













「おぉ、いるな……あの時は誰もいなかったのに、なんでだろう?」

「なんか予定であるんじゃねぇのか?」

「まぁ、あの時に何もなかっただけかもしんねぇしな…」


 丁度白峰達と落ち合った場所―――「ガラクタ公園」へ行ってみると、数人の人が会話しながらそこにいた。
 その人たちに対して、「ザクソン」について聞き込みをしてみた。すると……


「ザクソン? …よく知ってるよ、俺もメンバーだったから」

「そうなんですか?」

「あぁ、でもガラの悪いヤツが増えてきて、抜けたんだ。バカは…嫌いだから、俺。『来るもの拒まず、去る者追わず』…クレバーなリーダーだったけど、この方針だけは…」

「はぁ……そうだ、元メンバーだったんなら、その人達が集まる『場所(URL)』なんか知りませんか?」

「…知りたいのか? ……別にいいが、俺が教えたって言うなよ?」

「えぇ、あなたには迷惑を掛けませんから」


 そう言うと元ザクソンだった男性は、『ザクソンフォーラム』と呼ばれる場所のURLを俺の教えてくれた。
 俺は早速、ログアウトゾーンからそのURLの場所まで移動を始めた。













 URLに導かれ着いた先は、どこかの劇場か何かを模した場所だった。
 屋根はドーム状、暗幕のあるステージ。しかし無造作に鉄柱が立てられてたり、横になって転がっていたり。クーロンにもあるキューブ状の物体があったり。

 そしてそこには、左胸に『ZAXON』と書かれたフード付きのジャケットを着た面々がいた。
 青に緑、オレンジと色とりどりの面々がいるその場所こそ、ザクソンに所属するハッカー達が集う場―――『ザクソンフォーラム』だ。


「わ~、人が一杯だ~!」

「で、でもこの人達全員ハッカーなんだよね…? な、なんか怖いな~…」

「ビビることはねぇって! オレたちは強いんだからな!」


 おぉ~、チビモン強気だな~。ガブモンとの戦いで、自信でもついたかな?
 取りあえず、『アカウント狩り』についての聞き込みだ。そう決めて、ザクソンのハッカー達に話しかけていく。

 その内の一人に、反応が見られた。


「『アカウント狩り』について? …お前、何者だ?」

「電脳探偵…って言っても分からないか。取りあえず、探偵助手だと思ってください」

「探偵助手? ……『アカウント狩り』のことを調べる為に、一人で乗り込んで来たってのか?」


 彼の言葉に、俺は黙って頷いた。
 すると彼はしばらく沈黙を続けた後、重々しく口を開いた。


「……だったら、こいつを持って『クーロンLv.2』へ行ってみな。お前の知りたいことが、わかるだろうぜ」

「…? これは…?」


 彼が取り出したのは、顔に取り付ける仮面。しかし彼は俺の質問に、「黙ってもってけ」と言ってこれ以上話さないつもりのようだ。
 ……っと、それともう一つ。


「Lv.2っていうのは…?」

「なんだ、知らないのか?」


 話を聞くに、クーロンにはいくつかのエリアに分かれているようだ。
 ガラクタ公園がある場所がLv.1、そこからLv.2、3、4、5と五つのエリアで分かれるらしい。
 知らなかったな……とにかく、そこに行けば何かしらの情報を得られるらしい。


「…それなりの危険は覚悟しな。まぁ、ザクソンに乗り込んでくる度胸がありゃ、何とかなるだろ」


 確かに、アカウント狩りの主犯格達の方へ行くことな訳だから、何かしらあるのは覚悟しないとな……
 とにかく行ってみよう。













 さて、クーロンLv.2に到着した訳なんだが……


「ここがLv.2か~…あんま変わんないな」

「でも、Lv.1よりも…なんか空気がピリピリするね…」

「わかるか、テリアモン?」


 俺の言葉に「うん…」と頷くテリアモン。それを見たチビモンもミノモンも、少し表情を強張らせた。
 おそらくハッカーがより多くはびこっているから、というのもあるだろうが……その分、この電脳世界を包み込む空気が明らかに違うのだ。

 …………あれ、電脳世界に空気? なんだ、この違和感は…?
 …まぁとりあえず、このまま進んでみよう。一応渡された仮面を手に奥へと進んでみた。

 すると……


「ちょいと待ちやがってくださいよぉ? ここは絶賛、通行禁止中なんですよぉ…どっか行きやがってくださりますぅ?
 でないと、狩っちゃいますよ~? 狩っちゃいますよ~?」


 とか、


「ヨサッソンガラッタッテントヒピャガンサッスゾァラァ!?(ヨソモンがうろうろしてっと引っ剥がすぞこら!?)」


 とか、


「じろじろ見てんじゃねーよ」


 とか、なんか途中途中で道を塞いでいる連中がいた。しかも『ザクソンフォーラム』でもらった仮面を付けて。
 しかし渡された仮面を見せると様子は一変、圧倒的な掌返しを見せ、快く道を譲ってくれた。

 どうやらこの仮面は、仲間の判別の為のものらしい。付けなくてもいいらしいが、ほとんどの連中が付けていたから、付けておいた方がいいのかな…?

