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異世界系暗殺者

作者:沙羅双樹
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逆鱗の時間(2016/05/16 一部修正)

 
前書き
今回のタイトル、逆鱗の時間にするか暗殺の時間にするかで迷いましたが、暗殺っぽくはなかったので逆鱗の時間にしてみました。

また、今回の戦闘シーン(?)は大暮維人先生の天上天下並みに鷹岡がグロいことになります。まぁ、自業自得ですが……。
(ってか、天上天下って割とグロいことをしても友情関係や仲間関係が崩壊することないですよね。(笑)登場人物全員が武人とはいえ、どんなメンタルしてんだってツッコミを今更ながらしたいです。(笑))

あっ!今回はあとがきで軽い補足などをしたいと思ってるので、良ければあとがきまで見てください。(笑) 

 



【視点:渚】



普久間殿上ホテル屋上。そのヘリポートは今、濃密な殺気に満ちていた。殺気の発生源は疑い様も無く、僕らのクラスメイトの南樹――イッキ君だ。

僕達E組にウィルスを盛った黒幕――鷹岡先生に1人でヘリポートまで来るように言われたイッキ君は、ついさっきまで土下座の状態で30分以上も一方的に蹴られ続けていた。

正直、出撃組の中にはその光景を直視できず、目を逸らそうとする者もいた。それはイッキ君が鷹岡先生の蹴りで体中から血を流し、着ていた服がボロボロになっても尚、微動だにせず土下座し続けていたからだ。

どう見ても拷問としか言い様のない光景。目を逸らしたくなる気持ちも分かる。けど、その拷問染みた光景も鷹岡先生のある発言で一変した。

鷹岡先生が神崎さんを含むクラスの女子をイッキ君の目の前で犯すと言いながら、イッキ君から奪った日本刀で斬り掛かろうとしたんだ。

その瞬間だった。今までただ蹴られ続けていたイッキ君からアマチュアでも理解できてしまう濃密な殺気が溢れ出たのは。

まるで喉元にナイフの(きっさき)を突き付けられている様な、息苦しく冷や汗が止まらなくなってしまう感覚。直接殺気を向けられている訳でも無いのに、僕達はそんな感覚に襲われた。

余波の殺気でもそんな感覚に襲われるんだ。直接当てられた鷹岡先生なんて気絶してもおかしくない。その筈なのに僕達の視界には殺気など知らないと言わんばかりに日本刀をイッキ君に振り降ろそうとする鷹岡先生の姿が映った。

あとで烏間先生から聞いた話では、この時のイッキ君の殺気が鷹岡先生の感知可能なレベルを圧倒的に凌駕してしまっていた為、鷹岡先生は殺気に気付けなかったそうだ。

そして、いつの間にか土下座から上体を起こして正座状態になっていたイッキ君が日本刀を振り降ろされるより早く動いた。

石の暗殺者を相手にしていた時の様に、イッキ君が両腕を鞭の様にしならせ、腕の像がブレたかと思ったら、木の枝を何度も圧し折る様なボキボキという音が聞こえ、音が止んだ時には鷹岡先生の持っていた日本刀がイッキ君の手に渡っていた。


「………へっ?……あっ、ぎ!ぎぃあああぁぁああぁぁぁ!!」


自分に何が起こったのか一瞬理解できていなかった鷹岡先生は間抜けな声を口にしたかと思えば、すぐに叫び声を上げた。

日本刀を持っていた鷹岡先生の右腕は、指先に至るまで殺センセーの触手みたいにぐにゃぐにゃで、所々骨が肉を突き破って飛び出してたんだ。

僕達じゃ想像もできない激痛だろうし、いくら鷹岡先生が元職業軍人でも叫び声を上げるのも仕方ないとも思えた。そのことは鷹岡先生が持っていた治療薬の起爆リモコンを手放した左手で、右腕を抑えていることからも窺える。

その後、起爆リモコンはイッキ君の手に渡った。鷹岡先生が絶叫を上げた際、イッキ君から距離を取る様に数歩後退した為、イッキ君も余裕で起爆リモコンを回収できたみたいだ。

