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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第二十四話

 変態に拉致監禁されてから、三日ほど経過している。
本当にそれくらい経過しているのかは分からないけれど、一日三食きっちり運んできてくれるからその回数から逆算して割り出している。
本当それくらいもわからないような、光が差さないところへ移動させられてしまったのよね……
普通に城の一室に置いといたら逃げると思われたのか、真相は分からないけど。
ちなみに今は多分昼だと思う。

 押し込められたのは地下牢なんだけど、強制的に側室に二人揃って据えられてしまったこともあって、
一応座敷牢で布団までご丁寧に用意してある。
まぁ、あの変態が入ってこられないように結界とばかりに
重力を入口付近に張り巡らせているわけだけど、これが疲れること疲れること。
小十郎にひっきりなしに雷出してもらってもいいんだけど、それだと火事になる可能性があるし、
力のコントロールがそこまで小十郎は上手いわけじゃない。
あの子は雷の力を電気刺激に代えて身体能力を高める方に使ってるから、放出は得意じゃないのよね。
だから無駄に苦手な放出を続けさせると弊害が出てくるってことで結局は私が努力している。
簡単に抜け出せないように鎖で片足繋がれてるしねぇ……下手なことやって自滅するのは避けたい。

 しかし。

 「……真っ当な男はこの世界におらんのか」

 ぼそりと呟いた私に、小十郎が返す言葉が無いという表情で目を逸らしていた。
別に小十郎の事を言ったわけじゃなくてさ。

 「何だか奥州を出て、出会う男の変態度がぐぐっと上がってきてるような気がしてさぁ……
普通にカッコイイってのは無いのかなって」

 今のところまともだと思ったのは幸村君くらいかなぁ? 佐助はストーカーだし。

 「……普通に格好良い、ですか。ではお聞きしますが、姉上の基準でこの男ならば、というのはどういう人間なのですか」

 そりゃ、貴方。決まってるじゃないですか、無双の政宗様を差し置いて他にないでしょうよ。
生まれ変わる前も一応彼氏いたけどもさ、どいつもこいつも情けない男ばーっかりで途中から嫌気差しちゃったしさぁ。
やっぱ政宗様よ、政宗様。レッツパーリーの方じゃなくてね。

 「傲岸で不遜で、でも素直に人の意見は聞き入れられる年下の強気な男の子が好きかなぁ。
『馬鹿め!』って言われて思う存分罵られたい」

 愛しの政宗様の特徴を挙げてみると、小十郎が非常に複雑そうな顔をして私を見ていた。

 「…………」

 何、小十郎。その複雑そうな顔は。しかも何で黙ってるわけ。

 「……人の好みは千差万別ですから、この小十郎が口を挟むことではないとは思いますが……姉上も特殊な好みをしていらっ……!」

 鳩尾に思いきり肘内を食らわせてやれば、小十郎は腹を押さえてその場に蹲っていた。
姉を持つ男の悲惨さは友達から聞いてきたけど、やっぱそれって間違いないかもしれない。
でもこれは教育的指導だから問題ないよね!

 「……も、申し訳ございません。つい正直にっ……!」

 今度は頭に拳骨を食らわせてやり、腹と頭を押さえてその場に蹲るという
竜の右目と呼ばれている小十郎からは想像も付かないような姿を見せていた。
全く、そういうことは口が滑っても言っちゃ駄目だよ。

 「駄目だよ、そういうことを言っちゃあ。これから新婚さんになろうってのに、命落としたくないでしょ?」
 
 「……はい、申し訳ございません」

 涙目になって謝っている小十郎は不運な弟だ。
しっかりしているから長男かと思いきや、史実でもこの子は末っ子なのよね。
しかもとんでもなく歳の離れたお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるって話で。
そこはBASARAでもきちんと史実の設定になってる。
もし私がいなかったら小十郎はどんな育ち方してたんだろ……絶対に今よりも酷い事になってたわよね。