 とにかく、俺はテリアモン達を引きつれ、更に奥の方へと進んでいった。












 そういう、通行止めをしているハッカー達を潜り抜け、クーロンLv.2の一番奥へとやってきた。
 そこには数人のハッカーと、例の仮面を付けたサラリーマン風の人物がいた。どうやら、ここが終着点のようだ。


「…あん? なんだてめぇは!? こんな場所にノコノコ現れやがって…ナメてんのか!? 踏んづけて蹴飛ばすぞ!?」


 おっと、いきなり絡んで来たな。
 急に怒鳴られた所為か、チビモンとミノモンは俺の足の後ろに隠れてしまった。……おいチビモン、お前実はビビりだろ。

 取りあえず、手に持っていた仮面を前に出してみる。

「無限にワンナップすんぞ……あん? …なぁんだ、おめぇもお仲間じゃんかよ~」

「すいません、まだちょっと仮面付けるのに抵抗があって…」

「新顔かい? ちゃんとアカウントは狩ってきたかい?」

「は、はい…ちょっと大変でしたけどね」


 勿論、嘘である。こうでも言わないと、追い返されてしまうだろう。
 ……おいおい、チビモンにミノモン。お前らそんな顔するな、バレるだろ? テリアモンみたいに堂々としてればいいんだよ。


「へ~、やるじゃ~ん? 今度、ぼくと一狩り行こうよ~。約束だよ~?」


 一狩り行こうって……モ○ハンじゃないんだから、そんな気軽な感じで言ってくれるなよ。


「と、きみ、いいタイミングで来たね~……いるよ?」

「……?」

「ほら、あそこ見てみ」


 いいタイミング? どういうことだ…?
 仮面を付けた小柄な青年がそう言って、俺を促してきた。その先には、同じ仮面を付けたサラリーマンがいた。


「あれが『メフィストさん』だよ」

「『メフィスト』さん…?」

「そう、乗っ取ったアカウントは、あの人が直接買い取ってくれるんだよ」

(アカウントを…買い取る…?)


 ブローカーのような役割か?
 とにかく、この人からなら有力な情報を聞ける。というか、この人を説得すれば……


「あ、もう行っちゃうのかい!? ちょっぴりキマっちゃってる人だから、気をつけてね~!」


 忠告どうもありがとう。心の中で離れて行く小柄な青年に礼を言った。…って、キマっちゃってるって何よ。
 と思っていたのだが……これは……


「…アカ…ウント…はやく…よこせ……うぅ…アカ…ウント…」


 キマっちゃってるって言うより…イカれてるんじゃねぇのか?


「だ、大丈夫…ですか…? ちょっと聞きたいことがあるんですが…」

「…は、はやく…アカウント…! よこせ……アカ、ウント!」


 俺の言葉にも返さずに、アカウントを要求してくる『メフィスト』さん。
 しかし俺はアカウントなんて持っていない。どうすればいい……


「は、はやく…アカウント、よこせ……! はやくぅ…よこせぇ!」

「あ、アカウントは…持ってないんだ。だから―――」

「……も、もももも…もももあうあうあぁぁ!!」

「ッ!?」


 しかし俺の言葉に、今度は様子が激変。大人しかった口調が、急に荒々しいものへと変化し始めた。


「ちょ…きみ、メフィストさんに何したの!? メフィストさん、キマりすぎちゃってるじゃないの!?」

「キマりすぎって…いや、俺は何も…!」


 先程忠告してくれた青年も、『メフィスト』さんの様子が変なのに気づいてか、声を掛けてきた。
 まさか…アカウントがないのが分かって、暴走し始めたのか? いや、相手は普通の人間だろ!? なんでそんなことで…!?


「ももも、もってきてないだとおおおおおうああああ! な、なななら…おま、えのあかう、んと…よこせへえええぇ!!」

「お、落ち着いて下さいよ、『メフィストさん』さん!? ほら、新顔が怯えてますから…『メフィストさん』さん!?」

「―――うぉぉぉおおおおおおおおおおおおん!!」


 豹変した『メフィスト』さんが叫び出すと……その背後に赤い恐竜のようなデジモン―――グラウモンが現れたのだ。


「うお!?」

「な、なんだあれ!?」

「「オデに、レアな…キラキラひかる、きれいなアガウント……よこぜぇぇえええええん!!!」」


 『メフィスト』さんとグラウモンが同時に喋ると、グラウモンは俺に向かって自らの尻尾を振り下ろしてきた。
 俺はすぐさま横へと飛び、グラウモンの攻撃を避ける。その周りにテリアモン達も集まってきた。

 そう言えば、さっき俺の側にいたハッカーは……あ、今のでのびて仲間に支えられてる。だっせぇ……


「タクミ、あれどうする!?」

「どうするも何も、止めなきゃいけねぇんじゃねぇの!?」

「チビモンの言う通りだ、このままにするつもりはない。…ただ……」


 そう言って俺は、グラウモンの後ろにいる『メフィスト』さんに目を向ける。
 グラウモンと同じように、発狂するかに叫んでいる彼。一体どういうことだ? グラウモンに指示を出す訳でもない、見た目からしてもハッカーではない。