当然といえば当然だけど、この起爆リモコンはイッキ君の手で破壊された。イッキ君が鷹岡先生から取り戻した日本刀で斬り刻まれたんだ。

鷹岡先生の現状を見る限り、治療薬を爆破する様な精神的余裕も無い。もう決着はついた。屋上に集まった誰もがそう思った。けど、実際はこれで決着とはならなかった。


「多寡が腕の一本砕けた程度で、自称エリート軍人様が見苦しい叫び声出してんじゃねぇよ。お楽しみはこれからだろうが」


イッキ君はそう言うや否や、炎の玉璽(レガリア)も無いのに目にも止まらぬ速さで鷹岡先生との距離を詰め、右手に持っていた日本刀を振り降ろした。


「と、(とぎ)ゃあああぁぁああぁぁぁ!!!」
「……腐っても炎の試作型疑似玉璽(プロトタイプ・サブレガリア)を使ってるだけのことはあるみたいだな。時の(トリック)で斬撃を僅かに逸らしたか?」


振り降ろされた日本刀は鷹岡先生の左手薬指と小指共々、尺骨に沿う様に腕の肉を削ぎ落し、鷹岡先生の左腕からは右腕とは比べ物にならない血が噴き出す。

この現状に至って鷹岡先生は漸く理解した。イッキ君が鷹岡先生を殺すことに躊躇しなくなったということを。そして、イッキ君が狩りをするシャチの様に自分を弄んでいるということを。

それを理解した瞬間、鷹岡先生は恐怖で顔を歪めながら炎の試作型疑似玉璽(プロトタイプ・サブレガリア)を使い、イッキ君から逃げ出そうとする。しかし、イッキ君が炎の試作型疑似玉璽(プロトタイプ・サブレガリア)を凌駕する速度で先回りする為、鷹岡先生に逃げ場など無い。

10回も先回りされれば、恐怖でまともな思考ができない鷹岡先生でも移動するだけでは逃げ場が無いと悟った様で、僅かでもイッキ君の隙を作ろうと、蹴り技を放ち始める。

が、これも今のイッキ君を前には意味を為さなかった。イッキ君は危なげなく、反撃することもなく紙一重で全ての攻撃を避け続けるからだ。


「外れ。外れ。また外れ。またまた外れ。ほれほれ、頑張れ。これじゃ、いつまで経っても当たらねぇぞ」


イッキ君は完全に遊んでいる。対する鷹岡先生は出血のせいで速度が確実に下がってきている。今の鷹岡先生の蹴りなら僕でも避けられる。

僕がそんなことを思っていると何度目かの蹴りが放たれ、イッキ君はそれに対して左拳を蹴り足の脛にぶつけていた。結果は鷹岡先生の右足の骨が砕け、肉が裂け、脹脛から大量の血が噴き出すという状況に至った。

鷹岡先生は本日3度目の絶叫を上げ、体のバランスを崩し、その場に尻もちをつく。そんな鷹岡先生にイッキ君は更なる追い打ちを掛ける。


「はは、ははは。はははははははは」
「ぐあ、あっ。ぐっ、ぎゃあ!あ!ぐわっ!!あぁ!!!」


イッキ君は悲鳴を上げる鷹岡先生に対して、容赦なく残った左足を日本刀で何度も刺し貫いていた。まるで態と苦痛を長引かせる様に。

何がそこまで彼を豹変させたのか。それは誰にでも分かることだった。鷹岡先生がイッキ君の大切としている者――神崎さんに手を出そうとしたからだ。

自業自得と言ってしまえばそうなのかもしれない。けれど、このまま鷹岡先生が本当に死んでしまったら、僕達は今まで通りイッキ君と付き合うことができるだろうか?

その考えが頭を過った瞬間、僕――いや僕達の身体は既に動いていた。



【視点:樹(暗殺モード)】



俺の大切な者に手を掛けようとした。その愚かさを魂にも刻み付ける為、俺は敢えて鷹岡の急所を狙わず、嬲る様に追いつめて行った。

そして、ついに動けなくなった鷹岡に止めを刺す為、その頭に日本刀を振り降ろそうとした瞬間、無数の牙が俺に襲い掛かって来た。

俺は縮地を使って牙を難なく避け、再度止めを刺そうと鷹岡へと近付こうとした瞬間、今度は空気の塊を頭上から叩き付けられ、更に超臨界流体の壁をぶつけられ鷹岡との距離を離された。


「………何のつもりだ?カルマ、悠馬、寺坂」


俺を攻撃してきたのは、鷹岡を背に俺の前に立ち塞がるカルマ、悠馬、寺坂の3人だった。いや、立ち塞がっているのは3人だけじゃない。烏間先生と渚、龍之介、正義、菅谷、吉田もいて、烏間先生に至っては銃を向けてきている。