 「姉上?」

 昔は可愛かったんだけどなぁ……ひよこみたいに私の後ちょこちょこくっ付いてきて。
ちょっと苛められるとすぐ泣いちゃってさぁ。それが何でこんなに男臭くヤクザみたいになっちゃったのかしらね。
いや、今の小十郎に不満があるわけじゃないけどもさ。

 でもまぁ、外見的なものだけが可愛さじゃないしね。意外と可愛いところがあるんだ、この子は。

 頭でも撫でてやろうかなどと考えていた時、石畳をコツコツ叩く音が聞こえた。
この足音は、あの変態に他ならない。私は奴が入って来れないように重力をかけて入口に見えない壁を作る。

 「ご機嫌麗しゅう、私の可愛い側室達」

 小十郎に守られるようにしてしっかりと抱かれている私は、この変態に可愛いとか側室とか言われることにすっかり慣れてしまった。
小十郎は未だに慣れないようで、表情を強張らせている。

 「今日も中には入れて貰えませんか」

 「当たり前だ!! 中に入れたら何をするか分かったもんじゃねぇだろ!!」

 ふふ、と気味の悪い笑い声を上げて、明智が格子に指を絡ませた。

 「何を……? そんなの決まってるじゃないですか。側室にすることと言ったら」

 「あえて言わなくていい!! 言わなくても分かるから!!」

 言わせたらとんでもないこと言うに決まってる。
っていうか、R18指定入れなきゃいけないような、とんでもないこと言い出すわよ、あの男。

 「そうですか? つまらないですねぇ……」

 冗談じゃねぇっての。何が悲しくてあんな男に二人揃って抱かれなきゃならないのか。
一生遊んで暮らせるだけの金を貰ったとしても御免被るわ。

 「それじゃ、こういうのはどうでしょう」

 明智の口から放たれた提案に、私達は揃って顔を引き攣らせていた。




 牢内に鞭を打つ音が響く。そして男の歓喜の声もこだまする。

 「もう……勘弁して……」

 思わず懇願するようにそう呟けば、明智はまだ足りないと歪に笑っている。
小十郎はと言えばこの光景を見て普通に怯えているし、もう本当嫌になってくる。

 「ああっ……痛い、痛い! もっと……もっと痛みを……!」

 ……明智の奴を縛り上げて鞭でひたすら打ってるんだけど、かれこれ一時間以上は打ちっぱなしでいい加減私も疲れてきた。
いや、体感はそれくらいだけど実際はもっと経ってるかもしれない。
こんな変態プレイに小十郎を巻き込むわけにはいかないから、文字通りの汚れ役を引き受けている。

 いやね、私も小十郎も大抵汚れ役はやってきましたよ。
時には伊達に忍び込んできた阿呆に拷問かけたりとかそりゃ人様には到底言えないこともやってきましたよ。
でもこういうプレイは……流石にちょっとねぇ……。
女王様気質でもないし、生まれ変わる前も経験したことが無かったんだけどなぁ……いやでも、まだ服着てくれてるだけ良いとしよう。
これで素っ裸だったら精神的なダメージがより大きかったかもしれないし。

 「やはり貴女は最高です……! ああっ、私の可愛い側室……!」

 「いやっ、マジでキモイから黙れ!」

 「ああ、それいいですね……もっと、もっと罵って下さい!」

 駄目だ、コイツ早く何とかしないと……いや、駄目だ。ここまで来ると、もう病院が逃げるレベルだ。

 「……つか、殴られたり罵られたりするのが好きなわけ?」

 打ちっぱなしも疲れるからさりげなくそんな質問をして小休止を入れようとすると、
明智がまた薄気味悪い笑みを浮かべて私の問いかけに答えてくれる。

 「切り刻むのも大好きです。拷問に掛けるのもゾクゾクしますね……そうだ、もう一人の側室を拷問に」

 「かけたら(はらわた)生きたまま引きずり出すぞ!!」

 私の可愛い小十郎に何しようとしてんじゃ、ゴルァ!!