 グラウモンは本来、育て方次第では忠実に従い、正義の為に戦うこともあるデジモンだ。しかしあの様子では、そんな様子は一欠片も見られない。
 どうなってる…あの人のパートナーがグラウモンなのか? それにしたって、あの状況…明らかに変だ。


『おそらく、精神を乗っ取られているのだろう』

「ッ、暮海さん!」


 思考を巡らせていると、視界の横にモニターが現れ暮海さんが映った。


「精神を…? 一体どういう…?」

『正確には、アカウントの核となる「精神データ」を、使役していたはずデジモン(グラウモン)に乗っ取られているのだ』

「でも、奴はなんの為にそんなことを…」

『デジモンをコレクションする人間がいるんだ、その逆もまたしかり……そう考えると合点がいく』

「つまり、グラウモンが人間の『精神データ』をコレクションしている、ということですか!?」

『おそらく、な』


 たしかに、考えられないことではない。デジモンはそもそも、“0”と“1”で構成される、データを核にして出来た生き物だ。
 自分の好みによって、その『データ』を集める…なんてこと、ないとは言い切れない。


『その「メフィストさん」とやらの、現実世界での影響を確認しておきたかったのだが……』

「呑気なこと言わないでください! 一体どうすれば…ッ!」

『グラウモンを倒すしか、今のところ道はない。奴を消去(デリート)するか、気絶(ダウン)させるか……だな』

「なるほど…ありがとうございます!」


 俺は暮海さんとの通信を切ると、こちらを見て吠えるグラウモンに向き直る。
 さて、どうすっか……!
























「ガアアアァァァァァ!!」

「くっそ…! ッ、あぶなッ!?」


 再び振り回され、打ち付けられる尻尾。タクミも必死に避け、転がりながら距離を取る。

 いかんせん、相手は成熟期だ。単体での攻撃力に差があり過ぎる。
 むやみやたらに攻撃しようものなら、反撃をもらうのは目に見えている。しかもこちらは成長期と幼年期だ。一段階も二段階も進化段階が違う。

 以前アグモンとガブモンと戦ったときとは、状況がまるで違う。どうする…こちらの攻撃が通らない訳ではないけど……慎重にいかないと……


「タクミ、指示を!」

「わかってる!」


 とにかく、今はこちらの攻撃を当てつつ、向こうの攻撃を避けていくしかない!
 そう判断したタクミは、大きな声で指示を飛ばす。

「テリアモン、チビモンとミノモンに“スピードチャージ”!」

「オッケー!」


 タクミの指示に従ってテリアモンがチビモン達に掌を向けると、二体の身体が一瞬光った。これで二体のスピードを底上げし、攻撃を当てにくくできた筈。


「とにかくグラウモンの攻撃を避けつつ、攻撃を当てていくぞ。できるだけ立ち止まらず、動きながら攻撃するんだ!」

「りょ、了解!」

「うん…!」


 そしてチビモンとミノモンは、タクミの指示を理解してグラウモンにはむやみに突っ込まず、その周りから攻撃を開始した。


「“ヘビーストライク”!」

「“クレセントリーフ”!」


 チビモンの両手両足の打撃攻撃、ミノモンの木葉による攻撃。それぞれが持つ“継承技”を放ち、グラウモンにダメージを与えていく。
 一撃だけでは大したダメージになっていないようだが、それが連続となると流石に鬱陶しいらしく、少し苛立ってきている。


「テリアモン、行けるか?」

「勿論!」


 そこへテリアモンも加わり、それぞれが攻撃を与えていく。
 チビモンがぴょこぴょこ跳び回り、ミノモンは糸を自在に操りグラウモンの周りを飛び回る。テリアモンは二体以上のスピードを生かし、二体以上にダメージを与えていく。

 三体の攻撃によって、攻撃すべき標的を定められないグラウモン。これなら攻撃できても皆には当たらない。
 このままいけば勝てる、押し切れる。そうタクミが思った―――次の瞬間だった。


 グラウモンの、激情に任せたかのような攻撃的な唸り声が、クーロン中に響き渡った。


「「「―――ッ!!?」」」


 突然の出来事に攻撃していたテリアモンは、一瞬その咆哮に気を取られてしまう。
 一瞬とは言っても、緊張しつつも周りに気を配り、グラウモンの攻撃を避け続けていた最中の一瞬―――

 その一瞬が、命取りだった。
 狙われたのは、丁度グラウモンの横を糸を使って通り抜けようとしていた、ミノモンだった。グラウモンはミノモンに対し、腕を振り抜き吹き飛ばそうとしていた。

 本来なら途中で糸を千切り、グラウモンの腕が通るルートから外れることで避けるのだが……先程の咆哮の所為か、その糸を千切るタイミングから完全に遅れてしまった。


「ミノモン!」

「あっ―――ッ!?」


 タクミはミノモンの名前を叫んだが、やはり遅かった。グラウモンの攻撃が見事にミノモンへ命中。ミノモンは吹き飛ばされてしまい、クーロンに乱雑に並ぶキューブの壁に当たり床まで落ちた。