「鷹岡のヤローはもう気を失ってる。四肢もこんな状態じゃ、二度と使いもんになんねぇ。もういいだろ?」
「寺坂の言う通りだ、イッキ。それに鷹岡は早く病院に連れて行かないと死んでしまう」
「治療薬も手に入ったんだしさ。殺す必要はないでしょ?ここらで終わらせときなよ、イッキ」
「………そこのカスゴミは有希子だけじゃなく、クラスの女子全員を犯すとか言ったんだぞ?生かしておく必要性を全く以って感じない。だから殺す」
「イッキ君。この世に必要じゃない命なんてないよ。鷹岡先生は確かに屑かも知れない。でも、だからって死んでいいってことにはならないよ!それにいくら屑でも殺しちゃったら、その時点でイッキ君は殺人罪で捕まっちゃうよ」
「……渚。お前、結構キツいこと言うな」
「確かに。意外だ……」
「南君。渚君の言う通り、ここで君が鷹岡を殺せば、君は殺人罪に問われる。それでもいいのか?」
「………烏間さん。俺は拷問紛いな暴行をされた上、達磨にされて殺されそうになった。しかも、そのカスゴミは大量強姦を行おうともしていた。身の危険を感じたんだ。ここでそのカスゴミを殺しても正当防衛が成り立つだろ?
それにあんたが殺人罪云々を口にするのはおかしいだろ?超生物相手とはいえ、俺達を暗殺者に仕立て上げようとしているあんたがさぁ!」
「ぐっ!確かに俺――いや、防衛相は君達を暗殺者に仕立て上げようとしている。今回の一件で君達の身の安全すら守れていないことを痛感させられた。だが、だからといって殺人を犯していい理由には―――」
「烏間さん。今の俺は気が短いんだ。同じことを何度も言わせるなよ。俺は鷹岡の殺意に身の危険を感じた。だから、正当防衛で鷹岡を殺す。そう言ってるんだ。
俺達に一般的な日常の確保すらできないダメな大人が、偉そうに指図してんじゃねぇよ。俺に殺させたくないって言うなら、あんたが殺せ。それができないなら俺の邪魔をするな。でなきゃ、あんたも殺すぞ」


烏間先生の物言いに少しばかりイラつきを覚えた俺は、敢えて“先生”ではなく“さん”と呼び、殺気を烏間先生に集中させる形で放った。すると―――


「くっ!」
「「「「「「「「!!?」」」」」」」」


烏間先生はほんの僅か後退したかと思えば、冷や汗を浮かべながら銃の引き金に指を掛けた。悠馬達に至っては冷や汗を浮かべながら身体を硬直させている。


「……どうしたんだ、烏間さん?まるで頭を日本刀で貫かれた様な顔をして」
「……!!」


烏間先生は鷹岡とは段違いな実力の職業軍人。なら、放たれた殺気に込められたイメージをダイレクトに受けてもおかしくはない。事実、俺は日本刀で額を刺し貫くイメージを乗せて殺気を烏間先生に放っていた訳だしな。

さて、殺すイメージで殺気を放ってみたものの、これからどうしたものか。烏間先生達に対するイラつきも、殺気を放ったことである程度静まった。

それに流石に今まで色々と―――主に戸籍や屋敷の購入で世話になった烏間先生を殺すのは寝覚めが悪い。かと言って、鷹岡を殺したいという衝動は抑えられそうにない。

………………半殺しならいいか。二番煎じだけど足を滅多刺しにしよう。筋繊維に沿う様な串刺しなら大して障害も残らないだろう。根拠はないけど。

そんなことを考えながら俺が突きの構えを取ると、烏間先生と悠馬達―――俺と対峙する様に立っている全員が目を見開いた驚きの顔を俺に向けていた。

いや、正確に言うと見開かれた目は俺を捉えていない。その視線は俺の背後に向けられている。そう認識した直後、俺は背中に人1人がぶつかる様な衝撃を受けた。


「!!?」


俺と対峙しているメンバーは誰一人欠けていない。誰が?そんな思考と共に背中にぶつかって来た人物に視線を向けると、そこには涙を浮かべた有希子がいた。


「………有希子?」


何やってんだ?鷹岡を殺さないと、お前の身の安全が確保できない。あいつを守る烏間先生達を半殺しにしないと、鷹岡を殺せず、お前を守れない。

そんな思いを視線に込めながら有希子を見つめると、有希子は涙を流しながらただ無言で首を横に振った。


「………ッ!」
「……………」


背中に抱き着きながら涙する有希子に俺が呆然としていると、今度は両腕に衝撃が走った。衝撃の走った所に視線を向けると、日本刀を持っている右腕には律が、左腕には矢田と速水が拘束する様に抱き着いていた。

