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俺と乞食とその他諸々の日常

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三十八話:事情聴取と日常


 独特の緊張感が流れる中リヒターとスバルは見つめ合う。
 しかし、どちらともこれ以上は不毛だと悟ったのか顔を反らす。


「にらめっこは引き分けかぁー」
「ふ、我と引き分けるとはやるではないか」
「いや、二人揃って何しとるん?」
『にらめっこ』
「そういうことを聞いとるんやないよ!」

憮然とした表情の二人にジークは最近ボケよりもツッコミの方が多い気がすると溜め息を吐く。
それが良いことなのか悪いことなのかは誰にも分からない。

「そうは言っても『話をして欲しければ我に勝ってみせよ』って言われたからね」
「いや、何でにらめっこになったのかを聞いとるんですけど……」
「だって、こんなところで戦うのは不味いよね」
「リヒ…エクスヴェリナさんはそれでええん?」
「遊戯であろうと勝負にはかわりない。いや、この女中々に手強い」
「……なんやろ、この納得のいかん気持ちは」

もう一度小さく溜め息を吐くジーク。
スバルの言うように連れていかれた部屋の中で暴れるのは不味い。
しかし、こんな勝負のつけかたで良いのかと悩む彼女だった。

(元気をだせ、ジーク。俺はお前の味方だ)
(グス……リヒター。私もうツッコミできんかもしれん)
(諦めるな、お前が最後の砦だ!)

念話で一人ツッコミ役となり孤独で押し潰されそうなジークを慰めるリヒター。
会えなくなって初めて自分の想いに気づくというのはよくあることだがジークは今切実にリヒターに戻ってきて欲しかった。
主にツッコミ役として。

(ん? でも念話できるんやからあの二人にも―――)
(すまない。どうやら念話が受信できないようだ。後は頼んだ)
(あ、ちょい待ち! 私を見捨てる気やろー!)
(おかけになった念話は現在通話できません。ピーという音の後にご用件をお願いします。ピー)
(……あんたを殺すッ)
(待て、ここは穏便に話し合おうじゃないか)

裏切り者は許さないという気迫に負けてあっさりと謝るリヒター。
体があればそれはそれは綺麗な土下座を見せてくれていただろう。
実際精神では土下座をかましていた。
後にリヒターは『あの時は冗談抜きで殺られると思った』と語っている。

「それじゃあ、そろそろ話してくれないかな?」
「ふむ、よかろう。汝のことは気に入ったからな」
(俺も話します。ご先祖様は話しが下手なので)
「……上から二番目の引き出しの奥―――」
(すいません。謝るんでそれだけは言わないで下さい!)

 茶々を入れてくるリヒターに対してエクスヴェリナは切り札をちらつかせる。
 リヒターはこの日二回目の渾身の土下座を精神の中でかました。
 と、言ってもそれは既に意味の無いことだが。

「ふーん。そこに隠したいものがあるんやね? なんや、男のロマンのつまった本かいな?」
(黙秘権を主張する)
「我が居れば何の意味もないがな」
(この人でなし!)
「くくく、聞き飽きた台詞よのう」

 小気味の良いテンポで話を続けていく二人(?)にジークとスバルは苦笑いを浮かべる。
 良い関係を築けているのが傍からでも分かる二人だった。

(帰ったら確認せなあかんよね)

 もっともジークはそんな事で先程の情報を忘れる事などないのだが。

「えっと、いいかな?」
「む、我としたことがすまぬな。して、何を聞きたい」
「まずは、どうして人を斬ったりなんてしたのかかな」
「剣を向けられたから斬ったまでだ。我とて武器を持たぬ民を斬る趣味は無い」
(俺が突き刺される寸前にご先祖様と入れ替わってそのままなんです。ご先祖様もナイフ奪ってそれで終わればいいものを)
「剣を向けられたら剣で返すのが騎士の礼儀よ」

 一切の悪びれの無い態度にスバルはどうしたものかと悩む。
 目撃証言からも最初にナイフを向けたのは犯人なのは証明されている。
 故に相手に攻撃するのは正当防衛として成り立つ。
 しかし、今回のはやり過ぎなのだ。完全に致命傷を与えてしまった。
 しかも明確に斬ると決めて斬ったのだ。過剰防衛に当たる可能性がある。
 刺される直前でナイフを奪い取りそれで刺した。つまり相手を無力化してから斬ったのだ。
 これが、気が動転していたのなら話は難しくならないのだが、彼(彼女)は冷静に状況を見極めたうえで斬ったのだ。
 やむをえない状況ではなく、やむを得る状況だったのだ。
 これでは過剰防衛となってしまう。いや、それだけなら話はまだ簡単なのだ。