「み、ミノモン!?」

「チビモン、止まるな! テリアモン、ミノモンを頼む!」

「うん、わかった!」


 テリアモンはタクミの指示に従って、ミノモンの下へ向かう。身じろぎ一つもしないところを見ると、どうやらミノモンは気絶しているようだ。
 とにかく、今はチビモンだけ。攻撃ではなく回避に専念して、テリアモンが戻ってくるのを……


「チビモン、今はとにかくかい―――」

「この…ミノモンをよくもぉぉぉ!!」

「な、待てチビモン!」


 しかしチビモンはタクミの指示を無視し、感情に任せて勝手にグラウモンへ向かって走り出してしまう。
 タクミは慌てて制止の声を上げるが、どうやら耳に入っていないようだ。このままだとマズい。そう判断したタクミは、チビモンを止めようと走り出した。


「このぉぉぉ! “ホップアタック”ゥゥゥ!!」


 グラウモンの足元まで走って行ったチビモンは、大きな図体を持つグラウモンへ必殺技を放った。
 しかしこの直線的な行動と攻撃は、グラウモンに目視されてしまい、チビモンの攻撃はグラウモンの腕によって簡単に防がれてしまう。

 上へ向かって放った所為か攻撃を防がれたチビモンは、ぽてん…と床に落ちる。
 その時できる隙を、グラウモンが見逃す筈がない。グラウモンの肘にあるブレイドにプラズマが発生し、帯電する。

 グラウモンの得意技“プラズマブレイド”だ。
 攻撃準備のできたグラウモンは、プラズマの発生しているブレイドを構え、腕を大きく振り上げる。どうやらこの一撃でチビモンを葬るつもりのようだ。


「ッ…!?」


 それを察したのか、チビモンは表情を歪め目には涙を溜める。しかしその恐怖のあまりか、声は出なかった。
 このままでは殺される。だけど、身体が恐怖で言うことを聞いてくれない。

 どうすることもできない。そう思いチビモンが目を瞑った瞬間、グラウモンの肘が振り下ろされ―――


「どぉぉぉぁぁあああああッ!?」


 しかしグラウモンの攻撃は、チビモンに当たることはなかった。
 プラズマを纏ったブレイドが当たる直前に、タクミがスライディングでチビモンをさらい、グラウモンの股の下をくぐったからだ。

 つまりグラウモンの肘は、何もないデータの床を叩いたのだ。
 そうとも知らず、勝ち誇ったような表情を浮かべるグラウモン。プラズマの影響か、少しデータが散乱し命中の判別ができていないのが幸いしているようだ。


「チビモン、どこも怪我はないな!?」

「あ、あぁ……」

「よ、よかった~…」


 そんなグラウモンの後ろで、チビモンの安否を確認するタクミ。攻撃を受けてないチビモンは勿論怪我などしていないのだが、確認せずにはいられなかった。
 そして丁度そこへ、ミノモンを抱えたテリアモンも走ってやってきた。ミノモンは目が覚めてはいるようだ。


「途中“ヒール”をかけておいたよ」

「さっすがテリアモン!」


 テリアモン独断の判断でミノモンの体力回復をしていたようで、タクミはテリアモンにグーサインを送る。テリアモンも耳でグーサインを作り、タクミに返した。


「…ごめんなさい…僕の所為で……」

「心配すんな、今は休んでろ」


 タクミはそう言って、ミノモンを自分の後ろに置く。傷だらけのミノモンは自由に動けないようで、グラウモンを見ながら悔しそうな表情を浮かべた。


「こうなった以上、お前ら二人だけで行くしかない。やれるか?」

「もちろん!」

「…………」

「―――チビモン?」

「ッ……」


 確認するように言うタクミの言葉に、テリアモンは前へ躍り出て言った。
 しかしそれに対してチビモンは、グラウモンの背中を見たまま固まり、タクミが自分を見ていると気づくと顔を俯かせてしまう。


「チビモン、お前まさかどこか…」

「ち、違う…違うんだ…」


 心配になったタクミは、チビモンの顔を覗きながら尋ねる。対しチビモンは首を振り、そうじゃないと否定する。顔を俯かせたまま。
 そのとき、ようやくタクミは気づいた。チビモンの体が小さく震えていることを。

 チビモンは、グラウモンに対し恐怖心(トラウマ)を抱いてしまったのだ。
 ミノモンが傷つく要因となったあの『咆哮』、自分を見下すあの『眼』。『牙』に『爪』、『体格』も『体格』も。
 その何もかもが自分とは違う。自分は強いと思い続けてきたチビモンにとって、成熟期(グラウモン)との差はとてつもなく広く感じた。


「―――怖いんだ…あれ(グラウモン)と戦うのが……怖いんだ…!」


 怖い、怖い…なんであんなのに勝てると思った、なんであんなのと戦わなくちゃならない。あんなのに勝てる訳ないのに、なんで…? いやだ、怖い…怖い……!
 それに気づいてしまったチビモンの心は、そんな気持ちで満たされてしまった。体を動かしたい、しかしあの巨体を見てしまうと、足が竦む。前に出れない。