 先程の比ではないほど激しく鞭でバシバシ打ち付けてやって、幸せな表情のまま意識を失うまで殴り罵り倒してやった。
そんなどうしようもない主を無表情に牢番達が運んでいったところで、私は鞭を投げ捨ててその場に座り込んだ。
きっと彼らも思うところはあるんだろうけど、それを気にしてやれる余裕は今の私には無い。

 「……うう……こういう汚れ役は嫌。私、ドSじゃないし。女王様でもないし」

 ドMでもないけど、どっちかっていうとS寄りくらいで、人を殴って性的に興奮する特殊な趣味は持ち合わせてない。
ちなみに殴られて興奮する趣味も無いよ? 罵られたいのは政宗様限定だから。
きっと政宗様以外に罵られたら、多分マジギレして殴り倒しに行くと思う。
いや、重力でぺしゃんこにしちゃうかもしれないわね。

 「姉上」

 怯えていた小十郎にしっかりと抱きしめられて、私がいつもやっているやり方とは違って優しく髪を撫でてくれた。
普通ならこれで落ち着くところなんだけど、何か微妙に手馴れたその撫で方に、私は一つの疑問を持つ。

 「……小十郎、妙に手馴れてない?」

 その言葉に髪を撫でる手が止まる。顔を見てやれば、気まずそうに顔を背けている。

 なるほど、惚れた女はいても遊ぶ事は出来ますか。なるほどなるほど。この下種野郎め。

 「……これだから男って奴ぁ……」

 私のこの呟きに、小十郎が流石に勘付いて必死になって言い訳をしてくる。

 「ち、違います。断じて女遊びをしていたわけでは」

 「じゃあ何だってこんなに手馴れてんのよ。こういうのはやってなきゃ上手く出来ないんだから」

 それでも答えられずに困っている小十郎は、こういうことを何処かの女とやっていましたよ、と証明しているようなものだ。

 兄弟だから男女の仲になる気はないけどもさ、好きだって言って人の前で泣き腫らした人間が、
他の女と遊んでたってのは……正直ムカつく。
どんだけ離れてる間心配したか……本当、心配なんかしなきゃ良かった。

 「別にいいわよ。私はアンタの女じゃないし、いくら姉だからって弟の行動にまで干渉する権利はないもの。
寧ろ女遊びくらい出来なきゃ男として問題だし」

 「……姉上の想像するようなことは一切ございません。
あまりこうは言いたくないのですが、小十郎がそこまで器用に立ち回れるとお思いですか」

 言われてみればそんな器用な事が出来る子ではないか。
幸村君ほどではないけど、思い込んだら一直線ってところはあるしなぁ。
恋愛なんか不得手そうだし、仕事は器用にこなすけど人間関係器用ってわけでもないし、
あっちもこっちも、なんてことが出来るとは到底……じゃ、誰にやってたっての?
流石に天性の才能、ってわけじゃないでしょ。

 「なら誰に」

 尋ねてみれば、小十郎は少しばかり渋い顔を見せてやっていた相手の名を告げてくれる。

 「……御幼少の頃からある程度の年齢まで政宗様に」

 ああ、あの馬鹿主に……って、あの政宗様が!? そんなこと小十郎にさせてたっての!?

 「何、その笑い話。子供の頃から可愛げの一つも無かったじゃないの」

 「それは……子供ながらに好きな女の前では格好良く振舞いたいという思いがあったのでしょう。
些か間違った方向に進んでいるとは思いますが」

 確かにそれは言えてる。格好良く振舞おうと心がけた結果が族のヘッドだもんね。
しっかし可愛いところあったんだ、あの人に。

 「この話は内密に……小十郎が話したとなれば、政宗様が激怒なさるので」

 まぁ、可愛い弟の為だし、変にプライド傷つけても面倒だから黙っててあげようかしらね。
しかし、面白いネタをこんなところで拾うとは思ってもみなかったわ。

 政宗様も、もう少し素直になれば可愛いところはもっとあると思うんだけどもねぇ……。 
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