(ところでスバルさん。あの人は大丈夫なんでしょうか?)
「あ、うん。今は命の心配はないみたいだよ」
(そうですか、良かった)
「汝が死んでいたやもしれんというのに暢気な奴よのう」
(あんたは物騒過ぎるんだ、ご先祖様)

 この状態、二重人格とも呼べる状態がネックなのだ。
 別の人格が犯した犯罪というものはその人格に責任能力があれば適応される。
 勿論本当に二重人格かどうか、責任能力があるかどうかは医者に診断を受けなければ分からない。
 そうと決まれば、まず診断を受けるのが先なのだが……。

「もう一つ聞きたいんだけど、ご先祖さまっていうのはどういう事なのかな?」
(そのままの意味です。ベルカの記憶継承の技術をいじって記憶と一緒に人格も引き継がせたみたいです。そこの馬鹿が)
「少しは敬え小僧。まあ、シュトゥラの技術の真似だけでは味気がなかったからな」
「……え? ちょい待って。それってリヒターもベルカ時代の後継者ってこと?」
「如何にも。我がここにこうしていることが何よりの証拠だ」

 この少年は少し特殊らしい。
 二重人格という病気ではなく完全に別人の人格が入り込んでいるというのだ。
 洗脳ならば無罪と言わなくとも短い間の保護観察で終わるだろう。
 しかし、洗脳でないのは既に検査して分かっている。
 医学が専門でないスバルにはこれ以上検査はできない。
 だが、勘で完全に二人は別人だと確信していた。故に悩む。
 別人が自分の体を使って犯罪を犯した。しかも正当防衛になるかならないかの瀬戸際で。
 もしかしたら二重人格の可能性もある。様々な要因が重なり合っている。
 はっきり言ってスバルはそんな前例など知らない。
 故にどうすればいいのか決めかねているのだ。

「リヒテン・(ヴォート)・ノルマン。それがこやつの栄えある名前よ」
(やめろ! 俺の十四歳の時の傷口をほじくり返すな! あの時、ご先祖様にカッコイイ名前をくれと言ったのは軽い気持ちだったんだ!)
「王から名を承ることは名誉だ。喜ぶことはあっても恥じることは無い」
「……中二病やったんやね、リヒター」
(恨む……恨むぞ、ご先祖様…ッ)

 怨嗟の声を上げるリヒターに生暖かい目を向けるジークとスバル。
 もしこの場にエルスが居れば身悶えていたかもしれないが今は関係ないだろう。
 それよりも本当にベルカ諸王の末裔であるのならば慎重に事を運ばなければならない。
 一般の病院では手に負えるとは思えない。そもそも記憶の継承ですら解明が進んでいないのにそこに人格の継承ときた。
 ハッキリ言って普通の医者にはお手上げだろう。
それに信用できる医者でなければ危険にさらされる恐れもある。
 おまけに―――

「……なんか、リヒターの魔力量増えてない? 前は大して感じられんかったのに今は傍におるだけで感じられるんやけど」
「その通りだ、エレミアの小娘。我の覚醒と共に増えたのだ」
(そうなのか? という事は俺も飛行魔法とかを使えるようになるのか?)
「魔力量はともかく適正は実際にやってみんことには分からんものよ」
(そうか。だが、楽しみではあるな)

 リンカーコアにまで変化が表れているらしい。
 信用に値し、リンカーコアについて詳しく、古代ベルカに明るい。
 そんな人物、しかも医者などそう簡単にいるものではないが幸運なことにスバルには心当たりがあった。
 デバイスを取り出し連絡を入れる。すると目当ての人物は直ぐに出てくれた。

『あら、スバルどうしたのかしら?』
「すいません、シャマル先生。診ていただきたい人が居るんですけど―――」

(俺は病気じゃない! だからお薬なんていらないんだ!)

 かつて病気を疑われたことが若干トラウマになっているのか泣きそうな声で叫ぶリヒターに少し驚きながらもスバルは冷静に準備を進めていくのだった。
 
 

 
後書き
( ^-^)_θお薬です お大事に


お薬が伏線だと気づけた人物はいるまい(ゲス顔)
 
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