 そんなチビモンの言葉を聞いたタクミは、声を掛けようと口を開いた。


「―――何が怖いだ、プログラム風情が怖気づいてんじゃねぇ!」


 しかしその前に、別の男の声が割り込んで来た。
 思わず視線を向けるタクミとチビモン。そこにはあの仮面を付けたハッカー達がいた。

 その中で、一番背の高い男。先程タクミに話しかけたのとは違う男性だ。その男性がチビモンを指差し、その周りで他の二人が「やめろ、バレるだろ」と声を掛けていた。


「デジモンを倒せるのは、デジモンだけだ! お前らが戦わないで、誰が戦うんだ! 戦えよ、そして俺達を守ってくれよ! プログラムなんだからできるだろ!?」


 だが周りの二人の制止を振り切り、タクミの近く―――正確にはチビモンの近くまでやってきながら、男はそう言う。
 チビモンは顔を俯かせたままだ、何も言い返すことはしない。それを見かねた男は、更に怒りを露わにした。


「戦えよ、それしか能がないくせに! 怖気づいてんじゃねぇぞ、この―――」


 しかし男の言葉はそこで止まり、代わりに彼の顔面に―――タクミの拳がめり込んだ。
 急な出来事に為す術なく倒れる男、それを見て驚く男の仲間とチビモン、そしてミノモン。


「この、何しやが―――」


 男は顔を上げ反論しようとするが、そんな間もなくタクミが彼の襟を掴み持ち上げる。


「ふざけてんじゃねぇぞ、この野郎…」


 怒りの形相―――いや、もはや鬼の形相とも言える顔。静かに怒りを込めた、低い声。
 そんなタクミを見て、男は発しようとした言葉を飲み込んだ。


「こいつらがプログラム? お前は今まで何を見てきた。お前だってザクソンのメンバーなら、デジモンの一体ぐらいいるだろう? そいつと一緒にいて、気づかないのか?」

「な、なにを……」

「こいつらはプログラムなんかじゃねぇ。『デジタルモンスター』は、生きてるんだよ! 喜びも悲しみも、痛みも苦しみも感じられる。友情だって愛情だって、恐怖だって感じられる! デジモンは、この電脳世界で―――“生きてる”んだよッ!!」


 その言葉に、男は「はぁ…?」と漏らす。当然だ、ほとんどのハッカーがデジモンを“ただのプログラム”としか見ていない。だからこそ酷い仕打ちも、無碍な扱いもできるのだ。
 しかしタクミは、デジモンは“生きている”と言った。プログラムではなく、電脳世界に生きる“生物”なのだと。

 信じられる訳がない、だってデジモンは人が作った―――


「戦うしか能がない? 怖気づいてんじゃねぇ?いい加減にしろよ、おい。
 こいつらだって“生きてる”んだ、怖いに決まってるだろう! あんな相手と戦って、怖くない訳ないだろう!? それでも必死に戦おうとしてるんだよ、俺達を守る為に! その行為をお前は踏みにじってるんだよ、それがなんでわからないッ!!」

「は、はは……お前、何言って……」

「ッ……!」


 男がタクミの雰囲気に呑まれながら言ったが、タクミは逆に表情を更に歪めた。
 瞬間、男の腹にタクミの拳がめり込んだ。更にクの字に折れ曲がる男を、仲間二人のいる場所へ投げ飛ばした。


「これ以上話しても無駄みたいだな―――邪魔だ、とっとと失せろ」


 タクミの言葉に、男の仲間二人は何度も頷いて、投げられた彼を引きづって行った。
 その時、咆哮が響き渡る。どうやらグラウモンが、タクミ達が移動していたことに気づいたようだ。こちらを見る目は、憤怒の感情で満ちていた。


「……テリアモン、行くぞ」

「…うん……」


 タクミはテリアモンにのみ声をかけ、テリアモンはそれに返事を返した。
 名を呼ばれなかったチビモン、しかし本人は当然だと考えていた。

 今までチビモンはタクミ達と出会うまで、幼いながら色々なハッカー達を見てきた。
 多少の違いはあれど、その全てに共通すること―――それはデジモンに対する“扱い”だ。先程の男と同様、デジモンをプログラム―――“道具”としてしか見ないのだ。

 使えるものは利用し、使えなくなったらあっさり切り捨てる。デジモン(あいて)の感情なんて、ないも同然。
 デジモンの意思に関係なく、データを盗む為に、改竄や破壊の為に、犯罪を犯す為に使い、終いにはデジモン達そのものである“データ”を弄り、デジモン達を苦しめる。

 それがこのクーロンに行き交う、ハッカー達の考えや行動だ。チビモンはそれを“嫌という程”見てきた。
 だから、もう戦えない自分は、タクミ(かれ)に切り捨てられて当然。これ以上、タクミの隣には―――


 そう考えていた、矢先だった。
 チビモンの頭の上に、温かい何かが乗せられた。


「―――何しょげてんだ、チビモン」


 上から聞こえてくる、優しい声色。先程の怒声が嘘のような、心から温かくなる声。
 チビモンはその声を聞き、顔を上げる。その顔はチビモン自身も気づかぬうちに、涙で濡れていた。