右腕に抱き着いているのが律なのは、彼女がA・T技術を駆使して生み出されたガイノイドだからだろう。その関係で律は成人男性以上の力を有している

よくよく見てみると、両足にも棘の正規実用型疑似玉璽(プロダクション・サブレガリア)の棘の鞭が巻き付いている。これは片岡か?委員長らしいといえば委員長らしい行動だな。

さて。両足は兎も角、有希子達はどうしたものか。女を力任せに振り払うなんて、基本的に俺の矜持に反する。俺がそんなことを考えながら視線を鷹岡のいる所に戻すと、いつの間にか目の前に渚が迫っていた。


「!!?」


そして、動くに動けない俺に対して渚は、猫だまし―――いや、クラップスタナーを放ってきた。別に渚自身は狙ったつもりではないだろうが、偶然にも渚の放った猫だましはクラップスタナーになりえた。

視線を戻した直後、目の前に現れた渚。一瞬とはいえ、俺の意識の波長は最も敏感な山を迎える。その瞬間に放たれた猫だましはクラップスタナーにまで昇華されたという訳だ。

クラップスタナーの効果により、俺は時の(トリック)を使われた時の様に体の自由を奪われる様な感覚に襲われる。が、その感覚に体が支配されるより早く、俺の身体は本能的に体の自由を取り戻す為に動いていた。

俺は無意識に口内を噛み切り、その痛みで神経の麻痺を逃れたんだ。そして、暗殺者としての本能がそのまま渚を狙う。

右腕に抱き着いて拘束している律と背中から抱き着いている有希子をものともせず、無意識に上半身のバネだけで渚に突きを放とうとする俺。

そんな俺を止めたのは烏間先生の石の正規実用型疑似玉璽(プロダクション・サブレガリア)から放たれる水晶振動周波(クリスタル・クォーツ)による振動だった。あと数mmで日本刀の(きっさき)が渚に刺さるという所で俺の身体は硬直した。

そして、完全に動けなくなった俺に対して、長距離ジャンプを行った悠馬がそのまま俺の顎目掛けて蹴りを放ち、その衝撃で頭を揺さぶられた俺は意識を失った。


 
 

 
後書き
という訳で、本編にて鷹岡が再起不能(死んではいませんよ?)になった訳ですが、今回は流石にやり過ぎでしょうか?
(天上天下やエア・ギア後半のことを考えればそうでもないですが、ジャンプとして考えればかなりグロい気もしたんですが……)

もし、これはやり過ぎだろという意見があれば、改訂案を頂ければそれを元に改定してみたいと思います。

ちなみに今回、渚視点でイッキが使用していた技(?)について念のため補足して置きたいと思います。

まず鷹岡の右腕を潰したのはゾル家の蛇活です。

左腕はそのまま日本刀で切断ですね。天上天下でよくありそうな光景です。元は抜刀術で左腕を根元から切断するつもりでした(H×Hのカイトの如く)が、被害を少し押えてみました。

右足を潰したのは二重の極みです。元はエア・ギアのカズvs宙から拝借して右足を切断するつもりでしたが、天上天下のサーガマスクvs凪をモデルに打撃による足破壊に被害を抑えてみました。

左足は日本刀による滅多刺し。これはまんま天上天下の慎vs文七で文七が受けた滅多刺しがモデルですね。

ちなみに鷹岡を追い回すのに1歩手前の縮地を使ってますね。あと、鷹岡の攻撃を躱すシーンのモデルは、BLEACHの京楽vs茶渡だったりします。

戦闘シーン(?)での補足はこんな所でしょうか?もし他に気になる点がございましたら、感想に書いて頂けると、可能な限り答えたいと思います。

……さて、次話ではイッキが暗殺者モードoffになる訳ですが、何かクラスの皆との関係がギクシャクしそうだなぁ~。

………どうしよう?誰か天上天下キャラメンタルの奴はいないのか!!(笑)
 
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