「あ~あ~、男前の顔が台無しじゃないか」


 そう言いながら、ポーチからティッシュを取り出し、チビモンの涙を拭いた。


「たく…み…? え、なんで…おれは…」


 捨てられた筈。使えない駒は、いらない筈だ。
 チビモンはそう言おうとしたが、それを遮るようにタクミは「いいか、よ~く聞け」と言ってきた。


「お前を使えないなんて言った奴のいう事なんざ、聞かなくていい」

「え…?」

「見捨てるわけないだろ、俺がお前達を。絶対に言える、俺はそんな事はしないって」


 その時、爆発音と共にテリアモンの「タクミ~!!」という声が聞こえてきた。どうやらテリアモン一人でグラウモンを引きつけているようだ。
 しかしそれも限界のようで、テリアモンは走って逃げている。勿論グラウモンはテリアモンを追いかけ回していた。

 タクミはそれを見て立ち上がり、チビモンから手を離した。


「―――強くなりたいんだろ?」

「……ッ!」

「約束したろ、強さの意味を…答えを“一緒に”探そうって。その約束を果たすまで、お前らは俺の“仲間”だ」


 忘れるなよ。
 そう言って、タクミはテリアモンとグラウモンの下へ走って行ってしまった。

 チビモンはその離れて行く背中を見て、ただ茫然としていた。
 今までのハッカーとは違うハッカー(タクミ)の言動に、驚きを隠せないでいたのだ。

 そんなチビモンの側に、


「チビモン、大丈夫?」

「ッ、ミノモン…!?」


 先程まで倒れていたミノモンが、寄り添ってきたのだ。先程テリアモンの“ヒール”を受けたとはいえ、まだボロボロだった筈なのに。


「…タクミって、変だよね」

「………」

「ぼく達の事を“生きている”って言って、あの約束も本気で果たそうとしている……今まで見てきたハッカーだったら、あり得ないよ」

「…あぁ、そうだな」


 二体は茫然と、タクミ達の戦いぶりを見ていた。巨体のグラウモン相手に、決定打がないまま防戦一方だった。
 不意に、チビモンが「なぁ、ミノモン…」と言ってきた。ミノモンは何も言わずに、チビモンを見やる。


「―――オレ達…なんでこんなに弱いのかな…?」


 彼の顔は、また涙でいっぱいだった。


「なんでタクミが大変な時に、隣でいられないのかな…オレだって…タクミと一緒に、戦いたいよ…」

「……うん、ぼくも…そう思うよ…」


 チビモンの言葉に、悔しそうに呟くミノモン。しかし、だからこそ―――


「“強くなろう”よ、チビモン」

「ッ…!」

「ぼく達が言い始めた事なのに、今はタクミがその約束を果たそうとしている。だから今度は、ぼく達が頑張る番じゃない?」


 チビモンの顔を覗きながらの質問に、チビモンはすぐに返事をすることはなかった。しかし涙を溜めた目で、タクミ達の戦いをじっと見続ける。
 そして、溜まった涙を拭い、ミノモンに顔を向けて口を開いた。


「―――あぁ、強くなろう。タクミと、一緒に戦えるように。こんな思いをもう、しない為に!」

「ッ……うんッ!」


 拳を握る程の熱意に、ミノモンも頷き返す。その表情はチビモンと同じく、揺るぎない意思が感じられた。







 ―――その時だ。
 彼らの身体から、眩いばかりの光があふれだしたのは。







 その光はその場にいたもの全てを明るく照らし、全員がその光に注目した。


「な、なんだぁこの光は!?」
「なんで急に…何かのエフェクト!?」

「な、んだ…あれ、は…?」
「まッ、まぶしいぃぃぃ!?」


 巻き込まれたハッカーは腕で目をかばい、グラウモンはあまりの眩しさに両手で目を塞ぐ。
 そしてその異変に気付いたものが、他にも……


「あれは…チビモンとミノモン、なの?」

「あぁ、きっとそうだ…!」


 タクミとテリアモン。チビモン達の様子に驚くテリアモンだったが、タクミの気持ちは高揚していた。
 この光…見覚えがある。いや、現実(リアル)で見た訳ではないが、この光の意味を知っている。何度も見た、あの光…!


 ―――そう、これは……


「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!」」

「チビモン!」
「ミノモン!」


 ―――“進化”の光!


「「進化あああぁぁぁぁぁ!!」」


「―――ブイモン!」

「―――ワームモン!」


 チビモン達は自らをそのまま成長したような姿へと変わっていく。
 そして、光が弾け飛び、その中心にいたのは……

 手足が伸び、しっかりとした二足歩行を実現させた、デジタルワールドの創世記に反映した種族の生き残りとされ、秘めた力を持っている小竜型デジモン―――“ブイモン”と……

 同じく古代種族の末裔で、額の『火』を逆さまにしたようなマークが特徴的な、未来への可能性を秘めた幼虫型デジモン―――“ワームモン”の二体がいた。


「…うわッ…お、オレ達…!」

「進化、したんだ…!」

「ブイモン…ワームモン……!」


「―――うがぁぁぁぁ、こぉのぉぉぉぉ!!」


 自らの身体が急激に変化し、進化したことを理解した二体。そんな様子にタクミは喜んでいたが、先程の光で怒りを増幅させたグラウモンは、タクミ達を素通りしてブイモン達の方へ走って行った。


「二人共、避けて!」

「え―――うおおぉぉ!?」

「わわッ…!」


 再び“プラズマブレイド”が振り下ろされそうになったが、テリアモンの一声でブイモンがワームモンを抱え、咄嗟に飛び出して避けた。


「あ、あぶねぇ…」

「ブイモン、無事か!?」

「あぁ…」


 慌てて側へ走ってくるタクミ。ブイモンはワームモンを置くと、タクミの前に立ち構えた。


「オレ、進化した…強くなった! きっと戦える…負けねぇ、逃げねぇ!」

「ッ…ブイモン……」

「だから…“一緒”に、戦わせてくれ! タクミッ!」


 ブイモンの、決意の伝わる一声。タクミはワームモンへ視線を向けると、ワームモンはタクミに頷き返して前を向いた。
 それだけで、十分だった。タクミは二体の背中を見て頷き、同じように正面を―――怒り狂うグラウモンへと視線を向ける。


「よっしゃ…行くぞ、皆!」

「「「おうッ!!」」」


「テリアモン、ブイモン! ゴーッ!!」


 タクミの合図で、テリアモンとブイモンは同時に飛び出した。
 攻撃方法は最初と同じ。スピードでかく乱し、攻撃を当てつつ避ける。


「“ブレイジングファイア”!」

「“ブンブンパンチ”!」


 テリアモンは炎を吐き出し、ブイモンは両手のパンチを繰り出し、グラウモンへとダメージを与える。先程よりも、目に見えてダメージが通っている。
 流石に反撃できない事に苛立ちを感じているグラウモンは、再び咆哮しブイモンへと狙いを定めた。どうやら一体ずつ相手するつもりらしい。


「させるか、ワームモン!」

「“ネバネバネット”!」


 タクミの指示で、ワームモンはグラウモンの進む先へ、粘着力の強い網状の糸を吐き出す。
 それが見事、ブイモンを追っていたグラウモンの足の裏にくっつき、グラウモンの気が逸らされ一瞬動きが止まった。


「まだまだ! “ネバネバネット”!」


 そこへ更に網状の糸を吐き出し、グラウモンの両足の甲が見えないぐらいまで何度も重ねた。
 糸によって足が動かなくなり、移動ができなくなったグラウモン。しかし彼はそんな糸を見て、口の中に炎を溜め始めた。

 “エキゾーストフレイム”。爆音と共に口から炎の塊を放ち相手を焼き尽くす、グラウモンの必殺技だ。
 どうやら彼はその炎で糸を焼き尽くそうとしているようだ。


 ―――しかし、こういう行動に出ることは予想できていた。


「ブイモン、テリアモン!」

「オッケー!」

「準備万端!」


 タクミに名前を呼ばれた二体は、グラウモンの真下へと移動していた。
 こうなることを予想できていたのだから、その対処―――もとい、それを利用した攻撃も、タクミは既に考えてあったのだ。


「いくよ、ブイモン。うまくやってね!」

「もちろん! テリアモンこそ!」


 互いに見合って言うと、ほぼ同時に笑みがこぼれた。
 そしてブイモンがテリアモンの前へ来ると、テリアモンは回転し小さな竜巻を作り上げる。


「“プチツイスター”!」

「ッ、おおおおぉぉぉぉ!!」


 テリアモンの作り上げた竜巻は、ブイモンをさらい巻き上げる。
 回転しながら竜巻の頂点から飛び出したブイモンは、自らの頭を突きだすように体勢をまっすぐにした。

 狙うのは、グラウモンの―――顎!


「“ブイモンヘッド”!!」

「ッ!!?」


 ブイモンは見事、グラウモンの顎へと頭突きを食らわせた。あまりに急な出来事に、構えていなかったグラウモンは、顎を突き上げられたことで口を閉じてしまう。
 吐き出しかけていた炎が口の中に納まる訳がなく、グラウモンの口内で暴発。グラウモンの顔が隠れる程の炎と煙が、グラウモンの顔周辺で起こった。

 理科の架空実験の如く、顔を煤(すす)だらけにして真っ黒となったグラウモン。暴発の勢いによって脳が揺らされ、立っている事もままならずそのまま倒れてしまった。
 倒れた彼を見ると、どうやら気を失っているようだ。


「ぐへらっ…」


 それと同時に、精神を乗っ取られていたサラリーマン風の男も、意識を失って倒れた。


「あぁッ、『メフィストさん』さん…? 『メフィストさん』さん…『メフィストさん』さーーーん!?」


 そこへ小柄な青年が、倒れた彼の下へ駆け寄った。彼らにとって“「メフィスト」”さんは商売相手であったからか、はたまた人間としての心の表れなのか。どちらにせよ彼の容体が心配だったらしい。


(―――というか、“『メフィストさん』さん”って…)


 そのことにようやく気がついたタクミは心の中でツッコミを入れながら、デジヴァイスの通信で杏子に伝えた。


『…なるほど、無事で何よりだよ。しかし、中々面白い顛末(てんまつ)だったようだな』

「えぇ…デジモンが人間を乗っ取るなんて……」

『そのデジモンが集めていたアカウントは、撃破によって解放された。山科誠のアカウントも、ね。ご苦労だった、事務所に戻ってきたまえ』

「了解です」


 素直に返すタクミだったが、杏子は何を思ってか急に笑みを浮かべた。


『主従の関係は、いつでも逆転の波乱含み、か。ふふ、私も肝に銘じておくべきだろうな。そう思わないか、ワトソンくん?』

「はい? いやだから、ワトソンくんって―――ってもう切れてるし……」


 なんだかよく分からなかったが、タクミは取りあえずその場を後にすることに。


「お、おい…なんでコイツを消去(デリート)しないんだ!?」


 そこへ叫んできたのは、先程タクミにボコボコにされた上背の男。
 コイツとは、男が指差しているグラウモンのことだろう。タクミはそれを確認しつつ、男へ視線を向けた。


「コイツはこんなことをしでかしたんだ、なんで最後まで―――」

「命を尊ぶのに、理由がいるか?」

「……はぁ!?」


 男の言葉を遮って、タクミは逆に質問を返した。しかし男はさも当たり前のような顔をして、口を開いた。


「それは命がある生き物ならそうだろうが、コイツはデジモンだろ? “ただのデータ”だろ!? なんでそこまで……ッ」


 そこまで言って、男は言葉を詰まらせた。タクミが間近まで迫ってきたからだ。


「……てめぇの考えが変わらないのは仕方ないとして、一つだけ忠告する。よ~く覚えておけ」

「ッ…なに……」


「―――デジモンは“生きている”んだ。
 “ただのデータ”の塊でもない、人間の作った“プログラム”なんかでもない。
 一つ限りの命を抱えて、一生懸命に生きている。俺達“人間”と同じように、“生きている”んだ」


 それだけは、絶対に忘れるな。でなければ―――


「いつかお前に、報いが来るぞ」


 タクミはそう言い残し、男から離れて行く。男はただ茫然と、立ち尽くすのみだった。

 先程の場所まで戻ってきたタクミを迎えたのは、テリアモンと…進化したブイモン、ワームモンだった。


「……大丈夫、タクミ?」

「ん? あぁ、大丈夫!」


 何か引っかかりを感じたテリアモンは第一声にそう言ったが、タクミは元気そうに返してきたので、安心した。
 そしてタクミはブイモンとワームモンの下へ来ると、二体の頭に両手を乗せた。


「よく、頑張ったな。お前達のおかげで、この戦いに勝てたよ」

「えへへ…でも、オレ達が進化できたのは、タクミのおかげだ!」

「うん、だから…ありがとう、タクミ!」


 二体は笑いながら言うが、タクミは首を振って「違う」と言う。


「進化したのは、俺のおかげじゃない。お前達が自分の手で、力で…決意で掴み取ったものだ。だから……よく頑張った」


 タクミはそう言うと、手を離して今度は二体に拳を突き出した。


「これからだ……約束を果たすのは。これからまた一緒に、強さの意味を探そう。―――付き合ってくれるか?」

「…あぁ!」

「もちろん!」


 タクミの質問に、ブイモンとワームモンは頷く。そしてブイモンは拳を、ワームモンは拳が作れないので頭を、タクミの拳と突き合わせた。
 決意を新たにし、それを確認し合った三人。その顔に浮かぶのは、眩しいばかりの決意の表情(かお)だった。


「ね~タクミ~、ぼくは~?」

「あ、悪いテリアモン! 勿論お前もな」

「ぶ~…」

「そ、そう怒んなよ…な?」


 完全に蚊帳の外だったテリアモンは、ちょっと頬を膨らませ不満顔を浮かべる。
 それを見て、ちょっとかわいいなと思ったのは、タクミ以外にいなかったが。


「取りあえず…帰るか!」

「「「うん(おぉ)!」」」


 見事グラウモンを倒し、狩られていたアカウントを全て解放したタクミ。
 テリアモンと、新たに進化したブイモンとワームモンを引きつれ、現実世界への帰路へ経ったのだった。





  
 

 
後書き
 
怪しげな仮面:なんかどっかの誰かに似ているような仮面。外国の、ロック系?取りあえず彼らはこれを仲間の見分けに使っている様子。わからない方、見たい方はググれ。

無限にワンナップ:お分かりいただいている方もいるでしょう、ノコノコとかけられています。その前の「踏んづけて蹴飛ばす」もそう。おのれバンダイ…やってくれる……

モ○ハン:ごめんなさい、はまってました……

『メフィストさん』:アカウントを買い取っていた人物。以前は普通の人間だったようだが、使役していたグラウモンに精神を乗っ取られあんな風に。間違えてはいけません、『メフィストさん』で名前です。

“強くなろう”:二人の目的であり、新たな決意です。

膨れるテリアモン:可愛い以外認めない。





 と言う感じです!いかがだったでしょうか!
 できれば今回でChapter2を終わらせたかったんですが、文字数多すぎなので次回がChapter2最終回です。

 ではまた次回!ご意見ご感想お待ちしています! 
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